労働問題・解雇

弁護士田中敦のブログから,労働問題・解雇に関する記事を集めました。

田中敦ブログ~労働問題・解雇

労働問題第25回目 解雇の有効・無効/具体的ケース

労働問題第25回目は、解雇の有効・無効について具体的ケースから考えてみます。

 

解雇のには客観的合理的理由がなければなりませんが、以下のようにケース分けして見ていきます。

 

 ①労働者の労務提供不能・労働能力又は適格性の欠如・喪失

  ア 勤怠不良(←21回目)

  イ 能力不足(←22回目)

  ウ 労働能力喪失(←23回目)

エ 労使間の信頼関係の喪失(←24回目)

 ②労働者の職場規律違反(←25回目・今回)

 ③整理解雇(←26回目)  

 ④ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求

 

それでは、解雇無効となったケースと、解雇有効となったケースを見ていきましょう。

 

 

1 【解雇無効】G事件(東京地判平成16922日)

 

 ①事案の概要

Xは、出勤日20日間に、Yから貸与されたパソコンを使用して、私用メール49通(うち送信35通、受信14通)を送受信したが、そのうち就業時間内に行われたものは39通(うち送信33通、受信6通)であった。当該私用メールにおいて、Xは、Y社内部のみならず、外部に対しても、経営批判を繰り返し、代表のことを「あほばか」「気違いに刃物(権力)」など上司に対する批判が含まれていた。そこで、YはXに事情聴取をおこなったが、Xには反省の意思もY経営陣の指示に服することもなかったかた、解雇した。

 

②裁判所の判断

  労働者は、労働契約上の義務として就業時間中は職務に専念すべき義務を負っているが、労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく、就業規則等に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても上記職務専念義務に違反するものではないと考えられる。

Yにおいては就業時間中の私用メールが明確には禁じられていなかった上、就業時間中にXが送受信したメールは1日あたり2通程度であり、それによってXが職務遂行に支障を来したとかYに過度の経済的負担をかけたとは認められず、社会通念上相当な範囲内にとどまるというべきであるから、…私用メールの送受信行為自体をとらえてXが職務専念義務に違反したということはできない。

私用メールによる上司への誹謗中傷行為及び他の従業員の転職あっせん行為については、背信性の程度が低いこと、Xが、本件解雇時まで約22年間にわたりYのもとで勤務し、その間、特段の非違行為もなく、むしろ良好な勤務実績を挙げて被告に貢献してきたことを併せ考慮すると、本件解雇が客観的合理性及び社会的相当性を備えているとは評価し難い。したがって、本件解雇は解雇権の濫用にあたり無効である。

 

 

2 【解雇無効】M運輸事件(大阪地判平成8731日)

 

 ①事案の概要

Xは、運送事業者Yとの間で、貨物自動車の路線便運転手として雇用契約を締結していたが、午前中必着との指示を受けていた荷物について、寝過ごしにより午後130分頃配達するという延着事故を起こし、その結果、親会社から路線便を解除されたことから、Yは同事故を起こしたことを理由としてXを解雇した。

 

 ②裁判所の判断

なお、本件事故により、Y会社においてXに対し雇用契約上の債務を履行できなくなったか否かを離れ、仮に、専ら、Xにより本件事故の発生及びこれがもたらしたY会社に対する影響等に着目して、これを理由とする解雇の相当性の有無を判断するとしても、本件事故による延着の程度は必ずしも大きいものではないこと、本件事故のもたらした影響の程度、内容は、前記認定のとおり、摂津支店・福山本社間の路線便が解除されたというに止まること、もとより、それ自体、必ずしも、軽微な損害とのみ評することはできないものであるが、本件解除に至るまでの経緯等によれば、Y会社において、仮に、Xに本件組合加入及び積極的な組合活動の事実がないとき、Y会社がXに対し本件事故の発生及びその影響のみを理由として、解雇までしたか疑わしいことに鑑みるとき、Y会社がXに対し、本件事故を理由として、解雇をもって処するのは重きに過ぎるというべきであって、結局、本件解雇は、社会通念上相当性を欠き、解雇権の濫用に当たり無効というべきである。

 

 

3 【解雇有効】カジマリノベイト事件(東京高判平成14930日)

