多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

学校でセクハラを防ぐために必要な対策は?学生など雇用関係にない人への注意

学校でセクハラを防ぐために必要な対策は?学生など雇用関係にない人への注意

「会社のセクハラ対策は,従業員だけを対象に考えればいいのでしょうか?」
「学校では,教職員同士だけでなく,教員と学生との間のセクハラをどのように防げばいいのでしょうか?」
「病院の患者や介護施設の利用者など,会社と雇用関係にない人に対する言動についても,事業者として注意する必要があるのでしょうか?」

私は,主に企業側,会社側からハラスメントについてのご相談を受けることが多いのですが,セクハラ予防を考える際には,

「誰が会社の労働者(従業員)なのか」

だけを見ていては,十分ではない場合があります。

例えば,学校では,教職員同士の関係だけでなく,教員と学生,生徒との関係があります。
病院では,医師,看護師その他の職員同士の関係に加えて,職員と患者との関係があります。
介護施設では,職員同士だけでなく,職員と施設利用者,その家族との関係もあります。

学生,患者,介護施設の利用者などは,通常,学校,病院,施設に雇用されている「労働者」ではありません。
しかし,その施設を利用し,職員と継続的に関わり,職員から指導,診療,介護,支援などを受ける立場にあります。

そのため,雇用関係がないから,会社や組織としてセクハラ予防を考えなくてもよい,ということにはならないと思っています。

今回は,「セクハラが職場内で起きないよう会社はどのような予防をすべき?法的義務は」「セクハラが生じないために企業・労働者のすべきこと~具体的対策は?」と連続してお伝えしてきた「セクハラの予防」のために必要な事として,

学校ではどのようなセクハラ防止の取組が求められているのか?
雇用関係にない学生などに対して,なぜ特別な注意が必要なのか?
民間企業,公務員,学校,病院,介護施設などで,それぞれどのような対策を考えればよいのか?

についてお伝えします。

 1 学校内のセクハラ予防は教職員同士だけでは足りない

職場におけるセクハラについては,男女雇用機会均等法に基づき,事業主に対して,方針の明確化と周知,相談体制の整備,事実関係の迅速かつ正確な確認,被害者と行為者に対する適切な措置,再発防止などが求められています。

学校も教職員を雇用している事業者である以上,教職員同士のセクハラについては,基本的にこのような雇用管理上の措置を講じる必要があります。

しかし,学校の場合には,それだけではありません。

学校の中には,教職員と雇用関係にある人だけでなく,児童,生徒,学生がいます。

そして,教員は学生等に対して,

成績を評価する

単位を認定する

進級や卒業に関わる

研究や実習を指導する

推薦や進路について意見を述べる

という立場にあります。

学生の側から見ると,嫌だと思う言動があっても,

「拒否したら成績に影響するのではないか」

「指導を受けられなくなるのではないか」

「研究室に居づらくなるのではないか」

「推薦をしてもらえなくなるのではないか」

などと考え,明確に拒否したり,相談したりすることが難しい場合があります。

文部科学省も,大学等では教員が成績評価や単位認定を行う優越的な地位や立場にあり,学生から明確な被害の訴えがされない場合もあることを踏まえ,学生に対するセクシュアルハラスメントを含む性暴力等の防止,厳正な対処,相談・調査体制の整備などを求めています。

そのため,学校のセクハラ対策では,

「教職員同士でセクハラをしない」

というだけでなく,

「教職員から学生等に対するセクハラを防ぐ」

という視点が特に重要になりますので,注意しましょう。

2 学校でのセクハラ予防に関する現在の取組

大学等におけるセクハラ予防については,文部科学省が令和4年11月22日付けで発出した「セクシュアルハラスメントを含む性暴力等の防止に向けた取組の推進について(通知)」において,大学等が取り組むべき事項が具体的に示されています。

この通知では,性暴力等を許さない方針の明確化,教職員への研修,学生への周知,相談窓口や相談対応マニュアルの整備,独立性・中立性を確保した調査体制,被害者の保護,行為者への厳正な対応,再発防止などが求められています。

さらに,令和6年9月13日付けの「セクシュアルハラスメントを含む性暴力等の防止に向けた取組のより一層の推進について(通知)」では,学内規則や懲戒処分基準の整備,教員採用時における過去の懲戒処分歴等の確認,学外の関係機関との連携などについて,より具体的な取組が示されています。

