矢野沙織ブログ

多治見ききょう法律事務所所属弁護士矢野沙織のブログです。

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有期労働契約社員の契約満了時の注意点

当事務所では、使用者側の労働問題に注力し、経営者のサポートをさせていただいておりますが、経営者の方から相談されることが多い「困った社員に対する対処法」について、引き続き、記載していきたいと思います。

第1回目は「経歴詐称をした社員に対する対処法」、第2回目は「勤務成績・勤務態度不良の社員に対する対処法」、第3回目は「不正行為を行う社員に対する対処法」、第4回目は「パワハラ行為を行う社員に対する対処法」、第5回目は「メンタルヘルス不調により業務遂行が困難とみられる社員に対する対応」、第6回目は「無断残業で残業代稼ぎをする社員に対する対応」について記載しましたが、第7回目となる今回は、「契約満了に不満を持つ有期労働契約社員に対する対応」について取り上げたいと思います。

1 対応する際のポイント

(1)雇用期間の確認

労働契約の締結日が平成25年4月1日以降で、雇用期間が5年を超えて反復継続された場合、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換させられます(労働契約法18条)。

無期労働契約に転換した場合、期間の定めのない労働契約が成立するため、雇止めは認められません。この場合に、会社が労働契約を終了させるためには、解雇と同様に対応することになりますが、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利濫用として無効になるため、解雇の効力が否定される可能性が高くなります。

 

(2)雇用期間が5年を超えていない場合

 ①雇用の更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況等から、期間の定めのない労働契約と実質的に同視できるか②業務の性質(臨時性・常用性)、採用の際の会社の言動等から、労働者に雇用継続に対する合理的期待があるかについて検討し、①又は②の要件を満たす場合には、有期労働契約が締結又は更新されたものとみなされ、雇止めは認められません(労働契約法19条)。

 

2 予防法

(1)契約期間、更新手続等の管理

1(2)に記載した事項(雇用の更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用の臨時性・常習性、雇用継続の期待を持たせる会社の言動の有無)を管理することが必要となります。

具体的には、以下のとおりです。

・契約期間、雇用の更新の回数を雇用の臨時性に見合ったものになるようにコントロールする。

・雇用の更新の際には一定の手続をとる。

→更新の度に面接を行い、成績等を勘案しつつ、報酬等の労働条件を決定する。

・採用の際に雇用の臨時性を説明しておく。

・就業規則、契約書、労働条件通知書等の書面を整備しておく。

→更新の予定がないのであれば、事前に十分説明したうえで、更新しない旨を明文化した契約書、労働条件通知書等を作成する。

 

(2)合意書面の作成、退職届の受領等

雇止めに際し、任意に退職する旨の合意書面や退職届を受領するようにします。十分な説明がないまま、労働者が署名・捺印した合意書面は、効力が否定されるリスクがあるため、労働者に丁寧に説明し、説明した内容・日時・場所等を書面で立証できるようにしておくことが望ましいです。

 

2020年3月22日

無断残業で残業代稼ぎをする社員に対する対応

当事務所では、使用者側の労働問題に注力し、経営者のサポートをさせていただいておりますが、経営者の方から相談されることが多い「困った社員に対する対処法」について、引き続き、記載していきたいと思います。

第1回目は「経歴詐称をした社員に対する対処法」、第2回目は「勤務成績・勤務態度不良の社員に対する対処法」、第3回目は「不正行為を行う社員に対する対処法」、第4回目は「パワハラ行為を行う社員に対する対処法」、第5回目は「メンタルヘルス不調により業務遂行が困難とみられる社員に対する対応」について記載しましたが、第6回目となる今回は、「無断残業で残業代稼ぎをする社員に対する対応」について取り上げたいと思います。

1 会社が認識すべきこと

(1)会社の指揮命令下に置かれた時間であること

時間外に仕事をすれば当然に残業代が支払われるといった誤解を招かないよう、社員に対して、残業は会社の指示があって行うものであることを周知徹底しておくことが必要です。

また、残業をしようとする社員に対しては、残業をしなければならない業務上の必要性を確認し、翌日にできる業務は翌日に回すよう指示する等、必要性のない無駄な残業をすることがないように指導を行います。社員が指導に従わない場合は残業禁止命令を発し、それでも社員から残業として申告された場合には、時間外労働時間として認めないという対応をすることも考えられます。

 

(2)会社が残業を命じなくても残業として扱うべき場合があること

会社の指揮命令は、黙示的なものでも足りるとされています。具体的には、残業で業務を処理することを、当然のこととして上司が容認していた場合、業務上やむを得ない事由があって、時間外労働をしていた場合等、時間外労働をせざるを得ない客観的な事情がある場合には、黙示の時間外労働命令が認められる傾向にあります。

したがって、会社が社員の残業を知りながら、それを黙認しているような場合には、黙示の残業命令が認められる可能性があり、会社は割増賃金の支払義務を負うことになるのです。

 

(3)時間管理のあり方

会社には、労働基準法上、労働時間管理義務が課されており、これに違反すると罰則が科されることもあります。また、残業の存在自体は明らかであるのに、会社が労働時間の管理を怠ったために、社員が残業時間数の立証ができないといった場合には、概括的に残業時間を推認して、社員の割増賃金請求が認められることもあり、会社側に不利な認定がされてしまう場合もあります。