 

 ①事案の概要

  XはY会社に平成76月に入社して以来、工務部において工事の見積もり、契約、出来高管理等の業務に従事していたが、上司の指示に対する不服従、誹謗当について4回にわたりけん責処分を受け、始末書の提出を求められたが、提出しなかったこと等を理由として、平成9418日付けで解雇通知をされた。Xは、本件解雇は、Xが労働基準監督署等に申告したこと、労働組合に加入したことによるもので、不当労働行為に当たり、解雇は無効であると主張した。

1審の東京地裁は、「本件けん責処分の理由とされた事由はいずれも、上司と部下との意見の対立や行き違いを原因とするものに過ぎず、社会通念に照らし重大な問題とはいえないから、本件解雇は権利の濫用に当たり無効である」と判断したためYが控訴した。

 

 ②裁判所の判断

  本件第1けん責処分後から第4けん責処分に至るまでのY及びXの対応等については、Yは第1けん責処分をするに当たってはXに反省の機会を与えようとの意図に出たものであったが,Xからは反論のみで反省の趣旨のうかがえない返答書が提出され,その後も第2回以降のけん責処分がされたがXの態度が変化しないばかりか,第3回けん責処分ではXは通知書をその場でシュレッダーに投入して破棄するという行為に及び,更に第4回けん責処分を行ったが結局Xに反省の態度が認められなかったことから本件解雇に至ったものである。そして第1けん責処分においては始末書の提出について1か月の期間を設定しており,これに対しXは即日返答書を提出している。第2けん責処分はその後1か月以上経てされており,第4けん責処分までの期間は10日間程度であるが,既に第1けん責処分の時点からは十分な弁明の期間が与えられており,第4けん責処分の5日後にはXは返答書を提出している。したがって,全体としてけん責処分がXの弁明の機会を与えないでされた不当なものであるとは認められない。

Xには上記のような行為があり,同人は日頃上司から注意を受けていたのにこれを聞き入れずほとんど改善することがなかったため4回にわたるけん責処分を受けたが,それでもXの態度に変化がなかったことからYは本件解雇に至ったとみることができ,Xについては就業規則39条2号の「勤務成績又は能率が著しく不良で,就業に適しないと認めるとき」に該当するものと認められる。そして,以上みてきたところからすると本件解雇が権利の濫用に当たるとみることもできない。

 

 ③コメント

  会社においては、様々な職場規律を設けているはずであり、その多くは一般的な事柄であると思われます。具体的な違反行為があった場合には、まず当該違反行為の悪質性の程度と業務に及ぼした影響を客観的に判断することが必要です。例えば、一つ目の私的メール使用行為については、業種にもよるでしょうが、一般的に悪質性や業務に及ぼす影響が大きいとはいえないでしょう。一方、タクシー乗務員のメーター不倒行為といった横領に類する行為、競業避止義務違反といった行為については、悪質性や業務に及ぼす影響が大きいことは明らかです。悪質性がそれほどでもない行為については、そのことのみを理由とする解雇が許容されることは実務的には容易ではありません。この場合には、労働者に何度も繰り返し注意・指導を繰り返したにもかかわらず、労働者が正当な理由なく同様の行為を繰り返し、それによって業務への支障が生じ、労働者が反省の色も見せておらず、もはや解雇しか選択の余地がないというレベルに達している必要があります。この裁判例の事案は、4回のけん責が繰り返されたものですが、一審と控訴審で判断が分かれており実務的に参考になります。

 

それでは今週も頑張ります!今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

 

2017年6月25日

労働問題第24回目 解雇の有効・無効/具体的ケース

労働問題第24回目は、解雇の有効・無効について具体的ケースから考えてみます。

 

解雇の合理的理由については、以下のようにケース分けして見ていきます。

 

 ①労働者の労務提供不能・労働能力又は適格性の欠如・喪失

  ア 勤怠不良(←21回目)

  イ 能力不足(←22回目)

  ウ 労働能力喪失(←23回目)

エ 労使間の信頼関係の喪失(←24回目・今回)

 ②労働者の職場規律違反(←25回目)

 ③整理解雇(←26回目)  

 ④ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求

 

