多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故の過失割合(過失相殺率),弁護士はどう判断する?

交通事故の過失割合(過失相殺率),弁護士はどう判断する?

「自分は全く悪くない,避けられない事故だった・・相手方が100%悪い」
交通事故に遭った場合,ご相談者から相談される際,そのように話されることもあります。

しかし,本当にこちらには,何の落ち度もない事故だったのか・・?
裁判所は,ご相談者のような交通事故態様の場合に,こちらの過失を全くないもの,0%として判断してくれるのだろうか?

交通事故が発生した場合,お互いの過失(どちらがどの程度悪いのか)を決める必要があります。
そして,それによって,実際に受け取ることができる損害賠償金の額は大きく変わります。

「自転車運転の過失割合~全額賠償を受けられない場合」で記載したように,例えば,重篤な症状が生じ,これを賠償するために1000万円が必要とされた場合であっても,自分の過失が5割と認定されてしまう(これを過失割合と言います)と,相手方には500万円の賠償責任しか発生しないことになります。

この場合には,500万円を過失相殺(そうさい)で差し引いて,500万円しか請求出来ないことになります。
そのため,「過失割合」「過失相殺(そうさい)」の認定はとても重要です。

それでは,この「過失割合」「過失相殺率」はどのように判断されるのでしょうか?

弁護士は,相談を受けた際,どのように「過失割合」「過失相殺率」を判断する?
交通事故の「過失割合」「過失相殺率」を判断するための基準,原則は?
最初に予測した「過失相殺率」が変わることはあるの?それはどんな場面?

交通事故の相談,依頼を受ける際,具体的に弁護士がどのように「過失割合」「過失相殺率」を判断しているのか,その基準と手続きの流れを知っておくことで,自分に全く非のない交通事故なのに,なぜ損害賠償金額全額を支払ってもらえないのか,不信感や不満を解消するヒントになると思いますので,ご紹介します。

1 過失相殺率の認定基準

弁護士が,相談を受ける際,まずは,依頼者(ご相談者)から聞き取った事故の態様を前提に過失相殺率がどのくらいになりそうかを検討します。

過失相殺を考える場合,弁護士が参考にしているのは,別冊判例タイムズ38号や赤い本(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」という書籍)などです。

これらの本に,AとBが交通事故で接触した場合,それぞれどのような類型の交通事故の場合には,A,Bのそれぞれの過失は何%となるのか,いわゆる過失相殺率の認定基準が定められています。

事故当事者の区分(車と車の事故なのか,車と自転車の事故なのか,車と人の事故なのか,など),事故発生場所,事故態様の区分に応じて基準が定められているので,弁護士が依頼者の事故態様に応じて,簡単に検討しやすくなっています。

しかし,もし,この過失相殺率の認定基準が定められている類型に該当しない場合,類似するものがない場合には,どのように認定すればいいのでしょうか?

2 交通事故裁判例・原則の確認

認定基準が定められている類型に該当しない場合,事故態様が類似する裁判例でどのように「過失相殺」が判断されているのか,を探すことになります。
それでも,よく似ていて参考に出来そうな裁判例も見つからない場合もあります。

このときは,事故の類似性は,多少低くても,参考にできそうな基準,より「原則」と言われるような交通事故における全般的な「考え方」,道路交通法において,車の運転者や歩行者には,どんな安全義務が課されているのか,などに立ち返って検討します。

公表されている認定基準で,全ての事故態様についての過失相殺率が網羅されているわけではないので,過失相殺率の認定基準が,そもそも,どのようなことを考慮して作られているのか,「法の理念」「立法趣旨」(≒考え方)から考えていくことになります。

元々,公表されている認定基準も,道路交通法令に基づく優先関係(どちらの通行が優先されるか)が前提になっていて,優者危険負担の原則(弱者保護の観点から,車と歩行者のような,強者と弱者の事故では,車の運転者という強者側の過失割合が高くなる)や実際の運転慣行なども考慮して作られています。

そのため,参考になりそうな事故類型や裁判例が見つからない場合は,まずは道路交通法令に基づく優先関係に立ち戻って考えることになります。

公表されている認定基準は,同じような事故類型なのに人によって過失割合の認定が変わってしまうという不公平感をなくし,平等な観点で結果の予測ができるため,多くの弁護士,裁判官などの実務家が参考にしていますが,当然,それは法令そのものではありません。

