弁護士田中敦ブログ

多治見ききょう法律事務所所属弁護士田中敦のブログです。

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債権法改正シリーズ第3回 消滅時効の改正について

 

債権法改正シリーズ第3回目は,時効に関する部分です。

 

今回の債権法改正において,「消滅時効」の部分は大幅な改正が加えられることになりました。

 

「消滅時効」とは,一定期間権利を行使しないと,その権利が消滅して請求をすることができなくなってしまう制度で,皆さんにとっても,馴染みのある法律用語だと思います。

 

今回は,「消滅時効」制度の変更の概要と,私たちにどのような影響が生じるかについて見てきたいと思います。

 

 

 

1 「時効の中断・停止」から「時効の更新・完成猶予」へ

 

  旧法の「時効の中断」とは,時効の進行をリセットして,それまでに進行した時効期間をゼロにする制度で,「時効の停止」とは,時効期間をゼロにリセットするのではなく,一定期間,時効の完成を猶予する制度でした。

 

  しかし,例えば,時効中断事由の一つである「請求」(147条1号)の意味については,必ずしも明確でなく,ある手続申立てにより時効が中断された後,その手続が取下げなどにより途中で終了すると中断の効力が生じないとされるなど,複雑で分かりにくいという問題が指摘されていました。また,時効の中断は,時効期間をゼロにリセットするという強い効力を有するため,そのような効力を与えるに相応しい事由を整理すべきであるとの問題も指摘されていました。

 

  そこで,改正法では,「時効の中断」に代えて「時効の更新」,「時効の停止」に代えて「時効の完成猶予」という表現を用いて,概念の整理・事由の追加等を行っています。

 

 

 

2 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(新設)

  

  旧法では,当事者間で権利に関する協議の合意がされた場合に,時効の完成を阻止する方法は特段規定されていませんでした。そこで,当事者間において自発的な協議が継続されている場合であっても,時効完成間際となってしまった場合には,時効完成を阻止するため,権利者から訴え提起といった手段を講じなければならない場面がありました。

そこで,新法は,権利についての協議を行うことの合意がされている場合には時効の完成を猶予してもよいと考え,これを時効の完成猶予事由に該当するとしたのです。

しかし,その合意が存在するか否かは不明確となりかねないので,合意の存否を明確化する観点から,「協議の合意が存在すること」及び「その合意が書面でされること」が要求されています(改正法151条・新設)。

 

 

 

3 職業別短期消滅時効の廃止・商事消滅時効の廃止

 

  旧法は,職業別で,短期の消滅時効(1年~3年)を採用していました(民法170条~174条)。また,商事債権の消滅時効は,民法と区別して5年とされていました(商法522条)。

しかし,一般債権(旧法では原則10年)と時効期間と差異を設けることについては果たして合理性があるかどうか,そもそも一般債権の時効期間が10年というのは長すぎるのではないかといった議論がありました。また,時効制度をもっと単純化・統一化することにより,複雑な時効管理コストを削減すべきであるといった社会的要請もありました。

そこで,改正法では,職業別短期消滅時効を規定する旧法170条から174条,商法522条は削除し,統一化されることになりました。

 

この改正が実務に及ぼす影響は,相当大きいです。

 

多数の種類の債権を管理している企業においては債権の管理が簡便にはなりますが,債権管理の方法,書類の保存期間の見直しが必要となろうかと思われます。

 

 

 

4 主観的起算点から5年の短期消滅時効の導入

 

  旧法は,一般債権の消滅時効について,権利を行使することができるときから10年という客観的起算点を規定していました(旧法166条,1671項)。

  これに対し,改正法では,旧法の当該客観的起算点の要件に加えて,債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年という主観的起算点について規定し,主観的起算点と客観的起算点の2本立てのルールとなりました。

 

 念のため,条文を見てみましょう

 

 改正民法第166条(債権等の消滅時効)

 1 債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。

  一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

  二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

 

 1号の主観的起算点と,2号の客観的起算点で,これらいずれか早い時効期間の経過によって消滅時効にかかることになります。

 

 

 

5 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の特則(新設)

 

旧法は,不法行為に基づく損害賠償請求権について,損害及び加害者を知った時から3年間行使をしないときは時効によって消滅する,不法行為の時から20年を経過したときも同様とすると規定しています。

