世界中のベストセラー:ハーバード流交渉術~イエスを言わせる方法~

いつも読んでいただき,ありがとうございます!
今回は,「弁護士の交渉術」続編です。
「ハーバード流交渉術」「新ハーバード流交渉術」を読みましたので,
そこから交渉のコツをシェアしたいと思います。

「弁護士」は,交渉がうまい,と思われています。
そのため,「弁護士の交渉術」というような書籍もあります。

確かに,弁護士は交渉が上手い,とも言えるのですが,実は,一般的な日本の弁護士の場合,その交渉の基礎が活かせるのは,以前「弁護士の交渉術」で書いた通り,裁判所を使った交渉に限られます。
なぜかというと,弁護士になるための試験では,「交渉」の科目はないからです。

しかし,裁判をして,お互い激しく傷つけある状況を見る中で・・・
私としては,出来れば裁判ではなく話合いで解決出来たら,
少なくとも調停までで解決出来たら,という思いがあります。

そんな中で,今,改めて話合いによる解決のために必要な「交渉術」を学んでいます。
今回は,交渉技術では日本よりもずっと先を行くアメリカのハーバード大学交渉学研究所の所長,弁護士事務所も開設している著者の書いた「ハーバード流交渉術」と,ハーバード・ネゴシエーション・プロジェクト責任者と精神医学部教授で心理学を専攻している著者との共著「新ハーバード流交渉術」の本より,

「駆け引き型交渉」の上を行く交渉方法とは?
相手の拒絶反応をなくす「話し方」とは?
感情の源である5つの核心的欲求とは?

をお伝えします♪

 

1 原則立脚型交渉

まずは,ハーバード流交渉術から。
「このりんごいくら?」
「おいしそうなリンゴでしょう?200円で譲るわ」
「そんなにふっかけたらだめよ。これへこんでるわ。50円ってとこね・・」
「本気で買うつもりがあるのなら勉強しますが,50円はひどすぎますよ・・・」

こういう売主,買主のように,双方が異なる「立場」で,正当性を主張し,状況によって多少の譲歩をして妥結する,というのがよくイメージされる「交渉」

しかし,著者は,これを「駆け引き型交渉」と呼び,本来目指すべきは,そうではなく「原則立脚型交渉」という。

「原則立脚型交渉」のポイントは4つ。
① 人・・人と問題を分離せよ
② 利害・・立場でなく利害に焦点を合わせよ
③ 選択肢・・行動について決定する前に多くの可能性を考え出せ
④ 基準・・基準はあくまでも客観的基準によるべきことを強調せよ

細かい説明は書ききれないので,その中で,今回は④を紹介します。

ただただ,頑固を貫き,妥協しない人が得をするということでは,妥協させられた者は不本意な結果と感じる。
そうではなくて,「市場価格,専門家の意見,慣習,法律」といった公平な基準によって結論を出す,という考え方が大切。

そうすると,当事者が勝手に自分はこうしたいとか,したくないとかいうのではなく,一方が他方に屈するということがなくてすむ。
勢いだけで相手を自分の言いなりにさせるのは難しいでしょうし,もし,そうさせたとしても,あとで言いなりにされたという屈辱感から不満が残って,紛争が再発しかねません。

しかし,双方が納得できる「公平の基準」を見つけ,これに基づいて解決していくとしたら,解決までの道のりも早そうですし,解決後の不満も減りそうです。

・・・その公平の基準に基づいて交渉するから「原則立脚型交渉」となるのかな,と思います。
「異なる」立場を基準にするのではなく,「共通する」原則に基づいて,交渉する・・という感じでしょうか。

先ほどの事例だと,この大きさ,この甘さ,このくらいの傷があるリンゴなら通常「市場価格」ではどれくらいか・・ということにもどついて,決めていく,というイメージでしょうか。

調停の場合ですと,やはり法律上どういう結論となりそうか,裁判になった場合の結果の予測を基準とすることが公平,と捉えられるかな,と思います。
弁護士は,この「公平の基準」に良く用いられる「法律」や「裁判所の判断」については詳しいので,原則立脚型交渉での交渉で力を発揮できるかな,と思いました。

みなさんは,どんな基準に基づいて,交渉していますか?
自分の思う「基準」が相手の思う「基準」とずれているとき,客観的に「公平な基準なのか」弁護士などの第三者に確認したことはありますか?

