AI時代を見据えた教育/労働局によるあっせん手続への対応

AI時代を見据えた教育

早いもので,2018年も1月が過ぎてしまい,今日は2月3日,節分です。

1月は,多治見市内のフォトジェニックなカフェを何軒か回ることができました。その様子は,インスタグラム(@tajimilawyer409)にて公開しています。多治見のよさを少しずつ伝えていければと思います。

さて,先日(1月27日),木下弁護士にすすめられて,PAL研究会主催の,藤原和博さんのセミナー「つなげる力~閉塞感で沈滞しがちな日本を解放せよ!」に参加しました。

AI時代を見据えて子どもたちや私達はどのような力を高めていくべきなのか,アクティブラーニングの形式で体感することができました。

いかに早く正解にたどり着くか。こうした情報処理力を鍛えることが,今までの初等・中等教育の中心でした。

しかし,答えをすばやく出すという情報処理力は今注目を集めるAIが得意とする分野です。

そうすると,情報処理力ばかりを鍛えるというのは,AIに奪われてしまう領域の力ばかり鍛えることになってしまいます。

このままでは,AI時代を生き抜く力を身につけることのないまま大人になってしまい,子どもたちの未来を奪うことになってしまう。

そこで,AI時代を見すえて,情報を編集する力基礎的な人間力を養う教育にシフトしていかなければならない。……藤原さんのセミナーはこんな感じで話が進んでいきました。

AIでは代替困難な領域

AIがどんどん発達しても無くならない仕事はなんだろう。

技術が進歩してもなくならない仕事はなんだろう。

弁護士業界では,例えば,自動運転やその他の安全装置が発達すれば,交通事故は減るでしょう。そうすると,交通事故に関連する損害賠償請求はなくなってゆくかもしれません。その他の分野でも,何か問題があったときに,過去の事例を参考にしてその問題の解決策を示すことは,AIがやってくれるようになるかもしれません。

しかし,例えば,法律相談は,相談する側から見れば,単に解決の答えやヒントを聞くだけのものではありません。人と話すこと,話を聞いてもらうことで,心が和らぐという面があります。そうした側面はロボットやGoogleスピーカー,Siriなどでは代替できないでしょう。相談者の心を解きほぐしながら,一つひとつ話を引き出し,整理し,問題の本質を見出してゆく力は,AIでは難しいのではないでしょうか。

そう考えると,基礎的な人間力や一つの仮説を立てて情報を編集する力というのは,AIではとってかわることが難しい領域なのかもしれません。

20年前から言われていた方向性

情報を処理する力から,情報を編集する力基礎的な人間力を養う教育へとシフトする。

これは決して真新しい考え方ではありません。藤原和博さんご自身も,1998年に『人生の教科書 よのなか』(筑摩書房)という共著や2000年の『情報編集力』あたりから示していました。

もっとも,その当時は,AI時代への対応という文脈ではなく,欧米諸国に追いつけ追い越せという時代から成熟した社会へと転換してゆく中で教育も社会構造の転換に対応していかなければならないという文脈で語られていました。

高校時代に藤原さんの本はよく読んでいたのですが,今回,初めて藤原さんのセミナーに参加して,20年の時を経て,文脈こそ随分違いますが,ようやく学校教育が藤原さんの考え方に追いついてきたのだと実感しました。

働く人と会社のトラブルを無料で解決する制度

双方の言い分を聞いた上で,解決案を示し,双方を説得し,双方が納得した上で,解決案に合意する。

……こうした仕組みもまた,すべてをAIが担うのは難しいと思います。

先日,弁護士会で,「労働局におけるあっせん手続」に関する研修を受けましたが,これも,双方の言い分を聞いた上で,解決案を示し,双方を説得し,双方が納得した上で,解決案に合意する制度の一つです。

経営者の皆様も,今後,突然,あっせん開始通知書という文書が送られてきて,あっせんに参加するかしないか対応を迫られるような場合があるかもしれません。制度の概要と注意点をご紹介しますので,今後のご参考にしていただければと思います。

