
「セクハラ」が民間企業・会社であったら,企業,会社はどんな固有の責任を負う?
「セクハラ」が国,地方公共団体であったら,国,地方公共団体はどんな固有の責任を負う?
「セクハラ」が大学であったら,大学はどんな固有の責任を負うのか?国公立大学,私立大学の違いは?
私は,主に企業側,会社側でご相談を受けることが多いのですが,「セクハラ」の被害申告があって損害の賠償をするよう請求されているけれど,その場合,会社(使用者)として請求されている通りの金額を支払わないといけないのか,など聞かれることはよくあります。
一方で,私が女性弁護士であることもあって,セクハラ被害を受けた女性からの相談を受けることも時々あるのですが,誰にどのような請求ができるのか,と聞かれることもあります。
セクハラ被害があった場合,被害者は加害者本人に対して請求できる金額と同額の金額を加害者を雇っている企業(会社,事業主)に「使用者責任」として請求することも出来ますので,企業はこの「使用者責任」として慰謝料等の損害賠償義務を負うことに注意が必要です。
しかし,実は,この「使用者責任」だけではなく,職場である会社や大学等が適切な対応を怠った場合,そのこと自体による「固有」の責任として損害賠償義務を負う場合があります。
「固有の責任」は,「セクハラ」発生時に,どのような対応を誤ると発生するのでしょうか?
民間企業,会社,国,地方公共団体,大学という組織の性質の違いによって,違いはあるのでしょうか?
大学で「セクハラ行為」が発生した場合,私立大学,国公立大学という組織の違いによって,固有の責任は違うのでしょうか?
今回は,「セクハラで会社(使用者)が責任を負う場合・負わない場合の違いは?」「セクハラで事業者が負う責任の違いは?私立・国公立大学・民間企業の違い」に引き続き,民間事業者(民間企業・会社),国や地方公共団体,大学の場合の違いなどについて,「セクハラ」を受けたとの被害申出があった場合の会社,学校組織などの事後対応のヒントにしてもらえたらと思います。
「セクハラ」で会社や大学が「固有」の損害賠償責任を負う法的根拠は?
職場が国や地方公共団体の場合に,「セクハラ」で負う「固有」の責任は?
「セクハラ」で一般の民間事業者,国や地方公共団体,大学の場合で,負う「固有」の責任に違いはある?
1 職場が民間事業者(企業・会社)の場合
私立大学も,一般的な民間の会社も「民間事業者」となりますが,私立大学の場合は,大学と学生間ではなく,大学と職員(教職員,事務職員)との関係について,同様の考え方になります。
ここでは,一般的な民間企業,会社の場合で考えていきましょう。
会社の使用者は,「労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするもの」とされ,労働者の生命,身体等の安全確保に必要な配慮をすべき雇用契約上の安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。
この安全配慮義務を広く捉えられ,使用者は従業員に対し,労働契約に付随する信義則上の義務として,働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務(職場環境配慮義務)負うと考えられています。
そのため,企業がセクハラの被害申告があった場合に,これを把握しながらも,必要,充分な調査を行わないような場合,企業(事業主)は,職場環境配慮義務違反に基づく債務不履行責任を負うことになります。
または,一般的な「不法行為」として,不法行為責任を負うことになります。
派遣労働者の場合には,派遣元事業主だけでなく,派遣先事業主も職場環境配慮義務を負いますので(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条4項),派遣先事業主も損害賠償請求されることがあります。
「使用者責任」とは別に,セクハラに対する必要な調査や対応を怠ると,固有の責任を負うことがあることを意識した対応が重要です。
セクハラの被害申告があった後の具体的な対応方法については,「セクハラ(セクシュアルハラスメント)トラブル対応」も参考にしてもらえたらと思います。
2 国または地方公共団体の場合
職場が国や地方公共団体の場合,民間企業のような「雇用契約」「労働契約」がないため,民間企業と同様の「安全配慮義務」「職場環境配慮義務」があるのか,問題となり得ます。
しかし,使用者の安全配慮義務として,公務員(自衛隊員)のケース(最高裁昭和50年2月25日判決)の頃から,裁判所では,公務員であっても「安全配慮義務」があることを前提に判断がなされてきました。
そして,現在では,労働契約法に使用者の安全配慮義務が規定されたこともあり,安全配慮義務の考え方は,国や地方公共団体等が,国家公務員や地方公務員に公務を遂行させる際にも当てはまると考えられています。
判例の理由の中で「安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて,国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく,公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには,国が,公務員に対し安全配慮義務を負い」とされていることから,国や地方公共団体等は,公務員に対して信義則上(民法1条1項)の安全配慮義務を負うと考えられています。
このように,裁判例でもセクハラ申告を受けた現場監督者等は勤務環境を調整すべき義務を負っていると考えられていますので,セクハラに対して適切な対応を行わない場合には,公務員が,その職務を行うについて,故意または過失によって他人に損害を与えたと言え,国家賠償法に基づき,または地方公共団体に対し損害賠償請求されることがあります。
国や地方公共団体(公務員)の場合にも,職場環境を配慮する義務があること,そのために,セクハラに対しても適切な事後対応の必要がありますので,注意しましょう。
3 大学の場合