それでは、解雇無効となったケースと、解雇有効となったケースを見ていきましょう。

 

1 【解雇無効】A学園事件(浦和地裁川越支部判平成11121日)

 

 ①事案の概要

Xは、昭和50 4月、Yが開設した保育専門学校に法学担当の専任教員として採用された。Xは、採用に際して職歴欄に「昭和454月、中央大学通信教育部インストラクター委嘱さる、現在に至る」と記載した履歴書を提出した。その後、Yが短大を設置することになり、Yから再度履歴書を提出するよう促された際、Xは、履歴書の職歴欄に「昭和454月、中央大学通信教育部資格審査委員会の審議を経て講師を委嘱さる労働法担当」と記載し提出した。平成6年にXの教授昇任に係る審査において、Xの経歴詐称(インストラクター→講師)が問題とされるとともに、Xの学生や同僚に対する暴言や、教授会での侮蔑的発言等がこれまでにあったことにより、就業規則所定の「職務に必要な適格性を欠く」に該当するとして、Xを解雇した。

Xは、本件解雇が無効であるとして、労働者としての地位確認並びに未払賃金及び賞与の支払を求めた。

 

 ②裁判所の判断

  Y就業規則にいう「職務に必要な適格性を欠く」とは、その表現自体、かなり抽象的であって、これを一義的に決することは困難な概念であるが、それが教職員の労働契約上の地位を一方的に奪う結果を招来させる「解雇事由」とされていることに照らし、当該教職員の能力、素質、性格等に起因して、その教職員の担うべき職務の遂行に支障があり、かつ、その矯正が著しく困難で、今後、当該組織体において、教職員として処遇するに堪えないと認められるような場合をいうものと解するのが相当である。

  履歴書は、それが当該教職員の採否を決する際の最も基本的かつ重要な判断資料となるものであるから、殊更これに虚偽の記載をすることは、その判断を誤らせる危険性の高い行為として、それ自体、教職員としての適格性に疑問を呈する事由になりうるというべきであるが、他方、これが問題とされるのが労働契約締結後であって、当該教職員が既にその組織体において稼働しており、当該組織体から生活の糧を得ている状況下にあることを考慮すると、その不実記載を理由に適格性の有無を判断するに当たっては、その形式面の重要性のみならず、当該不実記載の内容、程度、実際の本人の職務遂行能力、素質、不実記載がなされるに至った経緯及びその不実記載により、使用者がどのように判断を誤り、そのために損害を被ったか等を慎重に検討して決する必要があると解すべきである。

  本件履歴書の記載は正確性を欠くものであって、軽率のそしりを免れないものではあるが、その実質を考えると、原告に特段悪意は認められず、その職務遂行能力に影響はなく、これにより被告が原告に対する評価を誤って採用すべきでない人を採用し、そのため損害を被ったなどの事情は一切認められないのであり、したがって、これをもって職務に必要な適格性を欠くと評価することはできないというべきである。

 

 ③コメント

経歴詐称は、就業規則上懲戒事由として定められているところが多いようです。裁判例では、経歴詐称が懲戒事由となり得ることを認めていますが、①それは重大な経歴詐称に限定され、かつ、②真実を知っていたならば採用しなかったであろうという因果関係が必要であると考えられています。錯誤と同じような思考過程ですね。

本件では、①教職員という職種からすれば、職歴は重要な要素であると考えられますが、Xに悪意は認められず重大性がないこと、②実質的に見て、昭和50年の採用から相当期間が経過しており、その間Xの職務遂行能力に問題はなく、Yに損害が生じていないことから、因果関係も認められないと判断しています。今更という感じがしますし、経歴詐称の判断としては妥当な結論だと思います。

 

 

2 【解雇有効】K化学事件(大阪地判平成6916日)

 

 ①事案の概要

Xは、平成36月、樹脂原料の製造を行っているYに雇用された。その後、Xが作業方法に習熟せず、上司の指示にも従わず、また他の者との協調性を欠いていた。平成5年、Xは腰痛を起こし労働災害として同年75日まで休業し,休業期間後も、復職後の作業内容を不服として真面目に作業をしなかった。

