子どもの頃に慣れ親しんだ曲が実は……

東濃地方も梅雨入り

梅雨に入り,どんよりとした雲に覆われる日が続いています。

しかし,ふと街角のあじさいに目をやると,花弁が雨に濡れて,よりいっそう華麗に見えることに気づきます。

関東にいた頃は,あじさいを見に都内や鎌倉に出かけたり,しょうぶを見に行ったりしたものです。

ちなみに,これは東京都内のちょっとしたあじさいの名所である,多摩川台公園で5年前に撮ったものです。

今日の著作権にまつわる話は……

今日は,著作権について,子供の頃に慣れ親しんだ曲に関する事件を中心に話を勧めていくこととします。

第1.子どもの頃に慣れ親しんだ曲が実は……

小学生の頃,皆で歌った曲が……

明石家さんまさんが"先生"を務めたバラエティ番組「あっぱれさんま大先生」。

小学生の頃,卒業に関連する行事において,この番組のエンディングテーマとなった楽曲を皆で歌った記憶があります。

当時,多くの学校で,合唱曲の1つとして選ばれたのだと思います。

その後,何年か経ち,この楽曲が,小林亜星さん作曲の「どこまでも行こう」を盗作したものではないのかとして,訴訟に発展しました。

盗作疑惑が浮上した楽曲の名は「記念樹」。

裁判所は著作権侵害等を認める

最終的に,東京高裁で小林さんらの主張が認められました。

現在では,東京高裁の管轄に属する事件のうち,特許権や著作権など知的財産に関する控訴事件は東京高裁の特別の支部である知財高裁が取り扱いますが,当時は,知財高裁が設置される前だったので,東京高裁が判断しています。

小林亜星さんの氏名表示権同一性保持権を侵害し,小林さんから著作権を譲り受けた会社の編曲権を侵害しているとして,損害賠償請求権が認められたのです。

子どもの時に慣れ親しんだ楽曲が,著作権著作者人格権を侵害しているものだと認定されるのは衝撃的でした。

第2.複製と翻案そして編曲をめぐる争い

1.はじめに

今回は,複製権と翻案権,特に複製と翻案の違いについて解説しつつ,「記念樹」と「どこまでも行こう」という2つの楽曲を巡る訴訟について,どういう理由から,「記念樹」が「どこまでも行こう」の違法な編曲に当たるとして編曲権侵害が認められたのか,紹介していきます。

著作権は支分権の束

著作権は,いくつかの権利(支分権)の束となっています。その中の1つが複製権であり,翻案権です。

複製権は,大雑把に言うと,無断でコピーされない権利翻案権は,無断でアレンジを加えたりされない権利となります。

2.複製権

たまたま同じものを創ったならば侵害にはならない

無断でコピーされないという権利ですが,たまたま,別の人が独自に,同じものを創り出す場合は複製権侵害には当たらないとされます。

判例(昭和53年9月7日最高裁判決:ワン・レイニ―・ナイト・イン・トーキョー事件)も,

ここにいう著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はない

としています。

最近の裁判例の定義・判断枠組み

最近では,知財高裁の判決(平成25年9月30日知財高裁判決:風にそよぐ墓標事件)では,従来の判例(平成13年6月28日最高裁判決:江差追分事件など)を踏まえ,複製・翻案の定義を次のように整理しています。

複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照),言語の著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現することなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解される。

また,言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表 現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を 直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。

そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既存の著作物に依拠して作成又は創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著 作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないというべきである。

つまり,「複製」の定義とは

このような判例・裁判例に照らすと,複製については,

  1. 今ある著作物に基づいて
  2. 今ある著作物に修正などを加えても,新たに個性の現れた表現をつくることなくその表現の本質的な特徴の同一性を維持し,表現に接する者が今ある著作物の本質的な特徴を直接感じ取ることができるようなものを作成すること,

を満たす必要があります。

今ある著作物に基づいてとありますから,たまたま,別の人が独自に,同じものを創り出す場合は,今ある著作物に基づいてコピーしたわけではありませんから,複製には当たらないのです。

3.翻案権

一方,翻案の定義は

一方,判例(平成13年6月28日最高裁判決:江差追分事件)やさきほど紹介した裁判例に照らすと,翻案とは,

  1. 今ある著作物に基づいて,
  2. 今ある著作物に修正などを加えて,新たに個性の現れた表現をつくること,
  3. その表現に今ある著作物の本質的な特徴が存在すること,

の3つを満たす必要があります。

したがって,今ある著作物に基づいて新しい著作物を創作したとしても,今ある著作物の表現上の本質的な特徴を直接感じとることができないものは翻案にあたりません。

4.複製と翻案の違い

今ある著作物に基づいて,今ある著作物をコピーすることと,今ある著作物に基づいて,今ある著作物にアレンジを加えること。いずれも,今ある著作物に基づいていることは共通します。

複製と翻案とでは,今ある著作物に何らかの個性が新たに加わっているかどうかが違ってくるわけです。

5.編曲権

著作権法は,27条で,「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と定めています。

このように,翻訳権,編曲権,変形権,翻案権が認められています。

このうちの編曲権が問題となった訴訟が,「記念樹」という曲と「どこまでも行こう」という曲を巡る訴訟です。

6.記念樹事件

東京高裁(東京高裁平成14年9月6日判決)が,どのような思考過程により,「記念樹」が「どこまでも行こう」の違法な編曲に当たるとして編曲権侵害を認めたのか。それは次のような流れになります。

著作権法にいう「編曲」とは?

