認知症に備えた資産承継の選択肢~民事信託

いつも読んでいただき,ありがと011うございます。

今回は,税理士法人アイオン・CPS総合法務事務所合同の勉強会で「民事信託・家族信託」をテーマにお話を聞きましたので,シェアします。

講師は司法書士・相続鑑定士の青山誠先生。

事前のリサーチで青山先生が,この分野ではかなりの研究の進んだ専門家,と別の司法書士さんから聞いていたので,とても楽しみに参加しました。

講義の途中では,任意後見で足りるんじゃないの?
と思いながら聞いている場面もありましたが,(青山先生すみません)

とても分かりやすくて,最終的には,認知症に備えた「資産承継」として,第3の選択肢にはなり得るかも!と思いました。
一方でやはり,リスクも抑えておく必要はありそうです。


そもそも民事信託って何?
任意後見と違う民事信託のメリットは?
民事信託を利用するリスクは?
民事信託は事業承継対策にも使える?

 

1 民事信託・家族信託とは

例えば,不動産を所有している場合,所有者は,その不動産を売買できる「管理処分権」と利用して,地代・家賃をもらう「使用収益権」の両方を持っています。
「信託」というのは,この「管理処分権」と「使用収益権」を分ける,と考えるとイメージしやすい。

不動産を管理する権利は,「受託者」がもって,家賃をもらえる「使用収益権」は「受益者」がもつ。

例えば,認知症で財産を管理できない母,歳を取って自分でアパートの管理は辛い,と思っている父がいるようなケース。
父の不動産(アパート)について,息子が「受託者」となって管理し,母を「受益者」として家賃を渡す,というような使い方ができます。

その中で,この「受託者」を信託銀行などにお願いするのが「商事信託」,これに対して,家族など「業務」として信託業をしない方にお願いするのが「民事信託」ということです。

典型的なケースを想定して「家族信託」とも言っています。

このケースで,父が認知症になる前に息子に「民事信託」をしておけば,その後に父が認知症になってしまっても,息子が管理をし続けてくれます。

実際に認知症になってしまってからでは,財産を移転する契約,管理してもらう契約などもできないことになり,不動産の管理や,売却など,有効活用することができなくなります。

その意味で,将来の「認知症」に備えた,対策という意味があります。

 

 

2 任意後見と違うメリットは?

認知症になると,財産を管理する能力が低下しますので,財産を処分・管理することができなくなります。
これを補うために,代わりに財産を管理する人「成年後見人」を選ぶ,という制度がありますが,これには限界があります。


青山先生は,成年後見制度の限界として,

・不動産の資産運用ができない
・自社株の議決権行使はできるのか疑問
・贅沢禁止・子どもや孫にお小遣い・お年玉もあげられない

と挙げられていました。


しかし,これらは,裁判所が後見人を勝手に決めてしまう法定の「成年後見人」の場合。
任意後見契約であれば「契約」ですので,自分が認知症になってしまった場合には,誰に財産を管理して欲しいのか,どのように管理して欲しいのかは「自由」に決めることができます。

なので,上記のような限界は,「任意後見制度」の利用でも,目的は達成可能です。


だとすると「民事信託」のメリットは何でしょうか?
私が感じたところは,以下の2点かな,と思います。

 

・任意後見制度のように公正証書を作成したり,実際に判断能力が低下した場合に裁判所に任意後見監督人をつけてもらう,などの手間がない。
(つまり,財産を管理する側にとって使い勝手が良い)
・最初のケースのように受託者を息子,受益者を最初は自分,死亡後は妻,妻死亡後は息子にするなどによって,自分が死亡した後まで含めた財産の管理者・収入を得られる人を決めることができる。

 

この中で,「手間」については,まだ新しい制度のため,今後しばらくは金融機関も「公正証書」を作って欲しい,と希望されることも多そうなことや,そもそも「信託」は当事者が増えて複雑なシステムを想定せざるを得ないので,それほど大きなメリットではないかも知れません。
でも,受託者が管理財産を処分・管理しやすくなるのは,確かかな,と思います。

二つ目のメリット,受益者を連続させられる,というのは大きいかな,と思います。
例えば,親亡き子の問題でしょうか。
障がいのある子を持つ親は,自分が生きている間はいいけれど,自分が亡くなったら,自分の子どものために,自分の不動産を信頼できる姪に管理して家賃は子どもに支払って欲しい,そして,子どもも亡くなってしまった場合には,お世話になった姪か姪の子どもに不動産の家賃ももらってもらいたい(資産そのものを承継したい),というようなケースでは,遺言書の作成で,このような指定の方法はできませんので,任意後見契約+遺言書作成では達成できないことが,民事信託では可能となると思います。

 

 

3 民事信託のリスク・注意点は

 

私が思ったところのリスクは,以下のようなことでしょうか。

・「受託者」を信用できるのか~使い込み等のリスク
・「変更」の困難性
・ 税金・遺留分の問題


まず「受託者」を信頼できるのか,の見極めは大事だと思います。
これを言ったら,青山先生には,「信託」は,「信じて」「託する」ことなので,およそ,そういう気持ちがある場合には使わない,という話がありました。

しかし・・・紛争現場ばかりにいる弁護士としては,そのリスクは,軽視できないな,と思ってしまいます。
先回のブログにも書きましたが,信頼して預けたお金を「身元保証」業者が使ってしまう,成年後見人が使ってしまう・・という事例は少なくありません。


