多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

2026年4月スタート・公正証書でなくとも養育費の差押え可能?養育費の先取特権とは?

2026年4月スタート・公正証書でなくとも養育費の差押え可能?養育費の先取特権とは?

「改正民法で離婚後も共同親権が選択できるようになったことはよく聞きますが,これによって養育費も支払われるようになるのですか?」
「離婚後の共同親権は,離婚後も父母が責任をもって子どもを養育するということですよね?だから,離婚後共同親権を選んだ場合,大学費用などの養育費も責任をもって支払ってもらえますか?」

離婚後に子供と一緒に住む予定の同居親(監護親)からは,改正民法によって何が変わるのか,離婚後共同親権を選択した場合の効果として「養育費」の支払いについて尋ねられることがある。

一方で,

「離婚後共同親権親権を選べば,(共同で育てるのだから)養育費は払わなくていいんですよね?」

子どもと離れて住む親(多くは父親)からは,改正民法で離婚後共同親権が認められるようになって,「共同親権」を選択すれば,養育費を支払わなくてよい,と思っている方がいることを知って,驚くことがある。

・・しかし,これはいずれも「誤解」です。

改正民法が施行される前から,親権者でない親であっても,養育費は支払わないといけませんでしたので,それは改正民法後も同じです。
そのため,共同親権を選択したら,大学費用等の養育費として問題なく支払ってもらえることになるわけではありません。

離婚前の別居中で「共同親権」がある状態でも,それだけで現状,「大学費用」を支払ってもらえるわけではないことからしても,「共同親権」であることと,養育費を支払ってもらえるかどうか,は別の問題である,ということは想像しやすいのではないかと思います。

また,「共同親権」を持つことと「共同養育(交替監護)」出来るかどうかというのも別の話です。
共同親権を得たら直ちに養育費を支払わなくてよい,養育費の金額を減らせる,というわけでもありません。

この点,法務省のQ&A,Q3-2でも,共同親権になったとしても,養育費や親子交流の在り方,監護の在り方(どのように子供を養育していくか)は連動しないこと,「別途,子の利益を最も優先して,協議等によって取決めをすること」が必要であることを説明しています。

共同親権と養育費・親子交流の勘違いとして,とても多い「誤解」として,こちらの動画でも解説していますので,参考にしてもらえたらと思います▼

https://youtu.be/PaaMSoL47cY

・・そのため,離婚後共同親権を選択するかどうか,と「養育費」の問題は別であることを前提に,改正民法で「養育費」について何が変わるのか,を正確に知ることが重要です。

民法改正で,「共同親権」,「親子交流(旧面会交流)の充実」が別居親の強い希望で進められたものであるのに対し,同居親からは,支払い続けてもらうことが難しい「養育費」の支払確保についてこそ,「子の利益」のために強く求められてきた点でもあります。

では,民法改正によって,「養育費」の取扱いはどのように変わるのか?

「養育費」については,3つの改正のポイントがありますので,変更点をご紹介しながら,順番に分かりやすく解説していきたいと思います。
今回は第2点目,「先取特権の付与」について見ていきましょう。

1 債務名義が無くても差押え可能

養育費債権に⼀定の範囲で「先取特権」が付与されました。
この「一定の範囲」は,子一人当たり月8万円までと定められました。

これによって「債務名義」がなくても⺠事執⾏の申⽴て(給与等の財産の差押え)をすることができるようになりました。

これまでは公正証書,調停調書,判決書など法律で定められた差押えが出来る書面≒債務名義がなければ,養育費の未払いがあっても,給与や預金の差押えをして支払ってもらうという民事執行(強制執行)が出来ませんでした。

しかし,令和8年4月からは,公正証書でない合意書やLINEのやり取りなどでも裁判所が養育費の合意があると認めれば,強制執行ができるようになりました。

もっとも,「LINE」でのやりとりのような場合,話合いの途中で一度出た内容なのか,最終的な合意なのか曖昧とされやすく,差押え可能な「合意」があったと認めてもらえないことがあり得ます。出来る限り,「離婚協議書」「合意書」のような形で養育費の合意をしたことがはっきりと分かる書面に残す方が望ましいでしょう。

