労働問題第16回目 懲戒処分を科す場合に注意するべきこと(各論)

労働問題第第16回目は、懲戒処分の各論について考えてみます。

 

前回の総論で確認したとおり、懲戒処分は、①就業規則に根拠があり、②その懲戒事由に該当し、③懲戒処分が社会通念上相当なものでなければなりません。就業規則を作成する段階で、会社は、ある程度、懲戒事由毎に処分を場合分けしているのが通常ですが、具体的類型毎に、どのような点に着目し、どのような処分を下せば「相当」と言えるのでしょうか?

 

相当性の判断については、一般論としては、①行為の内容、②結果の重大性、③頻度や期間、④業務内容、⑤過去の処分歴、⑥反省の有無などを総合して判断されるべきものといえます。

以下、具体的に見ていきましょう。

 

 

1 経歴詐称

経歴は、採用のためのみではなく採用後に基本的資料となるものであり、これを偽ったことが判明した場合には、たとえ採用後の勤務に非難すべき点がなかったとしても労働契約上の信義則違反として懲戒事由となり得ます。判例は「重要な経歴」を詐称した場合に限り、懲戒処分としての相当性を認める傾向です。重要な経歴とは、例えば、最終学歴・職歴、犯罪歴(但し、賞罰歴における罰とは一般的には確定した有罪判決をいいます。)がこれに当たります(最判平成3年9月19日-炭研精工事件)。

 

 

2 勤務懈怠

無断欠勤、出勤不良といった勤務懈怠は、それ自体は単に労務提供という労働者側の債務不履行であり、それが職務規律に違反したり、企業秩序を乱したと認められる場合に、初めて懲戒事由となるものといえます。よって、欠勤の頻度や継続性、その理由、企業の注意・指導の有無やそれに対する労働者の対応、業務に与えた影響、従来の取扱いを考慮して、懲戒処分の有効性を判断する傾向にあります。

勤務懈怠について企業が注意・指導をしない場合には、これを許容していたと判断されてしまう可能性もあるので指導書のような形で、勤怠不良について改善をするよう注意・指導しておく必要があるでしょう。

 

 

3 業務命令違反

上司の指示・命令違反、出張命令、配転命令、出向命令違反といった業務命令違反については、業務命令違反として懲戒の対象となり得ます。しかし、まずは業務命令が労働契約の範囲内の有効なものかが問題となることが多いです。

 

 

4 服務規律違反

業務遂行や職場内での行動を規律している服務規律に違反する行為は、懲戒処分の対象となり得ます。

問題となるのは、会社構内における政治活動や集会、貼紙、ビラ配布などを禁止し、許可制にする就業規則違反の場合ですが、判例は、ビラ配布などを許可制とすることは企業秩序維持の見地から合理的であるとの判断を前提に、ビラ配布が実質的にみて企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合には懲戒事由該当性が認められないとしたものがあります(最判昭和52年12月13日-目黒電報電話局事件)。

 

 

5 私生活上の非行

業務とは関連しない労働者の私生活上の非行については、原則として会社からの関与をけるべきものではないのが大前提ですが、会社の信用・評価に影響を及ぼすものである場合に限って懲戒処分の対象となります。しかし、判例は、就業規則の限定解釈を行い、社会的相当性の判断を厳格にするなどして懲戒処分の適法性を判断しています(最判昭和45年7月28日-横浜ゴム事件)。

ここでは、私的行為が、企業の社会的信用の失墜に至るという関係が必要なので、行為の性質や結果に加えて、企業の種類や経営方針、労働者の地位・職責が重要な判断要素となります。例えば、運送業の運転手が業務外で飲酒運転で捕まった場合には、企業の社会的信用の失墜は大きいでしょうし、非行が管理職によって行われた場合とそれ以外とでは企業の社会的信用に与えるダメージは異なるはずです。

 

 

6 セクハラ・パワハラ

  セクシャルハラスメントについては、強制わいせつ罪に当たるような行為であれば懲戒解雇は有効となる可能性が高いです。また、強制わいせつに当たらない程度のものであっても、身体的接触があれば懲戒解雇は有効になる可能性が高まります。ただし、身体的接触があっても、具体的行為態様、行為者の地位・立場、両者の関係、被害者側の落ち度、行為者の反省の有無などを総合的に判断して、懲戒処分を科すか否かを判断することになります。

  一方、パワーハラスメントについては、暴力行為を伴わない限り、業務上の注意・指導の延長の場合が多く、適切な注意・指導とパワハラとの境界線が曖昧であることは否定できません。セクハラに該当するような性的言動は、本来職場に持ち込むべきではなく、企業としては厳罰の姿勢で臨むべきでしょう。しかし、パワハラの場合、適切な業務上の注意・指導をすることに委縮する事態が生じることは避けなければなりません。そのため、パワハラの場合には、行為者の地位・立場、行為の動機・目的、時間・場所、言動の態様を考慮要素として、慎重に懲戒処分の程度について判断する必要があるといえます。

  セクハラ・パワハラが行われた場合、加害者自身が被害者に対して不法行為責任を負うだけでなく、企業自体も使用者責任(民法715条1項)、安全配慮義務違反としての債務不履行責任(民法415条)を被害者に対して負う場合があるということは認識しておかなければなりません。また、被害申告がなされた場合に、企業がこれを放置したり、怠慢な調査で済ましたこと自体が安全配慮義務違反とされる場合があるので注意が必要です。よって、企業としては、被害者から被害申告があった場合には、虚偽の申告であることが明白である場合を除いて、可及的速やかに調査・処遇の決定を行うべきといえます。

 

もう師走ですね・・・それでは今週も頑張ります!

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。 

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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