多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

自転車運転の過失割合~全額賠償を受けられない場合

自転車運転の過失割合~全額賠償を受けられない場合

いつも読んでいただきありがとうございます。娘が4月から高校に通うようになり,通学に自転車を使うようになりました。
多くの方もお子さんなどが自転車を運転すること,ご自身が運転することをされているのではないでしょうか。
そして,歩行者や自転車に衝突しそうになってヒヤリとされた経験もあるのではないでしょうか。

以前お伝えしましたが,自動車の運転に比べて,ルールの徹底が厳しくないイメージの「自転車」ですが,自動車と同様にルールがあるため,違反をして交通事故を起こせば,過失によって生じた事故による損害について損害賠償責任を負うことになります。
また,お子さんが自転車運転をしていて,相手に大きな過失があって事故になった場合でも,こちらにもルール違反,過失があると,損害について全額,全てを相手が賠償をしてくれないことになります。

それでは,どのような場合に,全額損害賠償してもらえないのでしょうか?
自転車を運転する場合,どのような点を注意しないと「過失」があると判断されてしまうのでしょうか?

今回は,自転車で交通事故に遭った場合における,自転車運転者特有の落ち度である「過失」についてみていきたいと思います。

1 交通事故と過失割合・過失相殺

交通事故が発生すると,事故発生についてのお互いの過失(どちらがどの程度悪いのか)を決める必要があります。
例えば,重篤な症状が生じ,これを賠償するために1000万円が必要とされた場合であっても,自己の過失が5割と認定されてしまう(これを過失割合と言います)と,相手方には500万円の賠償責任しか発生しないことになります。
この場合には,500万円を過失相殺(そうさい)で差し引いて,500万円しか請求出来ないことになります。そのため,「過失割合」「過失相殺(そうさい)」の認定はとても重要です。

この過失相殺については,実務上,別冊判例タイムズという雑誌の「民事交通訴訟における過失相殺認定基準」というものが用いられています。
これは,当事者の属性(自動車・二輪車・自転車・歩行者),事故態様(信号機が設置された交差点における事故,横断歩道上の事故)などを類型化して,基本的な過失割合を設定するとともに,そこから個別の事情を考慮して修正を加えるというものです。
もちろん,全ての事故を類型化することは不可能ですので,認定基準どおりにいかないこともありますが,この基準を前提に考えるのが交通事故の過失割合・過失相殺の実務になっています。

2 自転車特有の過失割合修正要素

近年は,自転車の従うべき法改正や,交通ルールの徹底に関するガイドラインが示され,自転車にも交通ルールを遵守すべきとの考え方が定着しつつあるように思います。
今日は,自転車特有の過失を修正するような事項を見ていきたいと思います。
なお,「著しい過失」は10%,「重過失」は20%の修正がなされますが,すべてを加算すると妥当性を欠く場合には上限があるとされています。

①片手運転

これはよく見ると思います。例えば,傘を差したり,物を持つなどしており片手運転をしている場合などです。
片手運転については,都道府県の定める規則により規制されています。
岐阜県道路交通法施行規則12条3号違反(「傘を差し,物をかつぎ,物を手に持つ等視野を妨げ,又は安定を失うおそれのある方法で,大型自動二輪車,普通自動二輪車,原動機付自転車又は自転車を運転しないこと。」)
また,道路交通法70条の安全運転義務違反にあたる可能性があります。
このような運転に起因して事故が発生した場合には,「著しい過失」として過失割合が修正されます。

②携帯電話の通話など

これもよく見かけます。岐阜県道路交通法施行規則12条2号違反(「自転車を運転するときは,携帯電話用装置を手で保持して通話し,若しくは操作し,又は画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと。」)になります。携帯電話の操作は,両手でのハンドル操作が不可能な状態が継続するだけではなく,周囲の交通に対する注意を欠く状態が継続する危険な行為なので「重過失」となるとされます。

③ヘッドホンを付けながらの運転

岐阜県道路交通法施行規則12条8号違反(「音量を大きくしてカーラジオ等を聞き,又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転しないこと。ただし,難聴者が補聴器を使用する場合又は公共目的を遂行する者が当該目的に関する指令を受信する場合にイヤホーン等を使用するときは,この限りでない。」)となります。自転車にはバックミラーがないことが多く,運転者は「音」により周囲の交通状況を把握することが多いです。したがって,ヘッドホンを付けながらの運転が事故に因果関係が認められる場合には「著しい過失」となると考えられています。

④二人乗り,積載違反

自転車の走行を不安定にさせて事故発生の危険を増大させる行為です。岐阜県道路交通法施行規則10条に規定があります。「著しい過失」として考慮されます。

⑤著しい前方不注視

「著しい過失」として修正されます。

⑥酒気帯び・酒酔い運転

酒気帯び運転については「著しい過失」,酒酔い運転については「重過失」として考慮されます。

私は実はあまり自転車に乗りませんが,娘は愛知県で自転車に乗ります。愛知県でも規則により自転車運転で順守すべきことは同様のルールがあります。携帯電話を見ながらの運転,酒酔い運転などは,特に社会的に大きな非難がされやすく,これまでにも,交通事故による大きな被害が生じていると社会問題になっている類型のため,過失が大きいとされているのが分かります。
自転車を運転する際にいつでも事故が起こり得ること,自身が加害者となる可能性もあることを常に意識して安全運転を心掛けるよう伝えていきたいと思います。

そこで,今回は,改めて,自転車運転者が遵守すべき交通ルールや,この違反があった場合に具体的にどのように過失として認定され,損害賠償金が減額され得るのか,をお伝えしました。
これを知っておくことで,自転車運転による交通事故の加害者となるリスク,被害者となるリスクを出来るだけ回避していただきたい,と思います。

以前もお伝えしていますが,最も大切なことは,自転車事故を発生させないように交通ルールを遵守し,子どもに対する指導・監督を怠らないことであることは間違いありません。
知っておくことで,被害の回避,回復が出来る可能性が上がります。
そして,知っておくことで,防ぐことが法律違反,防ぐこと出来る事故,避けられる損害賠償の負担もあります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!