弁護士の交渉術

いつも読んでいただき,ありがとうございます!
今回は「弁護士の交渉術」について,お話します。

「弁護士」は,交渉がうまい,と思われています。
そのため「弁護士の交渉術」というような書籍もあります。

確かに,弁護士は交渉が上手い,とも言えるのですが,誤解されているかな・・・と思うこともあります。

そんな中で,

弁護士である私が思う「弁護士が得意な交渉」「得意と言えない交渉」とは?
私の思う「交渉が得意な弁護士」の見分け方とは?
私の思う「有効な交渉のポイント」とは?

をお話しします。

 

1 裁判所の人への交渉は得意

こんな事を書くと,驚かれるかも知れませんが・・・弁護士になるために「交渉」の勉強は要りません
(少なくとも,私を含め,私以前に弁護士になった場合には)

「交渉」の定義は,色々ありますが,「交渉術」として用いる場合,「討議によって相手との合意に到達すること,そのプロセス」と理解できると思います。
つまり,交渉では,合意に至るために相手方に,心を動かしてもらう必要があります。

弁護士は,裁判所に効果的に訴え,強制的に認めてもらう方法は学んでいます。
その意味では,求める判決のため,裁判官の心を動かす「交渉力」は一般的に備えている,と言えるでしょう。


裁判官,調停委員など裁判所で働いている人の価値観は,弁護士の価値観と多くの点で一致します。

その価値観とは,「法の理念」である
「社会的に正しい」「公平・公正」と言えるかどうか?です。

しかし,あくまでこれは,社会の一般的な方の多くがそう思うであろう,という基準であって,誤解を恐れずに言うと,多数決に近いものです。

そのため,例えば,あなたが交渉する相手が必ずしも,そう思う,というものではありません。
なぜかというと,価値観は千差万別ですから・・

そして,「交渉」しなければならなくなった,ということは,
少なくとも,あなたと相手方とは価値観が異なるところがあったから・・のはずです。

考えてみれば,国,文化,時代によっても価値観は大きく違うことから,想像できるのではないでしょうか?

絶対的に「正しい」もの,はないとも言えると思います。


ここでの注意点は,「裁判」で争えば争うほど,相手方の心を動かすことは難しくなる,ということです。
なぜかというと,「裁判」は,主に相手方の悪い点を指摘し,相手方の主張を論破して,有利な判決を勝ち取る,というプロセスだからです。
この点で「合意をめざす」交渉とは根本的に違います。

論破された相手からの要望をあなたは,聞いてあげよう,と思うでしょうか?
しかし,弁護士の場合,この「論破する」ことに慣れてしまっているためでしょう・・・
実際に相手方の弁護士と交渉していると,交渉段階にも関わらず,こちらをすごく責めてこられ,合意が難しくなってしまう,と感じる場合もあります。

私自身も,振り返ってみると,以前はそうだったと思います・・・

なので,弁護士の「交渉力」が一般的に高いと言えるのは,
裁判官,調停委員など「裁判所」で働く方に話をするとき,と言えるでしょう。

そのため,弁護士の「交渉力」を有効に使うには,裁判所を利用した方が良いのですが,
強制的な解決である「裁判」での解決は,最終手段にするべきだと私は思っています。

弁護士の「交渉力」を上手く使うには,裁判所という場所,
そこでの「価値観」が重視される手続きである調停(裁判所での話合いによる解決)を利用することも有効だと思います。

 

2 交渉が得意な弁護士の見分け方


調停などの裁判所の手続きを利用した方が,弁護士の「交渉力」を引き出せるとしても,
できることなら,裁判所の手続きを利用せず解決したい,と思う方が多いと思います。
私も,出来るならば,その方がいいと思っています。

けれど,自分では上手く交渉する自信が無い・・・
なので,弁護士に交渉してもらおう,と思われる方も多いです。

しかし,先ほど述べたように,弁護士だからと言って,
全員が一般の方に対する「交渉力」が高い,ということにはなりません。
なぜならば,「交渉術」そのものは,全員が学んできたわけではないですから。

