多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

会社役員の休業損害~なぜ,役員は補償が認められにくいのか?

会社役員の休業損害~なぜ,役員は補償が認められにくいのか?

いつも読んでいただきありがとうございます!
突然ですが,もしあなたが,交通事故に遭い,その治療のために会社を休業しなければならなくなったとしたら,保険会社の担当者から提示された「休業損害」(交通事故によって傷害を負ったために休業を余儀なくされた場合に、交通事故による休業がなかったならば得ることができたはずの収入・利益)を補償して欲しい,と感じられるのではないでしょうか?

しかし,その場合に,あなた(交通事故の被害者)が会社の取締役である場合,保険会社から「取締役の方の休業損害はお支払いできません」と言われる,ことがあります。そのため,こういうケースでの休業補償をしっかりもらいたい,というご相談をお受けすることが少なくありません。
被害に遭った方が,事業主,会社役員の場合には,満足のいく補償をしてもらえない,というトラブルになることが多いです。それはなぜでしょうか?

交通事故のご相談は,当事務所が以前から力を入れて取り組んできた分野ですが,現在も引き続き,ご相談,ご依頼がありますので,改めて,こういう場合に関係する補償方法として,今回は,会社役員の休業損害についてご紹介します。

1 会社役員の休業損害についての考え方

結論から言うと,保険会社が会社役員の休業損害の補償に消極的なのは,会社の取締役などの役員報酬は、休業の有無と関係がない役員という地位に対する報酬(法律的には委任契約による報酬),企業経営者として受領する利益配当的部分であるため,治療期間中に職務が出来なかったとしても,通常の職員の様に雇用契約による休業損害を請求出来ない、という考え方を根拠にしているようです。
つまり,とても大雑把に言ってしまうと,そもそも決まった時間に出勤して収入を得るのではない(方針を決め,働く場所を作り,他の職員にうまく働いてもらって,得る収入,体を使うのではなく,頭を使っての業務というイメージでしょうか)から,会社に出勤できず,休業することになっても,それによって,収入が減ることは無い,という「考え方」になります。

2 働き方の実態による調整

しかし,日本における株式会社の大多数は,小規模で閉鎖的な会社であったり,いわゆる一人会社であることが多く,会社の役員とはいっても,会社の業務の大部分,場合によっては業務のすべてを当該役員が行っている場合が多いのが現実です。実際に当事務所で相談をお受けする会社役員の方も、このような場合が多いです。
そのため,働けないのであれば,会社から報酬はもらえず,大企業の役員を想定した「考え方」をそのまま適用すると,実態に合わないことになります。

そこで,会社役員の休業損害算定にあたっては,その報酬の中に、①企業経営者として受領する利益配当的部分と,②労働の対価部分があるものと考え,②労働の対価部分については、休業損害が発生するという考え方が実務上とられています。

そして,②労働の対価部分の認定は,会社の規模・利益状況,当該役員の地位・職務内容,年齢,役員報酬の額,他の役員・従業員の職務内容と報酬・給料の額,事故後の当該役員・他の役員の報酬額の推移,類似法人の役員報酬の支給状況等を参考に判断されます。

3 裁判例・当事務所の実例

裁判例においても,役員報酬に占める労働対価部分の認定に関し,上記判断要素を検討した上で,役員報酬の全額を労働対価部分であると判断したものや,80パーセント,50パーセントなど割合的に労働の対価部分と判断したものがあります。

例えば,名古屋地判平成16年4月23日では,役員であった祖母の死亡にともない,取締役に就任した後も,従前と同様に作業現場に出て,現場監督を行ったり,重機の操作作業をするなど従業員同様の勤務をしていた上,従前の給与額と同額の報酬を得ていた事案において,その報酬の全額が労働の対価であると認定されています。

当事務所で取り扱った案件でも,従業員数名の会社の代表取締役の方の休業損害について,その100パーセントを労働の対価部分として保険会社に認めてもらったものがありました。取締役の休業損害を検討する際には,会社の規模や取締役の業務内容を見るのは勿論,報酬額や利益状況の推移などの裏付資料を検討することが必要不可欠となってきます。

このような事案は,解決が簡単でないことも多いですが,そういうものこそ,弁護士が関わっていく意義があると思いますので・・・
同じように,会社役員の方,事業主の方で,休業損害の補償問題でお悩みの方は、一度,相談していただければと思います。

それでは、今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!