多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

面会交流調停事件の新たな運営モデル(東京家庭裁判所面会交流プロジェクトチーム)

面会交流調停事件の新たな運営モデル(東京家庭裁判所面会交流プロジェクトチーム)

いつも読んでいただき,ありがとうございます。

突然ですが,みなさんは,裁判所が別居や離婚によって,離れて住むことになった親と子どもが会うこと(面会交流,と言います)について,どのように考え,何を大切にしているか知っていますか?

「面会交流」はさせるべき,と思っているのでしょうか・・?
思っているとしたら,それはなぜなのでしょうか・・?

最近,「面会交流」の取扱いについては,行き過ぎた運用がなされている,との認識があり,
ここのところ,裁判所では,プロジェクトチームを作って,運用の見直し,再確認をしています。

裁判所が大切にしている「考え方」,運用方針を知らないと,面会交流を求める側も,
面会交流を求められる側も,上手く裁判所のサポートを受けることが出来ず,
自分たちの話すことを理解してもらえないと感じて,苦しくなります・・・

そこで今回は,令和2年6月に「家庭の法と裁判」に掲載された,
裁判官,調査官で構成された東京家庭裁判所面会交流プロジェクトチームのお話から,現在の家庭裁判所で
面会交流調停で重視しているポイントについてお伝えしたいと思います。

離れて住む親(父親,母親の両方)と会うことが,子どもにとってどのような良い影響,悪い影響があるのか・・
別居や離婚に関係なく,一般的な子育てにも関係あることですので,その意味でも参考にしていただけたらと思います!

両方の親と会うことは,子どもにとってどのように良い影響があるのか?
そのために,これまでどのような面会交流調停の運用がなされてきたのか?
これからは,どんなことを重視して面会交流の運用をしていくのか?

印象に残った「面会交流調停」の取扱いについて3つお伝えします。

1 面会交流の意義

一緒に暮らせなくて別居する・・・
ものすごく嫌いになったから離婚する・・

そういう相手に自分の大切なことなぜ会わせないといけないのか?
「あんな人」に会わせたら,悪い影響がある・・
自分の友人も離婚後全く,子どもとお父さんは会わせていない・・

だから,私も離婚したら会わせる気はないです,と言われることは少なくありません。

しかし,この点,裁判所はどのように考えているのでしょうか・・?

この点,東京家裁のプロジェクトチームでのお話に再度,裁判所の「考え方」が記載されています。

「一般的には,子は,別居親と適切な形で面会交流をすることにより,どちらの親からも愛されているという安心感を得ることができ,父母の不和による別居に伴う喪失感やこれによる不安定な心理状態を回復させ,自己のアイデンティティの確立を図ることが出来る」。

従って,
「基本的には子の健全な成長に有益なものということができる」とされています。

・・・誤解を恐れずに分かりやすく言うと,子どもは父親からも母親からも血縁などのつながりのある存在で,その両方から,愛されていると実感できることによって,自分はそのままでも大丈夫,という「自己肯定感」が上がり,自信を持って行動していくことができる,ということなのだと思います。

この点では,現在の「考え方」「運用」に変更はなく,
やはり,裁判所は,基本的には,面会交流することがお子さんにとって,「有益で成長にとって大切なもの」と考えていることが分かります。

子の東京家裁のプロジェクトチームのメンバーである「発達心理学」「児童福祉」などを学んできた調査官さんも,面会交流が与えるお子さんへの「良い影響」については,認めていることになりますから,子育てを考える上でも,周りの方の言動だけで面会交流をしなくてよい,と判断するのでなく,この点は改めて注意しないといけない点だと思いました。

みなさんは,面会交流がなぜ,お子さんの成長にとって必要なのか,知っていましたか?
どのように対応したら,面会交流でお子さんに「安心感」をもってもらえそうですか?

