労働問題第15回目 懲戒処分を科す場合に注意するべきこと(総論)

労働問題第15回目は、懲戒処分の全体像について考えてみます。

懲戒処分とは、労働者が会社の秩序を乱す行為をした場合に、これに対する制裁として行われる措置です。

会社運営をしていく中で、労働者の非違行為が発覚して、どのような懲戒処分が適当か、どのような手続で懲戒処分をすればよいか迷われることも多いと思います。しかし、運送事業者における飲酒運転は業務との関係で重大な非違行為に当たるでしょうし、セクハラの事実が確認されたとき企業がどのような処分で臨むかといったことを考えていくと、懲戒処分は、企業ごとに、その企業としての姿勢が問われる問題であるとも言えます。

 

まず、懲戒処分に関する条文の規定を見てみましょう。

労働契約法15条 ①使用者が労働者を懲戒することができる場合において、②当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、③社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして当該懲戒は無効とする。

 

以下、①から③の内容について見ていきましょう。

 

1 ①懲戒することができる場合において=就業規則の根拠規定

会社が労働者に対して懲戒処分をするには、就業規則の根拠規定が必要になります。

事業場単位の労働者が10人未満であれば就業規則の届出義務はありませんが、懲戒処分をするためには、やはり就業規則の根拠が必要になります。

したがって、労働者に対して懲戒処分を検討する場合には、まず、就業規則において、その種類及び程度に関する規定がどのようになっているのか確認することになります。労働者が非違行為をしてから就業規則をチェックするのでは遅いとも言えますね。

 

 懲戒処分の種類については、軽いものから以下の順序で定めている会社が多いと思います。

  1. 戒告 将来を戒めるのみで始末書の提出を求めない処分
  2. 譴責(けんせき) 始末書を提出させて将来を戒める処分
  3. 減給 上限があり1回の額が1日分の半額を超え、総額が月次給与総額の10分の1を超えてはなりません(労基法91条)
  4. 出勤停止 上限はありませんが1か月程度を上限とする会社が多いようです。賃金は支払われないのが一般的ですが、就業規則にその旨規定しておくことが必要です
  5. 降格 制裁を目的として労働者の役職や職能を低下させる処分。降格に伴い給与が下がるため重い処分です
  6. 諭旨解雇 勧告に応じない場合には懲戒解雇することを前提として即時退職を勧告して自主退職の形式とすること。退職金は支給されるのが通常です。
  7. 懲戒解雇 最も重い処分です。退職金の全額・一部を支給しないとの規定を設けている会社が多いです。

 

2 ②客観的合理的理由があること=懲戒事由該当性

 ①就業規則に根拠規定があっても、非違行為が就業規則所定の懲戒事由に該当する必要があります。

 もっとも、裁判所は、形式的に懲戒事由に該当する行為があったとしても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない行為であれば、懲戒事由に該当しないという限定解釈することがあります(目黒電報電話局事件-最判昭和52年12月13日)。

 また、懲戒処分後に別の非違行為が発覚した場合、当該懲戒処分の理由として追加することは認められませんので注意が必要です(山口観光事件-最判平成8年9月26日)。

 

 3 ③社会通念上相当であること

  ①就業規則に根拠規定があり、②懲戒事由に該当したとしても、処分の内容や手続が社会通念上相当なものでなければなりません。

 

 ⑴ 処分の相当性

 懲戒処分を科す場合には、社会通念上の相当性が必要です。「問題のある社員だから今回だけ重い処分をしよう」ということは許されないということです。その判断は、行為の内容、結果の重大性、頻度、期間、業務内容、過去の処分歴、行為者の反省の有無などを総合してなされますが、類型ごとに難しい判断を迫られることになります(詳しくは、次回以降に見ていきたいと思います。)。

 

  ⑵ 手続きの相当性

 懲戒処分は、一種の制裁ですから、手続的相当性も重要な要素です。

 重い処分をする際の懲戒手続についても定めがない会社が多いと思いますが、仮に就業規則等で定められた手続を踏まずに科された処分については無効となる可能性が高いでしょう。一方、手続規定がない場合であっても、適正手続保障の観点からすると、思い処分をする際には、弁明の機会を与えることが望ましいと言えます。

  

4 事前の警告や軽い処分の重要性

重い懲戒処分をする前に、軽い懲戒処分を科さなかったことを、懲戒処分無効の理由の一つとしている裁判例もあります。

したがって、懲戒処分に際しては、まず注意・警告を行い、あるいは、戒告や譴責などの懲戒を検討するべきでしょう(重い処分をしなければ企業秩序維持が困難となる場合は除きます。)。

それにもかかわらず、労働者が同様の行為を繰り返してしまう場合には、より重い懲戒処分も相当という方向になります。ただし、懲戒処分を科した行為については、二重処罰禁止の原則により再度処罰することはできないので注意が必要です(懲戒処分ではない注意・警告レベルであれば、その非違行為を含めて懲戒処分を科すことは許されます。)。

また、これらの経過については、文書にて行い、記録として保管しておくことが重要です。

 

 

それでは、今週も頑張ります!今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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