多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

子供を持つと夫婦に何が起こるか~赤ちゃんの誕生は,夫婦を引き離す?家裁調査官が教えてくれた夫婦・家事紛争を理解するために必要なこと

子供を持つと夫婦に何が起こるか~赤ちゃんの誕生は,夫婦を引き離す?家裁調査官が教えてくれた夫婦・家事紛争を理解するために必要なこと

いつも読んでいただき,ありがとうございます!
今回は,力を入れている研究テーマ「夫婦円満のためのスキル」「夫婦関係が破綻する理由」についてです。
「子供をもつと夫婦に何が起こるか」(ジェイ・ベルスキー,ジョン・ケリー共著)を読みましたので,
子供を持つと夫婦にどのような危機が訪れやすいのか,をシェアします。

この内容を知っておくことで,これから結婚するカップルの方,
すでに結婚していて,子どもさんを持つことになった方には,
何に気を付けたら,子どもが生まれることによる夫婦の危機を乗り越えられるのか,のヒントが分かります。

また,私たち弁護士や調停委員さんのように,離婚などの夫婦関係の調整に関わる者が
離婚調停などで,どのような技術を磨き,どのような点を意識して聞くと当事者の悩みを理解できるのか,

そして,どのような「話す内容」に力を入れて話していくと,裁判所に紛争の背景を説得的に説明できるのか,
どのような実践をすれば,夫婦関係の悪化を避け,修復することができるのか,のヒントが分かります。

今回読んだ書籍は,以前にこちらでご紹介した元家庭裁判所調査官,飯田邦男元家裁調査官が
「夫婦や家事紛争を理解する上で大変有益で参考になる本」として紹介して下さった書籍です。

この書籍では,子どもが生まれると夫婦間に危機が訪れたり,夫婦関係が破綻してしまう理由等が,数百組の夫婦の実態調査から明らかに
されています。子どもを持つことは幸せばかりでなく,ある意味夫婦の危機を招くことが説得力をもって述べられています・・・

この書籍はアメリカでの夫婦に関する調査をもとにしているのだけれど,
そこでも「既婚カップルの2組のうち1組は,子どもが生まれてから結婚生活が悪化する」としている。

確かに「子はかすがい」というけれど・・・
振返ってみれば,私が相談を受けている事案は,子どもが生まれてから夫婦関係が悪化した事案がとてもとても多い・・・

妻が出産のために実家に帰ってから,戻ってこず,そのまま別居,離婚調停・・という事案も少なくない。

「あんなに仲が良かったのに,なぜ?」

これは,そういう事案で,よく夫側から受ける疑問。

この本には,その理由が書かれていた・・・

もっと早くにみんなが知っていれば,乗り越えることも出来たかもしれない・・・
若い夫婦,これから結婚する人にもぜひ知って欲しい!と思いましたので,お伝えしたいと思います。子供が生まれるとなぜ,夫婦に危機が訪れやすいのか?
子供が生まれたときに起こる夫婦の危機を乗り越えるための6つのスキルは?
夫婦円満であるため,夫婦関係の修復をするため夫,妻がそれぞれやってはいけないこととは?

をお伝えします♪

1 子の誕生が夫婦の危機になる理由

子の誕生が,夫婦の危機になり得る理由の1番大きいもの・・・

それは,子が生まれることで,夫と妻,男と女の「違い」を知らされるから。

・・「子どもは,それまでは本人たちさえ気づかなかった違いを明らかにし」「男女の根本的な違い」を際立たせる。

似た者同士だと思っている夫婦でさえ,親になってみると,
それぞれの優先順位や必要とするものがあまりにもかけ離れているのを知って愕然とする,

愛し合っていても,全く同じ「価値観」や「感情」をもっていることはないし,
人生について全く同じ味方をしていることはない。

こうした個人的な違いを子どもの誕生ほど浮き彫りにするものはない・・・。

例えば,共働きの夫婦であれば,夫,妻の仕事のどちらが大切か・・という問題を子供が生まれる前はあえて考えなくてもよかったけれど,
子どもが生まれれば,その面倒を見るためにどちらかの仕事を調整しなければいけない。課題に直面化する・・・

専業主婦の家庭であったとしても,出産後の女性,妻は精神的,肉体的に弱り,
初めての体験である子育てへの不安,自信のなさ,体形の変化などに直面化する。

データによれば,父親は子どもが生まれてからの落ち込みは殆どないのに対し,
新しい母親は産後1年間そのストレスは増え続ける・・・

なので,専業主婦であったとしても,これまでは意識してこなかった夫と妻の違い,
男と女の生物学的違いに気づいて,そのストレス,不安を解消するために助けてほしい,と望むようになる。

