よくわかる知的財産権〜デザイン編 第1回:意匠

デザインを軸とした経済の仕組みとそれを支える制度

15年近く前に,デザインの良さに惹かれて買ったのが,このiMac。今では,自宅のインテリアと化していますが,このデザインは,15年経った現在においても,近未来的な雰囲気を感じさせるのでないでしょうか。
Apple Inc.の製品が支持を集めるのは,直感的に使える「使いやすさ」もあると思いますが,革新的かつシンプルな「デザインのよさ」も大きな理由だと思います。

Apple Inc.の製品に限らず,消費者は(価格や,使いやすさだけでなく)デザインのよさを理由に製品を買いますし,多くの企業はデザインで競合他社と差別化しようとします。このような経済の仕組みは,デザインを保護する制度によって支えられています。

今日から数回連続して,「よくわかる知的財産権〜デザイン編」と題して,量産品のデザインを保護する制度について解説していきます。

 

第1.    デザインを守るために

1.そもそもデザインってなに?

辞書での定義

「デザイン」という言葉を国語辞典で引いてみると,

「意匠。設計。」

(『三省堂国語辞典』第6版)

「設計。図案。意匠。また,製品の機能や美的造形を考慮した意匠計画。」

(『岩波国語辞典』第7版新版)

というように,余計に意味が解らなくなってしまいます。

デザインの意味するもの

デザインという言葉が意味するものを細かく分析してみると,

  • 商品の形・模様・色彩というように商品や物のデザイン
  • 建築の意匠設計のように建築物のデザイン

などが挙げられると思います。

そして,商品や物のデザインの中にも,

  • 量産品のデザイン

もあれば

  • 一品製作品のデザイン

もあります。


2.量産品のデザインを守る制度

今回は,その中でも,量産品のデザインを守るための制度としてどういうものがあるのに絞って解説していきます。

量産品のデザインを守る制度

量産品のデザインを守るための法律には,

  • 意匠法
  • 不正競争防止法

があります。場合によっては,

  • 著作権法

もその1つに含まれることがあります。

今回は,まず,意匠法を使ってどのようにデザインを守るのか,逆に,訴えられた時にどう対応すればよいのか,説明していきます。

第2.意匠法で守る

1.意匠制度とは

意匠法という法律の中には,物品(や物品の一部)の形状・模様・色彩といったデザインを,意匠権という知的財産権として守る制度(意匠制度)を定めています。ちなみに,「意匠」という言葉は,意匠法では厳密には,

「物品の形状,模様,色彩とその結合で視覚を通じて美感を起こさせるもの」

と定義されています。

意匠権として保護されるまでの流れ

物品のデザインが意匠権として保護されるためには,

  1. 特許庁に出願し,
  2. 審査を受け,
  3. 登録査定を受けた上で,
  4. 登録される

必要があります。これからその流れを具体的に見ていきましょう。

2.審査

特許庁では,出願を受け,意匠として登録してもよいかどうかを審査します。

意匠の定義に当てはまるか

例えば,

  • そもそも意匠といえるか
  • 工業上利用することができるか

が審査されます。
物品の形態であって,視覚を通じて美感を起こさせるものを「意匠」といいますから,意匠」の定義に当てはまるものでなければなりません。
自然の石をそのまま置物にしたり自然の貝殻をアクセサリーにしたりなど自然の物などをデザインの軸として使い,量産できないもの,建物のような不動産のデザイン,絵や彫刻といった純粋美術の分野に属する著作物は,「工業上利用することができるもの」には含まれません。

(建物のデザインは建築の著作物として,純粋美術の分野に属する著作物は美術の著作物として,著作権法の保護の対象となる可能性があります)

意匠権を与えるにふさわしいか

  • 今までにない新しい意匠であるか(新規性
  • 簡単に創作できたものでないか(創作非容易性

そして,

  • 先に出願された意匠やその一部と同じか,似ていないか
  • 公序良俗を害するおそれがある意匠や物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠など意匠登録を受けることができない意匠ではないか
  • 一つの出願に複数の意匠が表されていないか
  • 他人よりも先に出願したか

なども審査されます。

3.登録

特許庁が「意匠」として登録してもよいと判断する。これを登録査定というのですが,この場合,登録料を納め,意匠権を設定するという登録がされることで,ようやく,意匠権の効力が生まれます。

