多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

事業用定期借地契約(地主側)で不利になりやすい注意すべき条項

事業用定期借地契約(地主側)で不利になりやすい注意すべき条項

いつも読んでいただき,ありがとうございます。
多治見ききょう法律事務所は,目の前の不動産鑑定士さんの事務所,土地家屋調査士さんの事務所と共に不動産,相続総合無料相談業務をしていることもあり,「不動産の賃貸借」に関する相談も多く受けています。
最近は,全国展開をするチェーン店が地方に出店する際に土地を探していることなどもあり,地主側として土地を貸す契約をするケースがあります。
このような場合,そのような事業形態に慣れている借主が一般的に借地契約書を作ってくることも多いですが,借地人にとって,安心な契約書にするのが通常であるため,地主側(賃貸人)にとっては注意すべき場合があります。

不利にならないように地主側(土地の所有者)として注意すべき点は何でしょうか?

まずは,借地人が土地に建てた建物を契約終了時に買い取るように請求される「建物の買取請求」がなく,確実に契約終了時に土地を返してもらえるように,借地人の保護が法律上厚くなっている,通常の借地契約ではなく,「事業用定期借地契約」にすることが重要です。
この点は,借地人が契約書を作る場合でも,最近は「事業用定期借地契約」としていることが多いです。
(事業用定期借地契約の内容や注意点全般については「事業用定期借地契約で土地を貸すときの注意点」に記載しています)
しかし,この「事業用定期借地契約」でも,共通して地主に不利と思われる条項,注意すべき条項が見られることが分かりましたので,具体的な条項で不利になりやすい注意事項を3つお伝えします。

1 借地権の譲渡条項

土地の賃借人が,「同意なしに借地権を譲渡すること」は禁止されていることが多いですが,グループ会社に譲渡する場合には,同意は不要とされていたり,事前の「書面による通知なく」譲渡することは禁止,とされているような場合があります。

グループ会社であっても,資力はかなり異なることがあります。
そのため,せっかく相手方が大手で信頼のできる会社だからと思って安心して,土地を貸すことにしたのに,一方的に資力の異なる会社に賃借人が変更されてしまう,ということになるので注意が必要です。
「通知なく,譲渡することは禁止」という条項も,賃貸人の同意を得なくとも,通知さえすれば譲渡できるとなり,同様の状況(グループ会社以外でも勝手に譲渡できてしまうという点では,よりリスクの大きい)条項となりますので,注意しましょう。

借地権の譲渡条項は,どうなっていますか?

2 土地の譲渡制限条項

借地権の譲渡は比較的自由にできるような条項になっているのに対し,地主側の土地の譲渡については制限される条項になっていることがあります。
安心して借地人が営業をするためには借地人にとっては重要なのですが,地主側にとっては自由が制限されることになります。

借地人に土地の譲渡について「了承を得る」ことまでを必要にしている場合には,地主側に不利なので,注意が必要です。
誰が土地の所有者になるのか分からない,という借地人の不安にこたえるとしても,「借地人と優先的に交渉を行うものとする」程度の条項にしておくのが良いと思います。

3 明渡し時の原状回復条項

大規模な店舗の出店の場合,広い土地が必要になるため,それまでの農地をして使用していた土地を集め,農地転用をして,貸す場合があります。
その場合,借地人が店舗を立て,実際に営業をしたのだけれど,利益が上がらなければ,閉店,撤退されてしまうこともあります。
しかし,その場合,撤退後の土地が宅地として残ってしまい,他に借地人が現れなければ,固定資産税も高額となり,困ってしまうことがあります。

そのため,借地契約が終了した場合に,どの程度まで土地の現状を回復するのか,ははっきりさせておくことも重要です。
宅地となってしまった土地を,田に戻す,というのはそれなりに費用もかかりますので,借地契約が終了して土地を明け渡す場合に,これを借地人に希望する場合には,しっかりとそれが分かるようにする条項にしましょう。

また,借地人が建物を建てる際に,「基礎杭」を入れて,建てることになりますが,借地契約の終了時,土地を明渡しをする際に,表面だけ更地にして,基礎杭を残す,ということが問題になります。
この場合,明渡し後に基礎杭が残ってしまうと,新しく土地を借りてくれる借地人が建物を建てる際の支障になり得ます。
そこで,土地の賃貸人(地主)が,新しい賃借人に土地を貸すために,基礎杭を撤去せざるを得なくなると,費用の負担が生じます。

原状回復をどの程度してもらうのか,明確にしておくことが重要です。

まとめ 上手くいかなくなった時の予測を

事業用定期借地契約に限りませんが,契約をする際には,これから始まる新しい事業,新しい大きな事業主との関係のスタートによって,ワクワクすることの方が多いのではないかと思います。(私もそういうときは,実際ワクワクします!)
上手くいって,利益が上がる未来を想像することは楽しいですし,その方が事業も楽しいので,とても大切な予測だと思います。

一方で,弁護士が,弁護士の仕事として考えるのは上手くいかなかった場合の予測です。

もしも,借地人が破産してしまって,建物が残ってしまったらどうなるのか・・?
こちらが建物を撤去せざるを得なくなっても,敷金はこの金額で大丈夫なのだろうか?
賃貸期間の途中で借地人が退去する,と言った場合には,補償は十分なのだろうか・・?
どれくらい前に言ってもらえたら,次の借地人を探したり,他の使用方法を考えられそうなのだろうか・・?
借地契約の終了時に,この明渡し条項で困ることは無いのだろうか・・?
(ちょっと,暗くなる予測でしょうか?(笑))

こういう予測は,弁護士自身も最初からうまいわけではなく,様々な経験をすることで,
こういう案件は,こういうことでもめやすい,この場面でトラブルになることが多い,と気づくようになってスキルが上がるので,それを踏まえた契約条項について,考えられるようになってくると思います。

‥なので,弁護士になりたての頃は,その経験も少なく,適切な予測が出来るのか,不安も大きかったです。
そのため,その頃は,ベテランで経験の多い弁護士に相談しながら進めてきましたし,現在も,事業用の契約,土地の賃貸借契約におけるトラブルについてよく知っている弁護士にも意見を聞きながら,共同して進めさせていただいています。

弁護士が入ると契約の進行が遅くなる,面倒になる・・・と言われることもあるので,
最終的にリスクも踏まえた上で,このままの契約書の文面で行こう!(この内容しか相手が了解しないので)ということであれば,経営判断として,進めてもらえたらと思っていますが,上手くいかなかったときのリスク,防御をする視点を伝えるのが弁護士の役割だと思っていますので,お伝えしています~

そういう暗くなりがちなことは,むしろ弁護士に予測を任せて,事業が上手くいくことを考えていくという考え方をしてもらえたら,嬉しいな,と思います~

経営者として考えると,誰と付き合うのか,誰を契約の相手方とするのか,という判断の方が,細かい契約の条項よりもよほど重要なことを実感していますが…
どのような相手であっても,最低限のリスクは回避できるようにしていけたらいいかな,と思っています。

これからも,経験を通じてお伝えするといいかな,と思った注意点については,お伝えしていけたらと思っています!

それでは,このブログを読んで下さったみなさま,特に事業用定期借地契約をする地主側となる皆さまが,土地を貸す場合にどんな点を注意するといいのか,そのポイントを考えてみるみるきっかけとなりますように。

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!