困った社員に対する対処法・予防法~⑤メンタルヘルス不調により業務遂行が困難とみられる社員に対する対処法

事務所では、使用者側の労働問題に注力し、経営者のサポートをさせていただいておりますが、経営者の方から相談されることが多い「困った社員に対する対処法」について、引き続き、記載していきたいと思います。

第1回目は「経歴詐称をした社員に対する対処法」、第2回目は「勤務成績・勤務態度不良の社員に対する対処法」、第3回目は「不正行為を行う社員に対する対処法」、第4回目は「パワハラ行為を行う社員に対する対処法」について記載しましたが、第5回目となる今回は、「メンタルヘルス不調により業務遂行が困難とみられる社員に対する対応」について取り上げたいと思います。

1 社員が休職していない場合

社員が業務に起因してうつ病罹患等のメンタルヘルス不調になり、又はうつ病罹患後に自殺した場合、企業は社員又はその相続人に対して安全配慮義務違反等に基づく損賠賠償義務を負う可能性があります。そのような事態に陥る前に、社員にメンタルヘルス不調の疑いが生じた場合には、早急に対処する必要があります。

(1)専門医への受診を勧奨する。…社員のメンタル不調の原因が長時間労働に起因する場合には、法律上、医師による面接指導が義務付けられているため(労働安全法66条の8第1項)、産業医による面接指導も勧奨すべきです。

(2)専門医への受診命令を出す。…社員がメンタルヘルス不調を認めたがらず、専門医への受診を拒否することがありますが、その場合は、業務命令として、専門医への受診命令を出します。但し、就業規則の定めがある場合には規定内容が合理的であること、就業規則の定めがない場合には受診命令が合理的かつ相当な措置であることが必要です。社員のメンタル不調の原因が長時間労働に起因する場合には、面接指導の受容命令も検討することになります。社員が専門医への受診命令等にも従わない場合には、①休職命令を出し、社員が業務を続けたいのであれば、復職のために必要な産業医の診断や復職プランの遂行を求める、②健常者として業務を行わせ、職務遂行能力に大きな問題がある場合に普通解雇事由に該当するとして解雇する、といった方法が考えられます。もっとも、休職命令については、下記1(4)のとおり、社員のメンタルヘルス不調の可能性が高いことをしっかりと裏付けておかないと、休職命令の発令自体が無効と評価されかねないため、注意が必要です。

(3)専門医が診察した結果、「就業制限」の判断がなされた場合は、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更などの措置を講じる。

(4)専門医が診察した結果、「要休業」の判断がなされた場合は、休暇、休職等により一定期間勤務させない措置を講じる。…休職命令が有効であるためには、①債務の本旨に従った労務提供がなされていないこと②業務に支障が生じていること、が必要です。休職制度は社員に不利益を課すことから(その期間中は原則無給とされる、退職金算定上不利になる、社員が回復しないまま休職期間満了となれば自然退職又は解雇になる等)、休職事由の該当性は厳格に判断する必要があります。

 

2 休職していた社員に回復の見込みが無い場合

休職していた社員が治癒した(従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復した)かどうかについては、産業医の意見を踏まえ、企業の人事部門が最終的な判断を行います。社員の主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らないため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医などが精査したうえで採るべき対応を判断し、意見を述べることが必要になります。

社員が治癒したと判断できず、今後回復する見込みもない場合は、自然退職や解雇を検討することになりますが、社員から、治癒していたにも拘わらず自然退職や解雇に追い込まれたとして、企業の責任を問われた場合に備えて、治癒したかどうかだけでなく、社員の復職可能性を十分検討しておく必要があります。

具体的には、疾患が残っていても、就業可能な職種があれば、他職種への転換を検討します。業務時間や業務内容を制限した試し出勤(リハビリ出社)を行い、当該職種において労務を提供することが可能かどうか検討し、当該職種に配置することが可能であれば配置し、当該職種に配置することが困難であれば、自然退職又は解雇に至ることになります。後に紛争となった場合に備えて、検討の過程については議事録等を作成し、証拠化しておくことが望ましいです。

 

メンタルヘルス不調は、その有無や程度の判断が他の傷病に比べて難しいこともあり、対応を誤ると、重大なトラブルに発展してしまうこともあります。

多治見ききょう法律事務所では、使用者側の労働問題のご相談・ご依頼、セミナー等を承っておりますので、ぜひご利用ください。

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