個別労働紛争解決制度

平成13年に個別労働紛争解決促進法という法律が制定され,労働局を中心とする「個別労働紛争解決制度」がつくられました。

個別労働紛争解決制度」とは,働く人と会社のトラブルを,スピーディーかつシンプルに,しかも無料で解決してゆくもので,その一つが「紛争調整委員会によるあっせん手続」になります。

紛争調整委員会によるあっせん手続」は,労働者と会社との間に弁護士や学者など労働問題の専門家である「あっせん委員」が入り,双方の言い分を確かめた上で,調整をし,話し合いを促すことで,トラブルの解決を図ってゆくものです。

そのほかの「個別労働紛争解決制度」には,各県の労働局や各地の労働基準監督署に設けられた「総合労働相談コーナーでの相談」,「労働局による助言・指導」の2つがあります。

まず,この制度を働く人の側から見ていきましょう。

働く人が総合労働相談コーナーで相談をし,その中で働く人と会社のトラブルがあるとなると,「紛争調整委員会によるあっせん手続」や「労働局による助言・指導」の説明を受けた上で,「紛争調整委員会によるあっせん手続」を申請したり,「労働局による助言・指導」を申し出たりすることができます。賃金未払いや残業代未払いなどの労働基準法違反については,労働基準監督署に取り次ぐことになります。

あっせん手続を使うには

あっせん手続を使いたいという場合には,最寄りの総合労働相談コーナーにあっせん申請書を提出する必要があります。各県の労働局や各地の労働基準監督署に設けられた総合労働相談コーナーに相談に行き,あっせんが使える場合ということになれば,あっせん手続の説明を受けた上で,あっせんを申請することができます。東濃では,多治見や恵那の労働基準監督署にあります。

<あっせん手続の対象なるトラブル>

あっせん手続が使えるのは,

解雇された,雇止めを受けた,配置転換・出向させられた,労働条件が不利益に変更されたなどの労働条件についてのトラブル

いじめ・嫌がらせなど,職場環境についてのトラブル

退職に伴い今までの研修費用の返還を要求されたり,営業車など会社の所有する物の破損について損害賠償を請求されたといったトラブル

会社分割により労働契約が承継されない,同業他社へ就職することが禁止されるなど労働契約についてのトラブルです。

募集や採用に関するトラブルは,あっせんの対象とはなりませんので注意が必要です。

原則,雇用契約のある会社とのトラブルの解決のための制度ですが,派遣社員の場合,派遣先との職場環境についてトラブルがある場合はこれを対象とすることができます。

労働組合と事業主の争いや,労働者と労働者の間のトラブルは対象となりません。 

公務員の場合も対象外です。

裁判中であったり,確定判決が出ているなど,他の制度で扱われているものも対象とはなりません

労働組合と事業主との間で問題として取り上げられていて,双方の間で自主的な解決を図ろうとしている場合もこの制度は使えません。 

賃金未払い・残業代未払いは,労働基準法違反に当たり労働基準監督署が対応するのでこの制度の対象からは外れます。

男女雇用機会均等法違反なども,労働局の行政指導により対処するので対象外となります。

あっせん手続の流れ

<申請・あっせん開始通知>

各地の総合労働相談コーナーであっせん申請書が受理されると,労働局が紛争調整委員会にあっせんを委ね,申請した人と申請された側それぞれに「あっせん開始通知書」が送られます。申請された側(会社側)は,あっせんに参加するかしないか回答するよう求められます。

岐阜県内で申請されたものについては,原則として,岐阜の労働局で行われます。(岐阜労働局の方の話ですと,平成29年度は,恵那や高山で出張で行った事案もあるとのことです)

<会社(使用者)側の対応と注意点>

あっせんに参加するかしないかは自由であり,参加しないからといって,ただちに不利益なことが起こるわけではありません。

しかし,譲歩するつもりがなくても,あっせん手続きを通じて,申請をした人に対して会社の考えをしっかりと説明することができます。あっせんに参加した上で,最終的に合意しないという結論をとることもできます。