2 面会交流調停運営実態の問題点

これまでは,前記の面会交流は,基本的に子供にとって良い,という「考え方」が行き過ぎる傾向があって,
「原則実施論」が独り歩きしてしまい,

「禁止・制限すべき事由が認められない限り」または,「特段の事情が認められない限り」
必ず,直接交流を実施しなければならないとの方向で調停運営が行われることがあった。

その結果,同居親(子どもと同居しており,面会交流を求められる側)に対する十分な配慮を欠いた調停運営が行われたことがあったようであり,批判されてきた,としています。

確かに,私のメルマガ読者さんのお話を聞いたり,実際にご相談を受けたりすると,
「面会交流はしないといけません」と言われて,つらい・・・と言われることも従来少なくありませんでした。

特に,前述の通り,あんな人と面会交流なんてさせる方が子どもに悪い!と思っている同居親も沢山いらっしゃるし,実際に本当に,相手と関わることでこれまで苦しんできた方も多いので,
いきなり,「会わせるべき」と言われても,その「考え方」のギャップが大きすぎて,直ぐに受け入れられないことも多いと実感しています。

そこで,これを踏まえて,

「同居親は,別居に至る過程での傷つきや別居親に対する不満や不信,怒り等から,面会交流について消極的な考えを持たざるを得ず,前向きに話し合おうという気持ちを持つことが出来ない場合がある」
ことから,

「まず,同居親が安心して本当の気持ちを話すことができるような優しい雰囲気を作り,その心配事や不安を受けとめて傾聴し,その心情に寄り添いながら,必要な時間をかけて徐々に,適切な面会交流は基本的には子の健全な成長に有益なものであること」などを丁寧に説明する調停運営になってきている,とのこと。

・・確かに,つい最近関わった面会交流調停では,同居親である母親の気持ちに寄り添って,調停委員さんがよく話を聞いて下さり,こちらの頑張りを認めてくれていたな・・と思いました。

一方で,別居親側からは,「面会交流の内容が極めて貧弱」「調停で合意しても実際には履行されない」などの批判もあったため,現実的に履行可能な交流の在り方が出来るよう,面会交流を実施するうえでの課題や問題点を把握し,働きかけ,調整を行い,その結果をまた分析,評価して,再度課題が見つかった場合には,再度これを繰り返していく・・という運営方向に移行してきた,とのこと。

確かに,同居親,別居親のどちらか一方が「我慢する」という面会交流の実施ではうまくいかないことが多いので・・・
(価値観が大きく異なるからこそ,当事者の2人では調整が困難で,調停になっている,ということなので)

調停委員さんが,「とにかくやるべきだからやりなさい!」「相手が面会は無理と言ってるから無理です!」と結論だけを言うのではなくて,どうしたら,出来るようになるのか,課題を一緒に考え,調整し,働きかけてくれるのは,とてもありがたい,と思いました。

面会交流の運営実態を踏まえて,より良い面会交流の在り方のため,運用が変化しているのを知っていましたか?
まずは,それぞれの立場での思いに寄り添ってもらうことで,これまでとは相手の対応も変わる・・
一般的な子育てやお仕事,事業活動でも使えそうな点はありますか?

3 現在の面会交流調停で重視していること

これまでの運用状況の実態から,改めて新しい面会交流調停の運営モデルを提案している東京家裁面会交流プロジェクトチーム。

細かい点は省略しますが・・

ポイントとしては改めて,

「面会交流調停事件の運営に関しては,ニュートラルフラットな立場(同居親及び別居親のいずれの側にも偏ることなく,先入観を持つことなく,ひたすら子の利益を最優先に考慮する立場」
で臨むことを明確にしています。

具体的な運営方法としては,以下の6つのカテゴリーに関する事情を中心に丁寧に聞き取って,
①主張・背景事情の把握をし,
②課題を把握して当事者と共有し,
③課題解決に向けた働きかけと調整をし,
④働きかけ,調整の結果を分析・評価して繰り返す
という点案をしています。

6つのカテゴリーは
①子,同居親,別居親の安全に関する事情(安全)
②子の状況に関する事情(子の事情)
③同居親及び別居親の状況に関する事情(親の事情)
④同居親及び別居親と子との関係に関する事情(親子関係)
⑤同居親及び別居親の関係に関する事情(親同士の関係)
⑥同居親及び別居親を取り巻く環境に関する事情(環境)

