ついに50年から70年へ〜著作権の保護期間延長の動き

時が経つのは早いもので,2018年(平成30年)の3分の1が過ぎようとしています。

2018年の今年は,パリで活躍した画家である藤田嗣治(レオナール・フジタ)の没後50年ということで,7月31日から10月8日まで東京・上野の東京都美術館で,そして10月19日から12月16日まで京都の国立近代美術館にて,「没後50年 藤田嗣治展」が開催される予定です。

藤田嗣治の展覧会といえば,東海地方では,2016年に名古屋市美術館で藤田嗣治展が開催されています。私は,司法試験の最終日,試験を終えた直後に展覧会を観に行っています。

今回の展覧会も,おそらく秋頃に上野に観に行くと思います。

 

さて,没後50年ということですが,現行の著作権法では,没後50年というのはかなり重要な区切りとなっています。

著作権が保護される期間は,映画の著作物を除けば,死後50年を経過するまでの間とされているからです。実は,どうやら,この50年という期間が,年内又は来年には70年に延びることとなりそうです。

70年に延びるのは年内かそれとも来年からか……

ある作品が来年1月以降著作権切れとなるかならないか,大きく左右することとなります。

今回から,著作権について解説していきますが,今回は著作物と著作権の概要そして著作権の保護期間をめぐる最新の動きを解説していきます。

第1 著作者・著作物

1 著作者とは著作物を創作する人

著作物を創作する人著作者といいます(著作権法2条1項2号)。

その著作者に認められた権利の一つが著作権

著作者には著作権のほか,著作者人格権も認められています。

著作物を創作する人を著作者といいますが,そもそも著作物とはどういうものをいうのでしょうか。

そして,著作権とは具体的にはどういうものをいうのでしょうか。

2 著作物とは?

著作物とは,著作権法では,

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。(著作権法2条1項1号)

と定義しており,この定義に当てはまるものでなくてはなりません。

思想又は感情を表現したもの

「思想又は感情」を「表現したもの」でなければ著作物とはいえません。

富士山の高さは3776メートル,東京スカイツリーの高さは634メートル,慶應義塾の創立者は福澤諭吉先生というように,「思想又は感情」ではなく単なる事実やデータは著作物から除外されます。

著作権は,あくまで,アイディアではなく,具体的な「表現」を保護するものです(表現とアイディアの二分論)。

例えば,<雪の青森駅の情景>や<青函連絡船で龍飛岬を指差す姿>を描いた歌であっても,異なる旋律や歌詞など異なる表現を使えば,著作権侵害には当たりません。<雪の青森駅の情景>というアイディアまで保護されると,雪の青森駅に関する歌が一切発表できなくなってしまいます。

スマホが広まる前の話になりますが,8年ほど前は,携帯電話(今でいうガラケー)で楽しめるゲームが若者に人気でした。そんな中,グリーが,モバゲーの「釣りゲーム」が自社の「釣りゲーム」が酷似しているとして,モバゲーを運営するDeNAに対し,著作権(具体的には翻案権・公衆送信権)と著作者人格権(同一性保持権)の侵害を理由に差止や損害賠償を求めました。

しかし,知財高裁は著作権や著作者人格権侵害には当たらず,グリーの請求は認められないとしました。その際,釣りゲームで魚を釣って引き上げることを表現した画面は,ありふれた表現だったり,アイディアは同じだけども具体的な表現は両社で異なるとして,著作権侵害等には当たらないと指摘しました(知財高裁平成24年8月8日判決)。

創作的に表現したもの

条文に「創作的に表現した」とあるように,著作物であるためには,創作性も必要です。しかし,創作性といっても,なにか芸術的価値が高いことまでは必要はなく,何らかの個性が現れていればいいとされます。

なにかを表現するためにはその表現をせざるを得ないというように,表現に選択の幅がない場合,創作性が否定されます。

さらに,さきほど「釣りゲーム」のところで話したとおり,誰が表現しても同じようなものになるというように,ありふれたものについては,創作性が否定されます。

文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの

「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」ともありますが,知的・文化的な精神活動によって生まれるものを広く指すとされます。

著作物の具体例

著作物とは具体的にどのようなものなのでしょうか。著作権法は,9つの例を挙げています(10条)。

一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物

二 音楽の著作物

三 舞踊又は無言劇の著作物

四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

五 建築の著作物

六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物

七 映画の著作物

八 写真の著作物

九 プログラムの著作物

これらについては今後詳しく解説していきます。

3 申請・登録不要

特許権や意匠権,商標権と違い,申請や登録をする必要がありません。著作権は,著作物が創作されることにより当然に発生します(無方式主義)。

第2 著作権の種類

著作物を創作する人に認められた権利が著作権ですが,著作権とは具体的にはどういうものをいうのでしょうか。

著作権は,英語では,copyrightコピーライトといいます。

文字通り,コピーをする権利ということですが,著作権というと,どのようなかたちであれ著作物を形のあるものにコピーする(有形的に再製する)複製する権利である複製権が中心的な権利となります。