そのため,それぞれの交通事故の事案での個別の事情を捨象して,一律に認定基準をあてはめることの弊害も指摘されています。認定基準が定められている類型に該当する場合であっても,本当にその過失割合でいいのか,認識した上で適切に利用することも大事になります。

3 予想と修正

過失相殺率を正確に検討しようとすると,正確で具体的な事故態様を知ることが重要になります。
そのため,人身事故のように刑事事件として取り扱われているケースでは,刑事記録を入手することも必要です。

しかし,これが入手できるまでには時間,手間もかかります。
もし,弁護士に依頼した場合にはどのような見込みになりそうなのか,自分側には過失なんてほとんど無い,と思っているけれど,それは認めてもらえそうなのか,具体的な損害賠償金額として,どれくらい増額が見込めそうなのか,などが分からないと,打合せの時間や書類の準備などの手間をかけて,弁護士に依頼すべきかどうか,相談者としては判断できません。

そこで,弁護士としては,最初に依頼者から相談を受けた際に,話をされた事故態様を情報に,大ざっぱな予想となるとしても,過失相殺率などの見込みを伝えることも大切です。
認定基準に該当する類型でない場合も,類似の事故態様を参考にして予想したり,それでも,その場で予想が難しい場合には,裁判例を検討して,また予想をお伝えします,とご相談者には伝えることになります。

相談者に全く過失がない場合(過失割合100:0)を想定して積算した損害額だけを伝えるよりも,暫定的でも,過失相殺によって減額される見通しを伝えることで依頼者(相談者)の受止め方,今後の方向性の判断も,かなり違うものになります。

もっとも,依頼を受けたのちに,実際に,相手方は事故態様についてどう言っているのか,相手方の主張が明らかになってきたり,刑事事件記録を入手できたりすると,事故類型をさらに正確に絞り込めるので,予測を修正する必要があることもあります。

そのため,弁護士としては早い段階で,基本となる過失相殺率を伝えるとともに,詳しい事故態様が分かれば,それによって修正要素の有無も定まってくるため,修正もありうることなども依頼者(相談者,被害者)に丁寧に説明することが大事になります。

まとめ 不安なときは,質問を

交通事故は,予測していない状況で生じるため,事故後の対応で心身共に疲弊してしまうことが多いです。
弁護士に依頼して,早期損害賠償請求をすべきなのか,迷うこともあると思います。
また,実際に弁護士に依頼したのちも,今はどのような状況なのか,これからどうなっていくのか,いつ解決できるのか,不安に思うこともあります。

そのような時はぜひ・・
遠慮なく弁護士に「質問」してもらえたらと思います。

お任せしているのに,文句を言っているみたいで言いづらい・・・とか,
弁護士が忙しそうなので,話しづらい・・と言われることも少なくないのですが,

「疑問」をそのままにしてしまうと,わからないことでますます不安になったり,ちゃんと弁護士はやってくれていないのではないか,という弁護士に対する不信感につながってしまったりすることがあります。

なので,そのような状態になる前に,軽い気持ちで「質問」してもらえたらと思います。

でも,「こんな質問してしまっていいのかな?」と躊躇することもあると思います。

弁護士が,一般的にはどのような流れで交通事故の事案に取り組んでいるのか,が分かると,弁護士からすると「今なぜそんな質問をするのか?」と思ってしまうようなズレを減らし,現状への不安や弁護士に質問する際の不安も少なくなるかなと思いましたので,今回は,特に「過失相殺」について,どのように弁護士が検討して,対応しているのかをお伝えしました。

検討の方法や流れを知ることで,「あ!この部分はもう少し丁寧に説明してもらいたいな」とか,「とりあえず,現時点での予測を大まかでいいから教えて欲しいな」と言った具体的な疑問,質問も出やすいのではないかと思います。

交通事故が生じた場合の具体的な賠償金額の算定の方法,どんな被害が生じるのか,被害を回復してもらうために注意しておくべきことは何か,弁護士に依頼した場合には,どのように手続きは進められていくのか,自分としてはどんな選択があるのか,などを知っておくことで,被害の回避をしたり,回復が出来る可能性が上がります。
これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!