無期労働契約への転換と定年~就業規則見直し

008 いつも読んで下さって,ありがとうございます!
今日は,多治見北高校の同窓会です♪
…みなさまは,すこしはお休み,とられましたでしょうか?
私は,お盆休みを頂戴しつつ,顧問先の就業規則の見直し案を検討しております!

就業規則の作成,見直しは,主に社会保険労務士さんが得意とするところです。
しかし,社会保険労務士資格を有する職員が作成した就業規則案を弁護士が検討させていただくこともあります。

弁護士が「就業規則の見直し案」を検討するとき,どんなチェックポイントで見ているのでしょうか?


…簡単に言うと,

  1. 「何のため(目的)」に見直しをすることになって,
  2. どうしたら,「トラブルを防いで目的を達成することができるのか」

という点です。

弁護士は,トラブルが起きた場合に解決するために仕事をしています…
弁護士は,最もトラブル(紛争)が深刻化してしまった,「裁判」という場面を体験しています。
だからこそ,弁護士は「トラブルを防ぐため」のポイントが分かるのです。

また,労働契約は,様々な「労働者保護」の観点から,複数の法律が関わっていることも多く,関係する全ての法律の原則,解釈を踏まえながら「就業規則」を検討する必要もあるため,弁護士が関与した方が良い場合があります。
…ということで,今回は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」と改正後の「労働契約法」が関係する就業規則の見直し,の情報をお伝えします。

  • 今まで,雇用期間が決まっている従業員(有期労働契約)に契約期間の定めがなくなった場合(無期労働契約)にどんな問題が起こりえるでしょうか?
  • 定年を定める場合,トラブルを防ぐには,どんな点に注意したらいいのでしょうか?

1 「何のため」の就業規則見直しか確定する

平成24年に「労働契約法」が改正され,パート,アルバイト,契約社員,嘱託,派遣社員などと呼ばれていた雇用期間の定めがある,「有期労働契約」の社員を保護する取扱が決められました。

これによって,有期労働契約が繰り返されて,雇用期間が通算5年を超えると,労働者側から「無期契約に変えて下さい!」と言え,この場合,当然に無期労働契約(期間の定めのない契約)に転換されることになりました。

そのため,今までは,有期労働契約者は,期間が満了すれば,退職となっていたため,「定年」を定めておく必要が無かったのですが,無期労働契約に転換してしまうと,「定年」がない限り,原則として雇い続けなければならなくなるため,有期労働契約者に対する「定年」の定めをおく必要がでてきたのです。

また,「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」で,定年は必ず60歳以上とし,再雇用などの高齢者雇用確保措置をとらなくてはいけなくなったため,既に,有期労働契約者についても「定年」が定めてあった場合でも,定年後に無期契約へ転換された場合に雇い続けなければいけなくなる,ということを防ぐ,という必要が生じてきます。

  • みなさんの会社は,「60歳以上」の定年を定めていますか?
  • その定年は,もともと「無期契約者」だった職員だけでなく,「有期契約者」が無期契約に転換した婆でも適用されることが分かる規程となっていますか?
  • 定年後に無期契約となった場合に,対応できる規程になっていますか?
  • 何のために,就業規則を見直しするのですか?

2 現状の就業規則の問題点を把握

現在の就業規則をみると,例えば,以下のような問題があったとします。

  • 元々,有期労働契約者を対象とした「就業規則A」と無期労働契約者を対象とした「就業規則B」があるけれど,有期労働契約者が無期労働契約者に転換した場合には,AかBのどちらが適用されるのかはっきりしない(Aには定年60歳という定めがあるけれど,Bには定年の定めはない)。
  • AとBの就業規則は,退職金,配置転換,給与,賞罰,再雇用の条件などの定めに違いがある
  • Aには,60歳以降の再雇用(継続)制度の規程があるが,それ以降は,1年単位での有期契約をすることになっている。
  • 元無期労働契約者だった方が,再雇用として「有期契約」となった場合に,A,Bのどちらの就業規則の適用があるのか,はっきりしない。
  • 元有期労働契約者だった方が,無期労働契約者に転換した後に,再雇用として再度「有期契約」となった場合にも,A,Bどちらの規則が適用されるのかはっきりしない。
  • AにもBにも,60歳以降に「有期労働契約者」が「無期労働契約」となった場合(転換により)の定めはない

これらの問題が出てきた場合,経営者(人事給与等担当者)が決めるべき一番重要なことは,適用される就業規則がはっきりしない「有期契約から無期契約に転換した方」や「60歳以降の高年齢者の再雇用の場合」に,どの就業規則の適用を受けるかをはっきりさせることです。
もし,Aが適用される,とはっきりすれば,Aを見直しすることになりますし,Bを適用させるとなれば,Bの就業規則の見直しをすることになります。
わかりにくく,複雑になる場合には,全労働者を対象として,その中で労働者を分類しつつ,全面的に作り直して,ひとつの就業規則にする方法もあります。
反対に,A,B以外に無期契約に転換した場合のみを対象としたCという就業規則,再雇用者だけを対象としたDという就業規則を作る,という方法もあります。

どの方法をとる方が分かりやすくて,トラブルを防止しやすいか,管理しやすいかなどは,弁護士,社会保険労務士に相談しながら決めるといいと思います。

みなさまの会社の就業規則は,無期労働契約に転換された方や,再雇用労働者の方がどの就業規則の規制を受けるのか,分かりやすくなっていますか?

