多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故で家族を亡くした場合の死亡慰謝料|保険会社の提示額が妥当か判断するための注意点

交通事故で家族を亡くした場合の死亡慰謝料|保険会社の提示額が妥当か判断するための注意点

「交通事故で息子が死亡してしまったのですが,相手方の保険会社から提示された死亡慰謝料金額は妥当なのでしょうか?」

交通事故で大切なご家族を亡くされた場合,保険会社から示談案が届いても,その金額が本当に妥当なのか,すぐには判断できないことが多いと思います。

特に「死亡慰謝料」は,金額だけを見ると基準があるように見えますが,実際には,被害者がどのような方だったのか,ご家族をどのように支えていたのか,事故の態様や加害者側の事情などによって,検討すべき点も変わります。

それでは,この交通事故による「死亡慰謝料」金額はどのように算出されるのでしょうか?

保険会社から提示された死亡慰謝料の妥当性はどう判断したらいい?
赤い本(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する本)の基準だけで判断してよい?
亡くなったのが独身の方でも「一家の支柱に準ずる場合」として主張できる場合はある?

交通事故の相談,依頼を受ける際,具体的に弁護士がどのように交通事故による「死亡慰謝料」を判断しているのか,その基準と手続きの流れを知っておくことで,ご自身のケースでの交通事故で,死亡慰謝料の妥当性を判断するためのヒント,相手方の保険会社へ不信感や不満を解消するヒントになると思いますので,ご紹介します。

1 死亡慰謝料の算定基準

死亡慰謝料の金額を考える際,大まかには赤い本に記載されている基準額から判断するケースは少なくありません。
しかし,保険会社の提示額が基準内でも,それだけで妥当とは限らない点に注意が必要です。

具体的に「Aさん」の事情で考えていきましょう。

Aさんは事故当時43歳の独身男性。
大手企業で活躍し,高齢の父母と同居して,物心両面で支えていた。
特に重い病気を患っていた父に対して,妹とともに看護や配慮をしていた。
妹やその子どもたちの面倒も見ていて,何かと力になっていた。

このときのAさんが交通事故によって死亡してしまった。

その際の,保険会社の提示額は2000万円。

赤い本での死亡慰謝料金額は,
① 一家の支柱  2800万円
② 母親,配偶者 2500万円
③ その他    2000万円〜2500万円

という3分説が採られており,「その他」には「独身の男女,子供,幼児等をいう。」とされています。

そのため,保険会社の2000万円という提示は,Aさんが独身で,扶養している妻子がいないことから「その他」の場合と考えると,赤い本で相当な慰謝料と考えられている範囲内に入ります。

しかし,ここで終わらないことも大事です。
形式的には基準の範囲内にあるからといって,直ちにその金額が今回のご遺族にとって適切な金額である,ということにはならない場合があります。

2 「一家の支柱に準ずる場合」を考える

赤い本では「一家の支柱」「母親,配偶者」「その他」という3分説で死亡慰謝料の金額の相場が記載されています。

一方,青本(公益財団法人日弁連交通事故相談センター本部が編纂・発行)では,
① 一家の支柱の場合    2800万円〜3100万円
② 一家の支柱に準ずる場合 2500万円〜2800万円
③ その他の場合      2000万円〜2500万円

と死亡慰謝料の基準が整理されています。

そして青本では,「一家の支柱」について,
「当該被害者の世帯が,主として被害者の収入によって生計を維持している場合をいう。」

とされ,「一家の支柱に準ずる場合」には,
「独身者であっても高齢な父母や幼い兄弟を扶養しあるいはこれらのものに仕送りをしている者」
も含まれる,とされています。

ここで,「Aさん」の事情について具体的に見ていきましょう。

・ 高齢の父母と同居していた
・ 物心両面で支えていた
・ 重い病気の父を妹とともに看護していた
・ 妹やその子どもたちにも関わりが深かった

という事情からすると,単に「独身男性だからその他」とするのではなく,「一家の支柱に準ずる場合」として2500万円〜2800万円を主張する選択肢があるでしょう。
死亡慰謝料の検討では,「独身かどうか」という形式だけでなく,実際にその方がご家族の中でどのような役割を果たしていたのかを丁寧に見る必要があると思います。

