労働問題第18回目 人事権とその限界-降格について-

労働問題第18回目も人事権について考えてみます。

 

今回は、どの企業においても問題となる人事権行使としての「降格」について取り上げます。

 

「降格」とは広い概念です。これを分類すると、①一定の職位や役職を引き下げる意味での降格(降職。昇進の反対)、②職能資格制度・職務等級制度上の資格・等級を引き下げる意味での降格(昇給・昇格の反対)に分類することができます。

 

「降格」については人事考課に基づいて行われるため、基本的には企業に広い裁量が認められることについてはイメージしやすいと思います。しかし、裁量にも限界があり、法律による制約、権利濫用による制約を受けます。

 

  

1 法律による制約

 

人事考課に裁量が認められるとしても無制限ではなく、法律による制約や権利濫用による制約があります。法律による制約とは、労基法上による均等待遇、男女同一賃金(労基法3条、4条)、男女雇用機会均等法による性差別禁止や妊娠・出産にともなう不利益取扱禁止(均等法6条、9条)、育児介護休業法による不利益取扱禁止(育児介護休業法第10条)などが挙げられます。

 

特に、広島中央保健生協事件-最判平成261023日は、マタニティ・ハラスメント問題に関連して均等法93項の解釈について重要な判断を下しています。

 

【男女雇用機会均等法93項】

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和22年法律第49号)第65条第1項(産前休業)の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項(産後休業)の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

この事案は、従業員の妊娠中の軽易な業務への転換に際して、副主任を降格させられ、育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかった事案です。

最高裁は、均等法93項が強行規定であるとした上で、女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは原則として違法・無効であり、例外的に、①労働者が自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、②降格措置について均等法93項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないというべきと判断しました。

本件事案で最高裁は、副主任を降格させた措置が均等法第9条第3項に違反し違法・無効なものに当たりうるとして原審に破棄差し戻しています(差戻審は違法・無効と判断)。

 

上記最高裁判例を受けて、均等法9条3項等の行政解釈(平成27.1.23雇児発0123第1号)が改正されていますので、参考になります。

 

 

 

2 権利濫用による制約

 

 権利濫用による制約については、上記「降格」の分類ごとに見た方が分かりやすいです。

 

 

 ①職位や役職を引下げる降格(降職)

 

人事権の行使としての降格のうち、一定の職位や役職を解く降格については、就業規則上の根拠規定がなくとも、使用者の裁量的判断によって行うことができると考えられています。しかし、無制限ではなく権利濫用の制約があります(労契法35項)。

裁判例によると、職位や役職を引き下げる降格については、業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、労働者の被る不利益の性質及びその程度等を総合考慮して判断されますが、使用者の経営判断に属する事項であるため、権利濫用の判断は、賃金減額と直結する②の職能資格の引下げ等と比べて緩やかに判断される傾向にあるのは当然のことと言えるでしょう。

 

一方、職務を限定する特約が存在する場合には、当然のことながら職位や役職を引き下げる降格について一定の制約があると言えますが、その反面、成績不良による解雇が認められ易くなるということになります。

 

 

 

 ②職能資格制度上の資格を引下げる降格

 

職能資格制度とは、従業員に求められる職務遂行能力(職能)をランク付けした資格・等級に従業員を格付けして賃金(職能給)等を決定する制度です。旧来の職能資格制度では、従業員の潜在的能力に重点が置かれて能力評価を年齢や経験年数に対応させて運用されることが通常でした。そのため、資格・等級を引き下げる降格は通常予定されておらず、降格には就業規則や従業員との明示の合意が必要となります(アーク証券(本訴)事件-東京地判平成12131日)。

 

アーク証券(本訴)事件とは、旧来型の職能資格制度の給与システムを定めていたところ、旧就業規則上の根拠も労働者の同意もなく営業成績に応じて従業員を降格処分とし(㋐)、途中で旧就業規則を改正して新就業規則において能力評価制を導入した結果減給となった点(㋑)が無効であるとして争われた事案です。

裁判所は、㋐の点について、旧就業規則の給与システムは一般的な職能資格制度であり、いったん備わっていると判断された職務遂行能力が、営業成績や勤務評価が低い場合にこれを備えないものとして降格されることは、心身の障害等の特別の事情がある場合は別として、何ら予定されていなかったとした上で、降格に就業規則や従業員との明示の合意が必要であるとしています。なお、㋑の点については、いわゆる「就業規則の不利益変更」の問題ですが、賃金という労働者にとって重要な労働条件に関しては高度の必要性に基づいた合理的な内容でなければならないところ(第四銀行事件)、労働者全体の給与を削減する必要は否定できないが、代償措置その他関連する労働条件の改善措置はとられておらず、労使間の利害調整も不十分であることから、就業規則の不利益変更の合理性を肯定することはできないとして無効としています。地裁判例ですが参考になります。

 

 

 ③職務等級制度上の等級を引下げる降格(降級)

 

職務等級制度は、職務・役割の価値である職務評価・役割評価をランク付けした職務等級・役割等級(グレード)に対応させて、等級ごとに賃金(職務給・役割給)等を決定する制度です。従業員の顕在能力や業績に賃金を連動させる点で成果主義的制度と言えます。

 成果主義的制度ですから、②の職能資格と比べて使用者側には広い裁量があり、審査評価制度・評価基準での枠内で行われる限り、原則として企業の裁量的判断に委ねられるものと言えます。ただし、そもそも成績不良が認めらないといった事実誤認や退職誘導など不当な動機が認められる場合には人事権の濫用として無効となり得ます。

 

 

それでは今週も頑張ります!今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

 

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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