 

2 相手の拒絶反応をなくす「話し方」


引き続き,「ハーバード流交渉術」から。

「交渉で,人はよく相手の動機や意図をくどくど非難する」と言っています。
しかし,問題点を指摘するなら「相手が」どんな意図で何をしたかという指摘ではなく,「当方」は,問題をこういう風に感じたと表現した方が説得力がある,と言っています。

具体的には,
×「あなたは約束を破った」
〇「私は失望しました」

×「あなたは人種差別主義者だ」
〇「私たちは,差別待遇を受けている感じがします」

というような感じ。

相手に対し,「お前の信じていることは間違っている」と決めつければ,相手は怒り出すけれど,
「自分」としては,こう感じている,と言えば,相手もそれは嘘だとは言えない・・

そうすると,相手を怒らせて拒絶反応を招くことなく,同じことを相手に伝えることが出来る・・


これは,私も最近よく感じていることです。
弁護士のところにご相談に来られるケースでは,多くの場合,相手方に対しての憤りを持っています。
しかし,それをそのまま伝えても・・相手方としては,自分のことを「間違っている」と言われることで,感情を悪化させ,さらに「お前こそ間違っている・・・」となりがちです。

その結果,「誰が正しい」ということばかりが議論になってしまって,解決すべき交渉の本題について入っていくことさえできなくなってしまう・・

そうではなく,「自分」がどう感じたという「話し方」をするだけで,交渉の本題から話合いがずれてしまうことを防げるかな・・と改めて思いました。
誰でも,「お前は間違っている」と言われたら嫌ですもんね・・反発したくなりますよね?

私自身は,この世の中に絶対的に「正しいこと」はないかな・・と最近思っています。
ただ,一応,紛争や問題を解決するために必要なルールとして作ったのが法律で,その解釈をする裁判所の考え方が「公平」の一つの基準になっているだけかな,と思います。
なので,これを1でも話しているように「原則」として解決する手段にする方法は有効かな,と思います。

でも,ルール,公平の基準,法律そのものも,文化や時代によっても違ってきますもんね・・・

ましてや,自分の基準が絶対的に「正しい」と思って話すと,相手の反感をかうのかな,と思います。
よくご相談者から「普通」こうなのに,相手はおかしい・・と言われることも多いのですが,自分が思う「普通」は相手にとっては「普通」ではないことが多いことを実感しています。

だからこそ・・紛争がおこり,そのときの解決基準が必要になるのですね!


みなさんは,「YOU(あなたは~)」ではなく,「I(私は~)」から初めて交渉していますか?

 


3 5つの核心的な欲求が感情の源

世界中でベストセラーになった「ハーバード流交渉術」。
しかし,この本の批判の一つに「交渉でしばしば問題になる感情の問題について詳しく触れていない」という点があったとのこと。

この点をカバーしてるのが「新ハーバード流交渉術」。
そのため,本書は,ハーバード・ネゴシエーション・プロジェクトの責任者でウィリストン法学名誉教授だけでなく,共著者に臨床心理学博士であり「交渉」の心理学を専門とする著者が共著している。


著者によると,良くも悪くも,「交渉」では5つの核心的な欲求が原因で交渉中に多くの感情が生じる,という。

それは,

① 価値理解
② つながり
③ 自律性
④ ステータス
⑤ 役割

とのこと。

ここでは,④ステータスを紹介します。

あるベテラン看護師と若い医師の会話(概略)。

看護師「真夜中に異常な心音に気がつきました。集中治療室に移すことを,お考えいただけませんか?」
医師「患者の話では,朝は気分が良くなっている。ちょっと心音が乱れただけでは,あそこに送り込む理由にはならないよ・・」
看護師「しかし先生,ある程度の経過を見て判断しないと・・」
医師「私が患者を調べたし,診断もした。治療計画も決めたんだ・・いいからさっさと手続き書類を終わらせろ」

看護師は口をつぐんだ・・・
その後真夜中に患者は胸にひどい痛みを感じ,心停止に陥った・・


このような結果になったのは,看護師と医師が交渉をする際,「ステータス」に関する欲求に配慮しなかったから。


「ステータス」が自尊心を高め,周囲の自分を見る目を変える。
あの人には無視できない力がある,耳を傾けるべき意見を持ち,知っていて損のない重要人物である・・と誰でも思われたい。

ステータスは,訓練,業績,家柄,仕事,組織におけるポジションなどから生じる。
高いステータスを持つと,自分たちの言葉や行動に重みが生じる・・・

なので,自分のステータスを尊重してない,と感じたとき感情は悪化する。尊重されれば,感情は良好になる。
先ほどの看護師と医師の会話だと,双方が相手方の「ステータス」を軽んじているように伝わったため,双方の感情が悪化して,悲惨な結果となった。

もし,看護師が「その病院に20年以上も務め患者の症状を判断してきたこと」「当日,長時間患者と一緒に過ごしたことから日常の患者の状態を知っている」という自分自身の「ステータス」に気づけば,これを前提にひるむことなく,交渉を続けることが出来たかも。

医師は「医師資格をとり,賢く,有能である」という社会的ステータスがあるけれど,「特定の領域」においては看護師の方がステータスがある,と気づければ,もう少し意見を聞けたはず。

夫婦関係で考えるとどうなるかな・・
例えば,私が夫に対して,仕事での能力を評価し,職務上の地位にも敬意を払って話をし,感謝も伝えれば,夫も私の話を聞く気になり,夫婦関係はそれなりにうまくいくかもしれない・・
でも,「能無し。なにをやっても続かない」「私の方が弁護士として能力がある」などと言っていると・・悪化しそうですね。