そのため、社員が申告した残業時間が実際の労働時間と合致しているかについて、常に確認調査することをおすすめします。具体的には、職場への入退館の時間や、各人のパソコンの立ち上げ時間・シャットダウン時間等をチェックし、これらの時間と社員の申告した残業開始時間や残業終了時間との間に合理的でない乖離がある場合は、社員にその時間、何をしていたのかを確認するといった方法で、社員の申告時間と実際の労働時間の乖離を把握するといったことが考えられます。

 

2 予防法

(1)業務体制の見直し

業務体制が残業を前提としたものになっていないか、業務計画に無理がないか、人員配置が適切か等、業務体制を改めて見直すことが必要です。

 

(2)事前命令制の導入

事前に上司による残業命令がない場合には、残業を一切認めないという事前命令制を導入することも考えられます。残業を必要と考える部下が、上司に対して残業の要否と見込み終了時間を記載した所定の残業申請書を勤務時間内に提出し、上司がそれを確認して勤務時間終了までに残業命令を出すという運用になります。

2020年2月29日

自転車による交通事故で本人や親が負う責任

交通事故と言われて最初に思い浮かぶのは自動車事故だと思いますが、自転車事故で被害者が重傷を負い、高額な賠償金が認められるケースが出ています。自動車の方が大きな事故に繋がりやすいというだけであって、自転車であれば損害賠償額が小さくなるわけではありません。そこで、今回は自転車運転者が遵守すべき交通ルール等について記載したいと思います。

1 自転車の交通ルール

自転車は、道路交通法上「軽車両」とされていますので、定められた交通ルールを遵守して走行する必要があります。しかし、自動車と違い、運転免許制度があるわけではないので、自転車の交通ルールを把握されていない方も多いのではないでしょうか。

例えば、歩道のある道路の場合、自転車はどこを通行するべきでしょうか。この点について、道路交通法は、原則として、車道の左側に寄って通行しなければならないとしています。ただし、①道路標識等で指定された場合、②運転者が児童(6歳以上13歳未満)・幼児(6歳未満)の場合、③運転者が70歳以上の高齢者の場合、④運転者が一定程度の身体の障害を有する場合、⑤車道又は交通の状況からみてやむを得ない場合は、自転車で歩道を通行することができるとされています。

また、自転車で、車道の右側を通行した場合は、通行区分(右側通行)違反に問われることになります。違反者に対しては、罰則として、3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科されます。右側通行は、四輪自動車と正面衝突する危険のあるとても危険な運転です。自転車運転車は、軽車両を運転しているという自覚を持たなければなりません。

2 自転車の交通事故

自転車を運転中に、歩行者や自転車と衝突する等して交通事故の加害者となった場合は、民事上の損害賠償責任を負うことになります。被害者の傷害の程度によっては、相当高額の賠償を命じられる可能性があります。また、民事上責任能力が認められない子供の事故について、親権者が損害賠償義務を負うことがあるため、注意が必要です。

例えば、当時11歳の男児が、夜間に自転車で坂道を下っているとき、散歩中の62歳の女性と正面衝突し、女性が頭蓋骨骨折等の重症で意識が戻らない状態となった事故について、男児の前方不注意が本件事故の原因と認定した上で、親権者の指導や注意喚起が不足しており、監督義務を果たしていないとして、将来の介護費や遺失利益、慰謝料、治療費など合計1億円弱の支払いを命じた裁判例があります。

3 自転車保険の重要性

自転車は、運転免許制度がなく、小さな子どもでも運転することができるので、交通事故のリスクが高いように思います。子どもが自転車事故を起こした場合、親がその責任を負わなくてはならない可能性があることを自覚しなければなりません。

自動車の場合には、強制保険としての自賠責保険が存在しますが、自転車はそのような制度がありませんので、自転車運転者や、自転車に乗る子どもを持つ親は、自転車保険に加入して、万が一の場合に備える必要があります。

当然のことですが、最も大切なことは、自転車事故を発生させないように交通ルールを遵守し、子どもに対する指導・監督を怠らないことです。

2020年2月2日

会社役員の休業損害

保険会社の担当者から提示された休業損害(交通事故によって傷害を負ったために休業を余儀なくされた場合に、交通事故による休業がなかったならば得ることができたはずの収入・利益)の金額に納得がいかないといった内容のご相談を受けることが多いのですが、今回はその中でも特に深刻だと感じることが多い会社役員の休業損害について記載したいと思います。

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2019年12月7日

経済的全損

交通事故で車両が損傷した場合に、修理代が全て損害賠償の対象となるかというと、実はそうではありません。

実務においては、「物理的全損」つまり被害車両が修理不能の状態、もしくは「経済的全損」つまり修理費が時価額(と買替諸費用)を上回る状態となった場合には、事故直前の車両交換価格をもとに賠償額を算定し、そうでない場合には修理費相当額をもとに損害額を算定することとされています。

今回は、経済的全損について記載したいと思います。

 

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2019年11月9日