例えば,職場において労働者の生命・身体が害された場合には,使用者が安全配慮を行ったとして債務不履行による損害賠償請求をし,これは使用者の不法行為による損害賠償請求として請求することもできます(請求権競合と言います。)。

しかし,旧法においては,生命・身体の侵害による損害賠償請求権を,債務不履行に基づいて行使した場合には,一般の債権の消滅時効と同様に,権利を行使することができる時から10年で消滅時効が完成すると考えられており,不法行為に基づいて請求をするか,債務不履行に基づいて請求するかで消滅時効に関する考え方が異なっていました。

 

  新法においては,生命・身体という法益の重要性を考慮して,その侵害による損害賠償請求権の行使を一般の債権よりも保護する必要があることから,167条で特則を設けました。

 

  条文を見てみましょう。

  

  改正民法第167条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)

 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については,同号中「10年間」とあるのは,「20年間」とする。

 

これにより,人の生命・身体の侵害による「債務不履行に基づく損害賠償請求権」については,主観的要件について5年というのは一般債権と同様ですが,客観的起算点については20年と伸長されました。

また,人の生命又は身体を害する「不法行為に基づく損害賠償請求権」については,客観的起算点から20年というのは旧法と同様ですが(除斥期間ではなく消滅時効期間であると明記されました。),主観的起算点からの消滅時効期間を5年と定め,統一されることとなりました(新法724条の2)。

 

 

それでは今週も頑張ります!今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

 

 

 

2017年12月10日

債権法改正シリーズ第2回 錯誤について

債権法改正シリーズ第2回目は、意思表示に関する部分です。

 

今回の民法改正は、主として民法の債権法部分を改正するものですが、「第一編 総則」も一部改正されています。今回は、総則のうち意思表示に関する部分の改正から見ていきたいと思います。

 

今回は、錯誤(民法95条)です。

 

 

1 新旧条文

 

まず、旧法の条文を見てみます。

 

(錯誤)

95 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 

次に、新法の条文です。

 

(錯誤)

95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤

二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。

一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

だいぶ文言が増えているのが分かりますね。

 

それでは、変更の内容と、実務への影響について見ていきましょう。

 

 

 

2 動機の錯誤の明文化

   

錯誤とは、内心の効果意思(一定の法的効果を欲する意思)と表示の不一致を表意者自身が知らないことであるとされています。例えば、言い間違い、書き間違いのようないわゆる表示上の錯誤は、内心的効果意思と表示の不一致があるので、錯誤に当たります。

これに対して、意思の形成過程に錯誤があるにすぎない「動機の錯誤」は、内心的効果意思と表示との間に不一致がありませんので、伝統的理解からした錯誤には当たりません。

 

しかし、実際に錯誤が問題となる事例の多くは、「動機の錯誤」であり、動機の錯誤と他の錯誤との区別は必ずしも明瞭ではないことなどから、動機の錯誤についても、表意者の保護を図るべきであることは間違いありません。

この点、判例は、動機の錯誤であっても、動機が明示あるいは黙示に表示されて法律行為の内容となり、それが法律行為の要素に当たれば民法第95条の適用があるとしてきました(最判昭和291126日民集8112087頁等)。

 

 

今回の民法改正により、錯誤には「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」(11号。表示の錯誤)と、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」(12号。動機の錯誤)の2種類があることが明文化されました(1項関係)。

 

また、錯誤の対象は、意思表示の内容の主要な部分であり、この点についての錯誤がなかったら、表意者は意思表示をしなかったであろうし(因果関係)、かつ、意思表示をしないことが一般取引の通念に照らして正当と認められること(重要性)についても明文化されています(1項関係)。

 

「動機の錯誤」については、従来の判例法理に従い、表意者が法律行為の基礎とした事情が、法律行為の基礎とされていることが表示されていたことも要件とされています(2項関係)。

 

「動機の錯誤」の明文化については、これまでの判例法理を明文化したと理解されていることから、実務に与える影響は大きくないと思われます。もっとも、個別の事案における「動機の錯誤」の要件該当性については、これまでと同様に争いとなることは予想されるところです。

 

 

