裁判所が判断基準にする7つの価値

いつも読んでいただき,ありがとうございます!
今回は,力を入れている研究テーマ「離婚調停の技術・実践法」です。
「離婚調停の技術」「こころをつなぐ離婚調停の実践」「離婚調停」を読みましたので,
そこから裁判所が重視している価値基準・技術・実践法のコツをシェアしたいと思います。

この内容を知っておくことで,離婚調停で,どのような技術を磨き,
どのような「話す内容」に力を入れて話せば,裁判所の価値観と一致して評価してもらいやすいのか,
どのような実践をすれば,調停委員や調査官,裁判官など裁判所の心を動かせるのか,のヒントが分かります。

今回読んだ書籍は,元家庭裁判所調査官,元家庭裁判所裁判官の書いた書籍です。
そのため,紛争がどうしても,当事者だけでは解決できない場合に解決に導く「裁判所」
では,何を大切にしており,どんな判断基準で,どんな技術を重視しているかが,内部者の意見としてとても参考になりました。

私たちは,誰かと争いになるとき,どちらも自分が正しい,という気持ちを持ちます。
何が正しいのか,の判断は人によって違いますが・・
解決できない場合には,裁判所では,どんな判断基準で最終的に判断されるのか?
何を重視して,決められるのでしょうか?

これを知っておくことで,裁判所の力を借りなくとも,
自分たちだけ解決するための助けになる!とも思います。

家庭問題の解決のため,裁判所が判断基準とする7つの価値は?
裁判ではなく,話合いの場である「離婚調停」で重視されている考え方は?
調停と裁判ではなぜ,異なる技術が必要なのか?
離婚調停で具体的に裁判所が必要と考えているスキルとは?


をお伝えします♪

 

1 家庭裁判所7つの判断基準

家庭裁判所は,法的解決機関である「裁判所」の一つです。
そのため,裁判所全体に共通する法的な考え方が共通の判断基準になっています。
しかし,特に「家庭」問題にかかわるために,意識して重視している判断基準がありますので,ご紹介します。

「離婚調停の技術」(飯田邦男元家裁調査官著)から。

~家事調停の基盤にある価値~

① ソーシャルワークの価値
ア 個人の尊厳の保持
イ 社会正義

② 憲法の精神
ア 個人の尊厳
イ 両性の本質的平等

③ 家事調停の価値
ア 家庭の平和
イ 健全な親族共同生活の維持
ウ 子の最善の利益

著者は,家事調停も,司法の一作用として行われている以上,当然「社会正義」を目指していかなければならない,とし,
その中で,「家事調停」という特殊性を考えた場合に,以上のような価値を重視して進めていくことを考えています。


細かい説明は書ききれないのですが,例えば,専業主婦出会った妻が働き始めることによって,
家事に手が回らなくなってきた場合,妻は責められるべきなのか・・・?

夫婦間で,当初家事の役割分担の取り決めがあった場合,
妻が働くようになって,その分担の変更を望んでも,夫が拒否したら認められないのか・・・?
その結果,夫婦関係が悪化したら,夫,妻のどちらの責任となるのか・・?

話合いで決まらない場合には,どのように判断すべきかを知っておくと,1つの解決方法となると思います。
この場合,家庭裁判所は「両性の本質的平等」を価値判断としていますので,そのような基準で考えるとどうなっていきそうか・・・と考えるのがヒントとなります。


夫と妻で合意が出来ているのであれば,どのような合意,役割分担でも構わないのです。
でも,もし合意が出来なくなったら・・・何を基準に裁判所は判断するのでしょうか?
知っておくことで,自分の考え方,基準を振り返るきっかけになると思います~

みなさんは,どんな基準に基づいて,家庭での問題について話合いをしていますか?
自分の思う「基準」が相手の思う「基準」とずれているとき,「裁判所が考える基準」とどう違うのか,弁護士などの第三者に確認したことはありますか?

 

2 離婚調停で裁判と異なる考え方・スキル


離婚調停も,司法の一作用という意味では,裁判と共通す考え方「社会正義」に基づく解決を目指すのが大切になります。
一方で,調停は裁判と異なり,裁判官が決めてしまう手続きではなく,当事者が話合いによって解決する手続きです。
また,「家庭」という問題にかかわるため,主にお金の問題である民事事件とは異なる特性があります。

そのため,裁判とは違って,裁判所が考える重要な考え方,必要とされるスキルがあることが改めて分かりました。

「離婚調停」(秋武憲一元裁判官著)より

「他の法的紛争の多くが偶発的で1回限りであることが多いのに対し,家族に関する紛争は,通常,家族関係という特別な世界の中で長期間にわたって形成されたもの」

それゆえに,紛争の背後に感情的な対立もあり,究極のプライバシーとして他人に知られたくない,という面が強い,
そのため,非公開で,精神的にも経済的に安定した家庭を営むための制度として「家事調停制度」がある,とされます。

そして,裁判所が関与するけれど,当事者が「自主的方法で紛争解決をする制度」であることが裁判との違いだと言っています。


離婚の場合,話合いでの解決は無理だから,すぐに裁判をしたい!と思っても,実は,いきなり裁判をすることはできません。
裁判所は,「家庭の平和と健全な親族共同生活の維持」を図るという目的から,まずはいきなり公開法廷で争わせることはせず,
自主的に解決するための家事調停を先に必ずしなければならない,としています(調停前置主義,と言います)

そのため,離婚調停では,司法的機能の他に,当事者である家族個々の幸せを追求する機能≒福祉的機能が重視されていると,
「離婚調停の技術」の著者である元家裁調査官飯田さんも言っています。

つまり!
調停は,自分たちで「決める」点が裁判と異なるポイントとなり,
話合いで決めるために,お互いの心を動かす力,
そして,相互の幸せとは何かを求めていく力≒スキルを磨く必要がある!と言えますね。

やっぱり,私も裁判ではなく,離婚後も子どものことなどで関わる可能性もある夫婦関係のことは,
できるだけ話合いで解決できるのが望ましいと思います。
裁判所も,離婚調停をそのような自主的な解決の場として重視している,自主的な解決のために幸せとは何かを求めていく力を重視しているのですね!

