多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

相続手続き・遺産分割に期限はある?期限経過による不利益と注意点

相続手続き・遺産分割に期限はある?期限経過による不利益と注意点

いつも読んでいただき,ありがとうございます。
今回は,よく質問を受けます「相続手続き,遺産分割手続きの時効,相続手続きの期限」について,お話します。

父が亡くなったけれど,しばらく相続手続きをしばらくしていなかった。
このまま放置していると,相続手続きが出来なくなってしまうのでしょうか?

相続手続きの期限はありますか?
期限まで相続手続きをしない場合に,何か不利益がありますか?

これらのご質問について,法改正で変更された点もありますので,
特に,3つの注意してほしい点をお伝えします。

1 相続手続きの期限はない

相続の手続き,遺産分割手続きをいつまでにしなければならない,という法律上の期限はありません。
そのため,長期間経過していても相続手続き,遺産分割手続きをすることは出来ます。
つまり,例えば,被相続人死亡から,20年などの長期の期間が経過していても,そこから相続人で遺産分割の協議をして,誰が何の遺産を取得するのかを決め,不動産の名義変更をする,なども出来ることになります。

しかし,期間が経過してしまうと,相続人の一人が亡くなってしまうなどして,その子が複数いる場合など,相続人に変動が生じるなど複雑になりやすいので,早期に手続きをすることが望ましいでしょう。

また,預金の払戻しについても,法的には,5年間権利行使がなかった場合には時効消滅を金融機関としては,主張できることになります。
一般的には,それで払戻しに応じない,ということは聞きませんが,10年以上取引がない場合,休眠口座,休眠預金として,そのまま放置をし続けると,消滅時効を主張されて,払い戻しできなくなることがありますので,注意が必要です。

2 相続関連手続きの期限と制裁に注意

相続手続きができなくなるわけではありませんが,亡くなった被相続人には借金もあったので心配,一切の相続財産を取得しなくて良い,と考えている場合には,相続放棄の手続きをすることになります。この場合には,相続の開始があつたことを知った時から3ヶ月以内にしなければいけませんので,注意が必要です。

これも,相続が出来るかどうかには関係はありません(相続税申告期限後も遺産分割など相続手続きそのものは出来ます)が,相続税の申告が必要な場合には,相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に申告・納付手続も必要です。

また,施行は2024年(令和6年)の4月1日からですが,不動産の相続が発生した際は,3年以内に不動産の登記をしなければなりません。
この場合には,違反すると10万円以下の過料の制裁対象となりますので,早期の登記手続きが必要となるので,注意が必要です。

申告等が遅れたり,相続手続きが遅延することによる経済的な不利益等は,HPの「遺産相続手続に期限はある?」にも記載していますので,参考にしてもらえたらと思います。

3 寄与分・特別受益・特別寄与料

民法の改正により,相続開始から10年又は2023年(令和5年)4月1日(改正法施行)から5年のいずれか遅い日で寄与分と特別受益の主張ができなくなるので注意が必要です。
つまり,すでに亡くなっている方(被相続人)がいて,相続が発生して既に10年を経過しているような場合には,令和5年4月1日から5年間にこれらの主張をしないと,単純に法定相続分で遺産を分けることになるので,主張したい方は期限に注意が必要です。

共同相続人のうち被相続人(亡くなった方)の財産の維持又は増加について特別に寄与した方がいる場合,法定相続分の他に寄与分として,財産が多く取得することができる制度があります(実際には,遺産の中で,寄与分がいくらとなるかの認定をして,これを差し引いた遺産を法定相続分で分ける,寄与した相続人は,先に認められている寄与分と法定相続分による遺産の両方を取得する,というイメージです)。

特別受益とは,特定の相続人が,被相続人から婚姻・養子縁組・生計の資本として生前贈与や遺贈を受けた際の利益のことです。
相続人間で遺産を公平に分割できるよう,特定の相続人が被相続人から特別受益を受けている場合は,それを遺産分割の際,計算上,特別受益を相続財産に加算した上で,法定相続分によって,分割し,すでに特別受益としてもらっている相続人は,その相続できる金額から特別受益分を差し引いた差額のみを相続できるようにするものです。

他の相続人が任意で寄与分,特別受益を認めてくれれば,期限経過後も,これらを考慮した遺産分割は可能ですが,争いがある場合,これらの主張がなされることで,相続紛争がとても長期化することが多かったこともあり,期限経過後には法的な主張を裁判所で取り上げて,強制的に判断してもらうことができなくなり,この場合には,法定相続分通りで分ける,ということになりました。

これらに該当する相続人がいて,公平な遺産の分配のため,その点を法的に主張して判断してもらいたい場合には,早期の遺産分割手続の調停を申立てて,主張していきましょう。

また,相続人ではない被相続人の親族で,被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者(これを「特別寄与者」といいます。)は,相続人に対し,寄与に応じた額の金銭を請求することができる制度も民法改正により,新設されており,この金銭のことを「特別寄与料」と言われています。

この特別寄与料の支払について,も特別寄与者と相続人との間に協議が調わないとき又は協議をすることができないときには,家庭裁判所の調停又は審判の手続を利用することができますが,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月を経過したとき,又は相続開始の時から1年を経過したときは,出来ないとされています。

この制度はすでに施行されており,2019年(令和元年)7月1日より後に発生した相続(死亡日が令和元年7月1日以降)の場合に適用されます。特別寄与料は,遺留分と同じような感覚で,内容証明郵便などで請求しても,この期限は延長されませんので,期限内の調停の申立てが必須になります。
長男の妻など相続人でない人が被相続人に特別の寄与をしている場合に法的に請求できるように制度設計がされたものですが,期間は非常に短いので注意しましょう。

以前は,例えば,長男の妻が長男の父,母を介護したことに対する寄与については,相続人である長男の寄与として考慮される,ということがありましたが,今後は,民法改正もあり,相続人の寄与分とは,別の制度として整えられ,請求できる期限も明確になりましたので,この期限経過後に長男の寄与として考慮してもらえないことは十分考えられます。注意しましょう。

みなさまの,今のご自身,ご両親,お知合いの方の状態は私が書いたような事例に当てはまるでしょうか??
もしあてはまれば,早めに相続手続きをされた方がいいと思います。

今回も,最後まで読んで下さって,ありがとうございました!