つまり,これまでは「あいまい」なままでも何となく衝突せずに過ごせてきた夫婦であっても,
子供が生まれることで,子どもを誰が世話するのか,どのように育てていきたいのか,という避けられない問題に出会い,
そのためにお互いに仕事,相手への精神的なサポートをどうしたいのか,どうして欲しいのか,調整すべき課題に直面化する。

そこで,うまく調整できないと・・・
「こんな人とは思わなかった」となり,夫婦関係が悪化する。。。

みなさんは,子供が生まれることが夫婦の危機になることを知っていましたか?
それは,子どもが生まれることによってお互いの「違い」に気づき,調整することが難しい課題に直面するから,と知っていましたか?

2 子供が生まれたときの危機を乗り越える6つのスキル

夫婦の違いがはっきりすることから夫婦の危機が訪れるので・・
これを乗り越えるためには,その違いを調整するスキルが必要になる。

具体的には,以下の6つの特性,スキルを磨く必要があるようです。

①個人的な目標や欲求を放棄して,2人がチームとして一緒に働く
②家事分担や仕事についての不一致を双方の納得いくやり方で解決する
③ストレスを処理するのに,配偶者や結婚を過度の重圧にさらさない方法で行う
④けんかするときは建設的に。互いの優先順位が異なっても,共通の興味を維持する
⑤子供が生まれた後,どれほど結婚自体が良くなっても,それは子どもが生まれる前と同じではないことを知る
⑥結婚を育てるようなコミュニケーションの仕方を維持する

このスキル,特性を身に着け,磨くためには,6つの資質が影響する。それは,

①自己=カップルが2人の個別の自己を「私たち」に合体させる能力
②性イデオロギー=男性,女性はどうあるべきか,どうふるまうべきかという個人的な信念
③情緒傾向=ストレスに対するもろさを左右する人格的特性
④期待=子どもが結婚生活にどのような影響を与えると考えていたか
⑤コミュニケーション=子どもが生まれてからも会話を続けることが出来るか
⑥摩擦管理=以前は見逃していた違いをうまく処理する能力

細かくは書ききれないのですが・・

ひと言でいうと,相手の価値観の違いを理解し,それを会話,
コミュニケーションを通じて解消していく能力とスキルが必要なのかな,
と改めて実感しました。

「夫婦円満のための○○の力!」でも書きましたが,All About社が行ったアンケート「夫婦円満の秘訣」ベストワンは,
「会話」です。

6つの資質のうち②性イデオロギーも,どのような考え方が正しい,というわけではなくて,
仕事は夫,家事,育児は妻が負担すべき,というような「伝統的」な考え方,
男性も女性も仕事,家事,育児を平等に負担すべきと考える「平等型」が夫,妻で一致している方が危機を乗り越えやすい,とか。

確かに,子どもが生まれるまではその違いがあいまいなまま過ぎることも多いけれど,

子供が生まれると妻の親と接触する機会も増え,その家庭環境から培われてきた男女の役割分担の考え方の違いに気づくことも多いな・・と色々な相談事案を見ていて実感します。

みなさんは,夫婦の役割分担,どうあると自分にとって快適なのか,幸せなのか,考えたことがありますか?
相互にしてもらいたいこと,何を大切にしているかを子供が生まれる前にあらかじめ話し合い,生まれた後もその話し合いを続けると,上手く夫婦の危機を乗り越えることが出来るようです!

 

3 夫婦円満・関係修復のためにやってはいけないこと  

・・この本を読むと,ああ,色々なところに相手(夫,妻)を怒らせる地雷が落ちている・・と実感をしたのですが,
特に普段の相談の中から,なるほど,確かにこれは夫婦関係悪化の原因として多い!と実感したことを2つご紹介します。

夫側にとって・・・

「私は家事をやっています」と言われる。

しかし,妻(母)は,自分に必要な援助がなされていないと感じるギャップ。

その理由は,男性と女性は別々の物差しで測っているから,とのこと。

妻は,夫の仕事量を測るのに「自分」の仕事量を基準に考える。
自分がしていることに比べれば,男性がしていることはずっと少ないので,面白くなく,不満を抱く。

一方男性は自分の家事に対する貢献度を「自分の父親」と比較する。
それに比べたら,自分はずっとしているのだから・・と満足しているので,妻の不満は納得できない。

夫が自分の親に「俺は家事をやっているのに,妻は不満ばかり言ってもっと家事をさせようとする」・・とでもいえば,
「こんなにうちの息子は頑張ってやっているのに,行き届かない嫁だ」といわれてしまうことも。

