多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

自動車を運転して人を死傷させた場合の重い責任とは?

自動車を運転して人を死傷させた場合の重い責任とは?

いつも読んでいただきありがとうございます。このブログを読んで下さっているほとんどの方が,車を運転したり,誰かの運転する車に乗せてもらったりしたことがあると思います。
この「日常的」なこととして,行われている車の運転ですが,もしも,必要な注意を怠って,人を死傷させてしまった場合には,どのような責任が生じるのでしょうか?

実は,私が弁護士になった20年前と比べ,様々な痛ましい事件を経て,その責任は重くなっています。特に,社会的に非難されるべき「危険な運転」行為によって人を死傷させた場合の責任は,とても重くなっています。
もちろん,刑事的な処罰だけでなく,民事的な損害賠償義務も発生し,その際に支払わなければならない「慰謝料」も,危険な運転によって生じた被害であれば増額される傾向にあるでしょう。

今日は,その中で,刑事的な責任として,自動車を運転していて必要な注意を怠り,人を死傷させる事故を起こしたとき,どのような法律が適用されるのか,どんな思い責任があるのか,について見ていきたいと思います。

1 自動車運転死傷行為処罰法の制定

自動車を運転して人を死傷させてしまった場合,刑法のどの条文が適用されるのでしょうか?
・・・実は,現在は刑法上に処罰の根拠はありません。

私が弁護士になった20年前の頃は,刑法にある「業務上過失致死傷罪」が適用されていました。
「業務」とは,「社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって,生命身体に危険を生じ得るもの」をいいますが,自動車を運転することもこれに含まれるというわけです。

その後,刑法上に別途「自動車運転過失致死傷罪」という独立した条文が整備されるとともに,懲役・禁固の上限が,従来の業務上過失致死傷罪の「5年以下」から「7年以下」に引き上げられました。これと同時に,「危険運転致死傷罪」が新設されました。これが平成19年のことです。

そして,平成26年5月に施行された「自動車運転死傷行為処罰法(正式名称は,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律です)」が,刑法上に規定されていた「自動車運転過失致死傷罪」と「危険運転致死傷罪」を抜き出して独立させ,特別法として作られました。
これにより,従来の自動車運転過失致死傷罪は,適用要件などはそのままに,罪名が「過失運転致死傷罪」に変わりました。

2 自動車運転死傷行為処罰法による変更点

この自動車運転死傷行為処罰法による主な変更点は,次のとおりです。

1つ目に,これまであった「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」の量刑の差が大きかったため,この中間に,「酒や薬物,特定の症状を伴う病気の影響で,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こした場合」に適用される,新しい危険運転致死傷罪を設けました(3条)。最高刑は懲役15年です。

この「特定の病気」については,意識障害などをもたらす発作が再発するおそれがあるてんかんなどが,政令で定められています。

2つ目に,「過失運転致死傷アルコール影響等発覚免脱罪」という新しい罪の規定を設けられました(4条)。これは,事故の後,逃げて飲酒していたことなどを分からなくすると刑罰が軽くなるという「逃げ得」と呼ばれる問題を防ぐための規定で,酒や薬物の影響で事故を起こした後,そのことが発覚するのを免れるために逃走した場合などに適用されます。最高刑は懲役12年です。

3つ目として,無免許で運転して上記の罪にあたる事故を起こした場合は,それぞれ刑罰を重くする規定が,新たに設けられました(6条)。

これは,未成年者である被告人が,無免許で7回にわたり普通乗用自動車を運転するとともに,京都府亀岡市の国道を走行中,いわゆる居眠り運転により集団登校中の小学生の列に突っ込み,保護者1名を含む3名を死亡させるとともに,7名に傷害を負わせたという事件が大きな契機となっています。
遺族の方々は,危険運転致死傷罪の適用を希望しました。「進行を制御する技能を有しない走行」(旧・刑法第208条の2第1項後段)については,無免許運転だから直ちに技能を有しない走行であると認められるものではなく,実質的に進行を制御する技能を有しない未熟運転をいうと解釈されてきました。

