多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故被害に遭った場合~損害回復手続きの流れと事故現場で直ちにすべきこと

交通事故被害に遭った場合~損害回復手続きの流れと事故現場で直ちにすべきこと

いつも読んでいただきありがとうございます。今回は,交通事故に遭って被害を生じた場合の損害賠償請求の特徴,被害者保護の観点から,他の損害賠償請求とは異なる特徴がありますので,法律って,こうやって考えられて作られているんだ~という情報提供として「交通事故被害に遭った場合の被害回復手続きの流れと事故現場ですべきこと」「交通事故による損害賠償3つの特徴」について,お話します。
実際に交通事故に遭遇した場合には,予定通りの生活,仕事をすることが出来ず,支障が生じます。
これからどのように被害が回復されていくのか,流れも分からないことから,不安を感じてしまうことも,ご相談を受けていると多いと感じます。

しかし,交通事故では,実は,そういう被害者の方のために多くの裁判手続き上の配慮,損害賠償請求する上での配慮がありますので,それを予め知っていただくことで,少しでも実際に交通事故被害を受けたときの不安を解消していただけたらと思います。
また,交通事故の被害にあったら,まず何を確認すべきか,確認すべきものを知っておくことで,安心して後の手続きを進めることが出来ますので,その点についても知っておいてもらえたらと思います。

交通事故による被害回復,損害賠償請求のために,法律や裁判手続きでは,どのような配慮がされているのでしょうか。
交通事故による被害を受けた場合には,まず確認すべきことは何でしょうか?
3つお伝えします。

1 人身事故被害者の立証を簡単に

交通事故に遭った場合に相手の損害賠償をする法律上の根拠は不法行為(民法709条)が考えられます。
この条文の場合,相手に過失があったこと,損害賠償をする責任があることを,損害賠償請求をする被害者側が主張,立証しなければいけません。
これは,いくら被害が生じたとしても,相手にその被害発生の責任がないのであれば,損害賠償義務を負わない,という考え方です。

しかし,交通事故被害者保護の観点から昭和30年に制定された自賠法(自動車損害賠償保障法)3条によって,「人身事故」については,加害者が責任がないことを立証しなければいけないことになっています。

車を運転する以上,人を死傷させてしまう危険性があることを前提に,そのような事故による損害が生じた場合には,原則として加害者(運転者)に責任を負わせることで人身被害を受けた被害者を保護しよう,責任がないことを加害者側が立証しない限り,損害賠償をしてもらおう,という考え方,被害者保護,被害者の救済という考え方からです。

そのため,「物損被害」の場合には,加害者に過失(損害賠償責任)があったことを立証しなければいけない構造となっていますが,人身被害を生じた場合には,過失があったことを立証することなく,損害賠償請求が出来ることになっています。

なので!交通事故によって,怪我を負った場合には,100%こちらが悪くて生じた事故であることが明確な場合は,例外的に損害賠償を受けられないこともありますが,そうでない場合には,相手に過失があったかどうか,の立証は基本的には不要で,損害賠償を請求できるので,安心してもらえたらと思います。

2 保険の充実と初期確認の重要性

自賠法は,自動車の保険者を被保険者とする自賠責保険の加入を義務づけ,無保険車事故については政府が保障し,自賠法で最低限の保障が受けられることになっています。
その保障の範囲を越えるものについては,任意保険がカバーすることになります。

そのため,交通事故に遭った被害者としては,①加害者がどんな保険に加入しているか,の他に②人身障害補償保険など被害者自身がどんな保険に加入しているか
被害者および加害者が加入している保険内容を十分に確認しておく必要があります。

なので,事故に遭った場合には,加害者の連絡先と併せて,この点を確認していきましょう。

被害者が任意保険に加入している場合には,これらの確認は,任意保険会社が代わりにしていただけることも通常ですし,警察を呼んで,確認してもらえば,これに基づいて作成してもらえる「交通事故証明書」に記載もされますので,後にも確認は可能ではありますが,出来る限り,事故現場において,聞き取れると安心かなと思います。
警察への通報は,法律上の義務ですし,被害回復のために必要な諸情報の確認もしてもらえますから,必ず,警察には連絡をしましょう。
自動車検査証(車検証),自賠責保険証明書,任意保険会社が分かるもの,については写真を撮ったり,メモを取るなどして残しておきましょう。