さらに、Xは、履歴書に中卒であるにもかかわらず高卒と記載し、かつ、Yに入社する以前の会社で学歴詐称で解雇されていたにもかかわらず、職歴には当該以前の会社を記載していないことや、家族構成を偽り扶養手当を受けていたことなどから、平成51125日、就業規則所定の「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合(例、無断欠勤)」「重要な経歴を偽り、その他不正な方法を用いて採用されたとき」に当たるとして、解雇とした。

 

 ②裁判所の判断

Xが学歴を詐称したのは、中学校卒業であることを恥じたためであることが疎明されるところ、Yは高卒以上の学歴の者でなければ採用しない方針である旨主張するものの、高卒未満の学歴の者が採用されていることが疎明されるから、Yにおいて真実この学歴要件を重視していることについては疑問があり、この点は、少なくとも、就業規則所定の「重要な経歴」にあたるとすることはできない。しかし、職歴については、前職への入退社の事実をことさらに偽っているのは、その心情は理解できないではないにせよ、Yによる従業員の採用にあたって、その採否や適性の判断を誤らせるものであり、使用者に対する著しい不信義に当たるものといわざるを得ない。また、家族構成を偽り、扶養手当の支給を受けていたことは、詐欺罪にも該当する行為であり、その不正には著しいものがある。したがって、Xが職歴及び家族構成を偽ったことは、就業規則所定の「重要な経歴を偽り、その他不正な方法を用いて採用されたとき。」にあたるものというべきである。

 

③コメント

  経歴詐称といっても、①学歴、②職歴、③犯罪歴など様々です。

①学歴については職を得るために高く詐称したもの、学生運動による大学中退を秘匿するために低く詐称したもの、公務員試験において高卒・中卒限定を受けるため大卒を秘匿するものなどがあります。②職歴については、前職のトラブルを秘匿するために詐称したもの、職務能力があるかのうように詐称したものがあり得ます。③犯罪歴については、履歴書の賞罰欄にいう罰は確定した有罪判決であるとされ、既に刑が消滅している前科は原則として告知すべき信義則上の義務はないとされています(仙台地判昭和60919日)。本件の結論自体は、妥当なものでしょう。

 

 

3 【解雇有効】桜エンドレス事件(東京地裁八王子支部決平成8930日)

 

 ①事案の概要

  Yは電気式・機械式測定器の製作販売等を目的して設立された株式会社であり、Xは、平成7年に管理部長としてYに雇用された。Xは、対外折衝業務等の遂行・態度が高圧的であって取引銀行等から苦情が出され、その点を注意されても態度を改めなかったこと、社内の手続きを経ず、勝手に顧問税理士との顧問契約を解除したこと等を理由として、平成845日、YはXに対し、普通解雇通知をした。

 

 ②裁判所の判断

  被用者は、その職制上の地位、職務権限、職務内容、給与額等に応じてそれぞれ異なる内容の職務専念義務・誠実義務を雇用者に対して負うのであって、特定の行為が職務専念義務・誠実義務等に反するとして解雇事由に当たるか否かも、その地位等に鑑み個別に判断すべきであるところ、疎明資料によると、Xは、Yの管理部長として、総務、人事を統括する重大な職責を負う地位にある上、入社当初から右職務の担当者として年収1200万円という従業員の中では最高の給与を支給されていたことがいちおう認められるのであるから、Xは、一般の従業員と比べて高度な職務専念義務・誠実義務を負うものというべきである。

  しかるに、Xは、前記認定したとおり、Yの内部規定の定める手続に違反し、その権限を逸脱して本件解除通知を行ってYの国税調査への対応を困難にさせた上、主要取引銀行との良好な関係を危うくするなど、対外的なYの信用を毀損するおそれのある行為をした。Xの右行為は就業規則に反するものであって、通常解雇理由となるというべきである。

 

 ③コメント

  労働者は、その職制上の地位、職務権限、職務内容、給与額等に応じてそれぞれ異なる内容の職務専念義務・誠実義務を雇用者に対して負うことを明示した点に意義があります。しかし、高度の職務専念義務・誠実義務を認めるべきであると言い切れる労働者の範囲は、かなり限定的であると考えられます。

 

 

それでは今週も頑張ります!今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

 

2017年6月4日