
「セクハラ」の損害賠償として慰謝料以外に請求されることがありますか?
「セクハラ」による慰謝料以外の損害には,どんなものがありますか?
「セクハラ」で職場に行けない場合,会社に損害賠償請求できますか?
私は,主に企業側,会社側でご相談を受けることが多いのですが,「セクハラ」の被害申告があって損害の賠償をするよう請求されているけれど,その場合,請求されている通りの金額を支払わないといけないのか,聞かれることもよくあります。
一方で,私が女性弁護士であることもあって,セクハラ被害を受けた女性からの相談を受けることも時々あるのですが,誰にどのような請求ができるのか,と聞かれることもあります。
セクハラ被害があった場合,被害者は加害者本人に対して請求できる金額と同額の金額を加害者を雇っている企業(会社,事業主)に「使用者責任」として請求することも出来ますので,企業はこの「使用者責任」として慰謝料以外にも損害賠償義務を負うことに注意が必要です。
どんな場合にどんな金額を損害賠償として支払うことになるのでしょうか?
慰謝料以外の損害金額は,どんな「要素」「事実」で決まり,どう計算されるのでしょうか?
今回は,慰謝料以外の損害として,セクハラ被害にあった被害者から,損害賠償として認められる損害には慰謝料以外にどのようなものがあるか検討することで,「セクハラ」の予防,事後対応のヒントにしてもらえたらと思います。
「セクハラ」による慰謝料以外の損害にはどんなものがある?
「セクハラ」によって被害者が病院に通い,薬を必要とする場合の損害は?
「セクハラ」によって被害者が働けなくなった場合の損害は?計算方法は?
今回は,「セクハラ」被害に対する企業(会社,事業主)の支払う慰謝料以外の損害,その損害金額の決まり方,慰謝料以外の損害を請求された場合に,どこまで支払うべきなのか判断するための基準について考えていきたいと思います。
1 治療費・薬代・診断書取得費・交通費など
セクハラ被害に遭って被害者が怪我,病気になった場合,その治療費を請求されることが考えられます。
セクハラにより,うつ病やPTSDを発病することは,実は少なくありません。
セクハラを原因として,うつ病やPTSDなどを発病した場合,相当期間の治療費が損害として認められています。
また,治療費に付随するものとして,医師が処方した処方箋に基づいて,薬局が処方した薬剤費についても認められる場合もあります。
通院のための交通費や診断書を取得する際の費用も請求されることも多いです。
企業としては,慰謝料以外の損害としてこのような費用が発生することを意識して,対応することが必要です。
2 休業損害・逸失利益
「休業損害」とは,一般には交通事故で怪我をし,これによって仕事を休まざるを得なかったために失われた収入を損害として補償するという考え方です。
仕事を休まなかったのであれば,本来もらえるはずの給与相当の収入を得られなかったという失った利益を補償するので,広い意味では「逸失利益」としての損害を補償するとも言えそうなのですが,一般的にこちらは「休業損害」といい,交通事故によって,後遺障害が残ったり,死亡したりしたため,労働能力を失ったり,低下したりして減収した分についてを「休業損害」とは分けて「逸失利益」という損害として表現することが多いです。
セクハラによる損害場合も,同様の考え方で「休業損害」と「逸失利益」を分けて考えられていると思いますが,セクハラの場合,セクハラ被害によって会社を休んだことによる収入の減少を「休業損害」と考えて賠償の対象と考え,「逸失利益」については,後遺障害などによる労働能力の低下による損害ではなく,セクハラがなければ得られたはずの将来の利益(主に退職を余儀なくされた場合の給与など)が失われた損害を指すことが一般的です。
職場におけるセクハラの場合は,加害者本人だけでなく,多くのケースで事業者(使用者,会社)に「休業損害」による損害賠償請求はされることが多いことを前提に,被害申告後の対応,職場環境について配慮,整備することも大事です。
3 休業損害の算出方法
「休業損害」とは主に,セクハラを原因として,休業したことに伴う賃金相当額となります。
この損害の算定方法は通常,交通事故などの一般的な不法行為に基づく損害賠償請求で認められる休業損害の算定と同じです。
セクハラの被害者は一般的に,労働者=給与所得者になると思いますが,この場合には,休業直前の3ヶ月間の平均賃金を基礎収入とすることが多いと思います。
実際には休業して働いていないので,その場合の給与収入を正確に算定することはできません。そのため,予測として直前3か月の平均賃金×休業期間で計算するのを相当と考えていることになります。
もっとも,賃金の変動が大きいような事案では,平均賃金で計算すると今休業していたら得られていたであろう賃金と乖離してしまうと思われるケースもあります。
そのため,このような場合は,平均賃金とせず,セクハラ行為が行われた時(不法行為時)の賃金収入を基礎収入として算定することもあります。
会社,企業側として,休業損害を請求された場合,どのように計算して算出するのか迷った場合には,判断の参考にしてもらえたらと思います。
積極損害と消極損害~まとめ
「もともと問題ある社員だと思っていた」「出来れば退職してほしいと思っていた」
「もともと休みがちな社員だったのに,セクハラを理由に休職する,と言われたら満額賃金を支払わないといけないの?」
セクハラによる被害について,損害賠償請求をされたという際の企業側のご相談,管理職の方からの意見として,このような話をされ,疑問を持たれることもあります。
確かに,元々問題のある社員で辞めて欲しいと思っていたのに,「セクハラ」を訴えれば,休んでいる間にも賃金を請求されてしまうのは納得いかない,という気持ちも理解できます。
しかし,一方で被害者側からすれば,全く違う受け止め方をされていることが多いし,何と言っても「セクハラ」と言える言動があったことが前提となると,企業側の損害賠償責任は免れるのが難しい・・と思っています。
この「不公平感」「不満」が特に生じやすいのは,今回でいうと「休業損害」のような「消極損害」と言われるケースが特に多いかなと思います。
「積極損害」は,被害者が実際に支払いを強いられた費用(治療費,入院雑費,交通費など)です。
これは実際に出費する額が明確なので比較的争いが大きくなりにくい。
一方で「消極損害」は,被害者が将来得られたであろう収入,利益を失った損害(休業損害,逸失利益)です。
セクハラがなくても,そのうち,この職場をやめていたんじゃないか・・
元々病気で休みがちだったし・・
むしろ,いつも他のスタッフともめがちでこちらが辞めて欲しいと思っていたし・・
「将来得られたであろう収入」って,本当は不明瞭な要素がありすぎて不満を持ちやすいのかな・・と思う。
どのような計算方法をすると納得感があるのか,これも加害者側(損害賠償請求を受ける企業側)と被害者側では「正しい」「納得」と思える基準が違うのを日々実感します。
こういう異なる価値観,考え方が様々ある中で,裁判所としてはどのような要素,事実を考慮して「公平」「公正」な基準を考えているのか・・裁判例の傾向も検討して,お伝えしていくのは大事だと思っています。
セクハラで損害賠償請求を受けないよう,配慮すべきことは何か?
被害者にどんな間違った対応をすると,企業の損害が拡大してしまうのか?
企業や会社が「セクハラ」被害の申告を受けて対応をする際,不安に思ってしまった場合や,会社側からの視点だけで誤った対応をしてしまわないよう,これからも伝え続けていきたいと思います。
セクハラ被害の発生予防や発生後の被害拡大を避けるために・・
何が現在の基準に当てはめると「セクハラ」となるのか,「セクハラ」となった場合,加害者本人や会社にどんな損害が生じるのか,セクハラ被害が発生後にどのような対応が必要になるのかなど,これからも伝えていきたいと思います。
そうすることで「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,人間関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。
今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!