交通事故で人身傷害保険を受け取った場合

s_001今回は、交通事故によって人身傷害保険を受け取られた方からの相談の中で、よくある問題について考えてみたいと思います。

 

1 人身傷害保険とは

人身傷害保険とは、交通事故の相手方が無保険の場合や、示談交渉が難航している場合にも、自己の保険会社から迅速に保険金の支払いが受けられる保険商品です。人身傷害保険は、自身の過失部分なども補償されるので、事故状況に関係なく、自身のケガの損害金全額の補償を受けられるものです。

 

もっとも、補償される額は契約の範囲内となるので、全ての損害が回復できるとは限りません。その場合、別途、加害者に対して損害賠償請求するということになります。

2 人身傷害補償会社(人傷社)による代位取得の範囲

被害者が加害者に別途、賠償請求する場合には、難しい問題がありました。

人傷社が被害者に人傷保険金を支払った場合、人傷社は保険金額の範囲で損害賠償請求権を代位取得するのですが、この場合に、人傷保険金が被害者の総損害額のどの部分に充当されるのか、つまり、人傷社は加害者に対する損害賠償請求権のどの部分を代位取得するのかという問題です。

具体例で考えてみましょう。

被害者の損害総額が1000万円で、被害者が人傷社から700万円の支払いを受けており、被害者の過失は0だとします。そうすると、別途300万円を加害者に請求することについては何ら問題ありません。

では、この場合に、被害者にも3割の過失があった場合にはどうなるでしょうか。つまり、損害総額1000万円の7割の700万円が保障されるべきときに、700万円を人傷社から受け取っているために、別途加害者に対して賠償請求することはできないということになるのでしょうか。

3 最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決

この点について、最高裁は、総損害額から既払人傷保険金額を引いた残額を被害者が取得し、既払人傷保険金額が被害者の過失割合に対応する損害額を上回れば、その上回る額についてのみ人傷社は損害賠償請求権を代位取得するという考え方をとりました。

上の具体例に当てはめると、被害者は総損害額(1000万円)から既払人傷保険金額(700万円)を引いた残額(300万円)を取得できるということになります。つまり、被害者は人傷社から700万円を受け取っていても、別途加害者に対して300万円を請求できるという考え方です。

もっとも、この判例は、人身傷害補償条項約款の「被保険者等の権利を害さない範囲内で、被保険者等がその者に対して有する権利を取得します。」という文言を解釈した結果、このように判示したということに注意が必要です。現在、当該約款は改正されていますので、判例の考え方がそのまま妥当するのかについては、まだ議論の余地があるところです。

何だか文章で説明すると分かりづらい話となってしまいましたが、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。それでは、今週も頑張ります!

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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