困った社員に対する対処法・予防法~③不正行為を行う社員に対する対処法

当事務所では、使用者側の労働問題に注力し、経営者のサポートをさせていただいておりますが、経営者の方から相談されることが多い「困った社員に対する対処法及び予防法」について、引き続き、記載していきたいと思います。

第1回目は、「経歴詐称をした社員に対する対処法」、第2回目は、「勤務成績・勤務態度不良の社員に対する対処法」について記載しましたが、第3回目となる今回は「不正行為を行う社員に対する対処法」について取り上げたいと思います。

 

1 事実関係の調査

まずは事実関係をきちんと調査し、客観的な証拠に基づいて事実を把握することが必要です。

また、社員本人や関係者に対するヒアリングを実施し、聴取した内容を書面にまとめることも大切です。その際、被聴取者に署名・捺印させることが望ましいです。

 

2 懲戒処分

調査結果をもとに、社員の不正行為が就業規則の懲戒事由に該当するかについて検討します。

懲戒処分を行う際には、不正行為を行っていた期間・頻度、会社の損害額の多寡などに応じて、他の事案とのバランスを考える必要がありますし、他の社員に対して会社の対応を示すという意味もあることから、慎重な判断が求められます。特に、懲戒解雇については、懲戒解雇に相当する悪質性があるか、それを証明できるだけの証拠が揃っているかについて、慎重に判断する必要があります。

 

3 社員への損害賠償請求

社員が故意又は過失による違法行為によって会社に損害を与えた場合には、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が認められますし、社員が労働義務又は付随的義務に違反して会社に損害を与えた場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求が認められます。

(1)請求金額について

会社は、事業の性格、規模、施設の状況、社員の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての会社の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で、社員に対して損害賠償請求することができるとされています。

そこで、①労働者の帰責性②労働者の地位・職務内容・労働条件③損害発生に対する使用者の寄与度を基準に、社員に対して、損害額全額を請求するかどうか判断します。

(2)回収方法について

社員が損害賠償金を一度に支払うことが困難である場合には、債務弁済公正証書を作成する等の方法によって、支払を担保する方法を検討します。

また、社員が引き続き会社に勤務する場合の賃金や、退職する場合の退職金と相殺する方法もあります。もっとも、会社が、社員の賃金債権と会社が有する損害賠償請求権を一方的に相殺することは、賃金全額払いの原則を定める労働基準法24条1項に反して許されないため、社員の自由な意思に基づく相殺の合意が必要となります。社員の自由な意思に基づく同意であると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在することを証拠化するために、社員に対し、相殺の同意書の提出を求めましょう。なお、月々の控除額は、社員の生活に支障をきたさない程度であることが必要です。

 

4 刑事告訴

社員の不正行為が窃盗罪・横領罪・背任罪等の刑法上の犯罪行為に該当する場合には、会社は被害者として社員を刑事告訴するかどうか検討することになります。犯罪者を庇うことに対する社会的な非難が強まっていることや、インターネット等によって会社内部の秘密にし続けることが難しい現状を踏まえたうえで、会社の風評や他の社員・株主等に与える影響等も考慮して、慎重に判断する必要があります。

 

困った社員への対応を誤ると、重大なトラブルに発展してしまうこともあります。

多治見ききょう法律事務所では、使用者側の労働問題のご相談・ご依頼、セミナー等を承っておりますので、ぜひご利用ください。

この記事を書いた弁護士

矢野 沙織
矢野 沙織
岐阜県土岐市出身,多治見北高・慶應義塾大学総合政策学部卒業。中央大学法科大学院修了。夫婦カウンセラー資格取得。
名古屋市内での勤務弁護士時代に交通事故案件,労働審判案件,民事再生事案を多数経験。
現在は,離婚案件のほか,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

コメントを残す