みなさんは,自主的に紛争を解決するために,どんなスキルを学んでいますか?
みなさんにとっての幸せ,相手にとっての幸せは何か,考えたことはありますか?

 


3 離婚調停で必要とされる具体的なスキル

離婚に関する概念的な説明,弁護士向けの裁判例の解説などは,従来からありましたが,
離婚調停という分野で実践的な技術について,裁判所内部から詳しく,かつ分かりやすく書かれたものはあまりなかった。

その中で,今回の書籍「離婚調停の技術」「こころをつなぐ離婚調停の実践」では,
一般の方にはややまだ難しいと思うのですが・・・弁護士,調停委員など専門家として離婚調停に関わるものには,すぐに実践的に使えるよう分かりやすく書かれていました。

驚いたのは,裁判所といういわばお堅い機関でも,
今ちまたでは重視されている「コミュニケーション」のスキル,交渉術を重視して,研究しているという点です。

例えば,私もブログの中でとりあげていますが,
「ハーバード流交渉術」も世界的のADRでは交渉の基本理論となっていて,日本の家事調停でもその方向に向かうのは避けられない,としています。


なので,やはり,今後ますます心を動かす「交渉術」,原則に立脚した解決手法のスキルが必要とされる,と言えそうです。

また,日本人に対して調査した結果から,日本人は言語8%,声などの周辺言語32%,顔の表情60%で感情を受け止め,いずれも感情を伝えるのに一番大きな役割を果たしているのが顔の表情であり,顔の表情を構成する要素はアイコンタクトとスマイルである,との説明もあります。
まなざし,姿勢,身振り,服装などの非言語コミュニケーションの重要性やタバコ臭などの悪影響も指摘しています。

(有名なメラビアンの公式 対面コミュニケーションで影響を与える割合 言語内容7% 音声38% 表情・視線・身体の動き・外観など55%への言及もあります)


なので,話を聞く側である調停委員に「顔の表情」を意識すべき,としているのですが,
これは,調停の当事者として参加するご本人,そして,代理人である弁護士にも言えることだと改めて思いました。

「話す内容」「話す順序」も大切ですが,
どんな顔で話し,どんな声で話すのか,「話し方」のスキル,「見た目」を変えるスキルも必要だと改めて思いました。


みなさんは,見た目を磨くスキル,コミュニケーション能力を高めるスキル,磨いていますか?

 

まとめ 心と法的観点の複眼的視点


つい先日,男性医師の方が離婚問題で別の弁護士に依頼した際,
一弁護士はカウンセラーじゃない、という話をきき,孤独で心細いかった,という話を伺いました。

その医師の言葉の中にあった

病気の方は心も弱くなっている」
「心と身体とそれぞれを診る複眼的な視点が重要
という言葉を忘れずに患者様に当たっています。」
という言葉がとても印象に残りました。

私自身・・
もちろん弁護士としての専門知識も必要で,勉強も必要だと思っています。
そのため,今回のように裁判官や調査官など裁判所の職員が書かれた専門家向けの書籍も読んでいます。

けれど,それと同時に専門家でない一般の方が
どんな気持ちで相談に来ていて,どんな痛みを抱えているのかを常に意識できる弁護士でありたいと思っています。

そして,
今回の本を読んで,専門分野でもコミュニケーションなどの一般社会で必要とされるスキルが必要となってきている,
両者はどちらかだけがあればいいわけではなくて,両方が必須のスキルともいえる時代なのではないかな・・と改めて思っています。

お医者さんにも,手術などの専門技術はもちろんあってほしいですが,
「今日は何しに来たの?私に何してほしいの?」などと無表情で言われるよりは,
色々なことを尋ねやすくて,不安に思う私たちの気持ちに寄り添って,一緒に痛みを考えてもらえるお医者さんの方が安心してできると思います。


一緒に多治見ききょう法律事務所で働く弁護士やスタッフのみんなにも,そういう思いを伝えていきたい,と改めて思いました~

これからも,自分自身,専門知識だけでなく,痛みや感情が分かる弁護士としての力も磨いていきたいと思います。

 

それでは,このブログが読んで下さったみなさまにとって,裁判所の考える「価値」に気づき,自分たちで紛争を解決するためのヒントとなりますように。
そして,裁判とは違う離婚調停ならではの解決の良さを感じていただけますように。


一緒に「人間力」も磨いていきましょうね!!
今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!

 

 

この記事を書いた弁護士

木下貴子
木下貴子
岐阜県多治見市で初の女性弁護士となり19年目。
岐阜県立多治見病院など地元事業者の顧問弁護士を務め,法律のみならず経営に関するアドバイスも行っています。
個人のお客様には,離婚,相続,不動産案件を多く取扱っています。
著書「離婚調停は話し方で変わる」は,Amazonランキング「法律」部門ほか5部門で第1位を獲得。
相談は,親身,気軽,自分で決めるをモットーとしています。お気軽にご相談ください。

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