債権法改正シリーズ第8回目 定型約款について

債権法改正シリーズ第8回目は、定型約款に関する部分です。

 

現在、預金取引、各種保険取引、鉄道やバスといった旅客運送取引、宿泊施設における利用規約など「約款」を用いた取引が広く行われています。近年では、インターネットビジネスにおいても、約款取引が多用されています。

このような約款による取引は、大量の取引を迅速且つ効率的に行うため、あらかじめ定められた画一的な約款の条項に拘束力を認めるところに意義があると言えます。これまでも、このような約款は原則有効とされていました。

しかし、約款は、非常に細かく多岐に渡っていること殆どであり、契約の前に約款を全て読まないことが殆どと言ってもよいのではないでしょうか。それにもかかわらず、その約款に常に拘束力を持たせてよいのか、約款に記載さえあれば、どのような内容でも効力があると認めてよいのかといった問題点が指摘されてきました。

一方、旧民法には、このような約款に関する規定がなく、約款に拘束力を認める根拠が必ずしも明確とは言えませんでした。

そこで、今回、548条の2から548条の4までの僅か3か条の規定ではありますが、民法において規定が置かれることとなりました。

 

これにより、どのような場合に約款に拘束力が認められ、どのような場合に拘束力が認められないのかを、是非チェックしていただければと思います。

 

 

1 改正法が定義する「定型約款」とは何か?

 

 まず、改正民法の規律の対象となる「定型約款」の要件を確認する必要があります

   改正民法は、「定型約款」を

   ① 特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、

② その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものである取引を合意したときに用いられる

   ③ 契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体

   と定義しています。

 

①の「不特定多数の者を相手方として行う取引」とは、相手方の個性に着目しない取引を指します。例えば、労働契約などは、使用者から見れば労働者個々人の個性に着目して契約するものですから、これには当たりません。

 

②の「その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」とは、画一的であることが通常であり、且つ、一方当事者の準備した契約条項の総体を相手方がそのまま受け入れて、契約の締結をすることが、取引通念に照らして合理的である取引をいうなどとされています。

 

  解釈上の問題はありますが、何が定型約款に当たるかは、比較的イメージしやすいのではないかと思います。

 

 

2 定型約款に拘束力が認められるための要件とは?

 

 次に、定型約款の個別条項について法的拘束力が認められるための要件についてです。

   新法548条の4第1項は、

   ① 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき(1号)又は

② 定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき(同2号)

に「みなし合意」が成立し、定型約款の個別条項に法的拘束力を認めるとしています。

 

  ①の「合意」については、面談のほか、インターネットを通じて行われることが考えられます。なお、個別条項それぞれについて合意を得る場合には、それは「みなし合意」の問題ではなく、「個別合意」そのものということになります。

 

  ②の「定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき」とは、定型約款を準備する側が、相手方に、定型約款を契約の内容とする旨を記載した書面や電磁的記録を提示したり提供したりすることであり、この場合、相手方の合意がなくとも定型約款を契約の内容とすることができます。

 

  インターネットビジネスの場合には、①と②との違いが分かりづらいかも知れません。例えば、業者が、取引相手に対して、利用前に定型約款の所在を示したうえで「利用規約に同意する」といったチェックをさせるのが①の場合です。これに対し、利用者に対して、明示的に同意行為を求めなくとも、定型約款へのリンクが必須となっており、そこに定型約款を契約の内容とすることを予め表示することで合意したとみなされるのが②の場合です。

定型約款へのリンクが必須でない場合には、②の要件を満たさない可能性がありますので、注意が必要です。

  

 

3 定型約款の効力が否定される場合とは?

 

 新法548条2項は、相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項で、②その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものについては、合意をしなかったものとみなす、されており、当該条項について法的拘束力は生じないことになるので注意が必要です。

 

  したがって、信義則に反するような不当条項、例えば契約者に高額な違約金を課すような条項がないかどうかをチェックする必要があります。

 

 また、新法548条の3により、定型取引合意の前または定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で、その定型約款の内容を示さなければならないとされ、取引前において、正当な理由なく開示しない場合には、その約款に合意したことにはならないという点にも注意が必要です。

  

この定型約款の開示義務についても重要な部分です。条文のとおり、事前開示は必須の要件とはなっていませんが、相手方から請求があった場合には開示義務が生じることとなります。ここで、「相当な期間内」とは、検討部会資料によれば定型約款を記載した書面を現実に開示したり、定型約款が掲載されているウェブページを案内するなどの方法をいうとされています。

もっとも、あらかじめ定型約款を記載した書面を交付し、または電磁的記録で提供していた場合には重ねて示す必要はありませんので、可能であれば、あらかじめ、定型約款の交付や提供をしておき、相手方において提供を受けたことが分かる書面を相手方から取得しておく方法が望まれるところです。

 

 

4 定型約款の変更をする場合の注意点

 

  新法548条の4は、個別に合意をすることなく、変更後の定型約款の条項について合意があったこととみなすことができる場合について規定しています。

   その要件は

   ① 変更が相手方の一般の利益に適合する場合(利益適合性)、又は

② 変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものである場合(変更の合理性)

とされています。

 

特に、②の変更の合理性の要件については、抽象的ですが、例えば、民法改正部会資料によれば、定型約款の変更をすることがある旨の定めは当該変更の合理性を判断する上での1つの判断要素と考えられるとの議論もなされたようです。そうすると、客観的合理性が重要であることは間違いありませんが、そういった条項をあらかじめ規定しておくことも検討する必要がありそうです。

 

また、新法548条の4第2項・3甲は、「定型定款の変更」を行う場合、変更の効力発生時期を定めたうえで、定型約款を変更すること、変更後の定型約款の内容、その効力発生時期についてインターネットの利用その他の適切な方法によって周知しなければなりません。特に②の変更の場合には、効力発生時期が到来するまでに周知をしなければ、その効力を生じないとされていますので注意が必要です。

 

 

それでは今週も頑張ります!今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!!

 

 

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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