・セクハラや性暴力等を許さない方針を明確にすること

・その方針や処分の内容を学内規則などに定め,教職員や学生に周知すること

・教職員に対する研修や啓発を行うこと

・相談窓口をあらかじめ定め,構成員に周知すること

・相談担当者用のマニュアルを整備し,担当者に研修を行うこと

・被害を申し出た人に不利益が生じないようにすること

・利害関係のない者や外部の専門家を含め,公正で中立的な調査を行うこと

・被害者と行為者との接触を避けるなど,速やかに被害者を保護すること

・心理的な支援や,必要に応じた学外機関との連携を行うこと

特に重要なのは,教職員に対する注意喚起だけではなく,学生が安心して相談できる仕組みを具体的に作ることです。

「何かあれば相談してください」

と一度伝えるだけでは,実際には相談できないこともあります。

誰に相談すればよいのか。

相談内容はどのように扱われるのか。

相談したことで成績や研究,進路に不利益が生じないのか。

相談後,学校はどのような手順で調査するのか。

行為者と顔を合わせずに授業や研究を続けられるのか。

このような点まで,学生から見て分かる形で示しておく必要があります。

3 児童・生徒に対する行為については直接の法律もある

以前は,学校でのセクハラ防止について,通知や規程,ガイドラインを中心に検討されることが多かったと思います。

しかし,現在では,小学校,中学校,高等学校などの教育職員等による児童生徒等への行為について,「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が制定されています。

この法律と文部科学省の基本指針では,児童生徒性暴力等の防止,早期発見,相談体制,事実があると思われる場合の調査,厳正な対処などが求められています。

基本指針では,例えば,

児童生徒や教職員への定期的なアンケート

教育相談の実施

電話相談窓口の周知

担任や学校を通さず,設置者へ直接相談できる仕組み

私的な端末による児童生徒の撮影を防ぐためのルール

学校所有の端末に保存された画像の持出しや管理に関するルール

教室,トイレ,更衣室等の定期的な点検

など,具体的な予防策も示されています。

このように見ると,学校での対策には,単に,

「セクハラをしてはいけません」

と教職員へ伝えるだけではなく,

行為が起きにくい環境をつくること

被害を早く発見できる仕組みをつくること

相談しやすい複数の経路を準備すること

画像や個人情報を適切に管理すること

なども含まれることが分かります。

 4 雇用関係がなくても継続的に関わる人を守る必要がある

職場のセクハラについて定めた男女雇用機会均等法上の中心的な保護対象は,事業主に雇用される労働者です。

しかし,組織として予防すべき相手を,法律上の「労働者」だけに限定してよいとは限りません。

特に,学校,病院,介護施設などでは,職員が雇用関係にない人と継続的に関わります。

学校であれば,児童,生徒,学生。

病院であれば,患者やその家族。

介護施設であれば,施設の利用者やその家族。

障害福祉施設であれば,支援を受ける利用者。

相談支援機関であれば,相談者。

このような方々は,職員との間に雇用関係はありませんが,職員が提供する教育,診療,介護,支援などを必要としています。

そのため,

嫌だと思っても断りにくい

別の担当者に変えてほしいと言いにくい

苦情を言うとサービスを受けられなくなるのではないかと心配する

今後も継続して関わるため,関係が悪くなることを恐れる

という状況が生じることがあります。

これは,学校の教員と学生との関係にも共通します。

職員側には,その場では冗談や親しみの表現のつもりであっても,相手は継続的なサービスや指導を受ける必要があるため,明確に拒否できないことがあります。

そのため,

「嫌なら嫌と言ってくれればよかった」
「笑っていたので問題ないと思った」
「その場では何も言われなかった」

という事情だけで,相手も受け入れていたと判断することは危険です。

むしろ,職員と相手との力関係,サービスを受け続ける必要性,拒否や相談のしにくさまで考えて,予防策をつくる必要があると思います。

 5 民間企業・公務員・学校で根拠となる規範は違っても目的は共通する

民間企業では,男女雇用機会均等法と厚生労働省の指針が,セクハラ予防の中心的な手掛かりになります。

公務員については,人事院規則や各自治体の規程,指針なども確認する必要があります。

学校では,雇用関係にある教職員同士の問題に加え,文部科学省の通知,大学等の学内規則,児童生徒性暴力等防止法とその基本指針なども確認する必要があります。

病院,介護施設,福祉施設などでは,雇用関係に関する法律や指針に加え,その施設が提供するサービスの性質,利用者の特性,職員と利用者との関係などを踏まえたルールが必要になります。

このように,事業や組織の種類によって,直接適用される法律,規則,ガイドラインは異なります。

しかし,共通して必要になるのは,

誰が誰に対して優越的な立場にあるのか
誰が拒否や相談をしにくい立場にあるのか
どのような場所や時間帯で問題が生じやすいのか
一対一になる場面はあるのか
身体への接触が業務上必要となる場面はあるのか
私的な連絡先やSNSを使う必要があるのか
画像,診療情報,成績,研究情報などを誰が管理するのか
相談した人が不利益を受けるおそれはないか

という,その組織特有の具体的な状況を確認することです。

そして,セクハラを予防する共通の目的は,職場や学校などの環境が安心して過ごせる場(職務や学業,生活や治療に集中できる場として守る)として守ることにある,と言えると思います。

 6 書面を配るだけでは十分な予防策にならない

セクハラ防止方針を書面で示したり,社内報や学内の広報誌で注意を呼びかけたりすることは重要です。

しかし,それだけで,会社や組織が必要な注意を尽くしたことになるとは限りません。

東京地方裁判所平成18年6月26日判決でも,社内でセクハラ等が継続していた事案において,管理職に書面を交付し,従業員に社内報を配布するなどしていたものの,それだけでは相当な注意をしたとはいえないと判断されています。

