労働問題第13回 業務災害-業務起因性についての判断

労働問題第第13回目は、労災保険の分野について取り上げてみます。

労災保険法は、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付を行うことを規定しています(7条1項1号、2号)。今回は、このうち「業務災害」の部分について考えてみます。

最近も、広告代理店社員が、長時間労働により死亡に至ったのではないかというニュースが大々的に取り上げられており、企業は、長時間労働を発生させないための対策、長時間労働が発生した場合の対策が求められているといえます。

今回は、業務災害の基礎的問題、特に「業務起因性」について考え、最後に、業務上疾病を防ぐためにどうすればよいかを考えてみます。

 

 

1 労災保険における「業務災害」の要件

 

業務災害とは、労働関係から生じた災害、すなわち労働者が労働契約に基づいて使用者の支配下において労働を提供する過程で(業務遂行性)、業務に起因して(業務起因性)発生した災害をいいます。業務遂行性が認められれば、業務起因性も認められるという関係ではなく、業務遂行性と生じた災害との間の因果関係としての業務起因性が要件として必要とされています。

 

 ①業務遂行性について

 「業務」とは、必ずしも本来業務に限定されるものではありません。業務のための準備・後始末、トイレや水分補給としった生理的必要行為など本来の業務に付随する行為や緊急行為など必要かつ合理的行為についても「業務」とみなされます。したがって、「業務遂行性」についても、労働契約に基づいて事業主の命令に従う立場にある状態であればよいと考えられています。

 

 ②業務起因性

 「業務起因性」とは、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められることをいうと考えられています。

 

 

2 具体例でかんがえてみましょう

 

(具体例)

Aさんは、出張先において、業務終了後、宿泊施設で同僚と飲酒を伴う夕食をしました。その後、Aさんは、宿泊施設内の階段を歩行中に転倒して頭を打撲するなどの事故に遭い、その後、自力で客室に戻り就寝したものの、翌朝異常が発見されて病院に搬送され、約4週間後に急性硬膜外血種で死亡しました。

 

①業務遂行性

この事例では、宿泊を伴う主張中の事故ということで、事業主の管理下を離れて仕事をしていたケースですから、業務遂行性が認められるかが問題となります。

この点について、事業主の命令に基づき一定の用務をなすために行われる出張は、特別の事情がない限り、その全過程において事業主の支配下にあるといえるため、そこで発生した災害については、一応業務遂行性があったとみることができます。

 

②業務起因性

出張先での飲酒に起因する事故については、事業主から「飲酒」を伴う食事を命令されていない以上、業務における危険が現実化したといえるのか疑問が生じます。しかし一方で、出張先において飲酒を伴う食事をすることはあり得ることですから、飲酒が介在した場合に一切業務起因性が否定されるというのもおかしいでしょう。同様の事例で、裁判所は、「本件事故は、業務とまったく関連のない私的行為や恣意的行為ないし業務から逸脱した行為によって自ら招来した事故であるとして業務起因性を否定すべき事実関係にはない」と判断して、業務上災害を認めています(福岡高裁平成5年4月28日判決)。

 

ただし、主張先での飲酒に伴う事故については、長期出張中に同僚の送別会に出席して宿舎に帰ったのちに行方不明となり溺死して発見された事案や、出張先で接待を受けた後の入浴中の心臓麻痺といった事案において業務起因性が否定されていますから、本件は、私的行為や恣意的行為が存在しない場合において、業務起因性を認めた限界事例だと考えられています。

 

 

3 長時間労働、パワハラ・セクハラによるうつ病について

ここまでは、業務上の負傷や死亡の事案について、業務起因性が認められるかどうかについて見てきました。一方、労災保険法7条1項1号にいう、労働者の「業務上の疾病」については、発症者個人の既往症・気質なども発病に影響することがあるため、業務災害といえるか否かについての判断は難しくなります。

業務上の疾病については、労働基準法施行規則別表第1の2第1号から第10号に例示列挙され、これらに該当した場合には特段の反証がない限りその疾病は業務に起因するものとして取り扱われます。また、同表第11号で「その他業務に起因することの明らかな疾病」と包括規定され、個別に業務起因性を判断することとされています。つまり、負傷等の種類によって「業務起因性」の判断方法が異なってくるわけです。

⑴脳・心臓疾患

脳や心臓疾患については、「過労」によって生じることがあります。例えば、長時間労働を繰り返している人が、突然、脳卒中や心筋梗塞で倒れたりする場合です。もっとも、どのような基準で「過労」と評価するかは難しい問題です。この点、業務の負荷の程度については、厚労省の作成した判断指針である「脳血管疾患及び虚血性疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発第1063号)を参考に「過労」の事実が存在するかどうかを判断することになります。

 

⑵精神疾患

精神疾患についても、過労やパワハラ・セクハラにより生じることのある疾患の一つです。精神疾患については、個々の性格や気質なども複雑に関係して発症するものであるため、どのような場合に業務上の心理的負担が原因となって精神疾患を発症したと評価すべきであるかは難しい側面があります。この点については、厚労省の作成した基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日基発第1226号1)が参考になります。

 

 

それでは、企業として、長時間労働についてどのように対策していくべきでしょう。

 

まずは、「長時間労働を発生させないための対策」として、労働者の労働時間を正確に把握する必要があるでしょう。また、長時間残業した翌日は、時差出勤を認めることも有効でしょう。

 

一方、「長時間労働が発生してしまった場合の対策」として、労働安全衛生法上は、月100時間を超える時間外労働を行っている労働者から申出があった場合に、産業医が労働者に対して面接指導を実施すべきと定められています。

不必要な残業が行われている場合には、残業を禁止する命令をすることを検討するべきですが、業務超過が認められる場合には、その調整や人員を増やすなどの配慮が必要です。東京都ではないですが、残業についての意識改革を促すための評価制度を導入することも必要かもしれません。

 

次回は、「通勤災害」について考えます。

それでは、今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

 

この記事を書いた弁護士

田中敦
田中敦
岐阜県土岐市出身,多治見北高・北海道大学卒。
瑞浪市役所勤務後,法科大学院に入学し,弁護士資格を取得。
法科大学院では労働法を専攻。
現在は,交通事故案件,労働案件(事業主側)を中心的に取り扱っています。

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