
交通事故によるケガで働けなくなった場合,仕事を休んだ際の減収を補償するために「休業損害」として損害賠償請求をすることができることになります。
もっとも,実際には,休んでいた期間の全てについて100%の「休業損害」が認められるとは限りません。
前回は「家事従業者(主婦・主夫)」の場合についてご紹介しましたが,
どこまで家事ができなかったのか
徐々に回復していくことをどう考えるのか
後遺障害との関係をどう考えるのか
などから,「逓減方式」によって損害額が算定されることがあります。
他方で,実際に家庭外で働いている会社員,自営業者の場合は,「休業」しているかどうかが明確に思えますが,
実際はどのように「休業損害」が算定されるのでしょうか?
「家事従業者(主婦・主夫)」との違いはあるのでしょうか?
交通事故によってケガをし,実際に会社を休んだ場合,あるいは自営業の仕事ができなくなった場合,
「休んでいたのだから,その期間の休業損害は全額認められるのでは?」
と思う方は少なくありません。
特に会社員の場合には,実際に会社を休んで給与が減っている以上,
「休業割合を減らす」という考え方自体に違和感を覚える方もいると思います。
また,自営業者の場合にも,
「売上が下がったのだから,その分は認められるはず」
と考えるのが自然でしょう。
しかし,実際の裁判例を見てみると,
会社員や自営業者であっても,
逓減方式によって休業損害が減額されている裁判例があります。
なぜ裁判所はそのように考えるのでしょうか?
今回は,「交通事故のケガで休んだ場合に休業損害が100%認められない場合とは」「後遺障害がある場合・兼業主婦(夫)の休業損害の計算方法・考慮要素」の記事に引き続き,最近の裁判例を検討しながら,
会社員
自営業者について,
被害者が会社員の場合の逓減方式による算定方法
被害者が自営業者の場合の逓減方式の考慮要素
主婦(夫)の休業損害算定との共通点と違い
逓減方式がどのように使われているのかを見ながら,逓減方式によって,どのような場合に,どのような計算方法で,休んでいる全ての期間について100%「休業損害」が認められない可能性があるのか,そして,裁判所が考える「公平」「平等」の感覚についても考えてみたいと思います。
1 会社員でも逓減方式によって減額される
会社員でも逓減方式によって減額されることがあり得ることが,最近の裁判例の傾向から分かります。
会社等に勤務で逓減方式を採用した裁判例会社等に勤務で逓減方式を採用している裁判例は14件。
この14件についてみると,そのほとんどが現実に休業している場合でも,逓減方式を採用して,休業損害の金額について減額認定していました。
東京地判令和3年5月27日では,原告(保険会社契約社員)が601日間100%休業したとして1059万円余を請求した事案(601日100%休業主張)ですが実際には,以下の通り逓減方式を採用して,減額認定されています。
1か月 100%
2か月目 75%
3か月目 50%
4か月目 25%
87万円余を認定。
会社員の場合には,「出勤している」「出勤していない」という100%休んだのか,全く休んでいないのかという判断になるはずであり,主婦(夫)の家事労働のように,「今日は50%だけ仕事(家事)をした」という評価はしづらいようにも思います。
そのため,実際に休業しているのに,なぜ休業損害を減らすのだろう?と感じる方もいるでしょう。
しかし,前記裁判例で裁判所は「症状の軽減とともに徐々に仕事への復帰が可能であったと認められる」と判示し,もっと早く復職できたはずではないか,軽減した勤務ができたはずではないかという観点から判断していることが分かります。
被害者としては,単に「会社を休んでいた」だけではなく,なぜ復職できなかったのか,軽減した勤務も困難だったのかについて,医師の診断内容や勤務状況から説明できるようにしておくことが重要になります。
2 自営業者の場合は「減収」が重視される傾向
自営業者の場合は「減収」が重視される傾向がみられます。
「自営業者」で逓減方式を採用している裁判例のうち15件につき,自営業者が事故以前よりも収入が減っているかどうか(減収の有無)を考慮しているかどうかをみてみると,自営業者に減収があることを認定した上で,逓減方式によって休業損害を認めた裁判例5件があった。
東京地判令和2年7月22日判決では,
理容業者(後遺障害なし)の事案で,以下の通り認定しています。
当初30日 60%
その後30日 20%
