労働問題第24回目 解雇の有効・無効/具体的ケース

労働問題第24回目も、解雇の有効・無効について具体的ケースから考えてみます。

 

解雇の合理的理由については、以下のようにケース分けして見ていきます。

 

 ①労働者の労務提供不能・労働能力又は適格性の欠如・喪失

  ア 勤怠不良(←21回目)

  イ 能力不足(←22回目)

  ウ 労働能力喪失(←23回目)

エ 労使間の信頼関係の喪失(←24回目・今回)

 ②労働者の職場規律違反(←25回目)

 ③整理解雇(←26回目)  

 ④ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求

 

それでは、解雇無効となったケースと、解雇有効となったケースを見ていきましょう。

 

1 【解雇無効】A学園事件(浦和地裁川越支部判平成11121日)

 

 ①事案の概要

Xは、昭和50 4月、Yが開設した保育専門学校に法学担当の専任教員として採用された。Xは、採用に際して職歴欄に「昭和454月、中央大学通信教育部インストラクター委嘱さる、現在に至る」と記載した履歴書を提出した。その後、Yが短大を設置することになり、Yから再度履歴書を提出するよう促された際、Xは、履歴書の職歴欄に「昭和454月、中央大学通信教育部資格審査委員会の審議を経て講師を委嘱さる労働法担当」と記載し提出した。平成6年にXの教授昇任に係る審査において、Xの経歴詐称(インストラクター→講師)が問題とされるとともに、Xの学生や同僚に対する暴言や、教授会での侮蔑的発言等がこれまでにあったことにより、就業規則所定の「職務に必要な適格性を欠く」に該当するとして、Xを解雇した。

Xは、本件解雇が無効であるとして、労働者としての地位確認並びに未払賃金及び賞与の支払を求めた。

 

 ②裁判所の判断

  Y就業規則にいう「職務に必要な適格性を欠く」とは、その表現自体、かなり抽象的であって、これを一義的に決することは困難な概念であるが、それが教職員の労働契約上の地位を一方的に奪う結果を招来させる「解雇事由」とされていることに照らし、当該教職員の能力、素質、性格等に起因して、その教職員の担うべき職務の遂行に支障があり、かつ、その矯正が著しく困難で、今後、当該組織体において、教職員として処遇するに堪えないと認められるような場合をいうものと解するのが相当である。

  履歴書は、それが当該教職員の採否を決する際の最も基本的かつ重要な判断資料となるものであるから、殊更これに虚偽の記載をすることは、その判断を誤らせる危険性の高い行為として、それ自体、教職員としての適格性に疑問を呈する事由になりうるというべきであるが、他方、これが問題とされるのが労働契約締結後であって、当該教職員が既にその組織体において稼働しており、当該組織体から生活の糧を得ている状況下にあることを考慮すると、その不実記載を理由に適格性の有無を判断するに当たっては、その形式面の重要性のみならず、当該不実記載の内容、程度、実際の本人の職務遂行能力、素質、不実記載がなされるに至った経緯及びその不実記載により、使用者がどのように判断を誤り、そのために損害を被ったか等を慎重に検討して決する必要があると解すべきである。

  本件履歴書の記載は正確性を欠くものであって、軽率のそしりを免れないものではあるが、その実質を考えると、原告に特段悪意は認められず、その職務遂行能力に影響はなく、これにより被告が原告に対する評価を誤って採用すべきでない人を採用し、そのため損害を被ったなどの事情は一切認められないのであり、したがって、これをもって職務に必要な適格性を欠くと評価することはできないというべきである。

 

 ③コメント

経歴詐称は、就業規則上懲戒事由として定められているところが多いようです。裁判例では、経歴詐称が懲戒事由となり得ることを認めていますが、①それは重大な経歴詐称に限定され、かつ、②真実を知っていたならば採用しなかったであろうという因果関係が必要であると考えられています。錯誤と同じような思考過程ですね。

本件では、①教職員という職種からすれば、職歴は重要な要素であると考えられますが、Xに悪意は認められず重大性がないこと、②実質的に見て、昭和50年の採用から相当期間が経過しており、その間Xの職務遂行能力に問題はなく、Yに損害が生じていないことから、因果関係も認められないと判断しています。今更という感じがしますし、経歴詐称の判断としては妥当な結論だと思います。

 

 

2 【解雇有効】K化学事件(大阪地判平成6916日)

 

