多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

後遺障害がある場合・兼業主婦(夫)の休業損害の計算方法・考慮要素

後遺障害がある場合・兼業主婦(夫)の休業損害の計算方法・考慮要素

交通事故によるケガで働けなくなった場合,仕事を休んだ際の減収を補償するために「休業損害」として損害賠償請求をすることができることになります。
もっとも,実際には,休んでいた期間の全てについて100%の「休業損害」が認められるとは限りません。

特に,「家事従業者(主婦・主夫)」の場合には,

どこまで家事ができなかったのか
徐々に回復していくことをどう考えるのか
後遺障害との関係をどう考えるのか

などから,「逓減方式」によって損害額が算定されることがあります。

では,

後遺障害が認定されている場合,休業割合はどのように考えられるのでしょうか?
後遺障害の労働能力喪失率との関係は?
兼業主婦(夫)の場合,仕事をしている事情はどのように考慮されるのでしょうか?

今回は,「交通事故のケガで休んだ場合に休業損害が100%認められない場合とは」の記事に引き続き,最近の裁判例を検討しながら,

後遺障害がある場合の逓減方式
通院実日数を基準とする考え方
兼業主婦(夫)の休業損害算定

について,逓減方式によって,どのような場合に,どのような計算方法で,休んでいる全ての期間について100%「休業損害」が認められない可能性があるのか,裁判所の判断傾向をご紹介したいと思います。

1 後遺障害がある場合の「逓減方式」

まず,後遺障害が認定されている事案でも,「逓減方式」が採用されている裁判例があります。

この点で問題になるのは,

・逓減方式で認定した休業割合と,
・後遺障害として認定されている「労働能力喪失率(交通事故で後遺障害が残った際に事故前と比べてどれだけ労働能力が低下したかを「%」で数値化したもの)」

との整合性です。

つまり,

「後遺障害として27%の労働能力喪失が認定されているのに,
休業割合をそれ以下にしていいのか?」

あるいは逆に,

「症状固定後も家事労働への支障が続くなら,
一定割合の休業損害を認めるべきではないか?」

という問題です。

実際に裁判例を見てみると,後遺障害と休業割合との整合性を考慮している裁判例が7件ありました。

その典型例が,大阪地判令和2年2月28日です。

この裁判例では,
後遺障害10級(労働能力喪失率27%)を前提に,

100%
80%
60%
40%
27%

と段階的に逓減させています。

そして,最後の27%について,「家事労働への支障については,症状固定後と異同があるとは認められない」と判示しています。

つまり,

・後遺障害として残存している支障の程度と,
・最終的な休業割合

を整合的に考えたものと言えます。

他方で,

後遺障害の労働能力喪失率との整合性を考慮していないと思われる裁判例も3件ありました。
(そのうち1件は,原告側が少なく請求している(過少請求)と思われる事案)

後遺障害によって,労働能力喪失率が認定されている場合,「家事労働」についても同程度に支障が続くと考えることは,公平感覚としても採用しやすいので,計算方法として採用されやすいと言えるのではないかなと思いました。

2 通院期間ではなく「通院実日数」を逓減させる裁判例

「逓減方式」というと,通院期間全体を前提に割合を減らしていくイメージがあります。

しかし裁判例の中には,

・ 通院期間ではなく,
・ 実際に通院した日数(通院実日数)

を基準として逓減させているものもあります。

もっとも,
このような裁判例の多くは,

原告自身が「通院実日数」を基準として休業損害を請求していた事案でした。

例えば,大阪地判令和2年2月12日です。

この事案では,
原告は,

・ 入院33日の退院後について,
・ 実通院日238日を100%として請求

していました。

これに対して裁判所は,

当初の実通院174日分を50%
その後の実通院57日分を25%

として逓減させています。

つまり,

・「どの期間に通院していたか」ではなく,
・「実際にどれだけ通院していたか」

を基準にしながら,回復状況を考慮して逓減させていることになります。

請求する際に「通院期間」を前提に請求するのか実際に通院した「通院実日数」を基に請求するのかによって裁判所が認定する休業損害金額に違いが出てしまう可能性があることには注意が必要です。
実際に通院している日数だから,その日は100%仕事はできないのではないか?とも思えますが,通院実日数分だけを休業損害として請求しても,100%休業損害が認められるわけではない点は意識しておくことも重要だと思います。

3 兼業主婦(夫)の休業損害と逓減方式

前回の記事でもご紹介したように,逓減方式は,特に主婦(主夫)など家事従業者で多く使われています。

その中でも今回は,

「兼業主婦(夫)」

について,
裁判所がどのように考えているかを見てみます。

「兼業主婦(夫)」で逓減方式を採用している裁判例は26件ありました。

そのうち,
兼業主婦として一般的と思われる17件について,
兼業仕事の状況を考慮しているかをみてみると,

兼業仕事の稼働状況を考慮している裁判例は6件ありました。

例えば,横浜地判令和3年3月10日です。

この裁判例では,
フラダンス教室を経営していた被害者について,

仕事の稼働状況を認定した上で,

入院期間(2回)97日間を100%
通院期間のうち当初213日間を50%
その後496日間を30%
さらにその後265日間を20%

として,

・仕事と家事の全体についての休業損害

を算定しています。

他方で,

・ 兼業の仕事を実際にはできているにもかかわらず,
・ 逓減方式を採用して休業損害を認定した裁判例

も4件ありました。

残り7件については,判決文からは,

兼業仕事がどこまでできていたのか
仕事への影響をどの程度考慮したのか

が分からないものでした。

働きながら家事をしている兼業主婦(夫)の場合,「家事労働」についても,外で働く仕事と同程度に支障が続くと考えることは,公平感覚としても採用しやすいので,計算方法として採用されやすいと言えるのではないかなと思いました。
交通事故の被害者としては,この点も意識して,選択しながら請求することも大事でしょう。

まとめ 「公平」「平等」と「バランス感覚」

今回の裁判例を見て感じるのは,

やはり交通事故の損害額算定では,

「公平」「平等」
「他の事案とのバランス」

を非常に重視しているということです。

特に家事従業者の場合,

そもそも現実の賃金収入があるわけではないため,

「どれくらい家事ができなかったら,
どれくらいの損害になるのか」

を考えること自体が簡単ではありません。

また,

後遺障害との整合性
兼業仕事の有無
回復状況
通院状況
他の事案との公平感

など,
様々な事情を考慮しながら,
裁判所は「バランス」を取っていることになります。

だからこそ,

「どの程度の休業割合が認められそうか」
「逓減方式が採用される可能性があるのか」

は,
個別事案によってかなり変わってきます。

今回ご紹介したような事情がある場合には,
裁判例の傾向も踏まえながら,
弁護士に相談して,
見通しを検討していくことが大切だと思います。

交通事故の損害賠償では,

どんな損害が認められるのか
どのように計算されるのか
どんな事情が影響するのか

を知っておくことで,
適切な被害回復につながる可能性が高まります。

これからも,
そのための「基準」や「考え方」について,
お伝えしていければと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!