3 無効から取消しへ

   

  旧法は、意思表示に錯誤がある場合の効果は、条文上「無効」とされていました。無効とは、本来、初めから何らの効果も生じない状態であるとされるので、表意者だけではなく、誰からでも、いつでも、主張し得るものです。

 

しかし、この点については、表意者保護の観点からして、原則として表意者以外の者が無効を主張することは許されないという判例法理が確立していました(最判昭和40910日・民集1961512頁等)。錯誤について、原則として表意者以外の者による無効主張が許されないとすると、その効果は、「取消し」に近いものとなります(取消的無効)。

 

そこで、今回の民法改正では、錯誤による意思表示の効果を「無効」から「取消し」に改めました。

 

取消し事由になったことが明文化されたため、錯誤の主張も取消権の期間制限を受けることになります。新法では、追認することができるときから5年間となります。よって、この点についての実務への影響は大きいものと考えられます。

 

 

それでは、今週も頑張ります。今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

 

 

 

2017年11月19日

債権法改正シリーズ第1回 債権法改正の概要について

近、「民法改正」、「債権法改正」についてのお問合せも多くなってきました。

 

そこで、今回から何回かに分けて、「債権法改正シリーズ」として、債権法改正の内容と、これによる実務への影響について連載していきたいと思います。

 

 

 

1 債権法とは?

 

平成29526日に、「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)が国会で成立しました。

 

皆さんお気づきのとおり、「債権法」という法律はありません。法律は「民法」ですね。

今回の改正は、民法の中のいわゆる「債権法」と呼ばれている部分を大幅に改正するので、「債権法改正」などと言われることがあるのです。

  

現行民法は、1986年(明治29年)に制定されたものであり、既に120年ほど経過しています。この民法は、戦後の憲法制定によって親族・相続法部分が全面的に改正され、その後も、複数回にわたって重要な改正が行われてきました。しかし、債権法関係については、ほとんど改正が行われないまま現在に至っていました。

 

今回の民法改正は、この債権法部分について、現行民法の制定以来、初めて抜本的な規定内容の見直しがされたものということができます。

 

 

 

2 債権法改正の概要

 

  今回の改正内容は、①意思表示関係、②消滅時効関係、③債権の内容関係、④責任財産の保全関係、⑤多数当事者の債権関係、⑥債権譲渡及び債務引受関係、⑦債権の消滅関係、⑧契約の成立関係等に及んでおり、多数の改正が行われます。

 

それでは、どうして今回120年ぶりの大改正が行われたのでしょうか?

 

この点については、新法の改正理由を見ると、「社会経済情勢の変化に鑑み、消滅時効の統一化等の時効に関する規定の整備、法定利率を変動させる規定の新設、保証人保護を図るための保証債務に関する規定の整備、定型約款に関する規定の新設等を行う必要がある、これが、この法律案を提出する理由である。」とされています。

 

1986年(明治29年)の現行民法制定当時から、社会経済情勢が大きく変化していることは明らかです。その間、債権法を改正せずに済んでいたのは、債権法に直接規定のない契約や、それらから派生する様々な論点について、重要な判例や学説が積み重ねられてきたからでしょう。しかし、ともすると債権法を一見しただけでは分かりづらい解釈が増えてきたのも事実といえます。今回の債権法改正は、これらの確立した判例や学説を明文化するための改正が大部分を占めています。

 

もっとも、今回の債権法改正には、現行民法に規定するルールを実質的に変更する項目も含まれていますので、実務への影響も大きく注意が必要です。具体的には、改正理由にもあるとおり、消滅時効関係、法定利率関係、保証債務関係、定型約款関係、その他、売買・消費貸借・賃貸借の変更については十分理解しておく必要があると思います。

 

 

 

3 債権法改正の施行日について

 

  この法律(民法の一部を改正する法律)の施行日は、公布の日(2017(平成29)年62日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日とされていますので、遅くとも、2020年の6月には施行されることになります。

この債権法改正の施行日までの間に、様々な方法で債権法改正の周知がされることになります。

  

今回の債権法改正により、どのような点が変わることになるのか、次回以降に具体的に見ていきたいと思います。

 

 

それでは今週も頑張ります!今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

 

2017年10月29日