多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

「資格」ではなく「人」で選ぶ時代というのは本当か~弁護士・司法書士・行政書士の違い

「資格」ではなく「人」で選ぶ時代というのは本当か~弁護士・司法書士・行政書士の違い

024突然ですが,今は「資格」ではなく「人」で選ぶ時代!という言葉を皆さんは聞いたことがありますか?

しかし!今こそ私は「人」でなく「資格」がなぜあるのか知るべきだ!という熱い思いで,地元ラジオ局の収録をしました(写真はナンを3枚食べてしまう男前なパーソナリティ藤本博子ちゃんと一緒に撮影。4月20日,27日に放送されます~)。

さて,冒頭の
「資格ではなく,人で選ぶ時代」という話。

私は,最近よく聞きます。特に周りの士業の方が,自分たちを選ぶ理由として話すときに。
そして,確かに,今は法律問題を抱えている人が,単に弁護士という「資格」をもっているから相談しよう,依頼しよう,と選ばれるわけではない。
「あの人」に頼みたいから,という理由で「司法書士」でも「行政書士」でも選んでいる気がする・・・と納得していました。

しかし!ふと,ある日,気づいたのです。
「人で選ぶ時代」と言っている「士業」は弁護士ではない,と。司法書士,行政書士さんたちだと・・・

弁護士は,「人で選ぶ時代」という論調にのる人はいない。
(私は「資格」ではなく,「価値」で選ぶ時代,という気持ちが強いので,危うく乗りかけていましたが・・・)

弁護士だけが「人で選ぶ時代」と言わないのは,
弁護士だけが,行政書士・司法書士と違って,何ひとつ制限無く,法律業務を行える仕事・資格という誇り,意識があるからだった。

そして,弁護士しか出来ない業務を他の士業がすれば,弁護士法違反として,刑事的な処罰もされる。
そして,どうでもいいかも,だけど,弁護士だけが「法律事務所」という名前を使うことが許されるので,司法書士,行政書士の事務所では「法務事務所」となっているのです!(違いが比較的よくまとまっていると感じた弁護士のページ:http://www.tsuzuki-law.jp/difference.html

弁護士会は,増えた弁護士の業務を守るという意味でも,今,弁護士法違反の他士業の取り締まりを強化している・・・


けど。
私が問題だと思うのは,

なぜ,「弁護士」という資格があり,弁護士しか出来ない法律業務があるのか?
弁護士だからこそ,他の士業と違って,できる能力,ご相談者・ご依頼者にお役に立てることが,こんなに違うんです!
弁護士でない士業に相談すると,こんな失敗が考えられて危険です!

という「ご相談者・ご依頼者にとっての価値」が弁護士,弁護士会は伝えられていないことです・・・
だから,とにかく弁護士法違反の他士業を取り締まって,自分たちの仕事を守ろうとしているように見えてしまう。。。
・・・増えた弁護士の仕事に何となく,価値が下がったような,誇りを持てなくなってきている・・・

私は弁護士という仕事が大好きです。
弁護士という仕事に誇りを持っています。
夢を持って弁護士になった人が,今こそ「弁護士だからこそ出来ること」に気づいて,誇りを持って仕事をして欲しい!

・・・ということで,前振りが長くなりましたが,私の考える「弁護士」という資格の持つご依頼者,ご相談者の皆様にとって役に立つこと,その価値を伝えたいと思います


1 弁護士しか出来ないのは,あなたの権利を守るため
 

 医師法では,医療行為ができるのは,医師だけに限られています。
 本を読んだし,医者のそばで手術を見ていたから分かる!と言っても,医療行為が許されるわけではありません。

 これは,十分な知識と研修経験をして資格を取った医師で無い人が,医療行為をしたら,患者である皆さんの手術が失敗したりして,みなさんの身体に取り返しのつかない損害が出るからです.
 
 同じように,国家資格で,特定の資格者にしか業務を認められていないのは,そうしないと,皆さん自身の財産,身体,権利が取り返しのつかない危険にさらされるからなのです。
 弁護士は,「社会生活上の医師」と言ったりしますが,刑事処罰をしてまでも,弁護士以外に弁護士業務をさせないのは,そうしないと,みなさんの財産に関する権利,名誉に関する権利,など,権利が十分に守られず,損害が生じるからなのです。


 これが「カウンセラー」のように,資格が無くても行うことが許される仕事,とは違う大きなポイントです。
 なぜ,弁護士という資格があるのか,弁護士しか出来ない業務があるのか・・・

それは,結局はサービス(法律業務)を利用する皆さんの権利を守るためなのです・・・

 最近ですと,「まつげのエクステ」が美容師免許を持つ人のみ,許される,という指導が徹底されていますね。
 ・・・これは,美容知識がなく,無資格者が行う施術のために,健康被害が大きく問題とされてきたからです。
 
