
交通事故によるケガで働けなくなった場合,仕事を休んだ際の減収を補償するために「休業損害」として損害賠償請求をすることができることになります。
しかし,「休業」していても,その休んだ期間の減収全てについて休業損害として認められない場合はあるのでしょうか?
あるとすれば,それは,どんな場合なのでしょうか?
また,「家事従業者」のように,「会社を休む」ということが想定されない場合の「休業損害」は,どのように算定されるのでしょうか?
ケガで「家事」に従事できない期間について,すべて「休業損害」として認めてもらえるのでしょうか?
実際には,休んでいる全ての期間について100%「休業損害」が認められず,「逓減方式」によって算定されることがあります。
休業損害が「逓減方式」によって,100%認められないのはどんな場合?
そもそも「逓減方式」とは?どんな場合に使われる?
「逓減方式」によって休業損害が減らされる被害者の属性・特徴は?
最近の裁判例での判断内容を検討しながら,見極めるためのポイントとなる点をご紹介します。
1 逓減方式とは
「逓減」とは,「数量や程度が,段階を追って次第に減ること」を一般的には意味します。
交通事故における「逓減方式」というのは,交通事故によって今までのように働けなくなったけれど,ずっとその状況が続くわけではなく,治療期間の経過とともにケガが回復して家事負担が軽減していく(100%→80%→50%など)と想定して,段階的に損害額を減らしていく計算方法です。
具体的には「収入日額×期間1+収入日額×X%×期間2+・・・」という方式で計算されることになります。
青本(交通事故による頸椎捻挫の慰謝料金額は?計算方法と請求の流れで説明)では「受傷当初は,100%の休業,その後は身体機能の回復に伴い,労働能力の喪失の程度(上記算式のX%に該当)で損害認定するという発想」であると説明されています。
これが典型的な逓減方式です。
しかし,例えば100%→80%→50%というように階段上に休業割合を逓減させている場合だけでなく,平均して,または全体を通じて休業割合を減らしている裁判例(平均して,あるいは全体を通じて50%というように休業割合を認定した裁判例)もあるところ,これらも,階段状に減らしているわけではないけれど,本来は労働能力の喪失の程度が次第に減ること(逓減している)こと前提に,計算上,平均したり,全体を通じたりして休業割合を認定していると考えられるものであります。
これらの裁判例も広い意味では,「逓減方式」を採用して損害額を計算していると言えるでしょう。
今回は,この両方の意味で「逓減方式」を採用していると考えられる判例について,令和元年頃から約4年間の裁判例を見ながら,裁判所の認定の傾向について考えていきたいと思います。
2 逓減方式が採用された被害者
休業損害で逓減方式を採用した裁判例の被害者の属性を見てみると,
①専業主婦(夫)16人
②兼業主婦(夫)26人
③会社等に勤務(パートアルバイトを含む)14人
④会社役員 1人
⑤自営業者 16人
⑥その他 2人
これを前提にすると,「逓減方式」が使われやすいのは,主婦(主夫)など家事従事者の休業損害の算定の場合と分かります。
家事従事者は,会社員と異なり,外から実際の収入を得ているわけでないため,「交通事故で家事が出来ないことによる損害算定方法~年齢による違い・最近の傾向」で記載した通り,女性平均賃金を基礎に計算されます。
客観的に「収入減」を算定しづらいところもあり,裁量で家事をどこまでやるかの判断もあり得るところもあって,少なくともこの金額がずっと減り続けるわけではなく,工夫や治療で家事ができると期待されるということで,逓減方式が適用されやすいと思います。
会社員は,事故による休業が客観的な「収入減」として金額も明確になりやすいため,休業期間中は「基礎日額(前年の所得÷365など)」がそのまま補償されやすいということになります。
3 後遺障害がない場合
後遺障害がなかった事案で「逓減方式」を採用した裁判例(21件)のうち,13件は20%から30%の休業割合が認定されていて,この被害者の属性は専業主婦7件,兼業主婦6件とされています。
例えば,原告が当初1ヶ月間80%,その後1ヶ月間50%,その後1ヶ月5日間20%の請求をした事案で,被害者の傷害の程度(頸椎捻挫)等考慮して,97日間を通じて30%と認定している裁判例もあります(東京地判令和2年3月13日の判決)
後遺障害が残っていない事案であっても,その中で入院期間がある場合には,その入院期間については100%の休業損害が認定されています。
この傾向からすると,逓減方式が採用される場合,傷害(ケガ)の内容にもよるけれど,休業損害が20~30%に減額されて認定されやすいかなと思います。
まとめ 公平・平等らしさ
損害賠償請求をする際の「損害額」の算定は,他の事案と比べて不平等,不公平にならないよう出来るだけ客観的に算定していくことが求められます。
しかし,考えてみると・・・
そもそも,実際の賃金を得ていない「家事従業者」が家事ができない時の損害額をどれくらいと想定したらいいのか?ということから考え始めます。
家事労働は賃金を得られないから,出来なくなったとしても損害は「ゼロ円だ!」というのは,「不公平」「不平等」に感じるでしょう。
そこで,結果として,「交通事故で家事が出来ないことによる損害算定方法~年齢による違い・最近の傾向」で書いたように,男女共通の平均賃金ではなく,原則としては「女性」平均賃金を元に損害額を考えているわけですが,年齢による配慮もあり,ここにも「公平感」「平等感」の感覚から考えていくことになります。
パートをしながら家事をしている人との「公平」「平等」も考慮して算定がされていくことになります。
家事労働を金銭換算する場合の金額はいくらが「公平」「平等」なのか・・
それぞれの人によって行う「家事」の量や質も違う中,それぞれ個別の事案では,どう調整していくことが「公平」「平等」なのか・・
少なくとも,「公平」でない,「平等」でない基準で決めていくことが必要とされるので,裁判所でも色々と考えながらバランスを取っていることになります。
やっぱり,このバランス感覚を大事にしながら「基準」を考えていくのは,とても面白いな・・と私は思っています。
ご自身や知っている方の事案で,今回ご紹介したような事情がある場合には,弁護士に相談した上で,弁護士の予測も聞きながら,裁判等までやっていくのか,検討をしてもらえたらと思います。
交通事故が生じた場合の具体的な賠償金額の算定の方法,どんな被害が生じるのか,被害を回復してもらうために注意しておくべきことは何か,どんな選択があるのか,などを知っておくことで,被害の回避をしたり,回復が出来る可能性が上がります。
これからも,そのための「基準」「考え方」についてもお伝えできればと思います。
それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!