多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故による頸椎捻挫の慰謝料金額は?計算方法と請求の流れ

交通事故による頸椎捻挫の慰謝料金額は?計算方法と請求の流れ

今回は,具体的な交通事故の場面を想定して,その後どのように損害賠償をしていくのか,特にケガをして通院した場合の「慰謝料」の金額の決まり方について,まず,保険会社からどんな提案があるのか,それは適切な損害賠償金額なのか,裁判で認められる慰謝料金額とどのように違うのか,不服がある場合には,弁護士に依頼するとどのようにして金額が変わる可能性があるのか,注意点や問題になる点をお伝えします。

交通事故によって精神的苦痛を受けたので,慰謝料請求をしたい場合,金額はどのように決まる?
交通事故後による慰謝料請求をしてもらうための,実際の流れは?
交通事故後による慰謝料金額が,減額,増額されるのはどんな場合?

今回は,追突事故で頸椎捻挫の怪我をして,入院はなく,4ヶ月間に50回通院した場合を想定して,どのように慰謝料金額が計算され,どんな流れで実際に慰謝料をもらえるのか,減額されないために注意すべきことは何かなどについて,お伝えします。

1 保険会社提案の慰謝料金額

例えば,追突事故で頸椎捻挫の怪我をして,入院はなく,4ヶ月間に50回通院した場合,加害者が加入している任意保険会社から提示される慰謝料金額は,1日4300円に実通院日数を50日の2倍をかけた43万円で提案されることががあります。

これは,自賠責保険で支払われる場合の基準額で計算した額になります。
1日4300円×総治療日数(期間)=4300×120日(4か月)=51万6000円と比較して,金額が低い方となります。

自賠責保険による基準(自賠責基準と言うことが多いです)は,交通事故の被害者の最低限の補償を確保する保険のため,自賠責基準の慰謝料は,最低限の金額となります。

時々は,各保険会社が内部に持っている基準として非公開の「任意保険基準」で計算した金額を提案されることもあります。

そのため,被害者としては,提案された金額が相当な「慰謝料」金額かなと思ってしまうこともあると思いますし,「慰謝料」は被害者の精神的苦痛に対して支払われるものですので,ご本人がその金額でよいと思えばもちろんいいのですが,金額に不服がある場合には,本来裁判をしたら認められるべき慰謝料を「相当」な金額として,弁護士を通じて裁判基準(弁護士基準)で計算した額で交渉してもらうことを考えることになります。

2 裁判基準(弁護士基準)の慰謝料金額

保険会社の提案する慰謝料金額が低いので,納得できない場合,弁護士を依頼して交渉してもらうことが考えられます。

弁護士が慰謝料金額を提案する場合には,いわゆる赤い本(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行の「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)」や青本(「交通事故損害額算定基準」(日弁連交通事故相談センター本部編)の基準のほか,大阪地裁交通部における交通事故慰謝料算定基準である大阪基準(通称緑本),公益財団法人日弁連交通事故相談センター愛知県支部 「交通事故損害賠償額算定基準」による名古屋基準(通称黄本)等を参考にして,被害者にとって有利となる金額を提案します。
(「色」で通称がついているのが面白いですよね!)

ざっくりな感覚ですが,私が弁護士になった25年前は,同じような交通事故被害にも関わらず,各裁判所で認められる損害額(慰謝料金額を含む)の計算方法がバラバラであると被害者としては不公平に感じるので,基準を統一しようという動きがあって,作られたばかりのような説明を裁判官からされた記憶で,当時はいわゆる全国の裁判例を対象とした「青本」基準で交渉していたことも多かった記憶です。
しかし,最近は,「赤い本」を基準に交渉されることが一般的になってきたのを実感しています。

「赤い本」では,慰謝料金額の別表Ⅰと別表Ⅱの2つの表があり,原則として別表Ⅰを使っていますが,むち打ち症で他覚所見がない(自覚症状はあるが,客観的な検査でそれを裏付ける異常が見られない状態)場合や,軽い打撲・挫創の場合には,別表Ⅱを使っています。別表Ⅱの慰謝料金額の方が,同じ通院期間でも慰謝料金額は低い基準となっています。

頸椎捻挫,つまりむち打ち症の場合,別表Ⅱを使って計算すると,通院のみの場合なので,表の一番左側の縦に並んだ数値を使っています。
今回の通院期間は4か月なので,4ヶ月の基準額67万円が弁護士が提案する金額の目安になります。

3 通院日数と慰謝料金額

弁護士基準での通院慰謝料は,実際に通院した日数(実通院日数)ではなく,通院していた「期間」を基に算出されますが,通院期間が長くても通院の頻度が低かったり,不規則だったりした場合,別表Ⅰが適用される場合は実通院日数の3・5倍程度,別表Ⅱが適用される場合は3倍程度を通院期間の目安として減額されて計算されることがあります。

