労働問題第21回目 解雇が有効・無効となる場合

労働問題第21回目は、解雇の有効・無効について、具体的ケースから考えてみます。

 解雇については、労契法16条において解雇権濫用法理が規定されています。

 16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効とする。

 つまり、解雇する場合には、①客観的に合理的な解雇理由が備わっているか否かをまず判断して、①の要件を満たす場合にも、②解雇をもって臨むことが社会的に相当か、過酷に過ぎないかという観点から判断されるということになります。ただし、①と②の要件は、重なり合う部分がありますし、分けて考える実質的意義も乏しいものがあります。

それよりも、具体的ケースにおいて、裁判所が、類型毎にどのような判断したかを見ることによって、有効・無効のボーダーラインについてイメージを掴むことが重要だと思います。

 

解雇の合理的理由については、以下のようにケース分けすることができます。

  1. 労働者の労務提供不能・労働能力又は適格性の欠如・喪失
    ア 勤怠不良(←21回目。今回見ていきます)
    イ 能力不足(←22回目)
    ウ 労働能力喪失(←23回目)
    エ 労使間の信頼関係の喪失(←24回目)
  2. 労働者の職場規律違反(←25回目)
  3. 整理解雇(←26回目)  
  4. ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求 

それでは、解雇無効となったケースと、解雇有効となったケースを見ていきましょう。裁判例を見ていきますので長くなりますがお付き合いください。

  

1【解雇無効】高知放送事件(最判昭和52年1月31日)

①事案の概要

Xは、放送局Y編成局報道部勤務のアナウンサーであったところ、担当する午前6時から10分間のラジオニュースを2週間に2回寝過ごしによる放送事故を起こした。

第1事故は、Xが前日からファックス担当者と宿直勤務して午前6時20分頃まで仮眠していたため定時ラジオニユースを全く放送することができなかった。第2事故は、同様にファックスる担当者と宿直勤務に従事したが、寝過したため、定時ラジオニュースを約5分間放送することができなかつた。Xは第2事故については、上司に事故報告をせず、部長から事故報告書の提出を求められ、事実と異なる事故報告書を提出した。そこで、Y会社は、Xを懲戒解雇とすべきところ、再就職など将来を考慮して普通解雇処にした。

 ②裁判所の判断

Xの起こした第1、第2事故は、定時放送を使命とするY会社の対外的信用を著しく失墜するものであり、また、Xが寝過しという同一態様に基づき、特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、更に、第2事故直後においては卒直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると、Xに非がないということはできないが、①本件事故はいずれもXの過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではなく、また、通常は、ファックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ、ファックス担当者においても寝過しており、事故発生につきXのみを責めるのは酷であること、②Xは、第1事故については直ちに謝罪し、第2事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと、③寝過しによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと、④Y会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと、⑤事実と異なる事故報告書を提出した点についても…強く責めることはできないこと、⑥Xはこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと、⑦第2事故のファックス担当者はけん責処分に処せられたにすぎないこと、⑧Y会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと、⑨第2事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること等から、Xに対し解雇をもつてのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。

 ③コメント

解雇権濫用法理を確立させた重要判例ですが、事例判断としても重要です。形式的には、就業規則上の解雇事由に該当しても、Xのこれまでの勤務状況や本件に関する状況や結果を具体的にみると、解雇とするのは実質的には客観的合理性を欠き、社会的相当性もないと判断しています。このようなミスが繰り返されていれば、解雇も相当となったでしょうが、一度(2週間に2度)のミスではなかなか解雇とするには酷ということでしょう。

 

2【解雇有効】東京海上火災保険事件(東京地判平成12年7月28日)

 ①事案の概要

Xは、損害保険Y会社に総合職の従業員として雇用され、システム開発・保守に関する業務に従事していたが、通勤途上の負傷(傷病名は,左足関節捻挫,左立方骨剥離骨折)により4か月間,その他私傷病により約5年5か月のうちに約2年4か月を長期休暇により欠勤し(5か月間、1年間、6か月間など)、最後の長期休暇の前2年間の出社日数のうち約4割が遅刻であったなど遅刻を常習的に繰り返していた。また、Xは長期休暇明けの出勤にも消極的態度で、離席時間も多かった。

