多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

子どもの脳を傷つける親の行動,発達を促す親の行動

子どもの脳を傷つける親の行動,発達を促す親の行動

いつも読んでいただき,ありがとうございます。

今回は,最近受講している日本弁護士連合会のインターネット研修の講師であり,読んだ本「親の脳を癒せば子どもの脳は変わる」の著者である友田明美医学博士の研究結果,とお話から親の行動,特に心理的な虐待が及ぼす子どもの脳への悪影響,反対に親の適切な行動が与える子の脳への良い影響について,改めて学びましたので,そのご紹介をします♪

殴る,蹴るのような身体的な暴力を受ければ,目に見える傷が出来て,痛いよね?傷ついているよね,と分かってもらえる。
でも,「言葉」「行動」で与える心理的な影響は,なかなか目に見えずに,その影響の大きさが見落とされる…
実は,身体的な暴力よりも,与える悪影響は大きい,と知った。

‥その影響の大きさを伝えたくて,この友田先生は,目に見える形で脳の構造の変化を科学的に証明することで,「ことの重大性」を私たち弁護士のような司法関係者にも伝えたい,というのがひしひしと伝わる講演だった。
ご自身もお子さんを持つ母であり,母親として子供を守りたい,という思いもひしひしと伝わると同時に,子育ての大変さに対する母親への優しい愛情ある目も感じます。

親の「言葉」「行動」が子供の脳に計り知れないダメージを与えてしまうこともある・・
それは,その後の子ども達の成長に大きく影響を与え,脳の構造を変形させ,将来大うつ病,薬物依存,人格障害発症,自殺などのリスクを上げてしまう・・

どのような「言葉」「行動」が,言葉が子どもの脳に悪い影響を与えるのか?
どうしたら,子どもの脳へ良い影響を与える「言葉」「行動」をとることができるのか?
心理的な虐待がある場合,両親が別居後の子どもとの面会交流で注意すべきことは何なのか?

3つ,お伝えします。

1 心理的虐待と脳の損傷

  1. 子どもの虐待行為の類型として,以下の4つで分類をされることが多いです。

    ①身体的虐待‥殴る,蹴る,叩く,投げ落とす,激しく揺さぶるなど。
    ②性的虐待‥子どもへの性的行為,性的行為を見せるなど
    ③ネグレクト‥家に閉じ込める,食事を与えない,ひどく不潔にする,車の中に放置する,重い病気になっても病院に行かないなど。
    ④心理的虐待‥言葉による脅し,無視,きょうだい間での差別的扱い,子供の目の前で家族に暴力をふるう(DV目撃)など。

この④の心理的虐待のうち,言葉による脅し,無視などは,今は「モラハラ」と表現されることも多いものだと思います。
それぞれの虐待によって,与える脳の損傷部位は違いますが,④心理的虐待のうち,DV目撃のケースでは,脳の「視覚野」の容積が減少する。
視覚野の容積が減れば,記憶力は低下する。
嫌な出来事を思い出すたびに活性化する領域のため,苦痛を出来るだけ呼び起こさないよう,減少したと推測される。

特に右利きの人の左脳の視覚野は,「ものの細部」を捉える働きをするところ,特にこの部分が減少しており,見たくない光景を細部まで見ないで済むよう,「無意識化の適応」が行われたと考えられる,とのこと。

いわゆる「言葉」による暴力,「モラハラ」のような類型では,脳の「聴覚野」が肥大する。
本来は,神経の伝達を効率よく進めるため,子どもの脳内では,神経細部の接合部である「シナプス」を剪定する作業が必要にも関わらず,暴言によって上手く進まない結果,肥大してしまう,と考えらえるとのこと。
肥大することで,人の話を聞き取ったり会話する際に,脳に余計な負荷がかかり,心因性難聴となって情緒不安定になったり,人と関わること自体恐れるようなったりする場合もある,とのこと。

‥講義の中でも何度も友田先生は,言葉の暴力を軽視してはいけないこと,むしろ身体的暴力よりも影響が大きいことを強く言っていて,それを弁護士にも理解して欲しい,という趣旨のことを言っていた。
レジュメにも,「身体的DVに限定する理解は被害を見えなくする!」と記載されている。

今までは,「心の傷」と言われ,目に見えないがために重視されてこなかったと思うのだけれど,脳への損傷状況が見える化することで,子の健全な成長に与える影響が大きいことも次第に明確になって行くことがとても頼もしいと思ったし,私たち法律関係者も,このことを知って親権者を決めるとき,面会交流の実施をするときは考えないといけない,と改めて思った。

みなさんは,直接子供に叩く,殴るなどの暴力がなくとも,心理的虐待で子供の脳を損傷させると知っていましたか?

