労働問題第14回 通勤災害における「通勤」とは!?

労働問題第14回目は、前回に引き続いて労災保険法の分野についてです。今回は「通勤災害」について考えてみます。

 

会社として、果たして「通勤災害」に該当するのか判断に苦慮する場合も多々あるものと思います。

例えば、会社で業務終了後に組合活動を3時間した後に帰宅する場合、会社に提出した通勤経路から外れている場合、帰宅途中に惣菜を買って通勤経路に帰る途中で発生した事故の場合はどうでしょう?

 

順番に見ていきたいと思います。

 

1 通勤災害における通勤の定義

「通勤災害」とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡をいいます(労災保険法7条1項2号)

この場合の「通勤」とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものです(7条2項)

  1. 住居と就業の場所との間の往復 *注1
  2. 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
  3. 第1号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る)*注2

注1) ここにいう「住居」とは、就業のための拠点を指すので、例えば、残業により会社近くのホテルに宿泊した場合にはこれも住居に含まれます。
​注2) 例えば、単身赴任者が、週末に家族の暮らす家に帰宅する場合を想定してみてください。

 

しかし、労働者が、労災保険法7条第2項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は通勤とはされません。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、通勤とされます(7条3項)

 

それでは、解釈上問題となる部分を順番に見ていきましょう。

 

2 就業に関しという要件

 「就業に関し」とは、移動行為が業務に従事するため又は業務を終えたことにより行われることを必要とする趣旨であり、移動行為が業務と密接な関連をもって行われることが必要です。そうすると、例えば、業務の終了後、会社の会合(又は懇親会)やサークル活動、組合活動等をした後に帰宅するような場合は問題となります。このような場合、活動を長時間にわたって行うなど、就業と帰宅との直接的関連性を失わせるような事情がない限りは就業との関連性が認められるのが通常です。その基準は事案によりますが、おおよそ2時間程度とも考えられているので注意が必要でしょう。

 以下、認められた事例と、認められなかった事例を少し挙げてみます。
 × 業務終了後、会社内に滞留した時間が2時間5分の事例において、一般的にはその後の帰宅行為には就業関連性が失われたものとされている
 ○ 業務終了後、会社内の自分の机で、労働組合の会計の仕事を約1時間25分行った後に帰宅した場合
 ○ 業務終了後、会社の食堂における慰安会に約1時間参加した後に帰宅した場合
 × 業務終了後、会社内でサークル活動を行い、2時間50分後に退社して帰宅した場合

 

3 合理的な経路及び方法とは?

「合理的な経路」とは、会社に届出した電車・バスなど通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等を指します。つまり、会社に提出した経路と異なる場合であるというだけで合理的な経路ではなくなるという訳ではありません。一方、特段の理由もなく著しく遠回りとなるような経路をとる場合は、合理的な経路とは認められません。

例えば、残業が深夜に及んだ場合に最寄駅ではなく人通りの多い他の駅から乗車した場合において、最寄駅と他の駅との距離がそれほど離れていない場合には合理的な経路に当たり得ますが、健康維持のためにと敢えて遠方の駅まで歩行している際の事故については合理的な経路には当たらない可能性があります。最近では、健康づくりのために自転車通勤をする人も多くなりました。この場合には、他の移動手段に増して通勤災害のリスクが高まりますので、労働者に合理的な経路を意識してもらうためにも通勤経路を届出させておいた方がよいでしょう。

 

「合理的な方法」とは、鉄道、バス、自動車、自転車を使用する場合や徒歩の場合等、通常用いられる交通方法であれば、平常利用している通勤経路であるか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認められます。したがって、通常は最寄り駅まで自転車で通勤している従業員が、通勤災害に遭った日に限って徒歩で通勤していたとしても、通勤災害と認められます。

 

4 逸脱・中断とは?

「逸脱」とは、通勤途上において就業または通勤とは関係のない目的で経路をそれることをいいます。

「中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為をすることをいいます。

「逸脱」「中断」後に通勤経路に戻っても、 その後は「通勤」とは認められませんが、例外的に日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、「逸脱」「中断」の間を除いて、合理的な経路に戻った後については通勤とされています。

 

日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものとは、以下の5分類を指します(労災保険法施行規則第8条)。

 ①日用品の購入その他これに準ずる行為

  〇惣菜等、家庭用薬品、衣料品、家庭用燃料品等を購入する場合
  〇独身者が食堂に食事に立ち寄る場合
  〇クリーニング店に立ち寄る場合、理髪店又は美容院に立ち寄る場合
  ×装飾品や奢侈品、耐久消費財の購入
  ×通勤途中で娯楽等のため麻雀,ゴルフ練習,ボーリング,料亭等での飲食等をする場合
  ×冠婚葬祭に行く場合

 ②職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設の行う職業訓練その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資する ものを受ける行為

  ×趣味又は娯楽のために教育訓練を受ける場合 

 ③ 選挙権の行使その他これに準ずる行為

 ④ 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為

 ⑤要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われているものに限る。)(H20.4.1施行)

 

 

 

それでは、今週も頑張ります。今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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