 ①事案の概要

Xは、平成36月、樹脂原料の製造を行っているYに雇用された。その後、Xが作業方法に習熟せず、上司の指示にも従わず、また他の者との協調性を欠いていた。平成5年、Xは腰痛を起こし労働災害として同年75日まで休業し,休業期間後も、復職後の作業内容を不服として真面目に作業をしなかった。

さらに、Xは、履歴書に中卒であるにもかかわらず高卒と記載し、かつ、Yに入社する以前の会社で学歴詐称で解雇されていたにもかかわらず、職歴には当該以前の会社を記載していないことや、家族構成を偽り扶養手当を受けていたことなどから、平成51125日、就業規則所定の「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合(例、無断欠勤)」「重要な経歴を偽り、その他不正な方法を用いて採用されたとき」に当たるとして、解雇とした。

 

 ②裁判所の判断

Xが学歴を詐称したのは、中学校卒業であることを恥じたためであることが疎明されるところ、Yは高卒以上の学歴の者でなければ採用しない方針である旨主張するものの、高卒未満の学歴の者が採用されていることが疎明されるから、Yにおいて真実この学歴要件を重視していることについては疑問があり、この点は、少なくとも、就業規則所定の「重要な経歴」にあたるとすることはできない。しかし、職歴については、前職への入退社の事実をことさらに偽っているのは、その心情は理解できないではないにせよ、Yによる従業員の採用にあたって、その採否や適性の判断を誤らせるものであり、使用者に対する著しい不信義に当たるものといわざるを得ない。また、家族構成を偽り、扶養手当の支給を受けていたことは、詐欺罪にも該当する行為であり、その不正には著しいものがある。したがって、Xが職歴及び家族構成を偽ったことは、就業規則所定の「重要な経歴を偽り、その他不正な方法を用いて採用されたとき。」にあたるものというべきである。

 

③コメント

  経歴詐称といっても、①学歴、②職歴、③犯罪歴など様々です。

①学歴については職を得るために高く詐称したもの、学生運動による大学中退を秘匿するために低く詐称したもの、公務員試験において高卒・中卒限定を受けるため大卒を秘匿するものなどがあります。②職歴については、前職のトラブルを秘匿するために詐称したもの、職務能力があるかのうように詐称したものがあり得ます。③犯罪歴については、履歴書の賞罰欄にいう罰は確定した有罪判決であるとされ、既に刑が消滅している前科は原則として告知すべき信義則上の義務はないとされています(仙台地判昭和60919日)。本件の結論自体は、妥当なものでしょう。

 

 

3 【解雇有効】桜エンドレス事件(東京地裁八王子支部決平成8930日)

 

 ①事案の概要

  Yは電気式・機械式測定器の製作販売等を目的して設立された株式会社であり、Xは、平成7年に管理部長としてYに雇用された。Xは、対外折衝業務等の遂行・態度が高圧的であって取引銀行等から苦情が出され、その点を注意されても態度を改めなかったこと、社内の手続きを経ず、勝手に顧問税理士との顧問契約を解除したこと等を理由として、平成845日、YはXに対し、普通解雇通知をした。

 

 ②裁判所の判断

  被用者は、その職制上の地位、職務権限、職務内容、給与額等に応じてそれぞれ異なる内容の職務専念義務・誠実義務を雇用者に対して負うのであって、特定の行為が職務専念義務・誠実義務等に反するとして解雇事由に当たるか否かも、その地位等に鑑み個別に判断すべきであるところ、疎明資料によると、Xは、Yの管理部長として、総務、人事を統括する重大な職責を負う地位にある上、入社当初から右職務の担当者として年収1200万円という従業員の中では最高の給与を支給されていたことがいちおう認められるのであるから、Xは、一般の従業員と比べて高度な職務専念義務・誠実義務を負うものというべきである。

  しかるに、Xは、前記認定したとおり、Yの内部規定の定める手続に違反し、その権限を逸脱して本件解除通知を行ってYの国税調査への対応を困難にさせた上、主要取引銀行との良好な関係を危うくするなど、対外的なYの信用を毀損するおそれのある行為をした。Xの右行為は就業規則に反するものであって、通常解雇理由となるというべきである。

 

 ③コメント

  労働者は、その職制上の地位、職務権限、職務内容、給与額等に応じてそれぞれ異なる内容の職務専念義務・誠実義務を雇用者に対して負うことを明示した点に意義があります。しかし、高度の職務専念義務・誠実義務を認めるべきであると言い切れる労働者の範囲は、かなり限定的であると考えられます。

 

 

それでは今週も頑張ります!今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

 

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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