多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故で謝罪すると不利になる?

交通事故で謝罪すると不利になる?

いつも読んでいただきありがとうございます。人身事故,つまり,けがをするような交通事故にあった際,被害者からここが許せない,と言われることがあります。それは何でしょうか・・?

実は,相手が「謝罪しないこと」です。
事情を詳しく尋ねると,謝罪には来られているのではないかな・・?と思うこともありますが,
死亡事故などでは特に,感情面で許せない,という気持ちが大きく,謝罪の仕方などでも,トラブルが生じやすいです。

裁判にすることで,相手を裁判所に呼び出す(言葉がきつくなりますが,引きずり出す)ことで,謝罪させたい,と言われることもあります。

しかし,自分よりも相手の方が悪い,と思える交通事故でも,謝罪した方がいいのでしょうか?
謝ると自分が悪いと認めたことになって不利になるのでは?

と心配されることも多いので,

今回は,どのような場合に謝罪したらいいのか?
謝罪するとしたら,どのような点に注意したらいいのか?

についてお伝えします。

1 交通事故後に謝罪する必要性

そもそも,事故現場や事故直後の相手方とのやり取りにおいて相手方に謝罪するべきなのでしょうか?

この点,当たり前かもしれませんが,法律的に謝罪しなければならない,という義務はありません。
そのため,裁判になったとしても,強制的に謝罪するよう求めることも出来ません。

しかし,弁護士として交通事故後の交渉,裁判に関わっていると,やはり謝罪していたかどうかによって,被害者の方の気持ちも大きく異なり,それが,解決を困難にするかどうかにも関わるのを感じます。

そのため,法的義務はなくとも,謝罪すべきときには謝罪する方がその後の円滑な解決に役立つと思っています。

2 交通事故後に謝罪すべき場合

私個人の意見になりますが,明らかに相手方の一方的落ち度によるものでない限り,「謝罪するべき」と思っています。

よくある停止車両に追突してしまった場合などですと,100パーセント自己に非がある事故態様となりますから,当然謝罪した方がいいでしょう。

物損の場合,事故直後にその場で謝罪すれば,改めて自宅に菓子折りを持っていく,という必要性まではないように私は思いますが,100パーセント自分に非がある場合などには,保険で損害賠償をする場合には,加入している自動車の保険会社さんとも相談しながら,改めて謝罪に行くかどうか検討するといいと思います。

人身事故の場合,こちらの過失の方が明らかに大きいようなケースであれば,可能であれば改めて謝罪に行った方がいい場合もあると思います。この点も,保険会社さんと相談しながら進めて行く方がいいでしょう。

3 交通事故で謝罪すると不利になる?

謝罪してもいいか迷う場合,抵抗があるケースというのは,相手にも相応の落ち度(過失)があると考えられ,後々,過失割合に争いが生じるであろうと想定されるケースだと思います。
ここでは「謝罪をしてしまうと,自己の非を認めてしまうことになり,過失割合の認定の際に不利になるのではないか?」という心配があると思います。

しかし,ここで大切なのは,「何について謝罪するのか」「謝罪の中身」です。

事故が起こった場合,お互いに様々な負担が生じます。警察への対応,保険会社への対応,自動車修理への対応などなど相手方にも様々な負担が生じることは間違いありません。
これに対して,事故を起こした一方当事者として「申し訳ありません」と述べることに抵抗は少ないのではないでしょうか?

また,相手方が怪我を負った場合,今後,入通院や仕事への影響など様々な負担が生じることに対して「申し訳ありません」と述べることにも抵抗は少ないと思います。

・・ここで,謝罪したら不利になるのではないか?ですが,

実は,裁判になった場合を想定しても,事故当時「謝罪していたこと」自体が過失割合の認定に際して考慮されることはありません。

交通事故のご相談者を受けていると,「相手は事故後に自分が悪いと言って謝っていた」と言われ,その後に過失割合を争われると憤られることもあるのですが,「謝っていた」というだけでは,相手が悪い,という資料にはならず,どのような「事故態様」として,自分の非を認めていたのか,の方が重要になります。

この意味では,「謝罪してもらったら勝ち」「謝罪したら負け」といったような「考え方」や不安が独り歩きしているようにも思います。
ここに記載したような意味で「申し訳ありません」「ごめんなさい」と述べることは何ら問題がないと私は考えています。

一方で「前を見ていませんでした」申し訳ありません,「ライトをつけていませんでした」ごめんなさい,という事故態様に言及した謝罪は,過失割合に影響してきます。
そのため,過失割合の基礎となる「事実」,不利な「事故態様」を認める領域に踏み込んでいる謝罪については,注意が必要になります。

また,改めて相手方の自宅に訪れて謝罪に行った際に「自分が悪いから,保険で支払ってもらえない分についてもすべて私が支払います」と書面に記載するよう言われたり,相手が自宅に来て謝罪を求められ,「一筆書け」と言われてしまう,というようなケースも中にはありますから,改めて謝罪の場を設けるときには,保険会社の担当の方に相談して進め,このような書面については書かないように気をつけましょう。

まとめ 注意すれば謝罪は有効

冒頭にお伝えしたように,交通事故の相談を受けていると,「相手方から謝罪の言葉の一つもない!」という感情的な問題で紛争が生じたり,長期化するということが多くあります。
これは双方にとって望ましいことではないと思います。

「申し訳ありません」「ごめんなさい」には,これまで述べたように色々な意味があるので,謝罪をすることで不利になるのでは?と過度に恐れる必要はないと思います。

交通事故に遭われた場合には,事故後の対応においても精神的に様々な負担が生じます。

素直に謝罪すべき点は謝罪して,互いの精神的負担を少なくし円満解決に向かうことが望ましい,と思いますので,謝罪のメリットや注意点を意識してうまく「謝る」ことも大切だと思います。

引き続き,交通事故に関して,この点どうなんだろう?と不安になって,よくご質問されることや,裁判になった場合に予測される結果と「こうなるはず」と多くの方が思っていらっしゃることに「ズレ」があるな~と感じることについてお伝えしていけたらと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!