意匠権を得ると,

  • 登録から最長20年間(平成19年3月31日までに出願されたものについては15年間)
  • 登録された意匠と同じ意匠だけでなく,類似する意匠にまで

効力が及びます。

つまり,意匠権を得ることで,

最長20年間,登録した意匠と同じ意匠やこれと類似する意匠を独占的に利用できる

こととなります。

4.差止め,損害賠償請求

意匠権を持っている人に無断で登録された意匠と同じ意匠や似た意匠の商品を販売する場合は,意匠権侵害になります。

このような意匠権侵害に対しては,

  • 侵害を差し止めること

  • 損害の賠償を請求すること

ができます。損害賠償を請求する場合,損害額を推定するなど,特別な規定があります。

5.意匠が似ているかどうか

意匠権侵害に当たるかどうかで最も問題となるのが,

登録された意匠と相手方のデザインが似ているかどうか

です。

判断の流れ

似ているかどうかは,業者や消費者などの視覚を通じたときに感じる美感に基づいて決まります(意匠法24条2項)。

そもそもの前提として,

物品が同じか,あるいは似ているかを確認します。

その上で,

  • 大まかに見たときにデザインはどのような構成となっているか(基本的構成態様
  • 細かく見たときにどのような構成になっているか(具体的構成態様

を判定します。

次に,両方のデザインを横に並べて見比べて(対比観察),業者や消費者などがどう感じるかを判断します。

その際には,

  • デザインを構成する要素のうち,デザインのどこが業者や消費者の注意をひきつけやすい,重きをおくべき特徴的な部分か

を判定します。このような部分のことを要部といいます。

似ているかどうかを判断する上で,

  • このような要部の構成態様が共通しているかどうか

が重視されます。

このように,

  • どこが要部であるか

が,似ているかどうかを判断する上で重要なポイントとなります。

主張戦略

両方のデザインに共通する部分が要部ならば,両方のデザインは似ていることになります。

そこで,意匠権侵害を主張する側は,共通する部分が要部であると主張しようとします。

一方,共通していない,お互いに違っている部分が要部となれば,登録された意匠と相手方のデザインは似ていないことになります。

そこで,侵害を主張された側は,侵害を否定するため,違っている部分が要部であると主張することになります。

6.意匠権侵害だと主張された場合にどう対応するか

逆に意匠権を持つ人から意匠権侵害だと訴えられた場合,どのように対応すればよいのでしょうか。

相手は意匠が似ていると言っているけども,どう考えても,意匠が似ていないという場合は,意匠が似ていないと反論することが考えられます。

以前から同じデザインを使っていた場合

では,例えば,意匠権侵害で訴えられたが,以前からそのデザインを使用し改良を重ねてきたという場合,どのように対応すればよいでしょう。

この場合,

  • 意匠が無効だと主張したり
  • 先使用権という権利を主張したり

することが考えられます。

無効主張

無効主張は,登録意匠が出願前から知られていた意匠であるなど,新規性や創作非容易性がなく,意匠が無効であると主張するものです。

意匠権侵害を主張する訴訟の中で意匠が無効だと主張するほか,特許庁に対して意匠登録無効審判を請求するという対応も考えられます。意匠登録無効審判請求は,特許や商標とは異なり,権利の帰属を理由とする無効審判請求でない限り,だれでも請求することができます。

先使用権

先使用権は,たまたま他人が意匠を登録してもらおうと出願したときに,その意匠と似た製品を日本国内で既に製造・販売していたり,その準備をしていた場合に,公平という視点から,一定の範囲で,無償で製造・販売を続けることができるという権利です。

信用毀損行為(不正競争防止法)

ちなみに,意匠権侵害の事実がないのに意匠権侵害と決めつけられてプレスリリースされた場合には,信用毀損行為(不正競争防止法2条1項15号)として,差止めや損害賠償請求をすることができます。(なお,ネット上では,2条1項14号と書いた古い解説が散見されますが,平成27年改正により,信用毀損行為を定める規定は,2条1項14号から2条1項15号に移動しています。)

7.次回予告

さて,意匠法による保護を受けるためには,特許庁の審査を受け,意匠権の設定登録がされなければなりません。

もちろん,不動産である建物のデザインや純粋美術の範囲のものは意匠法では保護されません。

では,デザインを特許庁に意匠として登録していなくても,なにか,デザインを守るための方法はないのでしょうか。そこで,不正競争防止法で守るという方法が挙げられるのですが,長くなりましたので,次回(3週間後)にしたいと思います。

 

この記事を書いた弁護士

藤田 聖典
藤田 聖典
長崎県出身,愛知県立旭丘高校・慶應義塾大学経済学部経済学科卒。
大学卒業後,テレビ放送局ディレクターを経て法科大学院に入学。法科大学院修了後,東京都内の有名進学塾の副校長在職中に司法試験に合格し,弁護士資格を取得。
法科大学院では,知的財産法を専攻。合格後の司法修習中も東京地方裁判所の知的財産権部や知的財産高等裁判所(知財高裁)で知的財産を中心に学ぶ。
中小企業の法律問題では,著作権,商標権,意匠権,不正競争防止法,契約書の作成・確認,不動産賃貸借,建築紛争,クレーム対応などが主な取扱い分野。
地域密着の弁護士を目指し,多治見市での就業を選択。
相続・離婚など家庭での法律問題も取り扱っています。

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