これを知ると,夫としては,夫婦円満・関係修復のためにやってはいけないことは・・
「自分の父親と比較する」「自分の両親の役割分担と比較する」ということかな,と思います。

お父さんとお母さんの役割分担に関する「考え方」「性イデオロギー」はそれで良かったのかもしれないけれど,
今目の前の妻が求めている役割分担は何なのか・・・を考えることが夫婦関係を悪化させないために大事なようです。

妻側にとっては・・・

1つは夫の↑のような気持ちを理解してあげること,が重要なようです。

男性は,自分の父親よりはずっと頑張っているのだから感謝されて当然と思っているのに,妻から感謝の言葉はない。

そのうえ,女性は産前産後と生物として子どもに密接にかかわらないといけない時間を過ごしているから,夫の育児に対して批判的になりやすく,
そのつもりもないのに,夫を遠ざけてしまうことがある。

オムツ替え,入浴,着替えなどについて妻から批判されれば,自尊心を傷つけられ,
子育てに関わる一番安全な方法は近寄らないことだ,と夫は結論付けてしまう。

だから・・・
妻として,夫婦円満・関係修復のためにやってはいけないことは・・
「自分レベルの家事・育児のクオリティを求めないこと」「やってくれたことに対して批判しない」ということかな,と思います。

その不十分さに不満があったとしても・・・
おおらかにみつめ,出来ていることに「感謝」を伝えていくことが大事なようです。

そしてもう一つ。子供が生まれることで夫が孤立していく原因・・

「母親が赤ん坊に没頭してしまうこと。」

子供が生まれてから,自分に向けられる妻の関心,愛情の少なさに呆然とする夫は多い。

夫の仕事,趣味,興味,性的欲望に対して以前よりもずっと少ない関心しか示してくれない,と夫は不満を述べている。

さらに子どもが生まれることで,妻の母親,姉妹,女性の親せきや友人などが妻を取り巻いていく。
彼女らには,男性が持っていない育児技術がある。子供が生まれることで,こうした人たちとのかかわりの重要性が高くなると,
夫は脇に押しやられ,価値がないように感じさせられる。

ミネソタ大学の研究によると,義理の家族との関係は新しい母親の不満上位5位に入らないが,新しい父親にとっては第1位・・

・・確かに出産後は自分の実家に帰ることも多くて,私自身も母を頼りにするところが大きかったな・・と思いますが,
ここで母が私の夫に直接「娘のためにこうして欲しい」などというと,もめそうだな・・・と思います。
何と言っても,育ってきた環境,価値観が違いますから・・・その調整は本人である妻,夫の間でするしかないかな,と思います。

なので,子どもファーストになるのは,ある意味母親にとっては,当然なことなのだけれど,
だからこそ,意識的に夫自身にも興味を持つ,孤立しないように夫を「私たち」の仲間にいれること,が大事なようです。

妻側の不満で,夫が子どもが生まれたのにもかかわらず,ゴルフ,筋トレ,魚釣りなど自分の趣味を今までと同じように続けて,
子供に興味を持ってくれない・・というのがありますが,

これは,夫側が関わっていくための努力をしなければいけないことと同時に,妻側もどうしたら夫が孤立せず,
自分と共通の興味となり得る子供について関わってくれるのか,そのために夫の尊厳を傷つけず,夫が子育てにどう関われそうか,考えることも大事なようですね。

相談を受けていると,旦那さんは,子どもが生まれようが生まれなかろうが・・
多くの事案で仕事をしている自分について,価値を認めてほしい,感謝して欲しい,という思いが強く,
自分のことを大事にして欲しい・・と思っているのを感じます。

みなさんは,誰と比較して夫,妻の行動をジャッジしていますか?
その基準を変えたとしたら,見えてくるものは違いますか?
自分の親や同性同士の考え方,価値観と相手方の考え方が違うこと,相手の親が介入してくることが負担になっていることを知っていますか?

まとめ 「私」よりも「私たち」

子供が生まれると,夫婦関係は危機にさらされる・・というのは,聞けば納得なのだけれど,改めて知ってびっくりした。

本当に,結婚する多くの方に知っていてほしい,と思った。

一方で,この著者の調査によると,子どもが生まれてから夫婦関係が「向上」する,という結果になった場合もあった。

関係が悪化する夫婦の多い中,関係が「向上」出来た夫婦がしていたことは??