おかしな話だと思いますが,無免許運転を繰り返していれば技能を有することになっていくのです。検察は,結局,法文を拡大解釈することなく,危険運転致死傷罪での起訴を断念して自動車運転過失致傷罪で起訴しました。

でも,これじゃ,納得できない!こんな社会的に非難されるような行為をしておいて,軽い処罰になってしますのか!?とみなさんも思うのではないでしょうか?
そのために,立法的に解決されていったということになります。

3 令和2年の改正による追加点

令和2年には,さらに,「走行中の車を妨害する目的で,前方で自分の車を停止させ,死傷事故を起こす場合」も,危険運転として処罰対象に加えられており,令和2年7月2日より施行されました。

また,「あおり運転」の行為自体を厳罰化した改正道路交通法は令和2年6月2日に成立し,令和2年6月30日より施行されています。

やはり,こちらも,あおり運転による死傷事故が社会問題化した背景があります。
それまでは,あおり運転を取り締まる明文規定がなかった道路交通法に,あおり運転を「妨害運転罪」として新たに規定し,他の車両の通行を妨げる目的で車間距離をあけない場合,急な割り込み,不必要な急ブレーキなど以下の10類型が「あおり運転」とみなされ,取り締まりの対象となっています。

(取締りの対象となる10類型)

1)車間距離を極端に詰める(車間距離不保持)
2)急な進路変更を行なう(進路変更禁止違反)
3)急ブレーキをかける(急ブレーキ禁止違反)
4)危険な追い越し(追越しの方法違反)
5)対向車線にはみ出す(通行区分違反)
6)執拗なクラクション(警音器使用制限違反)
7)執拗なパッシング(減光等義務違反)
8)幅寄せや蛇行運転(安全運転義務違反)
9)高速道路での低速走行(最低速度違反)
10)高速道路での駐停車(高速自動車国道等駐停車違反)

まとめ

自動車を運転するものとしては,自動車が人を死傷させる大変危険な乗り物であることをまず自覚しなければなりません。
また,近年,飲酒運転や無免許運転のような悪質で危険な運転に対する処罰が厳しくなっていることも認識しておかなければなりません。

弁護士になった当初は,少しくらい飲酒をしても運転していい,という感覚で周囲の方も過ごしていたのを感じますが,このような強化があったこともあり,少しでも,お酒を飲んだら車は乗らない,という「考え方」に変わってきたと思います。

こうやって法律が改正,変化されていくのを見ると,その当時は「正しい」規制とされていたものも,後には,良くなかったとされたり,さらに追加されたりして,何が「正しい」規制なのか,という「考え方」も時代によって変化していくのが,弁護士をしていると実感でき,「正しい」という感覚も絶対的ではないなと改めて思います。
それが,私は面白いな,と思っています。

私は,弁護士になった頃は飲酒運転をして事故を起こしてしまったとしても,逮捕されて家に帰れない,ということは無かった記憶ですが,近年は,そのようなことをすれば,すぐに逮捕され,当面は家に帰れないことが通常です。
事故を生じなかったとしても,逮捕され,その後の勾留(身柄拘束)もされている事案もあるようです。
生活が一変してしまった方のお話もお聞きしますので,本当に安易に飲酒運転はされないよう注意して欲しいと思います。

時代の変化,社会の変化,実際の不都合や痛ましい事件を経て,法律もそれに適合するように変化していきます。
それが,より安心で安全な社会を作っていくために必要なものだと思うと,法律に関わる仕事が出来ることにやりがいを感じます。

やはり,最も大切なことは,自転車事故を発生させないように交通ルールを遵守することだと思います。
法律のこと,違反した場合の処罰のことなどを知っておくことで,その意識も高まり,被害の回避が出来る可能性が上がります。
そして,知っておくことで,防ぐことが法律違反,防ぐこと出来る事故,避けられる損害賠償の負担もあります。

私自身は,現在は刑事事件の対応はしていませんが,刑事的にも,民事的にも,大きな責任を伴う「交通事故」に関すること,その法律「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!