 

3 具体的な対策の検討

仮に,「元々」有期労働契約者だったか,「元々」無期労働契約者だったか,でA,Bの適用を一律に決める,とします。

この場合,元々有期労働契約者だった方は,無期契約に転換した後も,就業規則Bが適用されます。
元々無期契約者だった方は,再雇用により,有期契約に変わった後も,就業規則Aが適用されます。
元有期労働契約者が,無期労働契約者に転換し,その後,再雇用になって有期労働契約に戻った場合は,就業規則Bが適用されます。

これを前提に見直しを検討すると…

元「無期労働契約者」が有期契約になって,5年を経過してから「無期契約に転換」を希望された場合のために,Aに第2定年の定めをしておく。
例えば,「満60歳を過ぎて無期労働契約に転換した社員にかかる定年は満68歳とし,定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする」など。

元有期労働契約者だった方が,無期契約に転換した場合に備えて,Bに第1定年,第2定年,第3定年の定めをしておく。
例えば,「無期労働契約へ転換した社員の定年は,満60歳とし,定年の達した日の属する月の末日をもって退職とする」
そして,この定年後に無期労働契約への転換を希望された場合に備えて…
ただし,満60歳を無期労働契約へ転換した社員の定年は,満65歳とし,定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする
60歳前に無期契約に転換し,60歳で定年になった後,再雇用で有期労働契約になった場合に備えて…Aと同様の規定を置く。
満65歳を過ぎて無期労働契約に転換した社員にかかる定年は満68歳とし,定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする

その他,無期労働契約者となった場合には,元々無期労働契約者に対しては,契約期間を長く確保するために規定されていた職種変更,配置変更,賞罰の定めの適用があることもBに入れるように検討した方がいいでしょう。

みなさんの会社の就業規則は,定年後に無期労働契約に転換された場合でも適用される「第2定年」などの定めがありますか?

 

4 まとめ 就業規則複雑化により生じる支障と会社のトラブル防止とのバランス

弁護士は,できるだけ確実に「トラブルを防ぎたい」という気持ちから,契約書にしても,就業規則にしても,疑義のないように,細かく,細かく…(以下続く)規定する意識が働き,どうしても複雑になりがちです。
…実際に不動産業者さんが作成された契約書のチェックをすると,「弁護士が入るとこんなややこしいことになって,困る。信頼関係でやってもらわなければ…」と言われることもあります(泣)
なので,文言を複雑にすると,作成に手間取って時間がかかったり,相手方がいる場合には,調整に手間取ったり,信頼を失うこともあり得ます。
…このようなことから,弁護士は,ご依頼者である会社が絶対に防ぎたいトラブルは何なのかを知り,リスクを伝えた上で,絶対に入れるべき点は勇気を持って伝え,この点はリスクはあるけれど,時間や信頼との兼ね合いで,経営者判断で決めて下さい,という選別をするのも必要なのではないか,と思っています。

例えば,今回の就業規則の事例で言えば,再雇用後の定年については,第2,第3定年と定めず,
「但し,労働契約の上限は5年とする」と定めて,無期転換申込権の発生前(65歳まで)に労働契約が終了するように雇用管理をする方法もあります。また,定年後は無期転換申込権を行使できないとする無期転換ルールの特例を利用するなどの対策が手間がかかりますが,効果的です。この無期転換ルールの特例を利用する場合には,管轄都道府県労働局に計画認定・変更申請書の提出をして,認定してもらう必要があります。
定年の延長を個別に合意する,などの規程をつくることも考えられる,と思います。
これは,そもそも,「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では65歳までの高年齢者の雇用確保を中心としているので,それ以降については,継続雇用を保護すべき理由が薄いと思われること,無期転換ルールの特例が認められてきたことから確実ではありませんが,有効とされる可能性はあると思います。

弁護士はいつでも,依頼されると,目の前のご依頼者を守ることを第一に考えます。
就業規則は,経営者の立場で考えると,自社の職場環境の規律が守られ,望む労働関係を実現し,トラブルになるのを防ぎ,なったとしても,被害が最小限になるようにつくるものです。
その意味で,社会保険労務士さんのみる視点とは違う観点で,弁護士に就業規則をチェックしてもらうのも良いと思います。

…今回は,専門的な話も多くて,分かりにくかったでしょうか?
…うちの会社の場合はどう?というのは,個別に弁護士,社会保険労務士にご相談いただいた方が断然分かりやすいです。

当事務所の田中弁護士は,労働法を専門的に勉強もしておりますので,お気軽に相談して下さいね。

このブログが,「就業規則のどこをチェックしたらいいのか分からない」「無期労働契約に転換した場合の定年の定めはどうしたらいいのか」という事業者の皆様,就業規則などを担当する総務課,人事給与を担当する部署の方々のお役に立てますように…

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!

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この記事を書いた弁護士

木下貴子
木下貴子
岐阜県多治見市で初の女性弁護士となり18年目。
岐阜県立多治見病院など地元事業者の顧問弁護士を務め,法律のみならず経営に関するアドバイスも行っています。
個人のお客様には,離婚,相続,不動産案件を多く取扱っています。
著書「離婚調停は話し方で変わる」は,Amazonランキング「法律」部門ほか5部門で第1位を獲得。
相談は,親身,気軽,自分で決めるをモットーとしています。お気軽にご相談ください。

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