労働問題第22回 解雇の有効・無効/具体的ケース

労働問題第22回目は、解雇の有効・無効について、具体的ケースから考えてみます。

 

解雇については、労契法16条において解雇権濫用法理が規定されています。

 

16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効とする。

 

つまり、解雇する場合には、①客観的に合理的な解雇理由が備わっているか否かをまず判断して、①の要件を満たす場合にも、②解雇をもって臨むことが社会的に相当か、過酷に過ぎないかという観点から判断されるということになります。ただし、①と②の要件は、重なり合う部分がありますし、分けて考える実質的意義も乏しいものがあります。

それよりも、具体的ケースにおいて、裁判所が、類型毎にどのような判断したかを見ることによって、有効・無効のボーダーラインについてイメージを掴むことが重要だと思います。

 

解雇の合理的理由については、以下のようにケース分けすることができます。

 

 ①労働者の労務提供不能・労働能力又は適格性の欠如・喪失

  ア 勤怠不良(←21回目)

  イ 能力不足(←22回目。今回見ていきます)

  ウ 労働能力喪失(←23回目)

エ 労使間の信頼関係の喪失(←24回目)

 ②労働者の職場規律違反(←25回目)

 ③整理解雇(←26回目)  

 ④ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求

 

 それでは、解雇無効となったケースと、解雇有効となったケースを見ていきましょう。

 

 

 

1【解雇無効】森下仁丹事件(大阪地判平成14322日)

 

 ①事案の概要

  Xは、昭和44年、医療品等の製造・販売を行うY社に入社し、販売職等の業務に従事してきた。Yにおいては昭和57年くらいから考課制度を導入し、年3回あり、S(標準を大幅に上回っている),A(標準を上回っている),B(標準,普通),C(標準を下回っている),D(標準を大幅に下回っている)の5段階評価であった。

Xの昭和57年から平成8年までの間は概ねBであったが、業務に管理職的能力が必要となるに従い,業務実績が低下し,平成8年以降はCが大半となった。

さらに、平成121月頃から、コンピューターの入力ミス当が発覚し、Xは決算までには修正するよう命じられたものの放置した。平成125月には、Xの発生させたミスが89件にも及んだことに加え、Xのミスにより決算書が間違って作成された。

Yは「技能発達の見込みがないと認めたとき」に該当するとして、Xを解雇した。これに対して、Xが解雇無効確認等を求めて本訴提起した。

 

② 裁判所の判断

Xは,①リストラの対象とされた平成8年以前には,概ねB,標準という評価を受けていたこと,②平成84月以降平成113月まで従事していた営業職の業務については、Xの後任者も予算を達成できなかったことやYの営業自体が不振であったことなどをも考慮すれば,Xの成績不振を一概に非難はできないこと,③平成1110月以降の業務は,コンビューターを使っての大量の伝票処理を1人でやるというものであり,原告にとって慣れない業務であったことが容易に推認できること,④Yでは,物流課での業務のようにXがミスなく業務を行なうことができる職種もあること,⑤Yの就業規則では,人事考課の著しく悪い者等については,降格ということも定められていることなどに鑑みれば,未だXにYの従業員としての適格性がなく,解雇に値するほど「技能発達の見込みがない」とまではいえない。

 

 ③コメント

  長期雇用慣行のある企業における勤務成績不良社員の解雇においては、長期雇用・長期勤続の実績に照らして、単に成績が不良というだけではなく、それが企業の経営に支障を生じるなどして企業から排斥すべき程度に達していることを要すると考えられています。この事案では、人事考課だけではなく、決算書作成過程におけるミスなど企業の経営に支障が生じているとも言える事案です。しかし、降格や他部署の業務への異動により対処できた面があり、そういった意味で解雇回避措置が尽くされていたとは言えないという点も重視されていることが分かります。

 

 

2【解雇有効】日水コン事件(東京地判平成151222日)

 

 ①事案の概要

  Xは、システムエンジニアとして中途採用された。このとき、YはXに対して、将来的にはYのシステム部を背負っていくような活躍を期待する旨の発言をするなどXの実績から即戦力となることを期待し、そのことをX自身も承知したうえで採用された。しかし、Xは約8年間の在籍中、満足に日常業務ができないばかりか、期待された成績を得られなかったうえ、上司の指示に対し反抗的な態度を示し、その他の多くの従業員と意思疎通ができず、自己の能力不足による業績不振を他人の責任に転嫁する態度を示すなど、Yの期待に応えるような業務成績を上げることはできなかった。YはXに配転命令をして、1年半にわたって上司の指導・助言や人事企画課の監督を受けながらの指導育成を実施したが、Xに改善の兆しが見られなかったことから、「職員としての適格性を欠く」「職務に誠意なく勤務状況著しく不良の場合」に該当するとして解雇した。