裁判所を説得するために,筋道を立て,「論理的に」話す訓練は受けていますので,相手方に論破される,ということを回避することは可能でしょう。

また,弁護士は,裁判の結果を予測することが出来るので,これを踏まえて相手方に譲歩を促せる,という能力もあると言えるでしょう。

けれど,想像して欲しいのですが・・・
論理的に説明されたからと言って,あなたは心を動かされるでしょうか・・・?
確かに言っていることは理屈が通っているし,「正しく」感じるけれど,でも納得いかない・・と思ったことはないでしょうか?

・・きっとあると思います。私も,もちろんあります。

なので,私は,「論理的に話せる」ことだけでなく,
感情を動かせる「話し方」ができるのか,ということが
「交渉」で解決できる弁護士を見分けるための大切なポイントなのではないかな,と思います。


それでは,感情も動かせる弁護士は,どのように見分けたらいいのでしょうか?

私は,弁護士と話したときの「あなた自身の感覚」を大切にするといいと思います。

その弁護士と話をしたら,理解してもらえたと感じて,少しでも安心できたのか・・?
この弁護士の話なら信頼できそう,と思えたのか・・?

もし,あなたの感情が「良い方向」に動いたならば,その弁護士は,感情を動かす力も強い,つまり,交渉力もある弁護士である可能性が高いと思います。
なぜなら,「言葉」と「態度」であなたの気持ちを良い方向に動かしたのですから・・

一方で,
その弁護士と話をして,なんとなくあなたが責められているような辛い気持ちになったとしたら・・・
いくら弁護士経験が長く,態度もどっしりしていて,論理的に話していたとしても,相手方の心を動かすのは難しい,交渉力もあまり高くないことも多いかも・・と思います。

もっとも,弁護士が,あなたにとっては「頼りがいがある」と心を動かされる場合であっても,注意が必要なケースもあると思います。
それは,あなたを全面的に肯定し,「相手方を一方的に非難する」場合です。

この場合は,弁護士に必要な法的なバランス感覚,当事者ご本人とは違う客観的な視点で,「社会的な正しさ」を判断する,という基礎的な部分に問題があるかも知れないからです。

本当に人の心を動かせる人,というのは,話す相手に応じ,その方の価値観,考え方を察知し,柔軟に「話し方」を変えられる方だと思います。


なので,難しいのですが・・・
弁護士と話してみて,あなた自身の心が動いたかどうか,とともに,
この弁護士の「話し方」ならば,相手方の気持ちしっかりともつかみ,心も動かせそうかどうか?という視点をもって見てみるといいと思います。

私は,交渉段階での解決,少なくとも,裁判まではいかず,調停までで解決できることに力を入れているので,今,改めて人の心を動かすための「話し方」「態度」を真剣に学んでいます。

 

3 ギブアンドテイク

最近,ジョン弁護士(アメリカ空軍やアップル・コンピュータ,ゼロックスなど多くの組織から依頼を受けプロの交渉術という著書もある方)の話を読んだのですが,

上手く交渉するには「強気で勝気な人でなくてはならない」というのは,素人の思い込みという話でした。
優秀な交渉人とは,礼儀正しく物分かりもよく,正直で公正,と言っています。

そして,交渉の定義は,「お互いが協力して相互に利益が出る解決法を見つけ出す」ことと考えています。
相互利益のために,お互い協力する・・・

戦闘して,二度と立ち上がって来られないように相手方をノックアウトすることではない。
つまり,交渉段階では,正義のいかづちを振りかざし,「論破」して,相手をやっつける,ということではないのです。

競争ではなく,「協力」する・・・

対立する相手方の場合,とても難しいことですが,「交渉」で解決しようとするならば,このポイントをおさえておくことはとても大切に思います。


相手のものが欲しい私と,私のものが欲しい相手・・

そして,自分は今既に持っているもの以上に相手のものを欲しいと思い,
相手も今持っているもの以上に私のものが欲しいと思っている。

これを交換する,という「考え方」つまり,平たく言うと「ギブアンドテイク」という「考え方」が必要です。
(望ましいのは,WIN-WINでしょうが,弁護士が介入する事案ではそのような感覚にまでなるのは難しいことが多いです)


今回の交渉であなたが最も欲しいと思うもの,最も譲れないものは何なのか・・・
相手方最も欲しいと思うもの,譲れないものは何なのか?