例えば,アパートを信託した場合,アパートの家賃を管理する口座は,「信託口」という特別な名称にはなるのですが,受託者である息子の名前で作ります。
本来は,ここに入ってくるお金を受益者であるお母さんやお父さんに渡さなければいけないのですが,その「監督者」は基本的にはおらず,息子が自由に払い出すことができます。
(信託監督人を設定することで,リスクの軽減はできそうですが,信託監督人をおける,ということ自体を知っておく必要があります。任意後見であれば,このあたりは,公証人から説明があり,制度として任意後見監督人あるので,まだ安心かも。ただ,本来は任意後見監督人を付けないといけない状況なのに,放置されているというリスクはこちらもあるのです・・・)


そのために,そういうリスクがやはりあるからこそ,「業務」として,信託業をするためには,免許がいるという規制がされています。
一方で,原則一回限り,家族のためにするから「民事信託」を受託する方には,免許は要りません。
しかし,「一回限り」だからといって,そのリスクは低いのか・・・と言われると,私は,そうは思えないのです。

もっとも,メリットもある制度なので,規制緩和されているのですから,「自己責任」で,契約の内容を理解して利用するのであれば,問題は無いのですが。

この意味で,弁護士としての発想は,今後管理する側となる,息子さん側,「受託者」側から相談を受ければ,とっても良い制度として,「民事信託」を進められると思うのですが,委託者側であるお父さん側,お母さん側から聞かれたら,ある程度のリスクは説明しないといけないな・・というのが実感です。

その他にも,一旦「信託」を設定してしまうと,簡単にやめた,ということができないのが,任意後見に比べた場合のデメリットです。
基本的には,委託者,受託者,受益者が合意して変更しなければいけなくなるのです・・
弁護士ですとよく経験する,息子にあげようと思ったけど,家を出て行ったから,今面倒を看てくれている娘にあげたい,というような変更は非常に難しくなります。

その意味でも,本当に「信用」できるのか,という見極めが必要ですね・・

それ以外には,まだ,これから実際の実務の事例ができてくるところもあり,細かい点での税務の取扱,遺留分の取扱がはっきりしていない,という点がリスクでしょうか。
私自身は,「信託」をしたからと言って,法の根底に流れる精神からすれば,「遺留分」算定の財産から外れる,とは思えませんが,それは,遺言書作成や任意後見契約などをしておいても,同じ問題はあるので,「遺留分」の問題がはっきりしないから,民事信託を使えない,ということにはならないかな,と思います。

ただ,「民事信託」はすこし,イレギュラーな仕組みを使うので,遺留分減殺請求があったとき,信託財産はどうなるのか,など不明な点もあり,紛争を最小限にするような遺留分対策はしておいた方がいいかなと思います。

 

 

まとめ


若干,懐疑的に臨んでいた「民事信託」「家族信託」のお話でしたが,使い方によっては,特に財産を管理する側の「管理権」を確実にしたい,認知症になってからも,柔軟に財産管理,処分をしたいというニーズにおいては,使うメリットもありそうです。

その他,遺言書+任意後見では実現できないような,メリットでしょうか・・
子どもがいない場合の夫婦で,自分が先に死んだら,お互いに相手方に渡す,だけれども,その後に配偶者が死亡した際に残った資産は,自分の先祖からの財産は,自分自身の兄弟に最終的には戻したい,というようなケースでは利用できるでしょうか・・


これまでは,遺言書作成+任意後見では対処できなかった事案で,柔軟な発想ができる可能性がある,と思いました。

もっとも,青山先生も言われていましたが「民事信託」「家族信託」は一つの選択肢。
これで全て解決できるわけではありません。

民事信託は,主に「財産の管理」を確実にするために「強み」がありますが,身上看護,つまり,本人の介護契約をどうするのか,入院手続きは?身元保証は?といった問題には細かく決められる仕組みではありません。

そのため,「身上看護」には,引き続き「任意後見契約」を併用することも必要だと思いました。

また,アパート管理のような修繕等の「管理業務」が煩雑な者に比べ,交通事故による損害賠償金の管理のように多額な金銭をただ,持っている場合,というようなケースでは,商事信託である「信託銀行」を利用・併用することもリスク軽減のための選択肢だと思います。

認知症の場合に,株主としての議決権が行使できなくなる問題,少数株主が増えてしまった株式の管理の問題,事業承継についても,「民事信託」を利用するスキームの紹介もありました。これからの,利用の仕方を柔軟に考えていく発想が必要になりそうです。

民事信託を利用するためには,信託用の預金口座を作ってくれる金融機関の存在が必要です。実は,それがないために,民事信託の利用が難しくなっているとか。
信託口に非対応のために,メインバンクから,信託口に対応してくれる金融機関に資産家のお金が流れていっている,というお話もありました。

・・今,多治見でも「金融機関」に信託に対応するための動きができはじめているとか! 今後の展開が楽しみです。

新しいことは,リスクも不安も多いけれど,もしも,メリットがあるのなら・・・その中で,誰かが切りひらいていく必要もありますよね。注目していきたいと思います。
青山先生,とっても分かりやすい説明をありがとうございました♪


今回も,おちのない,まじめな話でしたが,最後まで読んで下さって,ありがとうございました!

 

 

 

この記事を書いた弁護士

木下貴子
木下貴子
岐阜県多治見市で初の女性弁護士となり18年目。
岐阜県立多治見病院など地元事業者の顧問弁護士を務め,法律のみならず経営に関するアドバイスも行っています。
個人のお客様には,離婚,相続,不動産案件を多く取扱っています。
著書「離婚調停は話し方で変わる」は,Amazonランキング「法律」部門ほか5部門で第1位を獲得。
相談は,親身,気軽,自分で決めるをモットーとしています。お気軽にご相談ください。

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