多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

年次有給休暇(年休)はいつでもとれる?変更してもらえる?

年次有給休暇(年休)はいつでもとれる?変更してもらえる?

いつも,読んでくださり,ありがとうございます!
今回は,年次有給休暇について考えてみます。

年次有給休暇(「年休」)とは,労働者にある程度まとまった日数の休暇を与え,労働から解放し,これを有給とすることで,身体および精神的な休養がとれるよう法律が保障する制度です。

日本人の労働者全体の年休取得は,ここ4年間,日本の有給休暇取得日数は10日,取得率は50%という結果が続いていましたが,2019年4月に始まった「年5日の有給休暇取得の義務化」により,2020年の調査から取得日数が増加する可能性がありました。
しかし,実際には,コロナのこともあり,5年ぶりに取得日数と取得率がともに減少しており,年間の取得日数が10日を下回るのは2013年以来となるようで,国際的にみるとかなりの低水準で推移しています。

年休の取得を義務化することによって,年休の取得率が増えたとしても,年休を取得した分仕事が片付かずに時間外労働をせざるを得ないというのでは意味がありませんので,業務量に応じた適切な人員配置も重要です。

また,年休制度は,経営者(使用者)にとっては,業務を助けて欲しいために雇っているのに,忙しいときに労働者に休まれてしまうと困る,という悩みもあり,どこまで休む日を調整するように言うことが出来るのか,という問題があります。

「年次有給休暇(年休)」とは,そもそもどのような場合に認められる制度なのでしょうか?
 労働者が希望した年休の日を経営者が変更してもらうことは出来るのでしょうか?
 年休の変更は,いつまでに労働者に通知すれば有効なのでしょうか?

職員が退職する際,併せて年休の取得を希望されることも多いです。
今回は,年休制度と,希望された年休をどのような場合にどのように変更できるのか,を知ることで,予定外に業務が滞って困る,というようなことを出来るだけ避けてもらえたらと思います。

1 年休制度とは?

年次有給休暇は雇入れの日から起算して,6か月間継続勤務し,その6か月間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して,継続または分割した10日の有給休暇を与えなければなりません(労基法39条1項)。
1年6か月以上継続勤務した労働者には,その日数に1日を加算した有給休暇を与え,勤続2年6か月に達した日以降は,勤続1年ごとにその日数に2日ずつ加算し,最大20日までの年休を付与しなければなりません。

年休の繰り越しは,翌年1年に限って認められますので(労基法115条),法律上は最大35日(5日間は年休取得が義務化されるため)の年休を有する人もいることになります。

あまり知られていませんが,昭和62年の改正によりパートタイム労働者についても年休を取得できます。パートタイム労働者のうち,所定労働日数が週4日ないし年216日を超えるもの,または週4日以下でも所定労働時間が週30時間以上の者は,通常の労働者と同じ付与日数となります(労基法39条3項)。

また,2019年4月から,年5日(年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象,管理監督者や有期雇用労働者を含む)有給休暇取得をさせなければならないと,経営者に義務化されており,違反した場合,使用者(事業者)には対象となる従業員1人につき,30万円以下の罰金が科される対象となるので注意が必要です。

2 労働者の時季指定権・使用者の時季変更権

それでは,年休はどのような手続により成立するのでしょうか?

条文によると,

「労基法39条4項 使用者は,前3項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし,請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては,他の時季にこれを与えることができる。」とされています。

そのため,基本的には労働者側が希望する日に年休を与えないといけない,けれど,「事業の正常な運営を妨げる」場合には,使用者が違う日に与えることが出来る,と読めます。
しかし,これだけですと,具体的な場面では,どのような手続きで取得できるのかがはっきりしません。

判例では,「休暇の時季指定の効果は,使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって,年次休暇の成立要件として労働者による「休暇の請求」やこれに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない」(林野庁白石営林署事件・最判昭和48年3月2日)としています。

つまり,通常「年休を請求する」などと言いますが,これは使用者(会社側)の承認がなければ,取得できないということではなく,請求すれば,時季変更権が行使されない限り,希望日にそのまま取得できるので,労働者が年次有給休暇の「時季指定権」を行使することによって,取得できる,ということになります。

これに対し,使用者には時季を変更する権利である「時季変更権」が認められています。
労働者が時季指定権を行使したときは,使用者が「事業の正常な運営を妨げる」として時季変更権を行使しない限り指定日において労働義務が消滅することになります。
この「事業の正常な運営を妨げる」かどうかは,企業の規模,労働者の職務内容,業務の繁閑,代替要員の確保の難易,同時期における年休取得者の有無などを総合して客観的に判断されます。

・よく問題となる代替要員確保の点については,使用者が通常の配慮を行えば客観的に確保が可能な場合には,その配慮をせずに時季変更権を行使することは許されません(最判昭和62年7月10日)。

・また,慢性的な人手不足は,事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないとされています(名古屋高金沢支判平10.3.16)。