です。

確かに,主な注意項目を列挙することで,より具体的に本件では何が「課題」になるのかが分かりやすくて,よい,と思いました。

弁護士や当事者の方としては,これらの項目を意識した上で,今回のケースでは,どの点が問題となるのか,
その「課題」が,どのように「子の利益」に関係してくるのか,どのようにしたら解決できそうか,
故に,現段階ではどのような面会交流の実施方法が望ましいのか・・(直接会う直接交流が可能なのか,手紙などのやり取りによる間接交流しか,まだ難しいのかなど)

話すことで,より説得的に話すことが出来,調停委員さんにも理解してもらいやすくなる,と思いました。

あなたのケースでは,何故面会交流をさせるのが難しいのでしょうか?
その「課題」が克服されないと,どのように「子の利益」に反する状態となりそうでしょうか?
どうしたら,その「課題」は解決できるでしょうか?

まとめ 「考え方」をしって,スキルを使う

うちのケースでは子供の面会交流をさせるのは良くない・・・
ともし,思ったとしても,

それはどういう理由で?という説明を裁判所に説得的に伝えられなければ,
裁判所で採用してもらうことは難しい。

だからこそ,裁判所が大事にしている「考え方」を知ったうえで,
「話し方」のスキルを使っていくことが大事になりますね!

子どもの面会交流に関していうと,やはり今でも裁判所は
一般的には「子の利益になる」と考えていること,
「子の利益」(≒昔で言うところの子の福祉)を最も大切にしていること,
を踏まえてお話をしないと,説得的な話をするのは難しい…

具体的な課題,スキル面だけを重視して,
この件では①の安全の面で課題があります!
②の子の事情で課題があります!と言ってみても,

だからと言って,面会交流を制限することにはつながらないんじゃないの?
あなたの方がそこは柔軟に考えてやるしかないよね・・と言われてしまったら,
面会交流をさせるのは良くない・・という結論にはつながらない。

「一般的」には,面会交流が「適切」になされれば,子の利益に繋がるんだけど,
本件では,○○という点で課題があるから,△△にしないと,かえって子の利益に反してしまう・・・

だから,現状では,直接の面会交流は難しいのです,とか,2時間程度の面会交流しか難しいのです,
とかに繋がらないと説得力はあまりない・・

そのために,「考え方」を踏まえた上で,
「話し方」のスキルを磨いていくのが大切だと思っています。

弁護士としても,その点を意識して,これからも「話し方」「書き方」を磨いていきたいと思います!
また,弁護士を依頼せずに面会交流調停などの調停に臨む当事者の方にも,「考え方」の大切さと,スキルとしての「話し方」「書き方」の重要性を伝えていけたらと思っています。

そして,どの「考え方」が絶対的に正しいという訳ではないと思っていますが・・・

「裁判所」が重視していること,裁判所の「考え方」と,当事者の方それぞれが「正しい」と思われていることとは「ズレ」が生じることも多く,まさか,こんなことになるとは・・・ということも少なくないので,裁判所の「考え方」については,今後もお伝えしていけたらと思っています。

また,面会交流はお子さんの健全な成長にも関わる大事なところだと思っているので,
色々な「考え方」はあると思うのだけれど,裁判所の「考え方」,児童福祉や発達心理の専門家である調査官の考える「考え方」については,やはり,子育てでの大事な「考え方」として,参考にしてもらえたらと思っているので,お伝えしていきたいと思っています~

これからも,自分自身の経験だけでなく,裁判所の「資料」も使いながら,どのようにしたら,説得的に裁判所で話が出来るのか,どんな「話し方」で相手に伝え,どんな「言葉」を選んだら伝わりやすいのか,研究して伝えていけたらと思っています。
子どもたちが幸せになることで,親である自分も幸せになれるな~と思っているので,併せて,子育てについての自分なりに思うヒントについても,ご紹介できたらと思っています。

私のことを信じて,うちに相談に来て下さる依頼者の方々のため,そして自分自身の子ども達,家族,友人のため,弁護士として,母として,「言葉」を誰かを傷つけるものではなく,勇気づけ,励まし,心を動かすための良い方向で使えるよう,一緒に学んで行けたら・・と思います。

また,研究発表,これからも致しますね(笑)!

それでは,

このブログを読んで下さった皆さまが,両方の親と会うことがどのように子どもの健全な成長に繋がるのか,裁判所ってこんなことを考えているのか?と思いをはせてみるきっかけとなりますように。

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!