コピーを作ること以外にも,著作物を不特定又は多数の人に直接伝えることコピーを使って著作物を不特定又は多数の人に伝えること既存の著作物をもとにして新しい著作物を創作することに関する権利が著作権に含まれます。

著作権法は,著作権に含まれる権利として次のような権利を挙げています。

複製権

上演権及び演奏権

上映権

公衆送信権等

口述権

展示権

頒布権

譲渡権

貸与権

翻訳権、翻案権等

個々の権利については,今後説明していきます。

第3 著作権はどれくらいの期間保護されるのか

1.現行法では原則死後50年,映画は公表後70年

著作権は,映画以外の著作物については,原則として,著作物が創作された時に始まり,著作者の死後50年を経過するまでの間存続します。

映画の著作物については公表後70年間となります。

映画以外の著作物で無名・変名のものや法人・団体名義の著作物については公表後50年間となります。

計算の仕方は,原則として,著作者が死亡した日や著作物が公表・創作された日のそれぞれの属する年の翌年の1月1日からカウントします。

例えば,三島由紀夫の作品については,三島由紀夫が亡くなったのは1970年(昭和45年)11月25日ですから,その翌年の1971年1月1日から起算し,現行法に従えば,その50年後の2020年12月31日までが著作権の保護期間となります。

2.TPP11と著作権保護期間

TPPと著作権法改正

今,著作権は「著作者の死後50年を経過するまでの間存続します」と説明しましたが,映画以外の著作物についても,この50年が年内又は来年には70年に延びることとなりそうです。

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)という言葉は聞いたことがあるでしょうか。

太平洋を取り巻く12の国の中で関税を取り払い,貿易や投資のルールを揃え,一つの経済圏をつくろうとするものでした。

このTPPの中で,例えば,著作権の保護期間を50年から70年にするという話になっていました。

それに合わせて実は既に著作権法改正は行われており,ただ,改正法の施行がTPP協定の発効日だったのでストップしている状態になっています。

昨年,アメリカ合衆国でトランプ政権が発足し,アメリカ合衆国はTPPからの離脱を表明したため,改正法の施行が困難になったからです。

TPP11と改正法の施行

とりあえず残った11カ国で早くスタートさせようということになり(TPP11と言われます),今年の3月にチリで合意文書の署名式が行われました。

このTPP11の中では,TPPの中にあった知財に関する規定が凍結されたので,著作権の保護期間は当分延長されないのかに思われました。

ところが,日本とヨーロッパ連合の自由貿易協定の中でも著作権の保護期間の延長が盛り込まれることとなり,結局,政府は,世界各国と足並みをそろえようと考え,TPP11の発効を機に著作権保護期間を70年に延長する改正法も施行できるよう,今国会に法案を提出しました。

したがって,映画以外の著作物についても今国会で50年から70年に延長することが現実のものとなりそうです。

これが実現されると,さきほど紹介した三島由紀夫作品の保護期間は,2040年12月31日まで延長されることとなります。

改正法の施行日は,TPP11の発効日とされています。

そして,死後50年を経過した日が施行日(TPP11の発効日)よりも後となるならば,すべて70年に延長されます。

TPP11発効時期と保護期間

TPP11については年内発効を目標に動いているようですが,年内発効となるのか年をまたぐのかで大きく結論が変わりそうなのが,藤田嗣治作品です。

藤田嗣治は1968年1月29日に亡くなっており,現行法では著作権の保護期間はその翌年の1969年1月1日から起算してから50年間,つまり2018年12月31日までとなります。年内に改正法が施行となると,藤田嗣治作品の保護期間は一気に2038年12月31日まで延びてしまいます。

なお,藤田嗣治はフランスに帰化していますが,帰化したのは1955年で戦時中は従軍画家として戦争画を描いたことからも知られるようにフランス国民として創作した事実はなく,戦時加算(日本国との平和条約(サンフランシスコ平和条約)15条(c),連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律4条参照)の対象とはならないでしょう。

実は,今国会,ここで紹介した著作権の保護期間の延長のほか,成人年齢の18歳への引下げ,働き方改革関連法案など重要な法案の審理が目白押しです。

今国会,御存知の通り,次から次へと色々なことが勃発していますが,著作権の保護期間の延長の動きも注目していただければと思います。

この記事を書いた弁護士

藤田 聖典
藤田 聖典
長崎県出身,愛知県立旭丘高校・慶應義塾大学経済学部経済学科卒。
大学卒業後,テレビ放送局ディレクターを経て法科大学院に入学。法科大学院修了後,東京都内の有名進学塾の副校長在職中に司法試験に合格し,弁護士資格を取得。
法科大学院では,知的財産法を専攻。合格後の司法修習中も東京地方裁判所の知的財産権部や知的財産高等裁判所(知財高裁)で知的財産を中心に学ぶ。
中小企業の法律問題では,著作権,商標権,意匠権,不正競争防止法,契約書の作成・確認,不動産賃貸借,建築紛争,クレーム対応などが主な取扱い分野。
地域密着の弁護士を目指し,多治見市での就業を選択。
相続・離婚など家庭での法律問題も取り扱っています。

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