また,参加しない場合,次に相手方から,労働審判を申し立てられる可能性があります。相手方が,自分に有利な印象を与えようと,労働審判の申立書に「会社が誠実に対応せず,あっせんにも応じなかった」と書く可能性もあります。今後,労働審判を申し立てられる可能性を見据えて,どのように対応するのか,弁護士としっかり相談した上で,実際に対応をしてゆくのが望ましいと思います。

例えば,かりにあっせん手続が打ち切りになった後に,労働審判を申し立てられ,そこで会社が負ける可能性がある場合には,あっせん手続で早期に解決を図るのも選択肢の一つとなります。

<あっせんへの参加の回答>

申請された側(会社側)があっせんに参加すると回答すれば,あっせんを開催する日が決まり,「あっせん期日通知書」が双方に送られます。

申請された側(会社側)があっせんに参加しないと回答すると,それで手続は終わってしまいます。

参加率は,平成28年度は全国で56.8%です(厚労省発表)。

<あっせん期日>

あっせんは,通常,半日で終わります。

まずあっせんを申請した労働者側から話を聞き,次に会社側から話を聞くというように,当日は双方が一切顔を合わせることがないよう十分配慮した上で話を聞いていきます。

そのうえで,あっせん委員は,あっせん案を作成します。例えば,会社が解決金を支払うというように,金銭で解決を図る内容が挙げられます。

<あっせん案への合意>

双方がこのあっせん案に合意した場合,和解契約と同じ効力が生じます

合意に至らなければ,あっせんは打ち切りになります。

合意に至るのは,あっせんに参加した件数をベースに考えると全国で66.4%です(厚労省発表)。

原則として,本人が申請した上で参加する制度になっているので,今の制度では,働く人と会社のトラブルの結果,働く人が亡くなってしまった場合に,遺族があっせんを申請するということができません。

一方,働く人と会社のトラブルの結果,働く人が精神疾患となるなど家族が一緒に参加する必要がある場合に,家族が補佐人として手続に一緒に参加することは認められています。

会社(使用者)側が気をつけるべきこと

今後,労働審判を申し立てられたり,訴訟を提起される可能性を見据えて,どのように対応するのか,弁護士としっかり相談した上で,実際に対応をしてゆくのが望ましいと思います。

その際は,どういう事実があったのかを整理し,会社の主張を裏付ける証拠を集めていくことが大切になります。

あっせん手続で多いのは,「いじめ・嫌がらせ」で,平成28年度の全国のあっせん件数の29%を占めています。次に,件数としては減少傾向にありますが「解雇」が21.9%となっています。

「いじめ・嫌がらせ」については,事実関係が不明で,相手の主張が認められないという場合も多いと思いますが,「解雇」については,明らかに解雇権の濫用に当たるなど,労働審判を起こされれば負ける可能性が高いものもあると思います。こうした場合は,あっせん手続を通じて金銭的な解決を図るのも選択肢の一つとなるでしょう。

解雇が無効となる場合については,田中弁護士が詳しく書いていますので,参考にしてください。

http://tajimikikyo.com/?page_id=1357 (労働問題第21回から第26回を御覧ください)

そして,大変重要なのことですが,労働者があっせん手続をした場合に,それを理由に不利益な取扱いをすることは禁止されていますので注意が必要です。

次回予告

次回からは,商品の表示やデザインのトラブルとその解決についてご紹介したいと思いますので,お楽しみに。

 

<参考資料>

厚生労働省「平成28年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

この記事を書いた弁護士

藤田 聖典
藤田 聖典
長崎県出身,愛知県立旭丘高校・慶應義塾大学経済学部経済学科卒。
テレビ放送局ディレクター・東京都内有名進学塾副校長を経て,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では,知的財産法を専攻。合格後の司法修習中も東京地方裁判所の知的財産権部や知的財産高等裁判所(知財高裁)で知的財産を中心に学ぶ。
中小企業の法律問題では,著作権,商標権,意匠権,不正競争防止法,契約書の作成・確認,不動産賃貸借,建築紛争,クレーム対応などが主な取扱い分野。
地域密着の弁護士を目指して多治見市での就業を選択。
学んできた信託の知識もいかした家庭での遺言書の作成・相続・成年後見等家庭での法律問題も取り扱っています。

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