2 言葉による脳のダメージの大きさ

以前のブログ「脳に良い言葉,悪い言葉」で取り上げた友田先生の別の著書によれば,

両親間の「身体的」な暴力を目撃したときよりも,「言葉」の暴力に接したときの方が,脳へのダメージは大きいとされる。(視覚野の一部である舌上回の容積が6倍以上も減少)

つまり,親がいわゆる「モラハラ」を受けている状況を子が目撃すると,聴覚野の損傷(肥大)だけでなく,視覚野も大きく損傷される。
それは,身体的な暴力を目撃するよりも「言葉」による暴力を目撃した方が,悪影響が大きいということ。

一度に複数のマルトリートメント(≒虐待)を受けると,脳へのダメージは複雑・深刻化する。
身体的虐待・精神的虐待とトラウマ反応との関連を調べると DV 目撃の深刻な影響が明らかになっている(Polcari et al.,2014;Teicher et al., 2006a)。
解離症状をはじめとするトラウマ反応がもっとも重篤なのが,「DV 目撃+暴言による虐待」 の組み合わせとのこと。

つまり,直接子供が親から殴る,蹴るなどの暴力を受けるよりも,心理的な虐待,特に言葉による虐待を直接受けること,もしくは,親が言葉による暴力を受けていることを目撃することの方が大きい‥
と言える。

そう考えると,改めて友田先生が伝えたいことをずっしりと重く感じる。
子供が直接,殴る,蹴るの「身体的」虐待を受けている場合や,性的な虐待を受けていた場合には,その後別居したとしても,その虐待をした別居親との面会交流は制限される傾向にある。
でも,この心理的暴力については,子への影響が「間接的」とされて,あまり重視されていない傾向を感じます‥

その意味で,友田先生は,こういうケースでも別居後離れたからと言って,すぐに面会交流を認めていいのかは疑問がある,慎重であるべきという姿勢を述べていた。
会うことによって,以前の記憶が呼び起こされ,この「フラッシュバック」により過去の出来事をまるで今起きているように再体験することで,脳に負担をかけ,健全な成長を阻害しかねない。
性的虐待,身体的虐待の場合,別居して,離れた今でも,もうこのようなことは無い状況で面会交流が出来るとしても,やはり,通常お子さんには会うことへの怖れによる負荷があるからこそ,制限される傾向にあるのではないかと思います。

子供によって,状況は様々なので,一律に面会交流が制限されるべきではない。面会交流による良い影響も私は知っているつもりです。
でも,身体的な虐待,性的虐待と比較して,心理的虐待が軽視されていいわけではない・・むしろ,本来影響はこちらの方が大きいのだから,と改めて思った。

正直,今面会交流を進めた方がいいのか,進めたら子にとって良くないのか,弁護士や裁判官だけで判断するのは限界がある…
調査官さんは子の心理について学んだ専門家ではあるけれど,このあたりのことを,どこまで配慮してくれているのか‥
今の日本の現状だとまだまだ難しいと思うのだけど,心理的な虐待が子に与える影響を科学的に解説できる医師が面会交流を実施してもいいのか,親権者の適性という判断に加わってもらえるといいな,と改めて思います。

「言葉」による脳への深刻な影響,知っていましたか?

3 親の脳を癒す

ここまで書いてくると…ちょっと暗い気持ちになりがちですが,
希望の持てる話も友田先生はして下さってます。

友田先生は,診察室に訪れた親たちの良いところを発見して褒めるようにしているとのこと。
「お母さん,すごいよね」
「お父さん,よくここまで頑張りましたね」

…母である私もこれを誰かに言われたら癒されるなあ…
涙出そう…

この「人をほめるスキル」を体系的に伸ばしていくプログラム「ペアレント・トレーニング」を友田先生は実施されているとのこと。

これによって親の脳機能にも変化が生じる。
左脳の上側頭回の活動が低下して,リラックス状態になる。ここは「自尊感情」に関わる部分で,落ち着いているほど自尊感情が高い,という指摘のあるところ。

そして,子供の脳機能にも良い変化として,小脳の一部が活性化。
ここは,注意機能や実行機能との関連が示唆されている領域で,「反応時間」に関するテストでも反応時間が早くなっているとのこと。
親の脳が変わったことで,子供への接し方が変わり,子どもの脳にも良い影響がある,と言えそうです。