・長期休暇の申請が行われた場合については,使用者は業務計画や他の労働者の休暇申請との調整を行わなければならず,他の労働者の休暇申請の蓋然性などに基づいて判断せざるを得ないため,使用者にはある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ないものとされています(最判平成4年6月23日)。

3 時季変更権の行使期限

時季変更権はいつまで行使できるかについても問題となります。

通常は,有給休暇日の前日の勤務終了時刻までと解されています。
つまり,休みます!と言われたその休暇日の前日の勤務時間終了時刻までに使用者は,別の日に変更することを伝えなければいけないことになります。

もっとも,当日になって,急に休む,と言われる場合には,前日に言うことは不可能ですから,このようなやむを得ない場合には,例外が認められる余地はあります。

・年休申請が年休開始時季に接近していて,会社に年休時季変更を事前に判断する余裕がなかった場合,客観的に年休時季を変更できる理由があり,速やかな変更がされたなら,年休開始後又は年休期間終了後に年休時季を変更した場合であっても,適法とされる場合があり得るとされています(最判昭和57年3月18日)。

また,退職時にまとめて,年休の取得を希望された場合,退職日までの間に時季変更をするのは難しいので,そのまま認めざるを得ないことが多いです。
そのため,経営者としては,その意味でも,あまり行使されないまま労働者の年休をためてしまうことが無いように気をつけることも大切でしょう。

4 計画的な年次有給休暇(年休)を~まとめ

話は少し逸れますが,年休で出てくる「時季」という漢字にはあまり馴染がありません。

「時季」とは,季節と具体的時期の双方を含む概念のようです。
この漢字から,長期間連続して取得するのが慣習である西欧の年休制度を日本が輸入して使っていることがうかがえます。
日本人も,この年休制度をうまく使いこなせるようになるといいですね!

現在は,年次有給休暇の計画的付与制度として,5日を超える部分についてあらかじめ付与日を決めて取得させる制度もあります。
導入するには,事前に労使協定を結び,就業規則など関連する社内規程の整備が必要になりますが,年次有給休暇の取得率を上げることで,年休の目的である疲労回復,リフレッシュをすることによって,労働環境の向上も期待できるメリットがあります。
経営者側としても,計画的に休みを設定することで,これに合わせて,計画的に業務を調整出来るというメリットがあります。

経営者,労働者が「雇用契約」を通じて,求めたいものは,それぞれにあり,お互いが存在することで得られるものもあるので,相手のことを思いながら,働き方や労働環境を整備していくことが必要で,うまくバランスがとれている場合には,トラブルも生じにくいかなと思います。

年休についても,経営者が,労働者のことを思い,疲労をためないように愛情をもって配慮することで,労働者側も,頑張る経営者に対して協力したい,と思えれば,業務が多忙な時期に急に休みたいと言われたりすることもないのかなと思います。
そのためには,そう思ってもらえるような人間的つながりこそ,法律問題の前に本当は大切なのでしょうね‥‥

ただ,労使問題については,トラブルになった場合には,弱い立場とされてきた労働者側を守る方向で法律解釈されることが多いので,それを意識した制度設計,法律上も有効な制度設計をしておくことが経営者としてはリスクを回避することになると思います。

事実上,「〇日前に休みたい場合は申告してね」,「あなたは,△△の期間に5日間お休みをとってね」という話を守ってくれている場合はいいのですが,労働者側が嫌だ!と言った場合には,どこまで有効になるのか,というリスクを知った上で,対策しておくという観点が重要だと思っています。

その場合も,なかなか一律に,こうなります!とは決まらずに,それぞれ従業員の仕事の内容や業務の状況などによって,とるべきバランスのラインは違うところが,数学の問題のように誰でも同じ答えになるわけでもなく,私は,それこそが,弁護士の仕事の醍醐味で,面白いところだなあ…と思っています。

結果の予測をするうえで,このバランス感覚がとても重要だと私は思っていますが,これは,自分の意見がいつも正しい,と思いこまずに,相手方の視点に立ってみることで,相手方にも守られるべき権利,利益もあり,どの点で調整したらいいのか…ということに気づけるかな,と思っています。

会社の経営者としては,何日前に年休を取得する申請をしてもらうのか,その規定の必要性や有効性に注意しつつ,手順などを就業規則で定めて伝えておくことがまずは大事でしょう。

そもそも労働契約,雇用契約って何のためにするの?年休って何のためにあるの?ということに立ち戻って,バランス違反だと思われれば,
経営者側も保護してもらえる場合もあるので,これは自分の方が守られるべきところがあるはず,と経営者の方が思う場合には,一度弁護士に相談してもらえるといいと思います。

実際の場面では,年休だけでなく,どのような定めが有効となり,どういった場合に無効と判断されるのか分かりづらいと思いますので,就業規則の内容の制定・変更などについて迷われている場合には,弁護士にご相談していただければと思います♪

法律上,何が許されていて,何は許されないのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,を知っておくことが重要です。
そうすることで,万一の時に,少しでも「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らして,気持ちよく業務をしていただけたらと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!