この裁判例で興味深いのは,裁判所が実際の売上状況を確認している点です。
裁判所は
「平成30年6月は平均額の半額以下まで減少し,同年7月もやや減少したといえるものの,同年8月以降は明らかに減少したとまでは言い難い」としています。
つまり,単にケガをしたかどうかだけではなく,実際に事業収入へどの程度影響が出たのかという点を重視していることが分かります。
そのため,被害を受けた方が自営業者の場合には,
売上帳
確定申告
予約状況
営業日誌
など,減収を裏付ける資料を残しておくことが重要でしょう。
他方,自営業者の減収を認定せずに逓減方式で休業損害を認めた裁判例もあるため,実際に減収が続いていたとしても,しばらくすれば,本来であれば少しは売上を回復していけるはず,という「公平感」を意識している点にも注意が必要でしょう。
3 会社員・自営業者でも100%補償とは限らない理由
被害者が会社員と自営業者の場合での裁判例を見ると,
実際に働けていない,仕事が出来ていない,という状況であっても,それだけで
会社員だから100%
自営業者だから100%
休業損害が認められる,というわけではないことが分かります。
これは,裁判所が,実際に休業した事実だけではなく,
本当にその期間全てについて休業が必要だったのか
どの程度回復していたのか
仕事への影響はどの程度だったのか
という事情を個別に見て判断している,と言えるでしょう。
そのため,実際に請求をする場面では,「個別」にどのような事情があるのか,丁寧に主張,立証する必要があります。
ただ一方で,裁判所としては,その人の「個別」事情を重視しすぎない,という点も重要でしょう。
その方の「個別」の「性格」「特性」のために働けない,ということを重視しすぎてしまうと,他の多くの方(一般的平均的な方のイメージです)であれば働ける状況であるのに,働いていないことによって一般的なケースよりも損害賠償金を多くもらえてしまう,というのは不公平なのではないか,損害賠償金を支払う保険会社(加害者)にとっても不公平に負担が大きくなるのではないか,と考えているのではないかと思います。
まとめ 働いている人との「公平」「平等」
前回の記事では,主婦(夫)の休業損害について,家事労働をどのように金銭評価するのか,主婦(夫)の逓減方式による計算について紹介しました。
そして,今回見てきた裁判例からすると,
裁判所は,主婦(夫)だから厳しく判断する,会社員だから有利に判断する,
という考え方をしているわけではないように思います。
会社員であっても,実際に休業しているという事実だけで100%休業損害を認めるのではなく,
もっと早く復職できなかったのか
軽減勤務はできなかったのか
という観点から検討しています。
また自営業者についても,
実際にどの程度売上が減少したのか
どの時点まで影響が続いたのか
を細かく見ています。
つまり裁判所は,
被害者の属性の違いは考慮しながらも,
最終的には
「その人に実際どの程度の損害が生じたのか」
という点をできるだけ公平に評価しようとしているように思います。
そのため,主婦(夫)と異なり,会社員や自営業者は「働いている」のか「働いていないのか」はとても分かりやすいような気もするのですが・・
主婦(夫)には主婦(夫)なりの算定の難しさがあり,
会社員には会社員としての算定の難しさがあり,
自営業者には自営業者としての算定の難しさがある,と感じています。
だからこそ,休業損害は単純に
「休んだから認められる」
「働いていたから認められる」
というものではなく,
どのような支障があり,どのような損害が生じたのかを具体的に示していくことが大切になります。
そして,他方で「個別」の事情だけを重視しない,他のケースとのバランス感覚,公平感も重視している点にも意識が必要でしょう。
そのためにも,様々なケース,被害者の属性を横断的に検討することで,裁判所が考えるバランス感覚,公平感のイメージが分かりやすくなるのではないかと思っています。
交通事故の被害者として適切な補償を受けるためには,
裁判所がどのような事情を重視しているのかを知っておくことも大切です。
交通通事故の損害賠償では,
どんな損害が認められるのか
どのように計算されるのか
どんな事情が影響するのか
を知っておくことで,
適切な被害回復につながる可能性が高まります。
これからも,
そのための「基準」や「考え方」について,
お伝えしていければと思います。
それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!