 という話を私が行っている美容院の美容師さんがしていました。
 詳しく聞きますと,私は知りませんでしたが,美容師さんは,人の肌に触れるとどんな問題が起きるのか,などといったことも美容医師資格を取る上で学んでいるようですね。

 弁護士も,司法試験で合格するために,徹底的に法律の解釈でどんな点が問題になったのか,裁判ではどんな結果となったのかを学びます。
 司法試験に合格後も,司法修習生として,どんな事実があったら,慰謝料請求権が発生するのか,一度発生したように見えた請求権が,どんな事実があると認められないのか(これを「要件事実」といいます),徹底的に教え込まれます。実務修習では,実際に弁護士,裁判所,検察官と一緒に業務を行います。その上で,2次試験に合格して,弁護士としての資格がもらえるのです。
 こういった「要件事実」を学んだうえで与えられる「資格」は弁護士だけなのです。

 


2 相手方がある業務は弁護士が得意

弁護士は,「要件事実」で「権利」がどのようなときに主張できるのかを徹底的に学んでいますが,それが役に立つのは,主に相手方がいる場合です。

 離婚の場合だと,相手方の夫,妻に対して,慰謝料,養育費,財産分与などどんな権利の主張が出来るのか,これ以上主張するのは難しいのか,を判断することが的確に出来る知識・経験・能力があるのは弁護士になります。

 
 離婚分野を手がけている行政書士さんも多いですが,紛争ばかりを取り扱っている弁護士と違い,行政書士さんは相手方のある事案≒紛争性のある事案に専門性はありません。
 まだ,合意が出来ていない段階で,「このように相手に交渉したらいい」ということを「有料」で行えば弁護士法違反ですし,権利,義務の発生する根拠を体系的に学んでいない行政書士さんに,そのアドバイスを求めるのは危険です。
 一方で,既に,夫婦間で合意できた離婚に関する取り決めを「公正証書」などの書面にする場合,代わりに文書を作って欲しい,ということは行政書士さんでも大きな問題はないでしょう。
 ただ,支払ってくれなかったときにどんな問題が起きそうかを行政書士さんが想像することは困難です。文言によっては,解釈に誤解が生じるものもあるのですが,紛争が生じた後に行政書士さんが関与してくれることはない(行政書士さんは書面作成は出来ますが,「代理人」となることは一切出来ません)ので,やはり,相手方のある事案では,一度は弁護士に相談した方がいいのではないかと思います。
 司法書士さんでは,私の周りではあまり離婚に取り組んでいる方を聞きませんが・・・「認定司法書士」さんであれば,一部ですが,紛争性のあるものについても一定の勉強をされ,知識があることになります。
 もっとも,離婚事件の訴額は160万円と計算されているため,司法書士さんが代理人として関与できる事件ではありません。離婚調停の代理人として調停に参加したり,裁判を代理人として行うことも出来ないので,業務としては限られてしまいます。
離婚事件で,弁護士よりも司法書士さんに相談した方が良い,ということをあまり思いつかないのが正直なところです。

 他には,「相続」の分野が,司法書士,行政書士ともに関与している分野だと思います。
 「相続」では,他にも税理士,土地家屋調査士,不動産鑑定士なども関与しています。
 その専門性,強み,どの士業にどんなことを依頼するといいのか,については,こちらに記載しました↓
 ・相続をどの専門家に相談したらいいか~生前の相談編
 ・相続をどの専門家に相談したらいいか~死後の相談編


 やはり,弁護士の専門性の基本,得意分野は「遺産分割」のように相手方がいる業務で発揮されます。
 「遺言書」の作成は,基本的には,相手方がいる事案では無いので,相続人が息子一人などで,揉める要素が少ないのであれば,税金,名義の移転などのことを考えて,弁護士に依頼するまでの必要が無いものもあると思います(遺言書の効果も,要件事実を満たして発生はするので,無効にならないよう法的知識は必要ですが)。


 相続の場合,不動産がある場合の登記手続きは,多くの弁護士は司法書士に依頼しますので,不動産がある場合の相続問題に関しては,司法書士さんの専門性が発揮される分野だと思います。
 逆に弁護士は,「法的分野を整理する」ことを専門,基本としているため,その他の「遺される方への気持ちの配慮」「身辺整理」については,勉強が及んでいないことも多いです。このあたりで,「エンディングノート」を行政書士さんが力を入れていることが多いと思います。
 

弁護士の「資格」は,相手方のある業務(紛争性のある業務)が得意であることを示しています。

 

3 「資格」=「言葉」は専門性を表す
 
 

「資格」をとることで「行政書士」「司法書士」「弁護士」という名称=「言葉」を使うことが許されます。
  私は,その内容を理解するには,「言葉」に注目すると良いと思います。
  
 「行政書士」さんは,その言葉の通り,主に行政庁(市役所)などに業務の許可申請をするための知識を学び,その分野が専門性を発揮できる資格です。
  弁護士は,全ての法律業務が出来るので,許可申請の書類作成も出来ますが,正直,得意ではありません。
  許可業務は,相手方のある紛争性のある仕事,ではないからですね・・・

