多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

自転車運転事故による1億近い損害賠償責任,自転車運転者の義務

自転車運転事故による1億近い損害賠償責任,自転車運転者の義務

いつも読んでいただきありがとうございます。ほとんどの方が,自転車に乗られたことがあると思います。
また,自転車を運転していて,歩行者や自転車に衝突しそうになってヒヤリとされた経験もあるのではないでしょうか。

一般的には,自動車の運転に比べて,ルールの徹底が厳しくないイメージの「自転車」ですが,違反行為によっては,安全講習を受けることが義務となり,受講しないと罰金が定められているものあります。
また,お子さんが自転車運転をしていて,事故を起こしてしまった場合など,自転車運転者が加害者となってしまい,大きな損害賠償責任が発生してしまう事故もあります。

そこで,今回は,よく間違われがちな自転車運転者が遵守すべき交通ルールや,自転車運転者が加害者となってしまう事故について知っておくことで,出来るだけリスクを回避していただきたい,と思う点をご紹介します。

1 自転車の交通ルール

平成27年6月1日から施行された改正道路交通法により,一定の危険な違反行為をして2回以上摘発された自転車運転者(悪質自転車運転者)は,公安委員会の命令を受けてから3ヵ月以内の指定された期間内に講習を受けなければならないこととなっています。
当初は14の類型が定められましたが,その後追加され,現在は以下の15類型となっています。

  1. 信号機の信号等に従う義務(第7条)
  2. 通行の禁止等(第8条)
  3. 歩行者用道路を通行する車両の義務(第9条)歩行者に注意して徐行しなければならない
  4. 通行区分(第17条)右側通行など
  5. 軽車両の路側帯通行(第17条の2)歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行しなければならない
  6. 踏切の通過(第33条)遮断機閉鎖,警報機警報中の踏切内立入
  7. 交差点における他の車両等との関係等(第36条)優先道路及び幅員が明らかに広い道路を通行する車両等の優先の原則
  8. 交差点における他の車両等との関係等(第37条)交差点で右折する場合の直進又は左折車両等の進行妨害の禁止
  9. 環状交差点における他の車両等との関係等(第37条の2)
  10. 指定場所における一時停止(第43条)
  11. 普通自転車の歩道通行(第63条の4)歩道中央から車道寄り部分の徐行義務及び歩行者の通行の妨げとなる場合の一時停止義務
  12. 自転車の制動装置等(第63条の9)内閣府令で定める基準に適合する制動装置の備え付け義務
  13. 酒酔い運転等の禁止(第65条)
  14. 安全運転の義務(第70条)
  15. 妨害運転(第117条の2第6号,第117条の2の2第11号)他の車両等の通行を妨害する目的で著しい交通の危険や交通の危険のおそれを生じさせる行為

自転車は,道路交通法上「軽車両」とされています。そのため,基本的には自動車と同様のルールが適用されます。そして,勿論,定められた交通ルールを遵守して走行する必要があります。
しかし,自転車に運転免許制度があるわけでもないので,自転車の交通ルールを把握されていない方も多いのではないでしょうか。知らずに違反をしているのではないか,と思われる例を見てみましょう。

(1) 歩道のある道路の場合,自転車はどこを通行するべきでしょうか。

この点について,道路交通法によると,自転車運転者は,原則として,車道の左側に寄って通行しなければならないこととなっています。ただし①道路標識等で指定された場合,②運転者が児童(6歳以上13歳未満)・幼児(6歳未満)の場合,③運転者が70歳以上の高齢者の場合,④運転者が一定程度の身体の障害を有する場合,⑤車道又は交通の状況からみてやむを得ない場合は,自転車で歩道を通行することができるとされています。何だか,原則と例外が逆転してしまっていますね。

(2) 自転車で,車道の右側を通行した場合は,通行区分(右側通行)違反に問われることとなります。

違反者に対しては,3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金の罰則が設けられています。右側通行は,四輪自動車と正面衝突する危険があるとても危険な運転ですよね。自転車運転車は,軽車両を運転しているという自覚を持たなければなりません。

今でも時々,歩道を自転車が通行した上に,歩行者に対してベルを鳴らして道を空けるように促す様子を見ることがありますが,そもそも,歩道を通行できる例外的な場合に該当するのか,という問題もありますし,もし該当したとしても,法律上,自転車は歩行者の通行を妨げてはならないこととなっていますので,自転車の通行を優先させるためにベル(警音器)を使うことは,「車両等の運転者は,法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き,警音器を鳴らしてはならない」という法律違反になり得ますので,注意しましょう。

2 自転車交通事故による損害賠償責任

自転車を運転していて,歩行者や自転車と衝突するなどして交通事故の加害者となった場合には,民事上の損害賠償責任を負うことになります。
相手方の傷害の程度によっては相当高額の賠償を命じられる可能性があります。

自転車には運転免許制度がないため,知らないままに運転していることも多いと思いますが,知らなくとも,ルール違反があって事故による損害を与えてしまえば,損害賠償責任は免れません。
そのためにも,前記のようなルールがあることをまずは,自転車を運転する人も良く知ったうえで,意識して運転することが大切です。

また,民事上責任能力が認められない子供が起こしてしまった事故については,親権者が損害賠償義務を負うことがあるので,注意が必要です。

例えば,当時11歳の男児が,夜間に自転車で坂道を下っているとき,散歩中の62歳の女性と正面衝突し頭蓋骨骨折などの重症で意識が戻らない状態となった事故について,裁判所は,男児の前方不注意が本件事故の原因と認定した上で,親権者の指導や注意喚起が不足しており監督義務を果たしていないとして,将来の介護費や遺失利益,慰謝料,治療費など合計1億円弱の支払いを命じた裁判例があります。

3 自転車保険の重要性

自転車は,自動車と違って運転免許制度などはありませんし,小さな子どもでも運転できます。
そうすると,交通事故に対するリスクはかなり高いように思います。
子どもが自転車事故を起こした場合,親がその責任を負わなくてはならない可能性があることも自覚しなければなりません。

自動車の場合には,交通事故の発生を前提とした強制保険としての自賠責保険が存在します。
しかし,自転車については,そのような制度はありませんので,自転車運転者や,子ともを自転車に乗せている親としては,自ら自転車保険に加入するなどして備える必要があります。

弁護士木下の場合には,自分の加入する自動車の保険に付帯できる「個人賠償責任補償特約」で子供が自転車事故によって誰かにけがをさせてしまった場合に,無制限で賠償を支払ってもらえるようにしています。

インターネットで検索すると,現在,かなりの自転車保険商品があるので,未加入の方は,検討されると良いと思います。

当然のことですが,最も大切なことは,自転車事故を発生させないように交通ルールを遵守し,子どもに対する指導・監督を怠らないことであることは間違いありません。
知っておくことで,被害の回避,回復が出来る可能性が上がります。
そして,知って意識することで,防ぐことが出来る法律違反,防ぐこと出来る事故,避けられる損害賠償の負担もあります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。
それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!