具体的には,今回のような「他覚所見がない」むちうち等の軽い怪我の場合,通院期間を限度として実通院日数の3倍程度,それ以外の怪我は通院期間を限度として実通院日数の3.5倍程度を基に算出されます。
通院頻度によって,算定額にどの程度差が生じる可能性があるか,具体例で比較してみたいと思います。

①通院期間4ヶ月(120日)・実通院日数50日(月12.5日通院)
入通院慰謝料算定表【別表Ⅱ】を用いて算定します。
この頻度の通院であれば,通院期間中,適正頻度で通院したものと認められると考えられ,実通院日数が何日かにかかわらず,基本的に縦軸の通院4ヶ月に対応する金額が算定額となります。
表から,前述のとおり,67万円となることがわかります。

②通院期間4ヶ月(120日)・実通院日数10日(月2.5日通院)
同じく入通院慰謝料算定表【別表Ⅱ】を用いて算定。
【別表Ⅱ】に該当する怪我で,通院頻度が適正といえない場合には,実通院日数を3倍した日数を算定の基礎とします。
本事例の場合は,「10日×3=30日」ですから,表の通院1ヶ月に対応する金額が算定額となり,19万円となることがわかります。

比べてみるとかなりの慰謝料金額の差が出るのが分かります。

今回のケースのように,通院期間が4か月間ということで,比較的短い場合には,通院頻度が少なめでも,裁判をすれば「通院期間」(①)で計算してくれることも多いかなと思いますが,慰謝料は通院日数で大きく変わる可能性があることは知っておくことも大事だと思います。保険会社から最初に提案される金額については,これによって差が出る可能性が高いです。

もちろん,慰謝料金額を上げるために必要のない通院をすることは不適切ですが,算定表では,週2~3日程度,または月10日程度を治療のために通院することを想定していることを知っておくことで,同じだけ治療期間(通院期間)を必要とするケガをしたのに,もらえる慰謝料金額が大きく違うという不公平感,納得できない気持ちが減るかなと思います。

保険会社の方からは,慰謝料金額を上げるために不必要に通院しているのではないか・・・と疑われることもあるのですが,一方で,仕事が忙しい,病院に行くこと自体が大変という理由から通院する日数が少なくなり,希望する慰謝料金額がなかなか認めてもらえないケースもあって不憫に思いますので,これらを知ったうえで「良心」に従って通院していただきたいと思います。

もっとも,赤い方の表だけでなく,本文には,「期間」や増額の考え方などについて解説や注意点が書かれています。
基準額は,あくまでも目安の金額のため,裁判をしたら必ずその金額の支払いを受けることができるわけではないですし,「特別な事情」がある場合には増額できることもあるので,このあたりにも注意して弁護士は提案することになります。

まとめ 知識は大事

「知識だけあっても使えなければ意味がない」

確かに,昔で言えば,1192(いい国)作ろう鎌倉幕府,という1192年に鎌倉幕府が成立したという,ただそれだけの知識を知っていて,覚えてみても,日常生活に使えなければあまり意味はない・・

けれど,「知識」があることで,その後の行動が変わることがある。

・・今回のケースで言えば,保険会社から提案される慰謝料金額は裁判をした場合に認められる可能性のある慰謝料金額よりもかなり低い金額の可能性があること,通院する日数によって慰謝料金額が変わる可能性があること,を知っていればその後の行動が変わる可能性があることからすると,行動を変える「知識」になると思う。

イギリスの哲学者,フランシス・ベーコンの名言としてよく知られている「知(知識)は力なり(Knowledge is power)」

・・と言っても,私は不勉強でよく知らなかったのだけれど,「知識」がある場合と無い場合では,選べる選択肢の幅も違うし,やってみた行動の結果から受け取る感情も違ってくると思う。

「知っていれば」こんなことしなかったのに・・というのは,弁護士として相談を受けていると,よく聞く言葉の一つです。

なので!これからも,少しでも分かりやすい言葉で,「行動」をかえるための「知識」を伝えていけたらいいな~と思いました。

交通事故の場合は,多くは保険会社からの支払いになりますが,支払う側からすれば,正当な契約に基づく損害に限って支払いたいもの。
任意保険に加入する場合,いざという事故に備えて加入するのだから保険金を支払って欲しい,と言われても,契約外の不必要な損害金を支払えば,結果として,支出が多くなり,保険料も上げざるを得ない…ということにも繋がりますから,この判断は厳しくなされます。

裁判所がどのように考えているか・・を知らないと,思ったような損害が認められないことに苦しい思いをされてしまうのではないかと思いますので,裁判所の「考え方」,損害算定方法の傾向を知っておくことは大切です。

細かな算定方法,裁判での手続きなどは分からなくても,大まかな流れやどんなことが裁判では問題になるのか,などが分かることで,自分の場合はどのような点を意識して交通事故後の手続きを進めたらいいのか,不安や不満を解消して,被害回復の回避,回復ために出来ることを知るヒントとなると思うので,これからもお伝えしたいと思います。

知っておくことで,最適な損害回復が出来る可能性が上がります。

また,「知識」を得ることで,自ら「選択」して,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合にも,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!