 

 ②裁判所の判断

  Xは,単に技術・能力・適格性が期待されたレベルに達しないというのではなく,著しく劣っていてその職務の遂行に支障を生じており,かつ,それは簡単に矯正することができない持続性を有する原告の性向に起因しているものと認められるから,Y就業規則59条3号及び2号に該当するといえる。

 

 ③コメント

  即戦力として中途採用されて高賃金が約束されており、職種が限定されている社員に対しては、他の社員と同様の考課ではなく、「即戦力として期待されたレベル」など高い職務遂行能力が期待され、降格・配転などの解雇回避義務についても別異の判断とされることもやむを得ないでしょう。

本件では、Y社は、Xに対し、再教育・指導の必要性があると考え、1年半にわたって人事企画課における指導育成を実施していますが、この点について裁判所は、解雇回避義務を尽くした趣旨で評価するとともに、それ以前の考課も正しいものであったことを推認させる事情としても評価しています。

 

 

3【解雇有効】ブレーンベース事件(東京地判平成131225日)

 

 ①事案の概要

  Xは、X線診断機、インプラント、手術用具当の医療用材料・機器製造販売を業とするYに平成1116日から雇用され、入社後3か月間は試用期間であるとされていた。

Xの業務は、Aの業務補助として商品発表会を開催して歯科医等の顧客となるべき者に商品の説明をして販売することにあり、その前提として商品発表会開催の案内を全国各地の歯科医に対してファックス送信することにあった。Xに期待される以上のような業務内容については入社当初からXに対して説明されていた。

Xは、歯科医が患者の治療中に必要となった商品発注に対して30分程度たってから事務所を出発することが3回程度あり、顧客である歯科医から配達の遅れについて後に苦情が寄せられた場合もあったが、取引が打ち切られるまでには至らなかった。また、パソコン使用経験のある者にとって困難な作業ではない商品発表会の開催案内の送信も満足にすることができなかった。さらに、参加者に対するお礼の電話、ファックス送信、商品の販売交渉の段取りを行う等、Yの業務推進にとって重要な業務が行われる商品発表会の翌日に休暇をとるということがあった(Yにおいては商品発表会の翌日には社員は必ず出勤するという慣行となっていた)。

Yは、Xの以上のような勤務状況に照らして、平成1141日、Xを解雇した。

 

 ②裁判所の判断

  (以上の事情にかんがみると)Xは、将来的には自ら顧客となるべき者に対する商品説明を行うなどして、Yの商品の販売につながる業務を行うことを期待したYにとっては、Xの業務状況は、遅くとも平成113月末時点で、そのような期待に沿う業務が実行される可能性を見出し難いものであったと認めるのが相当である。

ところで、Xの入社時から本件解雇時まではいまだ試用期間であったところ、一般に、試用期間の定めは、当該労働者を実際に職務に就かせてみて、採用面接等では知ることのできなかった業務適格性等をより正確に判断し、不適格者を容易に排除できるようにすることにその趣旨、目的があるから、このような試用期間中の解雇については、通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められるというべきである。しかし、一方で、いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇用関係に入った者は、本採用、すなわち、当該企業との雇用関係の継続についての期待を有するのであって、このことと、上記試用期間の定めの趣旨、目的とを併せ考えれば、試用期間中の解雇は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認される場合にのみ許されると解するのが相当である。本件で認定した事実にかんがみれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認される場合に当たると解するのが相当である。

 

③ コメント

  試用期間中の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態に照らして判断されますが、解約権留保付労働契約の成立を認める立場が有力であり、この場合には解約権が留保された趣旨・目的に照らして通常の解雇より広い範囲で解雇の自由が認められると考えられています(三菱樹脂事件、最判昭和481212日)。本件は、試用期間中の解雇について、本採用拒否が留保解約権の行使であるとしながらも具体的判断の場面においては解雇権濫用法理と同様に本採用拒否事由の正当性を厳しく判断する姿勢を示している点、それでもなお、解雇を有効とした事例として参考になります。

 

 

 それでは今週も頑張ります!今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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