多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故で被害者請求をすべき場合,請求しないことによるリスク

交通事故で被害者請求をすべき場合,請求しないことによるリスク

いつも読んでいただきありがとうございます♪今回は,交通事故による死亡事案等で,自賠責保険被害者請求をする場合の続編としてお伝えします。

交通事故による傷害,また,これによって後遺障害が生じた場合,また,死亡事故の場合に,自賠責保険(法律で加入が義務づけられている自動車損害賠償責任保険)へ,直接被害者が支払いを請求する「被害者請求」を考えることになります。

典型的には,加害者が任意保険に加入していない場合に被害者請求を検討しますが,それ以外にも被害者請求を検討した方がメリットがある場合,被害者保護に繋がる場合があります。

被害者請求のメリットがあるのは,どのような場合なのでしょうか?
被害者にも過失が相当程度認められてしまう(過失が大きい)場合に被害者請求をするメリットは何でしょうか?
被害者側の過失がある場合,どのような基準で被害者請求による保険金は支払われるのでしょうか?

1 被害者請求を検討すべき場面

①加害者が任意保険に加入していない場合

交通事故で加害者が任意保険に入っていなかったら?傷害,後遺障害,死亡による損害賠償請求で記載したような場合,基準となります。

②加害者側保険会社が任意一括払い対応をしてくれない場合

過失割合に争いがある等の理由によって,加害者側保険会社が病院への直接の治療費の支払い対応(いわゆる任意一括払い対応)をしてもらえず,治療費等を立替えて被害者が支払っている場合

③健康保険等で自腹通院をした後に回収する場合

加害者側保険会社が途中まで治療を支払ってくれていたが,治療途中で打ち切られ,健康保険等で自腹で通院した後に,回収したい場合

④加害者が法的責任を認めていない場合

この場合は,加害者側の任意保険の利用が出来ないために,検討することになります。

⑤後遺障害等認定申請で詳しい資料を提出したい場合

後遺症が残った場合,多くは加害者側の任意保険会社に手続きを依頼する「事前認定」を利用しますが,直接自賠責保険会社に申請を行う「被害者請求」の方法も利用できます。
被害者請求の場合,被害者自身の陳述書などの資料を添付して状況を伝えるなど,後遺障害等級が認定されるための資料を工夫できるので,資料の提出により認定が変わりうる場合には,利用を検討することになります。

⑥被害者側に重大な過失がある場合

傷害を受けた,死亡した被害者であっても,被害者側に重大な過失がある場合には,任意保険会社に交渉しても,損害賠償請求が認めてもらえないことがあります。
この場合にも,被害者請求をすることで,自賠責保険から賠償金を支払ってもらうことを検討することになります。

2 被害者に重大な過失がある場合の被害者請求

被害者に重大な過失がある場合には,自賠責保険の算定基準で積算した損害額が保険金額に満たない場合は積算した損害額から,保険金額以上となる場合には保険金額(支払限度額,死亡の場合は3000万円)から減額されて支払われることになります。重過失減額と言われています。

被害者の過失割合が7割未満→減額なし

後遺障害または死亡に係るもので
7割以上8割未満→2割減額
8割以上9割未満→3割減額
9割以上10割未満→5割減額

傷害に係るもので7割以上→2割減額

例えば,死亡事案で,積算した損害額が3000万円を越える場合であっても,被害者側の過失がとても大きく,9割を越えるようなケースでは,死亡時の保険の支払限度額である3000万円の半額である1500万円が支払われることになります。
被害者側の過失が10割の場合には,支払われないことになりますが,任意保険の会社に,加害者側の過失はゼロ(被害者側の過失が10割)として全く支払いを認めてもらえないような事案でも,被害者請求をすると,過失が10割未満として認めてもらえることもありますので,それぞれの事案で請求を検討することが重要です。

3 訴訟をするメリット・デメリット

被害者請求をする場合,自賠責保険の支払基準によって支払われるため,それ以上に実際には損害が生じている場合には,訴訟を提起することで損害が認められれば,その金額で損害賠償金を支払ってもらえることになります(但し,保険の支払限度額まで)ので,訴訟を提起するメリットとして考えられます。

一方,注意すべきデメリットとしては,訴訟になった場合,「重過失減額」という考え方ではなく,「過失相殺」の考え方になる点です。
過失割合の予測がつかなかったり,大きな割合の過失相殺が想定されるような事案であれば,過失相殺によって,賠償金額が支払基準で算定したときの金額を下回る可能性があります。
裁判(訴訟)をした結果,過失が10割(加害者側の過失はない)となってしまえば,全く支払われなくなってしまうこともあり得ます。
訴訟後に支払基準で算定し直してもらうことはできません。

納得いかない場合でも,いきなり訴訟をするのではなく,被害者請求をしてから,訴訟での請求をするという工夫が必要になります。

まとめ 弁護士相談で不安・疑問はお気軽に解消を

私は,交通事故の被害を受けた場合,どのように損害が計算されるのか,どのように手続きは進められていくのか,まず,最初に何をすべきなのか,などを知っておくことで,不安や疑問が解消して,安心して進めていけるといいな,と思って伝えています。

傷害,死亡事故による心身の苦痛はとても大きいと思いますが,そんなときに,加害者側に過失はないから支払えない,自賠責保険会社による被害者請求を検討した方がいいのでは,と言われる場合・・・それがどんなことを意味するのか,請求するとどうなるのか,などが分からないと,不安も増大するのではないかと思います。
そのような場合に,今回お伝えした自賠責保険による補償内容が,参考になったらと思います。

傷害状況によっては,直ぐに弁護士に相談に行くことも出来ない状況のこともあると思いますし,出来るだけ時間を短くして弁護士に相談したい,と思う場合,予め知識を得て,解消できる疑問点は解消しておけるといいかなと思っています。

事故態様によって,過失の大きさも異なりますので,それによって適切な対応も異なります。
不明なところや分かりづらいところはあると思いますので,その際には,遠慮なく弁護士に質問して,疑問を解消することで心を少しでも軽くしてもらえたらと思います。

このような補償対象や損害賠償請求の流れなどを知っておくことで,被害の回復までの道のりを安心して進むことが出来,必要な損害賠償請求を効率的,効果的に過不足なく請求出来ることに繋がります。

また,手続きの選択によるメリット,デメリットも知っておくことで,公開しない損害賠償の選択もできます。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!