同じ「ステータス」で競うと難しいので,「人はそれぞれ専門知識や経験に基づいて,異なる「特定の領域」で高いステータスを持っている,と認めることが大事なようです。

私たち夫婦なら,夫は料理の能力が高いけど,子どもの気持ちを汲み取って,話をすることなら私の方が能力は高い(はず,笑)とか・・?
弁護士同士でも,離婚,交通事故などの専門分野ごとのステータスのほか,母としての経験,妻としての経験などからくる他の人とは異なる「特定の領域」があることで「ステータス」は違いますね。

離婚調停に関するご相談でも,夫は大会社の役員で弁護士に知り合いもいて,口もうまいので・・と心配されることもあるのだけれど,それも「特定の領域」のステータスと気づけると,勇気が出るかな,と思います。
妻も料理や子育てや裁縫や,コミュニケーション,妻の仕事の専門分野など・・きっと夫とは違う「特定の領域」でのステータスがあるはず。

自分と相手の異なるステータスに気づき,それぞれを尊重する気持ちを持って話ができると感情が悪化せず,良好な交渉が出来そうです。

ポイントは,「まず相手の高いステータスを認めてから,自分のステータスを認めよう」とのこと。
事例の看護師さんも,もしかしたら,「私は医師として勉強したわけではないので,間違っているかもしれませんが,これまでの経験上・・・」と話したら違ったかも,と思いますね!


みなさんは,それぞれすべての人に「高いステータスがある」と認めて交渉していますか?

 

まとめ 交渉力の高い弁護士になるために


以前もお話ししましたが,私は,裁判官,調停委員など裁判所の方々を説得する能力はあると思っているけれど,
一般の方をどれだけ説得できるのか,心を動かせるのか・・については,以前は,あまり考えていなかった。

なぜかと言えば,以前は弁護士の仕事とは,裁判で相手方を論破し,勝訴判決を取ることだ,と思っていたから。

けれど,今は,その人の人生にとって,本当に幸せになる解決をしたい,と思っています。
人生の時間,精神的負担,金銭的負担も回避できるよう,そして,離婚の場合であれば,何よりも,間に入る子ども達の負担を少なくするためにも,裁判になる前に解決できるのであれば解決したい,と最近強く思います・・


そのためには,裁判所の人以外にも効果を発揮する「交渉力」,本当の意味での「交渉力」が必要だと実感して,日々勉強と実践をしています。

どんな「言葉」,どんな「態度」に人は心を動かすのか・・
それは,基本的なこと,共通するポイントもあると気づいたのと同時に,相手方によって,響く「言葉」「態度」は違うことも,今回も改めて実感しました。

「感情」に関して思ったのは,・・究極的にはやっぱり私たち人間は「自尊感情」を傷つけられたくない,ということです。
「感情」の源になる5つの核心的な欲求は,ほぼ,この「自尊心」に関わること。

自分で自分の感じる「価値」を理解してもらいたい,自分が相手や社会にとって必要な人間として「つながり」を持ちたい,
自分で「自律的に」物事は決めたい,自分の「ステータス」を評価してほしい,自分の「役割」を感じたい・・
どれも,自分を大切にしてほしい,大切にしたい・・という「自尊心」が形を変えて出てきているように思いました。

やっぱり,自分を大事にしてくれない相手の話を聞きたくはないから・・・
「交渉」もうまくいかなさそうですよね。

もめている相手,自分の「自尊心」を大事にしてくれていない,と感じている相手に対して・・・自尊心を傷つけないようにするのは難しいかもしれませんが,だからこそ,

先に「自尊心」を傷つけない・・・「交渉」で意識していきたいと思いました。


これからも,論理的なだけでなく,感情も動かす「話し方」も磨いていきたいと思います。

 

それでは,このブログが読んで下さったみなさまにとって,ますます「交渉力」を高めるためのヒントとなりますように。
そして,感情を悪化させてしまう「話し方」,感情を良好にする「話し方」の手助けになりますように。

子どものねだるお菓子を買ってあげるのかどうかも,夫婦の家事・育児の役割分担も,従業員や取引先との条件の話合いも・・

すべては「交渉」!交渉力が身に着けば,円滑に人間関係を築く大きな手助けになりそうです。


一緒に「交渉力」磨いていきましょうね!!
今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!

 

 

この記事を書いた弁護士

木下貴子
木下貴子
岐阜県多治見市で初の女性弁護士となり18年目。
岐阜県立多治見病院など地元事業者の顧問弁護士を務め,法律のみならず経営に関するアドバイスも行っています。
個人のお客様には,離婚,相続,不動産案件を多く取扱っています。
著書「離婚調停は話し方で変わる」は,Amazonランキング「法律」部門ほか5部門で第1位を獲得。
相談は,親身,気軽,自分で決めるをモットーとしています。お気軽にご相談ください。

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