3 過失相殺率・損害賠償額の基準がある

交通事故によって,損害を受けた場合,どれだけ賠償してもらえるのか,はそれぞれの事案によってどんな損害が生じたのか,によって違いますので,損害金額が争点となります。
被害者側にも過失があるのであれば,その分を差し引いて賠償されることになるので,ご自身の事案でどれだけ自分側の過失があったのか,ということも争点になります。

しかし,日々大量に発生してしまう交通事故において,個別にこの損害金額,過失の割合が争われてしまうと,早期の解決,早期の被害者救済が出来なくなってしまいます。
また,同じような類型の事故にも関わらず,裁判所によって大きく判断が異なってしまうと,被害者にとっては不公平感を感じます。

そのため,一般的な不法行為による損害賠償請求には,この過失割合,損害金額算定のための「基準」「相場」がないのですが,交通事故の場合には,これらの「基準」が詳細に作られています。

過失相殺の割合(どちらがどれだけ過失があるのか)については,裁判所は,東京地裁民事交通訴訟研究会編「判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」によって判断するのが一般的となっています。

また,交通事故による損害額については,損害賠償額の統一基準が作られていて,これに基づいて損害額を決めることが一般的となっています。

そうすることによって,一つ一つの事案全てを争って,被害者が裁判を提起しなくとも,加害者側もこの「基準」に従って解決を了解していくことで,早期の被害回復,救済に繋がっていると言えると思います。

もっとも,私の過失割合がこんなにあるのはおかしい,もっと低いはず,過失は全くないはず,と被害者の方から言われたり,損害額の算定方法についても納得できない,と言われることも少なくなくありません。

しかし,早期,公平の解決のために裁判所では,このような基準を採用しているので,実際には,これらの基準以外では,裁判外,裁判上,共に解決が難しいのが交通事故事案の特徴になります。(もちろん,例外的な理由を主張,立証することで裁判で異なる判断がされることはあり得ます)。

この点を知っておくと,なぜ,これだけしか損害を認めてくれないのだろうか?
なぜ,相手はこれだけしか過失を認めてくれないのだろうか?
保険会社の人はなぜ,このあたりで仕方がない,というのだろうか?などと,不審に思ったり,怒りを感じたりする心の負担が減るのではないかな,と思います。

まとめ 情報を知っておくことで負担軽減を

先日,私自身交通事故に遭遇したことで,改めて,交通事故に遭った場合の負担感や不安な気持ちを実感しました。
私の場合は,速やかに解決してもらえましたが,この事案だと過失割合はこのくらいになりそうだな,とか,
こういう流れで解決してもらえそうだな…と分かっていると,安心して待っていることが出来ます。

私の場合は,自分の保険会社の代理店の方が,とても親切で親身になってくださる方なので,途中経過の報告も何度もして下さって,安心感がありました。

交通事故のご相談を受けていると,この保険会社からの報告が少ないことによって,不安に感じる方も多いと感じておりますので,その場合には,遠慮なく,保険会社の方に状況を尋ねてもらえたらと思います。

相手の保険会社の対応や場合によってはご自身が加入している保険会社の対応にも不信感を持ってしまわれる場合もありますが,少しでも交通事故における被害回復の流れ,「基準」などを予め知っておくことで,安心感を持って,進めていただけたらなと思います。

弁護士費用特約によって,弁護士への相談料もご自身が加入する自動車保険で負担していただけそうな方であれば,今後どうなるのか不安な場合,保険会社の説明が良く分からない,納得できない,と思われる場合には,弁護士への相談を利用してみる,という方法もあると思います。

実際に交通事故に遭遇すると,車がつかえない,体が痛い,などで,とても大きな負担も感じられると思いますので…少しでも,心の負担を軽減するような準備,知識を得ておいていただけるといいかな,と思います。

交通事故が生じた場合に,実際にはどんなことが問題となり,どのように解決されていくのか,円滑に解決するために準備しておくと良いことは何なのか,を知っておくことで,心の負担を減らして被害の軽減をしたり,最適な回復が出来る可能性が上がります。
また,知っておくことで,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合にも,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!