2 優先して弁済を受けられる

「先取特権」という名前の通り,養育費債権は,他の⼀般債権者に優先して弁済を受けることができるようになりました。

例えば,養育費を支払う側となる別居親が他にも負債があり,給与の差押えをされているような場合であっても,「子一人当たり8万円」までは,他の債権者に優先して支払いを受けられることになります。

令和8年3月末日までに離婚している場合には,それまでに既に発生している養育費については「先取特権」は認められません。

養育費を子一人について月10万円と合意した場合には,月8万円までが優先して弁済を受けられる対象となります。
残りの2万円については,養育費についての調停調書,審判書,公正証書,判決書等の「債務名義」が無ければ差押え手続きは出来ないので注意が必要です。

養育費の金額が子一人当たり8万円を越える場合には,その意味で,引続き公正証書や調停調書での合意をすることも検討した方が良いでしょう。

3 先取特権が付与される養育費の範囲

令和8年4月以降に発生する養育費については,「先取特権」が認められるため,公正証書等の債務名義がなくとも,養育費の「合意」が「合意書」等で立証できれば,同様に差押さえが出来,優先的に支払ってもらえる対象となります。

そのため,すでに離婚をしている方は,改めて養育費の調停をして「債務名義」を取得するのは大変,という理由で強制執行は諦めていた方が令和8年4月以降は,差押えをする場合も考えられるでしょう。

令和8年4月以降に離婚している場合には「2026年4月スタート・法定養育費とは?共同親権と養育費の関係は?」でお伝えした通り,養育費の合意をしていない場合でも子一人当たり月2万円の「法定養育費」が発生します。

そのため,この「法定養育費」の範囲では,養育費の合意がない場合でも「先取特権」によって優先して弁済を受けられる対象となります。

令和8年3月までに離婚している場合には「法定養育費」は発生しないため,少なくとも養育費の「合意」をしていることは必要となります。

「養育費」についての全般的な注意点については,改正民法をふまえた変更点も含めて,ホームページを更新して記載していますので併せて参考にしてもらえたらと思います▼

https://tajimi-law.com/rikon/yoikuhi.html

まとめ 法的効果と期待を区別する

このブログを読んでくださった皆さんは,どんなことを感じましたか?

また教えていただけたら,嬉しいです。

改正民法による変化としては,離婚後「共同親権」を選択できるようになったということが注目されがちですが・・

「共同親権」で法的に何が変わるのか,という点と「共同で子育てをする」というイメージで実際には法的な効果ではない「期待」を区別した上で選択することが,後悔しない選択につながると思っています。

離婚後の「共同親権」を選択することによって法的に「具体的」に何が変わり,何は変わらないのか,「共同親権」が選択できるかどうかとは別に「養育費」という問題としての「具体的な変更点」は何なのか?

自分のケースでは実際にどんなことが変わるのか?
そのために,どんなことに注意しなければいけないのか?

出来るだけ具体的な場面を考えながら,このブログでもまた伝えていけたらと思います。

これからも,

男性,女性,同居親,別居親などそれぞれの立場の方がこれまでとは違う視点で考えてみることができるよう,私が出来ることとして,これまでうまくいっていると思える実践例やそれぞれの立場の方が感じていること,自分自身が母親として,また,両親の紛争下で育った子どもとして感じてきたことなども含め,発信していけたらと思っています。

うちに相談に来て下さる依頼者の方々のため,そして自分自身の子ども達,家族,友人のため,弁護士として,母として,幸せに生きるための方法,考えていきたいと思います。

また,改正民法による具体的な変化,共同親権を含めた具体的な運用の変更点などについて,引続き研究発表,致しますね!

それでは,

このブログを読んで下さった皆さまにとって,改正民法によって何が変わるのかを具体的に知るヒント,離婚後の養育費についての変更点,自分の望む未来のために,どのように行動したらいいのか,どのような行動は注意すべきなのか,考えるヒントとなりますように。

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!