‥なので,私自身は弁護士として直接誰かのお子さんに関わる場面は多くはないけれど,親御さんに関わることは多い。
そのとき,少しでも親御さんの心を癒し,脳を癒すことで,お子さんへの良い影響を与えられるような「言葉」をかけたいな,と思いました。

離婚調停,面会交流の場面では双方の親が対立構造になってしまうのは避けられず,お互いに非難し合ってしまう関係になることも多いのだけれど…
少しでも,子どもに接する親の脳を癒すために,相手に攻撃的な言動ではなく,癒しに繋がる言動をすることで,子供の良い養育環境を守っていけたら‥という視点も持ちたいと思いました。

脳に良い言葉(≒褒める言葉),悪い言葉(≒けなす言葉)はやはりありそうです。
子にとっては父,母となる大人の脳を癒す言葉,考えたことはあるでしょうか?
みなさんの話す「言葉」が大人の脳にも,影響を与えると知っていましたか?

まとめ 言葉の威力

以前のブログでも書きましたが,私が研究テーマとして最近興味深いのは,「言葉」による影響です。

親の言動,特に「言葉」が子どもの脳の構造までも変形させてしまう・・・

「言葉の暴力」って,少し抽象的ですが,「心ない言葉で罵られる」ということです。
子供に対する「言葉」で言えば,お前は何をやってもダメだ,何で生まれてきたんだ,よくそんなことも出来ずに生きてられるな,こんな点数しか取れないなんてオレの子とは思えない・・・などでしょうか。

最近は,「モラハラ」という言葉も生まれ,言葉の暴力の問題性も重視させるようになっているけれど,まだまだ「身体的暴力」に比べると,他人には理解してもらいづらく,影響も軽視されているように思います。
口げんかは夫婦ならばよくあること,殴られたわけでもないなら,そんなくらいで,離婚なんて・・と言われることもある。
裁判所でも,「モラハラ」を原因とした離婚を認めてもらうのは今でもなかなかに難しく,裁判をするのも勇気のいるところです‥

でも!私は,子どもの脳にあれだけの影響があるのだから,大人の脳にだって,大きな影響があると思っています。
こちらの研究はまだ進んでいないのかもしれないけれど,脳を癒す「言葉」で親である「大人」の脳機能が向上することは友田先生の研究からも出ているわけだから‥
これが反対にけなす,罵る「言葉」なのであれば,やはり,大人であっても脳機能を損傷させるのではないかと思っています。

少なくとも,お子さんがいる家庭なのであれば,言葉による暴力のお子さんへの脳への損傷は身体的暴力よりも大きいことが実証されてきたので,このような環境のまま過ごすことは相当でないケースが多いと思います。
配偶者からの「モラハラ」による離婚は,殴る,蹴るといった暴力による離婚と同様に認められるべき段階になってきていると私は思っています。

やはり「言葉」の威力は良い方向にも悪い方向にも絶大。

誰かの優しい「言葉」が勇気を与え,子育てにも前向きにさせてくれる。

一方で,ある「言葉」は,脳の発達に大きなダメージを与えてしまう。

「言葉」の持つ力は計り知れない。

自分自身の脳に良い影響を与える言葉,相手の脳にも良い影響を与える言葉を選んで,発せられる人間になりたい!と改めて思います。

子どもに悪い影響を与える言葉を知り,できる限り・・・使わないよう意識していきたい。

友田医師は,冒頭の著書の中でその他の虐待に関する子の脳への影響や,実際にペアレントトレーニングを受けて子への接し方が変わった実例報告,虐待する親は自分も虐待を受けてきた‥虐待の連鎖に関することとその治療法,幼い時から子を保育園に預けてもいいのか?などについても書いています。

お薦めです♪

これからも,どんな「話し方」で相手に伝え,どんな「言葉」を選んだらいいのか,これからも研究して伝えていけたらと思っています。

うちに相談に来て下さる依頼者の方々のため,そして自分自身の子ども達,家族,友人のため,弁護士として,母として,「言葉」の威力を良い方向で使えるよう,一緒に歩んで行けたら・・と思います。

また,研究発表,致しますね(笑)!

それでは,

このブログを読んで下さった皆さまが,「言葉」が相手,子どもにどのような影響を与えるのかに気付き,どのように「言葉」の威力を使ったら良いのか,分かるヒントとなりますように。

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!