3 事故状況・加害者の態度・近親者固有慰謝料

さらに,事故状況・加害者の態度・近親者固有の慰謝料も検討することも重要です。

死亡慰謝料の増額事由を考えてみましょう。

赤い本では,「本基準も具体的な斟酌事由により,増減されるべきで,一応の目安を示したものである。」とされています。
そのため,死亡慰謝料は基準表だけで固定されるものではなく,

① 被害者本人の事情
② ご遺族との関係
③ 事故状況
④ 加害者に故意・重過失があるか
⑤ 加害者に著しく不誠実な態度等があるか
⑥ 刑事記録で事故状況や供述調書を確認する必要があるか

を検討する必要があります。

また,死亡したご本人の慰謝料だけでなく,親族等,近親者である固有の慰謝料も検討できます。

民法711条では,「他人の生命を侵害した者は,被害者の父母,配偶者及び子に対しては,その財産権が侵害されなかった場合においても,損害の賠償をしなければならない」として,被害者の父母,配偶者,子に対しても慰謝料を支払うべきことを規定しています。

この点からすると,ここに当てはまらない近親者には固有の慰謝料は発生しないようにも思われれます。
しかし,兄弟姉妹,孫,祖父母,内縁の配偶者等にも,事情によっては近親者として固有慰謝料が認められる場合があります。

今回のAさんは,妹さんとの関係も深かったため,妹さんについても近親者固有慰謝料の請求を検討する余地があるでしょう。
もっとも,赤い本・青本の死亡慰謝料の基準は,近親者固有慰謝料もあわせた死亡慰謝料の総額とされている点には注意が必要です。

まとめ 納得できる死亡慰謝料を請求するために

交通事故による死亡慰謝料は,基準表にあてはめれば自動的に決まるものではありません。

もちろん,赤い本や青本などの基準を確認することはとても大切です。
しかし,どの資料を見るのか,どの区分にあてはめるのか,どの裁判例を参考にするのかによって,検討の方向性が変わることがあります。

特に今回のように,被害者が独身であっても,高齢の父母を支え,病気の母を気遣い,妹さんやその家族にも深く関わっていたような場合には,単に「その他」として考えてよいのか,「一家の支柱に準ずる場合」として考えるべきではないのか,丁寧に検討する必要があります。

交通事故で大切な家族を亡くされたご遺族にとって,死亡慰謝料の金額は,単なる数字ではありません。
もちろん,どれだけの金額であっても,亡くなった方が戻ってくるわけではありません。
それでも,その方がどのような人生を歩み,どのように家族を支え,ご遺族にとってどれほど大切な存在だったのかを,適切に慰謝料の請求に反映していくことは,大切だと思っています。

そのためには,保険会社から提示された金額をそのまま受け入れるのではなく,

・赤い本・青本など複数の資料を確認すること
・参考になる裁判例を検討すること
・被害者本人の生活状況や家族内での役割を丁寧に整理すること
・事故状況や加害者側の事情も確認すること
・近親者固有慰謝料の請求可能性も検討すること
が重要になります。

被害者側として損害賠償請求する弁護士としては,ご遺族のお話を丁寧に伺い,複数の資料を検討しながら,その事案に合った最適な請求ができるようにすることが大切です。
交通事故の死亡慰謝料については,基準を知ることも大切ですが,その基準をどのように使うか,どの事情をどのように主張するかによって,結果が変わる可能性があります。

交通事故が生じた場合の具体的な賠償金額の算定の方法,どんな被害が生じるのか,被害を回復してもらうために注意しておくべきことは何か,弁護士に依頼した場合には,どのように手続きは進められていくのか,自分としてはどんな選択があるのか,などを知っておくことで,被害の回避をしたり,回復が出来る可能性が上がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います

被害者ご本人や,死亡事故における被害者のご遺族が少しでも納得できる形で被害回復につなげられるよう,これからも,そのための「基準」や「考え方」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!