企業のセクハラ対策(客などの第三者によるセクハラ被害の対処法)

前回のブログ(平成31年2月2日掲載)で、従業員によるセクハラ被害に対する企業の対応策について記載しましたが、客によるセクハラ被害に関する最高裁判例を受けて、今回は、客などの第三者によるセクハラ被害に対する企業の対応策について記載したいと思います。

 

1 最高裁判例(平成30年11月16日 最高裁第三小法廷 判決)

地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れたンビニエンスストアの女性従業員に対して、不適切な行為(女性従業員の手を握って店内を歩行し、女性従業員の手を自らの下半身に接触させようとする、胸を触る、男性の裸の写真を見せる、胸元をのぞき込む、「乳硬いのう」「乳小さいのう」「制服の下、何つけとん」「胸が揺れとる。何カップや。」といった不快な発言をする)をしたことを理由に停職6か月の懲戒処分を受け、処分の取消しを求めた事案です。

1審・2審判決では、女性従業員が「終始笑顔で行動しており、これ(男性職員による身体的接触)について渋々ながらも同意していたと認められる」とし、男性職員の処分が重すぎると判断しました。

これに対し、最高裁判決では、女性従業員が「終始笑顔で行動し、(男性職員による)身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、それは客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり、身体的接触についての同意があったとして、これを男性職員に有利に評価することは相当でない」とし、男性職員の処分が著しく妥当性を欠くものではないと判断して、男性職員の請求を棄却しました。

コンビニエンスストアの従業員は、立場上、利用客の迷惑行為に対して嫌悪や拒絶の意思を明確に示すことや、店舗の利用を拒絶する、接客をしないといった対応をとることが困難であり、女性従業員が男性職員の不適切な行為に対して明確に拒否する言動をしていないことを捉えて、女性従業員がセクハラ行為について渋々ながらも同意していたと判断した1審・2審判決には、違和感を覚えます。

店舗のオーナーは、男性職員の不快な言動について女性従業員から頻繁に報告を受けており、これを理由の一つとして退職した女性従業員がいたにもかかわらず、商売に支障が生じないよう、しばらくの間、黙認していたとのことですが、客であるからといって、社会的にも強く非難されるべき破廉恥なセクハラ行為を黙認すべきではありません。

 

2 セクハラ被害に関する企業の法的責任

加害者が会社の従業員なのか、客などの第三者であるかにかかわらず、企業には従業員をセクハラ被害から守り、職場環境を整える義務があるため、加害者が第三者であるからといって企業の法的責任が軽減されることはない点について注意が必要です。

①債務不履行責任…企業は、労働者に対し、労働者との間の雇用契約に基づく付随義務として、労働者の労働環境を調整し、快適な環境を提供する義務があるとされます。したがって、セクハラ被害を認知したにもかかわらず放置したような場合には、この義務を怠ったものとして債務不履行責任を負うことがあります。

②男女雇用機会均等法11条違反…労働者がセクハラ被害を受けている場合には、企業はセクハラ行為を止めさせるために必要な措置を講じる必要があります。それにもかかわらず、セクハラ被害を放置ないし黙認すれば、それ自体が法律違反となり、損害賠償責任を負うことがあります。

③労災補償責任…企業がセクハラ被害を放置ないし黙認したことにより、労働者が精神疾患等のメンタル不全を招来した場合には、仮に企業に過失がなくとも、労災補償責任を負うことになります(無過失責任)。

 

3 客によるセクハラ被害の対処法

①職場に男性従業員がいる場合には、担当者を男性従業員に変更する。

②セクハラ加害者に対して注意・警告をする。

③(注意しても聞き入れない場合は)セクハラ加害者を出入り禁止にする。

③防犯カメラを設置する、会話を録音する等して、セクハラ被害の証拠を確保し、法的措置を検討する。

④通報する。                                                                     →強制わいせつ罪等の犯罪行為に該当する場合には、警察に通報する。上記判例のケースのように、勤務時間中のセクハラ行為であれば、使用者に通報する。

 

日本では、「お客様は神様」「おもてなし」といった風潮があるせいか、お客を相手に毅然とした対応をとることが難しく、セクハラ行為を黙認してしまっていることがあります。しかし、セクハラ被害を放置しておけば、女性従業員が辞めてしまったり、他の従業員の意欲も低下する等、セクハラ行為を行う客がもたらす利益以上の損失が出てしまうこともあります。働き手が不足している現代社会において、企業は労働者の労働環境を守り、人材の喪失を防ぐことが大切です。

多治見ききょう法律事務所では、セクハラトラブルの対応に関するご相談・ご依頼を承っております。ぜひ専門家である弁護士にご相談ください。

この記事を書いた弁護士

矢野 沙織
矢野 沙織
岐阜県土岐市出身,多治見北高・慶應義塾大学総合政策学部卒業。中央大学法科大学院修了。夫婦カウンセラー資格取得。
名古屋市内での勤務弁護士時代に交通事故案件,労働審判案件,民事再生事案を多数経験。
現在は,離婚案件のほか,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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