これに対し、Xの上司らは、再三にわたり面接を含めた指導注意を行ったが、その態度は改まらず、むしろ反発することすらあった。そこで、Yは,Xが,就業規則「労働能率が甚だしく低く,会社の事務能率上支障があると認められたとき」に該当するとして解雇した。

 ②裁判所の判断

Xの上司らが指導を続けてきたことは前認定のとおりであり,それにもかかわらず,Xの勤務実績,勤務態度は変わらなかったものであるし,本件解雇時まで継続していた本件欠勤では,出勤して労務提供を提供する意欲がXに見られなかったのであるから,YがXを解雇せざるを得ないと判断したことには客観的に合理的な理由があるのであって,本件解雇が解雇権の濫用に当たるとはいえない。

 ③コメント

本件では、就業規則の「労働能率」の意義について、Xが会社の許可を得て病気欠勤をし,あるいは有給休暇を取得した期間は,労働能率の判断から除外されなければならないと主張しました。この点について、裁判所は、「能率」を「一定の時間に出来上がる仕事の割合」と定義づけるとしても,「一定の時間」から傷病欠勤の期間を除外する理由はない。むしろ,雇用契約においては,労務の提供が労働者の本質的な債務であり,Yとしては,ときには傷病等で欠勤することがあるにせよ,Xが長期にわたりコンスタントに労務を提供することを期待し雇用したと解されるところ,私傷病欠勤が多く,労務を長期にわたって提供できないことを,従業員(労働者)としての適格性判断の材料にできないというのは不合理であるからである。と述べています。

  

3【解雇有効】高島屋工作所事件(大阪地判平成11年1月29日)

 ①事案の概要

Xは、家具の製造販売及びインテリア設計施工等を業とするYに勤務していたが、Xの遅刻等の回数は、平成4年が29回(すべて遅刻)、平成5年が23回(遅刻19回、私用外出4回)、平成6年が16回(遅刻9回、私用外出5回、早退2回)、平成7年(ただし、3月まで)が6回(早退4回、私用外出2回)であること、遅刻の理由の大部分は腹痛又は自己都合であり際だって多いこと、遅刻・私用外出に関する上司の指示に従わなかったこと、勤務態度において上司の業務命令にしばしば従わなかったこと、同僚との間でも口論が絶えなかったことから、「技量又は能率が著しく低劣であって職務に適せず、配置転換も不可能で就業の見込みがないと認めたとき」、「やむを得ない会社の業務上の都合」を理由に解雇された。

 ②裁判所の判断

Xには、上司の指揮命令に従って誠実に業務を遂行しようとする意識ないしは同僚と協調して業務を遂行しようとする意識に著しく欠けていたことが認められるのであって、その程度は、業務の円滑な遂行に支障をきたすほどのものであったというべきである。そして、これらの事実は、Xが、協調性は欠くのみならず、職業人ないし組織人としての自覚に著しく欠けることを示すものであり、従業員としての適格性がないものと評価されてもやむを得ないと考えられる。そして、かかる状況に鑑みれば、原告の配転が困難であったことも首肯することができる。

さらに、Xの勤務成績は、過去5年間で、全従業員の中で最低又は最低から二人目であって、著しく低く、前記認定にかかるXの勤務状況に照らせば、右評定が不合理なものであるともいえない。

これらの事実に、Yの業績悪化に伴う赤字部門の整理統合により、Xが所属していた部門が廃止され、その事務部門に所属していたXが余剰人員となったことを併せ考慮すれば、本件解雇は合理的なもので、これが著しく社会的相当性を欠き解雇権を濫用するものであるとはいえないというべきである。

③コメント

解雇に当たり、労働者に対して何度も繰り返し注意・指導を繰り返したにもかかわらず、労働者が正当な事由なく勤怠不良を繰り返し、それによって業務への支障が生じ、労働者が反省を示しておらず、もはや解雇しか選択の余地がないというレベルまで達している必要があることを示すものです。解雇の有効・無効が争われる場合には、証拠に基づいた事実認定が行われますので、注意・指導を繰り返したことを示す客観的証拠が必要となるケースがあります。しかし、口頭による注意を行い、そのことが記録化されていないことが多いという感覚があります。実務的には、記録として残る文書やメールによることが望ましいですが、口頭注意をする場合にも、業務日誌等に記録化しておくことが重要だと言えますね。

 

 

それでは、今週も頑張ります!今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

 

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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