反対に,あなたにとっては譲りやすいけれど,相手にとっては,とても欲しいと思ってもらえるものは何なのか?
相手が最も譲りやすいものは何で,あなたにとって,欲しいと思えるものは何なのか?

これらを分析して,見極め,交渉すれば,有効な交渉が出来ると思います。
そして,あなたが譲るべき範囲を見極めるのに役立つのが・・
弁護士の経験に基づく,裁判になった場合の結果の予測です。
どれだけ正確に予測して,ご本人に伝えられるか,も実は弁護士の能力として大事なポイントになります。

みなさんが,交渉で最も得たい結果は何ですか?そのために差し出せるものはありますか?
裁判になった場合の結果を見越し,どこまで譲って「交渉」で解決した方がいいのか,分かっていますか?

 

まとめ 交渉力の高い弁護士になるために


私は,裁判官,調停委員など裁判所の方々を説得する能力はあると思っているけれど,
一般の方をどれだけ説得できるのか,心を動かせるのか・・については,以前は,あまり考えていなかった。

なぜかと言えば,以前は弁護士の仕事とは,裁判で相手方を論破し,勝訴判決を取ることだ,と思っていたから。

けれど,今は,その人の人生にとって,本当に幸せになる解決をしたい,と思っています。
人生の時間,精神的負担,金銭的負担も回避できるよう,そして,離婚の場合であれば,何よりも,間に入る子ども達の負担を少なくするためにも,裁判になる前に解決できるのであれば解決したい,と最近強く思います・・
そのためには,裁判所の人以外にも効果を発揮する「交渉力」,本当の意味での「交渉力」が必要だと実感して,日々勉強と実践をしています。

どんな「言葉」,どんな「態度」に人は心を動かすのか・・
それは,基本的なこと,共通するポイントもあると気づいたのと同時に,
相手方によって,響く「言葉」「態度」は違うということにも気づきました。

調停では,裁判所の調停委員の心を動かせばいいから,裁判所を使わない交渉よりは得意だけれど,
「裁判」とは違って,調停委員+相手方の心も動かせなければ,解決できません。

そのために,論理的なだけでなく,感情も動かす「話し方」も磨いていきたいと思います。


それに・・・
「交渉」って,家事の分担も,子どもと一緒にどこに出かけるのか決めるのも,事務所のスタッフとの労働契約も,何でも効果を発揮するものですから(笑)!

考えてみれば,一緒に誰かと何かをする場合にも,人との関係は,全て「交渉」で成り立っていますから,「交渉力」を身につければ,あらゆる場面で快適に過ごせそうです!


それでは,このブログが読んで下さったみなさまにとって,「交渉力」を高めるためのヒントとなりますように。
そして,弁護士の「交渉力」を過信せず,正しく見極める手助けになりますように


一緒に「交渉力」磨いていきましょうね!!
今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!

 

 

この記事を書いた弁護士

木下貴子
木下貴子
岐阜県多治見市で初の女性弁護士となり18年目。
岐阜県立多治見病院など地元事業者の顧問弁護士を務め,法律のみならず経営に関するアドバイスも行っています。
個人のお客様には,離婚,相続,不動産案件を多く取扱っています。
著書「離婚調停は話し方で変わる」は,Amazonランキング「法律」部門ほか5部門で第1位を獲得。
相談は,親身,気軽,自分で決めるをモットーとしています。お気軽にご相談ください。

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