それは,

「私」よりも「私たち」を優先すること。

これは,自分よりも相手を優先する,ということとは少し違う気がします・・・

自分自身の幸せのために,相手の大事にするものに自分の大切な一部を差し出せるかどうか。

仕事でバリバリ活躍したい,と思っていても,家族との時間を大切にしたいと思う相手のために,自分の大切な一部(仕事に捧げる時間と熱意)を差し出せるか・・

仕事で頑張りたい,と思う相手のために,自分自身の仕事や家族との時間という自分の大切な一部(家族や自分の仕事に捧げる時間と熱意)を差し出せるか・・・

双方が「私」を優先するのではなく,「私たち」にとっての幸せのために差し出してくれるものがあれば,
相手も同じように差し出してくれる・・

そして,子どもが産まれたときに
これが出来るかどうかのポイントは,「子供が生まれる前の関係性」にある。

子供が生まれる前に,満足のいく愛情に満ち溢れた関係にあれば,夫と妻は互いの違いを乗り越えようと努力する。

それは,この人といることが自分にとって幸せだ,と感じているから,課題が生じても,簡単には失いたくない,と思うから。

子供が生まれる前にこの「基盤」を育てておかないと,
子供が生まれることによって,急速に「私」と「あなた」に分離してしまって,隙間を埋められなくなってしまいます・・

・・・・

夫もこの本を読んでくれた。嬉しかった。

そして,「これまでお母さん(私)ばかりに譲らせてしまってごめんね」
「ちゃんと話を聞かなくてごめんね」(というようなこと)を言ってくれた。

おお!妻がこれまでの生活をどれくらい変えたかが「見える化」すると,見方変わるんだね!
そして,私がぶちぶち文句を言う,話合いという名の「ケンカ」(笑)をすることを避けたいと思っていたみたいだけど,
話し合うことで,双方の価値観を知って,譲り合いながら,調整しているという「価値」が分かってくれたに違いない!

喧嘩って,その時は本当に嫌で,男性は特に避けたい,逃げたいと思うもののようなのだけれど・・・
喧嘩を避けて,不満があっても黙って我慢していたら・・・
女性は,男性のように論理的に説明することが難しいと感じているケースも多いから,うまく話せなくて,男性から論破されてしまうと,
そのうち不満があっても言わないようになって,心の中に貯めこんでしまう・・・

そして,いつか不満は大きくなって,壊れてしまう。

私は,弁護士として働いていることもあって,「性イデオロギー」的には基本的に家事,育児の分担も平等を求めていると思う。
でも,日本でそれを求めるのは,とてもとても難しい・・し,私の方が子育ては得意なところも多いかな,と思ってる(笑)

だから,育児は私の方が負担が多少大きくても仕方ないと思ってる。
旦那が仕事を真剣にやっている姿は好きだし,尊敬もしてる。勉強し続ける姿,細かいところまで調べ切る能力,なども優れている,と思ってる(のろけた)

そう思えるのも,私が大事にしていることの1つである私が弁護士として働き続けることを基本的には応援してくれていると感じるし,
そのために,自分なりに仕事の時間を調整してくれてるのも分かるから。

子供が生まれる前に旦那が私にどんな「価値」を感じていたかは分からないけど・・
私は,子どもが生まれる前から,旦那と一緒にいることで自分だけでは行かない場所に行ったり,知らない知識を得たりして,
精神的にも豊かになれるという「価値」を感じていたと思う。

女性側も,単に夫を責める「ケンカ」でなくて,6つの特性にもある「建設的な」ケンカ,
より良い関係を築くという「目的」を持って,コミュケーションを取ることが大事かな,と思った。

言うは易し,で実際には「感情」が揺さぶられるから難しい・・と日々思いますが。

みなさんは,「私」よりも「私たち」の幸せのために差し出しているものはありますか?
自分の大切な一部を差し出してもいい,相手の「価値」は感じていますか?

これは・・・仕事をチームで行う場合にも同じかな,と思った・・

それでは,このブログが読んで下さったみなさまにとって,子供が生まれたときに夫婦関係を悪化させず,うまく乗り越えるためのヒントとなりますように。
そして,夫婦関係の紛争に関わる方にとって,なぜ紛争が生じてしまうのかを理解し,調整するためにはどのような視点が必要なのか,を考えるヒントとなりますように。

家庭生活の平穏は,仕事で力を発揮することに直結すると感じています!
そして,チームを形成する力は,仕事上も必ず必要なスキル,これからはより必要とされるスキルだと思うので,まずは最小単位である家族,夫,妻をチームとして上手く動かしていくスキルも大事なはず!
なので,仕事で成果を出すため,顧問先企業をサポートするためにも,この夫婦関係を円満にするための研究を続けていきたいと思います!

これからも,夫婦が存続するために大切なこと,大事なスキル,磨いていきます!!
今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!