現在の厚生労働省の指針でも,事業主には,方針の周知だけでなく,相談窓口の設置,担当者への研修,迅速かつ正確な事実確認,被害者と行為者への適正な措置,再発防止,プライバシーの保護,相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止など,複数の措置が求められています。

つまり,

「書面を配った」
「研修を一度実施した」
「相談窓口を形式上設けた」

というだけで終わらせず,実際に機能しているかを確認する必要があります。

相談窓口は知られているか。
相談担当者は,適切な聴き取りができるか。
相談を受けた後,誰が,いつまでに,どのように調査するのか。
被害申告をした人を,行為者や周囲の人から守れるか。
行為が認定できなかった場合にも,職場環境の改善や再発防止を検討できるか。

このような実効性が大切になります。

 7 職場に応じたマインド・スキル・ツールをそろえる

これまでの連続記事でもお伝えしてきましたが,セクハラ予防を実践するためには,

「考え方」≒マインド
「必要な知識や対応方法」≒スキル
「具体的なマニュアルやルール」≒ツール

をそろえることが重要だと思っています。

学校であれば,
教員と学生との間には,成績評価や指導をめぐる力の差があることを理解するというマインド。
学生が拒否しにくい場面を想定し,適切な距離を保ち,相談を受けた場合には負担をかけないよう聴き取るスキル。
研究室での一対一の指導,学外実習,懇親会,SNSでの連絡,写真や動画の撮影などについての具体的なルールというツール。

病院であれば,
患者は診療を受け続ける必要があり,職員に対して拒否や苦情を伝えにくいことを理解するというマインド。
診療上必要な身体接触について,分かりやすく説明し,同意を確認するスキル。
診察時の同席,個室利用,連絡先の交換,記録,苦情相談などに関するルールというツール。

介護施設であれば,
利用者の年齢,障害,認知機能,介護への依存などによって,被害を伝えにくい場合があることを理解するというマインド。相手の尊厳を守りながら介助し,変化や訴えを適切に把握するスキル。
入浴や着替えの介助,居室への入室,夜勤時の対応,記録,家族への連絡などについての具体的なツール。

このように,法律や公的なガイドラインを共通の手掛かりとしながら,最終的には,それぞれの職場で実際に起こり得る場面に合わせて,対策を具体化する必要があります。

雇用関係の有無だけで考えない~まとめ

これまで,連続してセクハラの予防についてお伝えしてきました。

民間企業,公務員,学校では,適用される法律や規則,ガイドラインが同じではありません。

また,同じ学校であっても,小中学校,高等学校,大学では,対象となる人や関係性が異なります。

病院,介護施設,福祉施設などでも,業務の内容や利用者の状況によって,必要な対策は変わります。

そのため,どこかの会社や学校のマニュアルをそのまま使えば十分,ということではありません。

まずは,法律や公的なガイドラインから,

なぜセクハラを防ぐ必要があるのか
組織には何が求められているのか

という基本的な考え方,マインドを確認する。

次に,相談対応,事実確認,被害者への配慮,行為者への対応,再発防止など,必要となるスキルを身につける。

そのうえで,自分の会社,学校,病院,施設で実際に起こり得る場面を想定し,研修資料,チェックリスト,相談対応マニュアル,連絡ルールなどのツールを作る。

この3つをそろえることが重要だと思います。

そして,特に学校,病院,介護施設のように,職員が,雇用関係にはない人と継続的に関わる組織では,

「労働者ではないから,職場のセクハラ対策の対象外」

と考えないことが大切です。

学生,患者,利用者などは,職員から指導やサービスを受ける必要があり,嫌だと思っても,その場で拒否したり,相談したりすることが難しい場合があります。

だからこそ,組織の側から,相手が拒否できなかった場合も想定して,問題が起きにくい仕組みをつくる必要があります。

セクハラ予防は,禁止事項を伝え,守れなかった行為者を処分することではありません。

被害を受ける人を守り,職員自身も意図しない言動によって責任を問われることを避け,組織への信頼を守るためのものです。

そのために,それぞれの職場に応じたマインド,スキル,ツールを整えてもらえたらと思います。

それでも,ご自身の会社,学校,病院,施設で,どのようなルールや対応体制を作ればよいのか迷う場合には,具体的な業務内容や人間関係を整理したうえで,個別に弁護士へ相談しながら決めてもらえたらと思います。

セクハラの被害が生じにくく,被害を申し出た人が安心して相談できること。
職員も,どのような言動に注意すればよいのかを具体的に理解できること。

そのような環境を整えることで,学校,病院,介護施設を含め,人と人が継続して関わる場所,それを提供する側となる企業や施設にとって,温かい交流と信頼関係が守られるお手伝いができたら嬉しいな,と思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!