国公立大学と学生の関係は,議論のあるところですが,教育基本法や学校教育法などの公教育法規が,国公立・私立を区別していないことなどを根拠に,国公立の学校との在学関係を契約関係と捉えられるようになり, 国公立の学校との在学関係を私立の在学契約関係と基本的には同様に取り扱ったことによって,学説・判例 では,概ね国公立の学校との在学関係も私立と同様に捉える立場を採用していると思われます。
国公立大学の法人化によって私立大学と同様,法的な「契約関係」であることを前提に考えて良いと思われます。
そのため,学生は,国公立,私立のいずれでも,大学との間で大学の在学契約を締結しているため,大学は学生に対し,在学契約に付随する信義則上の義務として,教育を受け,研究しやすい環境を保つよう配慮すべき義務(教育研究環境配慮義務)を負うと考えられています。
したがって,大学が,学生に対するセクハラを把握しながら適切な対応を行わない場合には,被害者である学生は,大学の教育研究環境配慮義務違反を理由に損害賠償請求をすることが考えられます。
被害者が教職員,事務職員の場合には,私立大学の場合は,前記1の職場が民間事業者の場合,国公立大学の場合には前記2の職場が国または地方公共団体の場合と同様に考えることになります。
「セクハラで事業者が負う責任の違いは?私立・国公立大学・民間企業の違い」で記載したように,国公立大学・私立大学も,民間事業者同様の安全配慮義務(≒職場の環境,安全を守る義務)はありますので,大学生間のセクハラについても,大学が安全な教育環境を確保するため,セクハラ被害を防止し,相談窓口の設置し,相談があれば事実認定をして懲戒処分(退学・停学等)を行う責任がありますので,注意は必要です。
安全配慮義務・環境配慮義務~まとめ
公務員として国や地方公共団体で働いているのか,民間企業(会社)で働いているのかによって,その職場との関係は異なる点もありますが・・・
「セクハラ」に対する対応が必要な理由には共通点があります。
それは,そこで働く以上「職場環境」を共にしなければいけない人間関係を避けられない,ということです。
そのため,強制的に「職場」を共にさせる以上,(法律上の明文規定はないけれど)その職場環境は企業等の働いてもらう側で整えなければいけないよね,
これが大まかなイメージですが,「安全配慮義務・職場環境配慮義務」になります。
大学の場合,大学とそこで働く職員(教職員,事務職員)は同様の関係となる上に,「学生」が入ることでさらに,学生に対しても「教育研究」のための「環境配慮義務」を負うことになります。
学生は,大学との間で「在学契約」をしていて,そのために「教育」をうけ,「研究」を行おうとすれば,大学という「環境」を共にせざるを得ないことになります。
そのため,強制的に学生に対して「教育研究」を共にさせる以上,その環境は大学という環境を提供する側で整えなければいけないよね,
これが大まかなイメージだと,学生に対する「教育研究環境配慮義務」になるかな,と思います。
従業員は,働いて給与をもらえればいいのだけれど,働く以上「職場」での環境に所属することを免れない・・
学生も,教育を受けられ,研究が出来ればいいのだけれど,大学で学ぶ以上,その学ぶ環境に所属することを免れない・・
だから,安心して,安全に本来の目的(働いて給与を得ること,教育研究できること)が果たせるよう,環境を整えてもらわないと困る,ということで,これらの義務は認められているということになると思います。
これを,裁判所では「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」と表現していることになりますね!
つまり,他人どおしのような薄い接触関係ではなく,契約関係等に基づき「特別」な濃い「接触関係」を作り出しているから負う義務ということになりますね・・・
他にどのような場合がありそうか・・?
同じような「接触関係」を作っている場合には,ありえますね。
例えば,介護施設における入居者さんと介護事業者さんとの関係も同様の判断があり得るかな・・と思います。
「セクハラ行為」を直接していなくとも,他の人もセクハラ行為をしないように注意すべき義務があるのは誰なのか・・?どんな状況,環境のときなのか?
職場,大学のような「特別な社会的接触」を伴う場所では,その場所を設置している会社,大学には「その場」で「セクハラ」行為が生じないように注意すべき義務はある。
その範囲,すべきこと,法律上出来ることは,民間企業なのか,私立大学なのか,国公立大学なのか,法的な根拠の違いはあるけれど,共通点も多いので,今回ご紹介しました。
「セクハラ行為」について,負うべき法的義務の「共通点」と「違い」を意識しながら適切な判断,対応するヒントになったらいいな,と思っています。
今回の加害者本人でない,いわゆる「組織」としての責任は,どのように発生し,どこまで対応する必要があるのか?
迷う場合には,弁護士に相談しながら決めてもらえたらと思います。
セクハラで損害賠償請求を受けないよう,配慮すべきことは何か?
被害者にどんな間違った対応をすると,企業の損害が拡大してしまうのか?
企業や会社が「セクハラ」対応をする際に,不安に思ってしまった場合や,会社側からの視点だけで誤った対応をしてしまわないよう,これからも伝え続けていきたいと思います。
セクハラ被害の発生予防や発生後の被害拡大を避けるために・・
何が現在の基準に当てはめると「セクハラ」となるのか,どんな証拠があると「セクハラ」と認定されやすいのか,加害者本人や会社にどんな損害が生じるのか,セクハラ被害が発生後にどのような対応が必要になるのかなど,これからも伝えていきたいと思います。
そうすることで「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,人間関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。
今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!