  41girlsで私が一緒に活動をしている鈴木亜紀子行政書士と当事務所の田中弁護士が交通事故案件を協力して取り組んでいます。
  この場合も,公的機関に後遺障害の認定申請をする業務(紛争性の無い業務)を鈴木亜紀子行政書士がしてくれ,その後,慰謝料金額をいくらにするのか,過失割合はどうなのか,など交渉部分(相手方のある紛争性のある業務)を田中弁護士が担当しています。
  とても有り難いし,理想的な形だと思っています。
  
  「司法書士」さんは,「司法」と名前がついているとおり,司法機関(裁判所,検察庁,法務局)に提出する書類の作成をします。
  「手続きを代わって出来る」という点が,行政書士さんとは異なります。
  検察庁に出す書類を作成している司法書士さんは・・・あまりみたことはありませんが。
  
 どういう文言にしたら,土地の移転登記が出来るのか,移転登記のためにどんな書類がいるのか,などについては,基本的に弁護士よりも断然司法書士さんの方が知っています!移転登記の書類は,既に紛争が解決した後(合意後)に,必要となる書類だからです。


  一方,弁護士は,裁判所に提出する書類の作成は得意とするところです。裁判所に提出書類の殆どは権利,義務に関する紛争性のあることに関する書類だからです。
 相続放棄,成年後見開始申立などのように,相手方がいない書類であれば,司法書士さんでも多くの問題はなく作成できるかも知れません。
 ただ,申立後に代理人として裁判所からの問い合わせに応じたり,代理人として審尋(裁判所で話をすること)に立ち会ったり等が出来ません。相手方がいない事案であっても,「必要な事実」に基づいて後見開始もされるので,「要件事実」を学んだ裁判官にあれこれ,追加で書類を提出するように言われたりした場合,その対応能力には,やはり,限界があると思います。
  
 「行政書士」「司法書士」はいずれも「書士」とついているように,既に成立したこと,合意できている内容,決めたことについて,基本的には「書類を書く人」ということに専門性があると思います。

 一方「弁護士」は,「弁護をする人」という意味で,相談者,依頼者の側にたって,どのようにしたら,その方の権利が守れるのかを考え,その方のために代理人として「弁護」することが仕事です。

「決めたこと」ではなく,「どう決めるか」のお手伝いをする人です。

ご相談者,ご依頼者を弁護し,代わりに話すこと,手続きをすることに専門性があります。弁護士はそのために多くの書類も作成しますが,それは,弁護するための「手段のひとつ」なのです。そのため,双方の代理人になること,相談を受けることが固く禁じられているのです。

  なので,弁護士の資格は,「書類」を書くだけでなく,あなたの代わりに,あなたのために権利を守ることが得意であることを示しています。

 

まとめ

長くなりましたが,今回,こんな記事を書いたのは,めざめよ!弁護士!!(えらそうですが)と言いたかったからです。
本当のこと言って,過当競争にずっと前に入っている司法書士,行政書士(特に行政書士)さんの方が,自分たちの「価値」を伝えることはずっとうまい。

そこは,本当に見習うべきです。

私は,司法書士,行政書士のお友達(と思っていますが・・・)・パートナーも多いので,こんなこと書くと,嫌われるのではないかと心配になります。
でも,きっと,「価値」で売っている人ばかりだからそんなことは無い・・・と思ってます(笑)。

私は,弁護士が全ての法律業務が出来るからと言って,無謀に登記書類も全部自分で作成しようとか,許可申請を自分でやろうとか,考えません。
それぞれの専門性の高い分野で協力しあうことこそ,ご依頼者,ご相談者にとって一番大事なことだと思っています。

ただ,ご相談者,ご依頼者は,それぞれの士業が何が得意なのか,なぜ弁護士しか出来ない業務があるのか,分かって選べていないのでは,その危険性を知らないのでは・・・と思い,

あえて,時代の流れに逆行し!

「人(だけ)」ではなく,「資格」によって選ぶべき!とお伝えしました。


・・ということで,紛争性の高い,不倫慰謝料請求の内容証明文書は弁護士が作成すべし!と思っているので,理由を是非見て下さいね(宣伝,笑)


自分の権利を守りたい,今後どういう紛争になりそうか聞きたい,のはなく,まずは心を穏やかにしたい,気持ちを分かって欲しい,ということなら,私よりもカウンセリングの知識と自分自身の経験を持つ鈴木亜紀子行政書士の離婚相談の方がお薦めです。

自分が「相談すること」「依頼すること」によって,何を実現したいのか,何を手に入れたいのか,どんな気持ちになりたいのか・・・それを見極めて,適切な方を選んで下さいね♪

 

それでは今日は身近なルール・資格を振り返って,「なぜ,この規制はあるのか?」「なぜ,この資格があるのか」を考えてみる一日となりますように♪
また,長文でしたが,最後までありがとうございました~~