東京高裁は,翻案に関して最高裁の示した

「既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表 現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」

という判断枠組みに準じて,

「編曲」とは

「既存の著作物である楽曲に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が原曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である楽曲を創作する行為をいう」

と定義づけ,この判断枠組みに基づき,楽曲の本質的な特徴の同一性と依拠性とを分けて検討しています。

楽曲の本質的な特徴の同一性

本質的な特徴を直接感得することのできるものかどうかについては,

まず,

「少なくとも旋律を有する通常の楽曲に関する限り,著作権法上の「編曲」の判断において,相対的に重視されるべき要素として主要な地位を占めるのは,旋律である

とし,表現の本質的特徴を基礎づける中心的要素が旋律であるとしています。

そして,これを踏まえ,

  • 「記念樹」は,その一部にどこまでも行こうにはない新たな創作的な表現を含むものではある。
  • しかし,旋律の相当部分は実質的に同一といい得るものである上,旋律全体の組立てに係る構成においても酷似している
  • 旋律の相違部分や和声その他の諸要素を総合的に検討しても,甲曲の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものであって,「記念樹」に接する者が「どこまでも行こう」の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものというべきである

としました。

依拠性

依拠しているか,つまり「どこまでも行こう」に基づいて編曲されているか,については,

  • 「どこまでも行こう」は,昭和40年代から「記念樹」の作曲された当時(平成4年)にかけての時代を我が国で生活した大多数の者によく知られた著名な楽曲である。
  • 「どこまでも行こう」と「記念樹」の旋律の間には「記念樹」が「どこまでも行こう」に依拠したと考えるほか合理的な説明ができないほどの顕著な類似性がある。
  • そのほか,「記念樹」の作曲者側が「記念樹」の作曲以前に「どこまでも行こう」に接したであろう可能性が極めて高いことを示す客観的事情がある
  • これを否定すべき事情として作曲者側が主張するところはいずれも理由がないし,他に的確な反証もない。
  • これらを併せ考えると,「記念樹」は、「どこまでも行こう」に依拠して作曲されたものと推認するのが相当である

として「記念樹」が「どこまでもいこう」に基づいて編曲されたのだと認定しています。

この背景には,「どこまでも行こう」がブリジストンのCMソングで,長期間,かなりの回数日本国内で流れていたことが挙げられます。

「編曲」と認定

このように,楽曲の本質的な特徴の同一性と依拠性いずれも認められるとして,「記念樹」は「どこまでも行こう」の違法な編曲であるとしました。

そして,小林亜星さんから著作権を譲り受けた会社の編曲権と,小林亜星さんの著作者人格権(同一性保持権と氏名表示権)を侵害していると結論づけました。

子どもの時に慣れ親しんだ楽曲が,著作権・著作者人格権を侵害しているものだと認定されるのは衝撃的でしたが,その判断の背景には,従来の「翻案」に関する判例に準じた解釈をした上で,2つの曲が旋律を中心として顕著に類似していること,そして,「どこまでも行こう」が大変著名な曲で「記念樹」の作曲者が「どこまでも行こう」に接することができた可能性が極めて高いことが鍵となっていました。

ちなみに,小林亜星さんの「どこまでも行こう」は,最近では,ブリジストンが2020年に向けて制作したCMの中で流れていますが,やはり,「記念樹」は「どこまでも行こう」によく似ていたんだと改めて感じています。

7.次回予告

次回は,複製しても複製権侵害とならない場合について紹介していきます。

この記事を書いた弁護士

藤田 聖典
藤田 聖典
長崎県出身,愛知県立旭丘高校・慶應義塾大学経済学部経済学科卒。
大学卒業後,テレビ放送局ディレクターを経て法科大学院に入学。法科大学院修了後,東京都内の有名進学塾の副校長在職中に司法試験に合格し,弁護士資格を取得。
法科大学院では,知的財産法を専攻。合格後の司法修習中も東京地方裁判所の知的財産権部や知的財産高等裁判所(知財高裁)で知的財産を中心に学ぶ。
中小企業の法律問題では,著作権,商標権,意匠権,不正競争防止法,契約書の作成・確認,不動産賃貸借,建築紛争,クレーム対応などが主な取扱い分野。
地域密着の弁護士を目指し,多治見市での就業を選択。
相続・離婚など家庭での法律問題も取り扱っています。

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